2010年11月号掲載 | 文・写真/小杉晶子
いよいよ雨の多いノースウエストの冬到来。青空の下でブラックベリーを摘んだ数カ月前が懐かしく思えるかもしれないが、ノースウエストのベリー摘みはこれからが本番!
エバーグリーン・ハックルベリー
ベリーと言えばあの黒い大きな実のなるヒマラヤ・ブラックベリーを思い出す方が多いと思います。これは外来種ですが、甘くて大粒な実が人気で、夏になるとみんな一生懸命摘んでいますね。さて、今回紹介するベリーは、ノースウエストに昔から自生するエバーグリーン・ハックルベリーです。
ノースウエストの森や公園に行くと、必ず目にするハックルベリー。私達が住んでいる低地に多いのは、赤い実がなるレッド・ハックルベリー(学名:Vaccinium Parvifolium)と、黒い実がなるエバーグリーン・ハックルベリー(別名:カリフォルニア・ハックルベリー、学名:Vaccinium Ovatum)などです。
ハックルベリーは「Vaccinium」という種族で、ブルーベリーと同じグループに当たります。皆さんが口にしているブルーベリーも、元々は野生の実を人間がより大きく甘くした改良種。ブルーベリーには抗酸化作用がありますが、ノースウエストに生えているエバーグリーン・ハックルベリーの中にも、高い抗酸化作用物質のアントシアニンが含まれていることが研究の中でわかっています。
アントシアニンはポリフェノールの一種で、一説にはビタミンCの約5倍もの抗酸化作用があると言われています。ポリフェノールとは、植物の葉・花・茎に含まれる渋み・苦味成分で、ブドウの果皮やブルーベリーに含まれるアントシアニンを始め、緑茶に含まれるカテキンや大豆に含まれるイソフラボンも、ポリフェノールの一種です。またアントシアニンは、網膜内にある視覚情報を脳に伝えるロドプシンとたんぱく質の再合成を促進するので、眼精疲労の予防・改善に効果があると言われています。さらにこのハックルベリーの葉を煎じてお茶にして飲むと、血糖値を下げることや、食欲増進、利尿作用があると漢方医からの報告もあるそうです。そのほか、実を食べることによって、女性の産後の体力回復にも役立つことも知られています。
▲抗酸化作用も高いと言われるエバーグリーン・ハックルベリー
▲レッド・ハックルベリー。エバーグリーンより実はけっこう酸っぱい
ネイティブ・アメリカンも食べていた
エバーグリーン・ハックルベリーは、南はカリフォルニアから北はカナダまで広い地域で自生しており、昔からネイティブ・アメリカンも食用にしていました。主にそのまま食べることが多かったようですが、実を乾燥させてケーキなどに混ぜて食べていたこともわかっています。現代では、実をジャムにして食べるのが人気ですが、少し酸っぱさは残るものの、実をそのままヨーグルトやアイスクリームに混ぜたり、パンケーキやフルーツ・ケーキに使うのもおいしい食べ方です。また、森にすむ動物も好んで食べます。鹿は葉を食べ、熊やリスなどの小動物も昔から食用にしており、枝に残っている黒い実を、冬の食べ物が少ない時期に野鳥達が取り合って食べている様子をうちの庭からも見られることがあります。
エバーグリーン・ハックルベリーは、園芸、ランドスケープの世界でもよく使われます。花は地味ですが、常緑で上品な葉に冬は黒い実が連なり、和・洋どんな庭にも合う低木として人気があります。また自生種でノースウエストの気候に合っているので、土の改良・夏の水遣りは全く必要とされません。日当たりの良い場所でも日陰でも、土は粘土質でも石の多い痩せた所でも、沿岸沿いの潮の風が吹く所でもなんなく育つ強さが人気の理由です。また、まとめて植えると生垣のようにもなります。フラワーアレンジメントでも、引き立て役として人気があり、さっぱりとした明るい緑の葉っぱが好まれて使われたり、真っ黒い実を楽しむことでお花全体を引き締めるようにアレンジできます。
▲こんなふうに、ブーケに混ぜて緑と実を楽しむ。晩秋のノースウエスト風
晩秋のベリー摘み
さて11月も半ば、そろそろ初霜が降りるころ、霧雨の中を空の容器を片手に外へ繰り出します。寒くなってくると、自然界も活動しなくなる気がしますが、沢には海から鮭が上がってくる「鮭の遡上」が見られる時期でもあり、ノースウエストの11月の風物詩です。
今回は公園で摘むのはやめて(公園によっては動植物の持ち出しを禁止している所もあるので)、うちの庭に生えているものから実を摘んできました。9月ごろからだんだん色付いてきますが、11月ごろに真っ黒くなってからが食べごろで、聞くところによると、初霜が降りた後がいちばん良いそうです。実が小さいので、少し我慢してちまちまと摘まないといけないのがなんとも面倒ですが、なんせ抗酸化物質の固まりなので、ぜいたくは言えません。「ジャムを作るなんて面倒くさいや!」という人は、黒い実をそのまま大胆に食べても、もちろん大丈夫です。しかしこのジャム、実はほんの10分でできるんですよ。
10分で出来る、お手軽ジャム作り
それでは作り方を紹介します。レシピは「Indobase」というウェブサイト(www.indobase.com/recipes)に掲載されていたものを参考にしました。
①エバーグリーン・ハックルベリーの実を1パイント分用意し、ざるで洗い、不純物を取り除く。
②鍋にベリーを入れて一部だけ実をつぶす。
③レモン汁(大さじ1)とフルーツ・ペクチン(1/4オンス)を加え、強火で混ぜ合わせる。
④バター(小さじ1/4程度)とグラニュー糖(1~1と1/2カップ)を加え、さらに1分ほど混ぜながらぐつぐつ煮て、どろっとなってきたらでき上がり。
わたしは、これまでジャムなんか作ったことがなかったので、初めて作る時は少々不安でした。しかし意外や意外、こんなに簡単にジャムができるなんてとても驚き、スーパーで高い値段で買ったジャムをにらんでしまいました。お前はなんでそんなに高いのじゃ?
家族にアメリカ人がいると、どうしてもパンやパンケーキ、サンドイッチなどが食卓に上がることが多くなるため、ジャムの購入は当たり前となっていたわたしですが、こんなに簡単にジャムが作れるなら、買うことなかったと思う次第です。お菓子作りが得意な方は、カップケーキやフルーツ・ケーキ、タルトなど、いろいろなものに入れてみてはいかがでしょうか。
▲ビール・グラスいっぱいに摘んで、だいたい1パイント分。調理前に小さい葉や虫をきれいに洗い落とすこと
▲どろ~っとしてきたらでき上がり
▲焼き立てのアップル・パイなどのトッピングにもオススメ
▲こちらはスーパーで買ったジャム
■ワシントン・ネイティブ・プラント・ソサエティー
ワシントン州にある自生種の植物を愛する人達の集まり。庭にもなるべく外来種より自生種を植えるように推奨している。
Washington Native Plant Society
www.wnps.org
■エディブル・ワイルド・ベリーズ
ノースウエストの森に自生しているベリーを使った、いろいろなジャムのレシピが掲載されているウェブサイト。
Edible Wild Berries
www.squidoo.com/edible-wild-berries
■ノースウエスト・ワイルド・フード社
ワシントン州のバーリントンにあるノースウエスト・ワイルド・フード社が運営するショッピング・ウェブサイト。ハックルベリーを使ったジャムやシロップ、蜂蜜などを販売。ジャム作りが面倒な方はもちろん、日本へのおみやげにいかが?
Northwest WildFoods
www.nwwildfoods.com
Akiko Kosugi Phillips サウス・シアトル・コミュニティー・カレッジで園芸学(Landscape& Horticulture)の学位を取得。シアトル日本庭園でのインターンシップ、エドモンズ市の公園課での仕事経験を経て、現在は、小杉剪定サービスとして庭の手入れを行うビジネス・オーナー。年に2回ほど小杉礼一郎氏の代わりに「ノースウエスト自然探訪」の執筆を務める。 |
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