2003年03月号掲載 | 文・写真/小杉礼一郎
アメリカ北西部の自然を宝石箱にたとえるならば、カスケードの深い緑はエメラルド、どこまでも碧いクレーター・レイクはラピスラズリ、そしてペインテッド・ヒルズはルビーの原石。今回は、大自然が三千万年かけて磨き上げてきた、不思議な山を紹介しよう。
シュールな山の縞模様はなぜできる
ペインテッド・ヒルズはポートランドからI-26を南東約3時間へ下った、セントラル・オレゴンの山ふところにある。ジョン・デー・フォッシル・ベッヅ・ナショナル・モニュメントの3つに分かれた地域のひとつで、国立公園局が管理している。周辺の山々が緑で覆われているのに、この一角だけがご覧の通りの禿げ山である。有史以来、植物の活着を拒み続けている“筋金入り”の禿げ山だ。しかも山肌は赤・白(ピンク)・黒・黄(淡褐色)のシュールな縞模様になっている。この色のバリエーションはどうしてできたのか? 形成の過程はかなり複雑だ。有史前この地は湖だった。気の遠くなるような長い間にカスケード山脈からの火山灰が何層も湖底に積み重なって圧縮され、やがて粘岩となる。そして土地が隆起し侵食が始まり、いくつかの要素が重なり合いながら、この幾層もの粘岩の山は植物の参入を拒み続けた。
長い年月の風雨にさらされることで、この“ルビーの原石”は磨かれ、各層の火山灰の組成の違いから色の縞模様が形成された。赤さびた色は酸化鉄、黄色は鉄分と酸化マグネシウム、黒色は酸化マンガンを多く含む火山灰の層である。
ちなみに、アメリカ西部にはペインテッド・ヒルズと同じように、カラフルな地質が露出した原始風景がいくつかある。カリフォルニア州デスバレー国立公園のアーティスト・パレット、アリゾナ州ペトリファイド・フォレスト国立公園のペインテッド・デザート、サウスダコタ州バッドランド国立公園のピナクルズなどだが、これらは岩山かキャニオンの地形を成しており、荒々しく男性的だ。対して、ペインテッド・ヒルズはふくよかな女性的な山容で、優美な曲線を持つ。美しさは一番である。
縞模様を間近に見てみよう
この貴重な原始景観を守るために、実は展望台以外は立ち入り禁止になっている。そんな不思議な模様なら、近づいてつぶさに見てみたいのが人情。その願いを叶えるべく用意されているのが、“ミニ・ペインテッド・ヒルズ”というべき場所、ペインテッド・コーブという名の、自然観察用のセルフ・ガイデッド・トレイルだ。国立公園局のこの心配りが憎い
このトレイルでは、解説板を読みながら、実物の山肌を間近に見たり、登ったり、触ったりすることができる上、シュールな模様ができた理由や草木を寄せ付けないメカニズム、変わりゆく色のこと……などなど、1/4マイルの観察路を歩く間に理解できる仕組みになっている。これもまた、周到に設計された優れたトレイルだ。 ペインテッド・ヒルズを訪問したら、わずか1マイルしか離れていないこのトレイルまで、ぜひ足を延ばすことをおすすめする。
価値ある景観
ペインテッド・ヒルズの山肌は湿度や日差しの変化によって色が変わる。山の形、影、色、ここもまたクレーター・レイクと同じく、風景写真を撮る人々にとって絶好の挑戦の対象となっている。
この山がもし日本にあったなら、とっくに世界遺産へ申請されていただろう。しかしここはダイナミックな景観が数多くあるアメリカだ。ちょっとやそっとの珍しさではそんな面倒な手続きが必要なものには申請しない。隊長はクレーター・レイク、オレゴン・デューンなどと同じく、ここペインテッド・ヒルズも世界遺産に登録され、世界中の人々に愛でられる価値のある景観のひとつだと思っている。
■John Day Fossil Beds National Monument
420 W. Main St.,John Day, OR 97845 541-987-2333
ウェブサイト:www.nps.gov/joda
広さ14,000エーカーの公園内は、Sheep Rock Unit、Painted Hills Unit、Clarno Unitの3地域に分かれている。浸食された火山灰の堆積物でできたエリアは、新生紀の化石の宝庫である。
■ペインテッド・ヒルズへのアプローチ
ポートランドからは、US Hwy 26を南東へ240マイル。Prinevilleの町を通り、Ochoco Passを越えると左に標識が出ている(PrinevilleよりHwy26を東へ約40マイル)。ここを左折し標識に従って田舎道を約5分。
■ペインテッド・ヒルズの景観写真をもっと楽しみたい方へ
ウェブサイトの検索エンジンでペインテッド・ヒルズを検索すると、プロやアマチュアのカメラマンが撮影した写真が掲載されている、以下のようなウェブサイトがたくさん出てくる。
www.geocities.com/andreyivanitsky/
www.snabulus.com/geology
■セントラル・オレゴンについて
カスケード山脈の東、セントラル・オレゴンのこのあたり一帯はノースウエストの中にあって米南西部のような風景が見られる地域でもある。キャニオン地形・岩山はSmith Rock、Sheep Rock、Stain’s Pillarなどで見られる。
ペイテッドヒルズを訪れる折には、これらの場所にも立ち寄ると西部の自然景観が南北切れ目なく次第に変化しながらひろがっていることを実感できるだろう(セントラル・オレゴンの自然については別の機会に紹介したい)。
Reiichiro Kosugi 1954年、富山県生まれ。学生時代から世界中の山に登り、1977年には日本山岳協会K2登山隊に参加。商社勤務を経て1988年よりオレゴン州在住。アメリカ北西部の自然を紹介する「エコ・キャラバン」を主宰。北米の国立公園や自然公園を中心とするエコ・ツアーや、トレイル・ウォーク、キャンプを基本とするネイチャー・ツアーを提唱している。 |
コメントを書く