2010年04月号掲載 | 文・写真/小杉晶子
暗い冬もなんとか終わりを告げ、野外遊びの計画を練る時期です。
さぁ、今年は何に挑戦? 海? 山? 川?
水の上が苦手なわたくし小隊長が、初めてカヤックを体験!
今年の挑戦
ある夕飯時の会話。「あの角の白い家のご主人、週末になるといつもカヤックを車に積んでいるね」と夫。「そういえば、斜め前の人も最近カヤックを買ったらしいよ」とわたし。
カヤック……。ハイキングやキャンプに行くと、必ずカヤックを車に積んでいる、経験豊富そうなかっこいい人達に出会います。きれいな湖にスゥーとカヤックを浮かべて水鳥達と共に湖面を行く……。「あぁ~、なんて素敵なんだろう」と何度思ったことか。あれに乗っているだけで、「わたしって、とても自然派。でもちゃんと環境問題にも関心があって知的なんです」風な、なんとも言えないかっこ良さを感じます。あれ、やってみたい。
しかし、カヤックって結構な値段だし、購入したは良いが「けっ、意外におもしろくねー」と思ってしまいそう。そうなるとあの巨大なただの箱舟が、ガレージの肥やしになる可能性もあるから、そんな恐ろしいことは安易にできません。「でも、1度やってみたいね」なんて夫に言ってしまったが後の祭り。「別に本格的にしなくても、シアトルにはレンタル・カヤック場もあるし、それをやってみる?」との提案がなされました。
「むむっ……」日本の盆地で育ったわたしは、小さいころからハイキングには慣れ親しんでいましたが、未だに海へ行くと何をして良いやらわからず、ただボーッと海を眺めるだけです。それに、ボートやイカダなど、安定しない物の上にいるのも落ち着かない。そのうえ、極度に三半規管が弱いので、湖面をずっと眺めていると気持ち悪くなります。「恐くないかなぁ……」と不安いっぱいのわたしに、「よし! 今年はカヤックに挑戦だー!」とヨットでカナダまで行ったことのある夫は、もはやわたしの恐怖心を無視して淡々と計画し始めてしまいました。
都会カヤック
アウトドア用品店などでは、初心者向けにたくさんのカヤック・ツアーを提供していますが、わたしは密かに少しだけ試してみたい(意気地なし)。シアトルはこんなに水に囲まれているのに、遠出してまで行くのもなんだか大げさな、とカヤッカーからは「なめとんかー」とお怒りを受けそうな弱気なわたしなので、我が家から車で5分の、ワシントン湖畔のお遊びカヤックから始めようと思いました。
カヤックは、ダブル・パドルという両側にヒレがついたもので漕ぐ、葉っぱのような平べったい形の物。よくカヌーと間違われますが、カヌーはシングル・パドル。一方だけにヒレが付いたパドルで漕いでいき、形は高さのある「船」型です。
カヤックにもあらゆる種類のものがあり、大きく分けてリバー・カヤックとシー・カヤックがあります。リバー・カヤックは、激流をうまくかわしながら川を下っていくものですが、今回わたし達が試してみたのは、シー・カヤックという、比較的波の少ない湖や海を対象に楽しむものです。
レンタルで手軽に
さて、ある晴れた日曜、ワシントン大学そばのレンタル・カヤック場に到着。屋台のような事務所で料金を支払うと、若いお兄さんから「出る前にしっかりトイレに行っておくこと!」と念を押されました。わたし達が希望したのは、ふたり乗りカヤックで1時間$18。天気の良い日だったので、カメラを首から下げた観光客らしいおっちゃんやおばちゃん達も、にぎやかに準備を整えていました。
自分に合ったライフ・ジャケットとパドルを選ぶと、ヤングなお姉さんがギアの装着を手伝ってくれます。準備ができたらライフ・ジャケットの上にでっかいゴム・パッキンを付けた状態でデッキへ。そこにはたくさんのカヤックが並べられていました。
初めてカヤックというものに乗り込む盆地育ちのわたし。おぉ……グラグラしています。装着したゴム・パッキンも、いまいちカヤックとのはめ込みがわかりません。その間も隣のカヤックが動く波動でグラグラ揺れています。若いお姉さんはペラペラペラと簡単にパドル操作の仕方を説明し、「では!」と言って足でグッとわたし達のカヤックを押し出しました。「ええっ!」。水に落ちた時はどうしたらいいとか、カヤックがぐるりんと裏返ったらどうやって元に戻るかとか(それは、リバー・カヤック)、大声で「Help me!!」と言ったら誰が助けに来てくれるのか……なんてことは教えてもらえないの?と思っている間に、わたし達は大海原へ(小さい湖だけど)。
自然の時間に体をリセットする
ぎこちなく、パドルをガタンガタンと漕いでいくと、最初にカナダ・ギースのグループに出合います。いつもは、岸から眺めているので、水の上でのご対面はなんだか自分も水鳥になったようで、「いやぁ~、今日は良いお天気で、どうもどうも。あっ、横すいません、通ります」なんて親近感が湧いてきます。やはり地面では味わえない不思議な感覚です。
そして意外や意外、水の上って涼しいんですね。「チャプンチャプン」と街のにぎやかな音が水面に消され、ここが都会のど真ん中ということを忘れてしまうほどです。忙しい都会の時間から離れ、自然の時間に体をリセット。これですね、きっと。みんながカヤックにヤミツキになる理由。
やっぱり都会!?
カヤックを東に漕ぎ、ハイウェイ520の真下を行きます。右手には、睡蓮の花が咲き乱れ、それはそれはきれいな水面。しばし見とれていました。大きなヨットが通り過ぎるのを待っていると、ヨットの出した波が、わたし達カヤック目掛けてどんどん近づいてきます。「わわわっ。揺れる、揺れる、すごく揺れてるよ、どうしよ、どうしよ……」と半ばパニックのわたし。やっぱりあのお姉さんにひっくり返った場合のこと、聞いとけば良かった。すると夫が瞬時に「左!左!左に漕げ!早く!早く!」。横から波を直接受けると転覆する恐れがあるそうです。ヨットの知識が少しある夫、なかなかやります。
ここはワシントン湖からユニオン湖、そしてピュージェット湾へと多くのボートが通るので、その妨げにならないようにカヤックを漕ぐ必要があります。大きなエンジンが付いたヨットで「ぶわぁ~ん」と飛ばしていく様子はかっこ良いですが、水面にいるこっちは大迷惑。ヨットが来るたびに「わわっ、波、波……」と叫ばなければならず、ゆったりはできませんでした。やはりここは都会なのですね。
なんとか時間通りに元のデッキに戻り、ヤングなお姉さんに「楽しかった」と笑顔で答えることができましたが、次回はヨットやボートが少ない場所のほうが良いかも!?……とはいえ、デートや、日本からのゲストとのレジャー、そして子供がいる方にも、1日十分楽しめる場所だと思います。
カヤックなんて縁がないと思っていた皆さん。今年はお遊びカヤックを楽しんでみませんか。きっと何かを発見できる経験が待っていますよ!
▲ガタンゴトンとぎこちなくパドルを漕げば、なんとか進む
▲さぁ、ここから出発! ギアを着けると、みんなそれなりにかっこいい
カヤッカーに変身
▲映画「Sleepless In Seattle」でトム・ハンクスも住んでいたハウス・ボートがある一帯。プカプカ浮く家に住むってどういう感じ? でも、素敵
▲大きな波が来たら、波に対して真正面にカヤックの頭を向けるのがコツ。横から波を受
けるとかなり揺れて恐い……
▲睡蓮の一群。真上はハイウェイ520
■アグア・ベルデ・カヤック・バドル・クラブ
今回利用したレンタル・カヤック店。ワシントン大学の南に位置する便利な場所で、レストランに併設。
Agua Verde Paddle Club
www.aguaverde.com
■カヤック・ティラムーク・カウンティー
オレゴン州各地の川や湖でカヤック・ツアーを遂行。水面に出ている間も熟練ガイドが引率してくれるので、初心者も安心。※クーポン・コード 1RedLegFrogを告げれば10%オフに!
Kayak Tillamook County
www.youmaga.com/portland/ad/kayak.php
■カヤック・オンライン(ワシントン州・オレゴン州)
カヤックのレンタルやツアー、クラスの情報が満載。
Kayak Online (Washington State)
www.kayakonline.com/washington.html
Kayak Online (Oregon State)
www.kayakonline.com/oregon.html
(2010年4月)
Akiko Kosugi Phillips サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジで園芸学(Landscape& Horticulture)の学位を取得。シアトル日本庭園でのインターンシップ、エドモンズ市の公園課での仕事経験を経て、現在は、小杉剪定サービスとして庭の手入れを行うビジネス・オーナー。年に2回ほど小杉礼一郎氏の代わりに「ノースウエスト自然探訪」の執筆を務める。 |
コメントを書く