2009年09月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
カリフォルニア州境近くにユニークな宿がある
……が、そこに泊まることは体験のほんのひとつにすぎない
写真を中心に森の中のはじける遊び心を紹介しよう
▲森と渾然一体になったOut ‘n’ About。正面がロビー&オフィス。ここを中心に森の中に現在12室(2~6名部屋)の部屋(ツリーハウス)が建っている。宿泊は、基本料金2~4名$120~$250の範囲。各部屋を見学するミニ・ツアーも週3回実施(大人$5、子供$2.50)。実際に部屋を見てしまうとムラムラと泊まりたくなり「おとうさん、泊まろうよ! ねえ、泊まろうよ!」という展開になる(なお、諸料金は2009年夏現在のもの。最新の情報はOut ‘n’ Aboutのサイト参照のこと)
Out‘n’About
緑豊かなノースウエストでは、民家の庭にツリーハウスを見掛けることがある(そしてそれは、隊長の家にもある)。またも映画「Stand by Me」を引き合いに出すが、映画の冒頭で12歳の少年達が集まってくる、あの樹の上の小屋だ。子供の遊び場とあなどるなかれ。そこは日常生活を離れ、ちょっと隠れ家※1のような、人間の遊び心が発露する場所と言える。
南オレゴンのタキルマ(Takilma)という森の中で、この「子供の遊び」をとことん追求しているグループがいる。彼らはツリーハウス作りの技を極め、1996年夏、この地に世界初のツリーハウス作りの学校“Treehouse Institute”を発足。そのノウハウをワークショップの形で世界へ情報発信してきた。さらにこれまでに作った18棟の小屋を樹上ホテルとして運営。正式名称をOut‘n’About Treehouse Treesort LLC(以下Out‘n’About)と言う。……が、そこまでの道のりはとても険しかった。
パブリックの宿泊施設として営業許可を得るまで、管轄するジョセフィン郡を相手に、実に8年にわたって戦ってきた。数回に及び(当初の)ツリーハウス賃貸サービスを差し止められたり、ひとつのツリーハウスは取り壊し命令さえ受け、法廷の場でも争った。しかし彼らはオレゴニアン、筋金入りのリベラルだった。苦労を重ねつつも自分達の遊びを極め尽くし、ついに夢を実現してしまう。
現在のOut‘n’Aboutの活動は、ツリーハウス、木登り、“Zip Line”※2を始め、多岐にわたっている。そのコアはいつまでも「木と遊ぶこと」にある(Information参照)。
▲オレゴンオークの樹に造られたスイートルーム。暖房、シャワー、バスタブ、トイレ、キッチン(冷蔵庫、電子レンジ、コーヒーメーカー、トースター)付きで、主寝室は独立している。子供ふたり分の寝室になるロフトもあり、6人まで泊まれる。通年宿泊可能
▲Out ‘n’ About中心部のマップ。実際はちょっと迷路のような三次元の立体的な配置になっている。オフィスとロビーのある中心の建物はさすがに地上にあるが、2階のバルコニーから各ツリーハウスへ空中通路で結ばれる
木の魅力を五感で楽しむ
ツリーハウスを訪れる、泊まる、ワークショップに参加する、自宅の木に造ってみる……私達の人生でそれらができる時間は、実は極めて短いと思う。この記事を読んで興味を持った人は、Out‘n’Aboutのドアをノックすると良い。ここのドアに、鍵はない。入れば木の魅力があなたの五感に語り掛けてくるだろう。鳥のさえずり、風のさざめき、葉のそよぎ、木洩れ陽、森の霊気、木肌にしかない感触、木の軋む音、微妙な振動、風で揺れる部屋……。
ツリーハウスが最後に教えてくれることは、樹の成長に従って数年~十数年の内に、それが「朽ちること」かもしれない。その意味は深いが、できれば現代の子供達にそういう体験を共有して欲しいと隊長は願っている。
▲これはターザン・スイング。連続バンジー・ジャンプといった具合で、スリルと爽快感はテーマパークの絶叫マシンよりはるか上をいく。このほかZip Line、ツリー・クライミング、巨大ブランコなど、そこまでやるかというOut ‘n’ Aboutならではの木の楽しみ方だ
▲Out ‘n’ Aboutはシスキュー山地の国有林の真ん中にある。ここを拠点に 乗馬、ハイキング、ラフティングなど、探訪する場所と手段はたくさんあり、南オレゴンの自然を満喫できる
▲新築中の最上階の部屋。手前の車の大きさで、樹上ホテルの高さを推し測ってみて欲しい。地上5階くらいの高さだろうか?この樹はダグラスファー(米松)で、当然客室(?)のど真ん中を貫いている。風が強い日には大いに揺れるだろう。高所に弱い人は眺めるにとどめたほうが良いかも
▲「スイス・ファミリー・コンプレックス」という名のこの部屋は、右下(2階)が2段ベッドのある子供部屋。3階の大人部屋(?)のドアは床にあり、ふたつの部屋は吊橋で結ばれている。地上へは右の階段か、左のロープを伝って降りる。暖房あり。3~10月に宿泊可能
▲ロビーのあるメインの建物と周辺のいくつかの部屋は空中通路で結ばれている。ちょっと迷路のようだ
▲太いダグラスファー(米松)を芯に造られた部屋の内部。床もダグラスファー。トイレと洗面台もあり、トイレはカーテンを引いて使うようになっている。窓からの眺めが良い。これこそ「森の生活」
※1隠れ家:英語ではHide Awayという言い方やEscape=隠遁(?)という言葉もある。いずれにせよ、心が日常生活から離れることが大事で、携帯電話、テレビ、インターネットなどは「興醒め」「ぶち壊し」の元凶。あって良いのはお気に入りの本と音楽くらいか。
※2 Zip Line:離れた樹と樹の間にワイヤーを張り巡らし、滑車とハーネス(安全ベルト)を用いて、ムササビのように森の空中を移動する。Out‘n’Aboutには全長1マイル(1.6キロ)以上のZip Lineが張られている。
■アウトンアバウト
ツリーハウス造りのワークショップ、実践、宿泊、森の遊び、クラフト、アート、ツリーハウス国際会議の主催事務局。ツリーハウスから派生して森を楽しむさまざまな試みを行っている。
Out ‘n’ About
www.treehouses.com
■シダー・クリーク・ツリーハウス
ワシントン州、レニア山の麓で営業するB&B。5棟のツリーハウスとキャビンがある。
Cedar Creek Treehouse
www.cedarcreektreehouse.com
■日本ツリーハウス協会
日本でもツリーハウス同好の志のグループがあり、ツリーハウスの紹介と普及を始め、さまざまなワークショップ活動を行っている。
www.treehouse.jp/jtn/about_t.html
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
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