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2003年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2003年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2003年5月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

マリナーズタイトル
  
 現在、日本で取材活動をしているが、マリナーズ絡みの大きなニュースは2本。このオフ、西武ライオンズからFA宣言した松井稼頭央内野手の行方とマリナーズの日本開幕戦。シアトルのマリナーズ・ファンにとっても気になる部分だと思うので、今月はその2つのトピックスについて触れていきたい。(取材・文/丹羽政善) 
  
 

もうひとりの松井、マリナーズ入りは?

まず、松井。マリナーズは相当アプローチをかけているのだが、この原稿を書いている11月17日現在では、メジャー行きか、日本残留かで本人が迷っている状態。札幌で行なわれたオリンピック予選までは「メジャー行き間違いなし」という雰囲気だったが、予選を戦った後、やや心変わり。日本のプロ野球に未練はなくとも、日の丸を背負って国のために戦うこと、つまりオリンピック出場という方向へ、松井の気持ちは急速に傾きつつある。

本来、予選終了後にメジャー挑戦発表、中旬から下旬にかけて、アメリカ視察という流れが予想されていたが、現時点ではまったくタイム・スケジュールが見えていない。しかも最近では、「ひょっとしたら日本残留?」という報道もされるようになってきた。基本線は今でもメジャー挑戦だが、ひょっとしたらひょっとして、一転メジャー断念も選択肢に入ってきてしまったようだ。わずか、数パーセントの可能性だとは思うが……。
仮にメジャー挑戦を決めた場合、候補チームとして挙がっているニューヨーク・ヤンキース、ロサンゼルス・ドジャース、シアトル・マリナーズのうち、本命はドジャースと見られている。スカウティングやアプローチでも、ライバル・チームをリードしており、依然マリナーズにチャンスはあると思うものの、同じ西海岸でも松井はロサンゼルスを移籍先に選ぶ可能性が高い。

資金、ポジション面ではマリナーズ優位と思われていたが、何が欠けていたのかは今のところ読めない。松井がメジャーのチームを決定した時、その理由を語ってくれると思うので、その記者会見を待たねば本当の理由は見えてこないだろう。 いずれにしても、日本残留の可能性も消えない中、松井がマリナーズのユニホームを着るというファンの願いは、遠い現実となりつつある。

マリナーズの日本開幕戦、実現なるか

一方、今年はイラク戦争のおかげでキャンセルされたマリナーズの日本開幕戦が、実現に向けて動き出している。ワールド・シリーズが行なわれている頃には「ほぼ決まり」の報が流れたが、日本サイドが「松井秀喜のいるヤンキースの来日を望んでいる」ということで調整が難航しているようだ。MLBジャパンのジム・スモール氏は「12月初旬に発表できるだろう」と話し「実現した場合、日程は3月30、31日」と具体的な来日スケジュールも教えてくれた。しかしチーム名に関しては「マリナーズを先に」というMLBサイドの思惑と「いや、ヤンキースを先に」という日本サイドの思惑にズレがあり、もう少々調整が必要のようだ。

もっとも、ヤンキースはすでに──おそらく10月中旬だったと思うが──招待を断っているので、もう一度ヤンキースを土俵の上に挙げ、対戦チームとの折衝を行なうとすれば、さらに時間がかかることも予想される。日本サイドがあくまでもヤンキース戦にこだわった場合、日本での開幕戦そのものが消滅する可能性がある。最悪のシナリオだろうが、スプリング・トレーニングの日程調整といった準備や、MLB側がすでに最終決定を当初の11月中旬から12月初旬に延ばしていることから、これ以上ずれ込めば見送りになる可能性もある。 シアトルのファンにしてみれば複雑なところだが、今春のこともあるだけに日本のファンの心中は「どちらでもいいから、見せてくれ!」というところだろう。

マリナーズで決まりなら、2、3日中にアナウンスがあるかもしれない。交渉がもつれるなら、12月中旬まで引っ張っての“断念発表”の線が強い。したがって、ここ数日中の発表がなければ、日本開幕戦実現の可能性は日を追って少なくなっていくとみていい。

マリナーズ、今オフの動き 
エドガー・マルチネス現役続行
引退が噂されていた指名打者のエドガー・マルチネス選手が11月4日、マリナーズと1年契約を交わした。同日開かれた記者会見でマルチネス選手は、現役を続行することに決めた理由として「家族の支えがあったのはもちろんだが、ファンに励まされたというのが大きい。シーズン終了後、プレイオフを逃したにもかかわらず、シアトルのファンはとても温かく、街で出会ったファンの皆さんが、やめるなと言ってくれたのがとても心強かった」と語った。また、1年だけの契約については「来シーズンが最後とは言いたくはないが、たぶんこれが最後のチャンスだと思っている。このチームを優勝させることを目標に力を注ぎたい」と新たな決意を表した。
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▲マリナーズのユニフォームで引退したいと語ったマルチネス選手
  
ビル・バべーシ氏が新GMに就任
パット・ギリック氏(現コンサルタント)の退任後、空席だったゼネラル・マネージャー(GM)兼上級副社長職に11月7日、ビル・バべーシ氏(45)が就任した。
過去2シーズン、ロサンゼルス・ドジャーズで選手育成に携わったバべーシ氏は、それ以前にGM兼副社長職就任期間を含む計20年間をアナハイム・エンジェルスで過ごし、ワールド・チャンピオン・チーム作りに貢献した。
バべーシ氏は「メジャーでも屈指の強豪チーム。素晴らしい街や球場、ファンだけではなく、過去4年で約400勝を記録した最高の経営・運営陣と選手達がいる」と語ると共に、アメリカン・リーグ西地区への長い関わりを武器にしたマネジメントに自信をみせた。
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▲マリナーズの新GM、ビル・バベーシ氏

 

マリナーズタイトル
  
 この号が出た時には、すでにシアトル・マリナーズのプレーオフ進出の可否は決定されているだろう。結果の善し悪しは別として、最後の最後までもつれたシーズン終盤戦の戦いを振り返ってみよう。
(取材・文/丹羽政善)
本文中のデータはすべて9月18日現在のものです。
 
  
 

また、今年もか……
今は、プレーオフの真っ最中 ──。
本来ならば、そんな風にプレーオフの今後の見通しを書きたかったのだが、原稿を書いている9月18日現在では、どうもその雲行きが怪しくなってきてしまった。アメリカン・リーグ西地区トップを行くオークランド・アスレチックスとの差は“5”ゲームに開き、ワイルド・カードを争っているボストン・レッドソックスとも“2.5”差に開いた。まだ、完全に逆転不可能な数字ではないが、打てないマリナーズの試合を見ていると懸念は増すばかり。
また、今年もか……と。 どの辺りから、マリナーズは勝てなくなってしまったのかというと、実は6月中旬以来、勝ったり負けたりの展開が続いている。7月の勝敗は13勝14敗。8月は14勝15敗。9月は18日現在、7勝9敗。「そのうちに調子を取り戻すだろう、大丈夫」と言われて、ズルズルこの時期まで来てしまった。9月の2週目、10日から4連勝した時には希望も膨らんだが、15日からのテキサス遠征でまさかの1勝3敗。実は昨年も9月9日からのテキサス遠征で4連敗して、シーズンの引導を渡されている。その昨年のシナリオと状況が似ていなくもない。

マリナーズ失速の原因 6月中旬以降……。

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▲来年以降もマリナーズのユニホームでプレーするのか?
契約更新に期待がかかるイチロー選手
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▲フリー・エージェントとなる長谷川滋利選手。他球団との交渉権もあるが、行き先はどこに?
Photos:Courtesy Seattle Mariners

きっかけは2本の満塁ホームランにあったのではないか。6月20日の対サンディエゴ・パドレス戦、3対0とリードして9回裏を迎えながら、ジェフ・ネルソン投手がロンデル・ホワイトにまさかのサヨナラ逆転満塁ホームランを浴び、あの日から勝ったり負けたりの試合が続くようになった。さらに29日のパドレス戦でも、9回表まで4点をリードしながら、またもやアーサー・ローズがホワイトに逆転満塁ホームランを浴びた。いずれも完全に勝ちゲーム。鉄壁だったブルペンにも、あの辺りからほころびが目立つようになった。
トレード戦略の失敗も、シーズンの失速に追い討ちをかけたと考えられるかもしれない。マリナーズは不振のジェフ・シリロの代わりに、ブレット・ブーンの弟、アーロン・ブーン三塁手の獲得を画策。フレディ・ガルシアを放出要因にしてまで粘ったが、最後の最後でニューヨーク・ヤンキースの横槍が入り、話が流れてしまった。結局、獲得したのはレイ・サンチェスとアーマンド・ベニテスだけ。サンチェスはベテランらしい働きを見せたが、ベニテスは何の貢献もなく、シアトルのユニホームを脱ごうとしている。試合の体勢に影響のない登板が続いていたが、9月9日の試合では3点リードの8回から登板し、同点3ランを浴びた。実質的には、あの日で天を仰いだファンは多かったに違いない。
佐々木主浩投手のケガも、当然誤算。開幕当初から不安定な投球が続いていた佐々木。2度の故障者リスト入りで、2度目は再起に2カ月近くかかった。しかし復帰しても球威が戻らず、中継ぎの登板が続く。もちろん長谷川滋利投手の調子が良かったせいもあるが、遂にクローザー復活はならなかった。ボブ・メルヴィン監督の本心としては、融通の利く長谷川をセットアッパーに戻したがっていた。しかし、そうなるとクローザーが不在。“佐々木の保険に”と獲得したベニテスも、制球に安定感を欠いていたから、長谷川をクローザーとして使い続けるしかなかったのだ。ジェフ・ネルソンはベニテスと交換でヤンキースに移籍しており、8月からはローズの不振もあってブルペンで試合を落とす展開が増えたのだが、元を正せば、それも佐々木のケガに尽きるだろう。

契約更改、フリー・エージェント……
ストーブ・リーグも見逃せない

マリナーズはこのオフ、数々の難しい決断を迫られる。イチローとの契約更新が先決だが、マイク・キャメロン、ローズ、マーク・マクレモア、長谷川といった主力がフリー・エージェント。エドガー・マルチネスも引退するとしたら、来年の顔触れがどうなるのか見えてこない。ベニテス、サンチェスも去るだろう。そのほか、まだフリー・エージェントではなくても、ジョエル・ピネイロ、フレディ・ガルシアらの契約もいったん切れる。彼らと長期契約を結ぶのか、そのままFAまで単年契約を続けるのか、このオフにはそうした決断も控えている。 マリナーズは今年こそ、プレーオフに進出しなければならなかった。世代交代が本格化する来年以降の戦力図がまだ見えてこないだけに、ベテランの経験と若い力がミックスされた今年の形こそが、ワールド・シリーズに最も近いチームの姿だった。今年、もしプレーオフを逃せば、再建にしばらく時間がかかるだろう、との見方もある。世代交代を、どうチーム力を失わずに進めるかが、球団フロントの腕の見せ所なのだが、肝心のGM、パット・ギリックの契約も今年で切れる。昨年、1年間だけという約束で契約を更新したが、その時期が早くも来てしまった。まずはギリックをどうするのか。どうしてもマリナーズを離れるというなら、新GMに適任はいるのか? そこを間違えれば、マリナーズは本格的に迷走してしまう。

さて、今テレビの前でプレーしているのは、アスレチックスなのか、マリナーズなのか。最後の望みを捨てたわけではないが、マリナーズ・ブルーのユニホームがダイヤモンドを駆け回っている姿が、どうしても想像しがたい。願わくば、今回書いた内容がまったくの杞憂に終わることを祈りたい。

編集部より
9月24日現在、マリナーズのアメリカン・リーグ西地区での優勝の可能性はなくなっています。またワイルド・カード争いでは、残り試合でマリナーズが全勝、ボストン・レッドソックスが全敗すれば出場権がある、という状況になっています。

 

マリナーズタイトル

  
 今シーズンも後、残すところ1カ月。プレーオフを現実的に見据えた戦いが繰り広げられるこの期間には、シアトル・マリナーズの1戦1戦の勝敗と共に他チームの動きも大変興味深いところ。今月は、プレーオフに向けてのポイントとライバル・チームとの関係に触れていこう。(取材・文/丹羽政善)
本文中のデータはすべて8月14日現在のものです。
 
  
 

ゴールが見えてきて……
いよいよ9月。ゴールが見えてきた。選手、監督達によれば、そのゴール、つまりポスト・シーズンがはっきり見えてくると、再びシーズン当初の集中力が蘇ってくるという。つい先日、ボブ・メルヴィン監督もこんな風に話していた。

「9月は終わりが見えてきて、フォーカスが戻ってくる。しかし、8月は暑さや疲れも出る頃で一番戦いにくい時。この時期をどうやって乗り切るかだ……」
その8月。原稿を書いている14日現在では、オークランド・アスレチックスに4ゲーム差をつけ、マリナーズはア・リーグ西地区の首位。しかし、8月はまだ東地区2位のボストン・レッドソックスとの試合が7試合も残っており、このゲーム差とて、レッドソックス戦で苦しい戦いを強いられるなら、どうなるかわからない。春先の快進撃を考えたら、もうこの時期にはゴールが見えているのではないかと考えていたが、例によってアスレチックスが調子を上げ、マリナーズがペースダウン。わからなくなってきた。
この号が出る9月1日。マリナーズとアスレチックスとの差がどうなっているかによって、残り1カ月の展望は大きく変わってくるのだが、とりあえず今回の話は依然マリナーズが、首位を保っているという前提で、プレーオフに向けてのポイント、ニューヨーク・ヤンキース、アスレチックス、レッドソックスとのライバル関係について触れていきたい。

アメリカン・リーグ順位表
(8月21日現在。3地区、上位2チームずつ)
   
 
■ 西地区1. シアトル・マリナーズ
2. オークランド・アスレチックス
 ■ 中部地区1. シカゴ・ホワイトソックス
2. ミネソタ・ツインズ
 ■ 東地区1. ニューヨーク・ヤンキース
2. ボストン・レッドソックス

他チームの結果も気になる1カ月
ご存知のように、プレーオフに出られるのは、各リーグから4チームずつのみ。まず、各リーグに3つある地区のトップチームがプレーオフ進出を決め、残りの“ワイルドカード”と呼ばれる最終スポットは、トップ3チームを除いた各リーグの最高勝率チームが獲得することになる。
ア・リーグの場合、ヤンキースとレッドソックスが所属する東地区と、マリナーズ、アスレチックスが所属する西地区が激戦。中部地区も、地区内では首位争いが熾烈となっているが、やや低いレベルでの争い。よって、ワイルドカードは、東もしくは西地区の2位チームが獲得する可能性が高い。
8月14日現在の話をすれば、東と西はヤンキースとマリナーズがそれぞれ首位で、レッドソックスとアスレチックスが同率でワイルドカード・スポットに並んでいる。ちなみに、中部地区トップはカンザスシティ・ロイヤルズだが、ロイヤルズの勝率は、アスレチックスらに及ばないことから、いかに地区の実力に差があるかわかる。
ただ、ヤンキース、マリナーズ共に、僅差でレッドソックス、アスレチックスに追われているという似た状況にあり、この4チームの中から1チームだけがプレーオフを逃すわけだが、9月はまさにこの4チームのサバイバル・レースが始まることになる。何よりも気にしなければいけないことは自チームの勝利だが、残りの3チームがどうなっているか。試合中は選手、ファン共に他球場の結果をチェックしながらの1カ月が続く。
ヤンキースとレッドソックスの直接対決は、6試合。マリナーズとアスレチックスの直接対決も6試合。『ヤンキース対レッドソックス』が9月7日までに対決を終えてしまうのに対し、『マリナーズ対アスレチックス』は、9月の中旬から終盤にかけて。26日からはシーズンの最終戦となるアスレチックス3連戦がセイフコ・フィールドで組まれている。もしここまで、2チームの争いがもつれ込むなら、まるでプレーオフのような3連戦になるはずだが、仮にヤンキースかレッドソックスのどちらかが、これまでに脱落していれば、このシリーズの行方を待たずして、マリナーズ、アスレチックス、両チームのプレーオフ進出は決まっているかもしれない。
そういった意味でも、直接対決の勝敗以上に、レッドソックス、ヤンキースの勝敗もこれからは大いに関係してくるので、ぜひ注意しておきたい。

打率4チームの弱点
4チームはもちろん、それぞれ弱点を抱える。ヤンキース、レッドソックスは共にブルペンが課題。マリナーズ、アスレチックスは、ヤンキース、レッドソックスらに比べれば、打線が劣る。もちろん、その分を両チームとも投手力でカバーしているのだが、総合評価をするなら打高投低の東2チームに対し、投高打低の西2チームという括りができる。プレーオフという短期決戦なら、絶対的に投手力の力がその差を分けるが、各チーム共まだ20試合以上を残しており、9月1日の段階では、どちらが有利とは言い難い。どういう形であれ、この時点で行方を占えば、先に波に乗ったチームが勝ち。5分の戦いが続くようなら、脱落も覚悟しなければならないだろう。
マリナーズは、戦力的には悪くない。佐々木主浩、カルロス・ギーエンが復帰し、グレッグ・コルブランも9月中盤には間に合いそう。先発投手にさほど波があるわけではなく、ブルペンは4チーム中トップ。いかにヤンキースやレッドソックスの打線が優れていようが、アスレチックスの先発投手陣が鉄壁だろうが、見劣りするわけではない。オールスター明けのような打線のスランプだけが怖いが、アスレチックスもいわば同様の不安を抱えており、極端なマイナス要素とは言えない。

プレーオフ進出の明暗を分けるもの
思うに4チームの道を分けるのは、下位チームに対する戦い。これだけ実力が拮抗していれば、直接対決で大きく勝つことは難しい。となれば、下位チームに対して、いかに取りこぼしなく勝ちを重ねられるかだ。
実は、4チームともタンパベイ・デビルレイズ、ボルチモア・オリオールズとの対戦を多く残す。絶対に勝たなくてはいけないこの2チームに対して、取りこぼしたチームが脱落していくのではないだろうか? マリナーズはそのデビルレイズ、オリオールズと8月の最終週に6試合、そして9月2日からも6連戦が組まれている。合わせて12試合。この勝敗はシーズンを終えた時、意外と多くの意味を持っているかもしれない。

 

マリナーズタイトル

  
 シアトル・マリナーズの2003年シーズンが早くも後半戦に突入した。
開幕前のさまざまな懸念を払拭した感がある、これまでの好調な戦い振り。そして蓋を開ければリーグ西地区、首位での折り返し。今号は、好調のカギと8月以降の注目点を挙げてみたい。(取材・文/丹羽政善)
本文中データはすべて7月20日現在のものです
 
  
 

予想外(?)の首位折り返し
前半戦をア・リーグ西地区の首位で折り返したマリナーズ。シーズン前の予想からすれば、多くの人にとって意外な結果だったのかもしれない。『スポーツ・イラストレイテッド』誌、『スポーティング・ニュース』誌といった専門誌でもマリナーズを首位に挙げたところはなく、オークランド・アスレチックス、アナハイム・エンジェルスについで3位というのが最もポピュラーな予想だった。3位ということは、つまりプレーオフ進出も無理。それだけ低く見られたのだが、実際はもうポスト・シーズンの出場が現実的なところまで来ている。

フランクリン好調の原動力はこの2人
その好調マリナーズの原動力となっているものは何なのか? 大方の予想を裏切った要素とは何なのか? その話を『シアトルP-I』紙のマリナーズ・ビートライター(番記者)、ジョン・ヒッキーに聞くと、何よりも第4、第5の先発投手の貢献を挙げた。
「ライアン・フランクリンとギル・メッシュの活躍に尽きると思う。ラン・サポートがなく、不運な負けが重なっているけど、フランクリンのピッチングは安心して見ていられる。コントロールが良く、テンポもいいよね。
メッシュはシーズン前、先発ローテーションに残れるかどうかのレベルだった投手。スプリング・トレーニングでは散々で、ようやくローテーション入りしたものの、肩の故障もあって、こんなに投げられるとは誰も予想していなかった。前半だけで10勝は素晴らしい貢献度だと思う」
フランクリンは前半戦の終盤に3連敗して6勝8敗となったが、防御率は3.75と3点台をキープしている。また、フランクリンが勝ちに見放されているのは、味方のラン・サポート不足。負けた8試合のうち、フランクリンが得られた味方からの援護は、わずか12点(右表参照)。正直言って、これではどんな投手でも勝ち続けることは難しいのではないか。
一方、メッシュはフランクリン以上に予想を裏切り(?)、前半だけで10勝(5敗)を挙げた。こちらも、防御率は3.61と抜群で、オールスターにも選ばれるのではないかというぐらい、高い評価を得た。彼の場合、肩のケガの回復具合が一番懸念されたのだが、心配には及ばなかったようだ。制球力に加え、ジェイミー・モイヤー譲りのナックル・カーブが凄い。それでカウントを稼げるほどではないが、彼によればこの1球で実に投球の幅が広がったという。2人はまだまだ若いだけに、暑くなる8月以降の活躍にも期待したい。

きつい8月
さて、ジョン・オルルドによれば、その8月が一番体力的に厳しい月だという。
「疲れが出るのは8月。暑いところに遠征に出た時が、特に厳しいね」
8月の遠征は2回だが、第2週目には暑く、湿気も厳しいクリーブランド、ニューヨーク遠征が待っている。
「クリーブランドもきついけど、ニューヨークの方が厳しいかな。夜、試合が終わっても、まだまだ暑い。だから選手はスケジュールが発表されると、まず8月のスケジュールを見るんだ。だけど今年はホームゲームの方が多いし、シアトルの涼しい中で8月を半分以上過ごせるのはありがたい」
マリナーズにはベテラン選手が多い。オルルドを含めて、エドガー・マルチネス、ジェフ・ネルソン、ジェイミー・モイヤーら、チームを担う面々が揃って高齢という特殊事情もある。ならば確かに8月のスケジュールは、マリナーズに優位に働くかもしれない。
スケジュール面に加え、戦力的には佐々木主浩投手の復帰が大きい。現時点ではまだ故障者リストに入っているが、この号が出る頃には、戦列に復帰しているものと思われる。オールスター・ゲーム前に、ようやくキャッチボールを始めたばかりだが、右脇腹の痛みは消え、徐々に動ける体になっているようだ。前半戦の終盤は、ネルソン、長谷川滋利、アーサー・ローズ投手らのオーバーワークも課題になっただけに、佐々木が加わることは、そうした懸念も一気に払拭することができるだろう。

打率期待高まる、イチローの首位打者争い
さて、最後になるが、チーム状態を少し離れれば、イチローの個人タイトルが気になりだした。ズバリ、首位打者である。昨年はオールスター・ゲーム以降、首位打者レースから遠ざかってしまったが、今年はどうか。
4月は2割台の低打率にあえいだが、5月からは本調子のイチロー。6、7月と引き続き打率を上げると、前半の最終戦で首位打者に立った。ただ、メルヴィン・モーラ(オリオールズ)も引き続き好調を維持しており、2人の争いに加え、レッドソックスのノーマ・ガルシアパーラ、ビル・ミューラーなど、ライバル選手の動向も合わせて注目したい。オールスター・ゲーム以後も好調を維持しているイチローだけに、このまま逃げ切る可能性は高いと思うが。

【2003年8月1日号『ゆうマガ』掲載記事】

 

マリナーズタイトル

  
 今年もあっという間にこんな時期になった。例年通り、7月31日はトレードのデッドライン。約2週間後に行なわれるオールスター・ゲームが終われば、さまざまな噂がメジャーを飛び交うことだろう。そんな中、シアトル・マリナーズはどんな動きを見せるのか? 「動く動く」と言われた昨年の状況と比べると今年は静かだが、その少ない動きの可能性をまとめてみた。
*本文中データはすべて6月16日現在のものです。(取材・文/丹羽政善)
 
  
 必要なのは“ファイナル・ピース”
何となく2001年シーズンをほうふつとさせる最近のマリナーズ。116勝はさすがに無理でも、100勝ペースで勝ち進んでいる。6月30日から行なわれるオークランド・アスレチックスとのシリーズに勝ち越せば、プレーオフ出場も現実的に見えてくるのではないかと思う。さて、そうなると多少気は早いかもしれないが、そろそろポストシーズンを見据えたマリナーズの動きにも注目だ。つまりは補強である。

2年前、ルー・ピネラ前監督は「プレーオフには絶対に必要になる!」と、パワー・ヒッターの獲得をフロントに要請したが、あの時は選手から不要論が出て動けなかった。結果は、プレーオフでヤンキースに敗れている。昨年も同じくピネラ前監督はパワー・ヒッターの獲得を要請したが、フロントに断られた。8月、攻撃力が落ち込んだ時、ピネラ前監督は荒れて、フロントの補強失敗を度々口にした。ピネラ前監督の退団は、そうしたことも要因になっている。そんな過去2年のいきさつがあるだけに、今年の補強の動きはより関心を集めるかもしれない。

通常、7月31日までのトレード・デッドラインまでに獲得する選手のことを「レンタル・プレーヤー」もしくは「ファイナル・ピース」と呼ぶことがある。来年以降チームに残るかどうか分からないが、プレーオフで必要になるであろう、その時点の弱点だけに絞った補強を意味し、多くの場合、経験豊富なベテランの力に頼ることが多い。現時点ではマリナーズに大きな穴はないだけに、主力を放出してまで新戦力を獲得する必要はなく、必要なのは、やはりそうした「ファイナル・ピース」的存在。例えば、プレーオフ出場経験豊かなベテラン、先発ローテーションの保険となるような投手なのかもしれない。

補強候補はこの3人か?
そうした観点でメジャー全体のトレード、フリー・エージェント・マーケットを見渡すと、3人のベテランが浮かび上がる。アリゾナ・ダイヤモンドバックスから放出されたマット・ウィリアムス、ミルウォーキー・ブリューワーズから放出されたジェフリー・ハモンズ、そして、シーズンが始まってもいまだにフリー・エージェントの状態が続くチャック・フィンリー。いずれもピーク時の力はないが、短期的な力なら期待ができる。

ただし、彼らの状況については地元紙でも紹介されていたが、獲得の可能性が少ないことをボブ・メルヴィン監督が明言している。
「うちには、マーク・マクレモア、ウィリー・ブルームクエストがいる。グレッグ・コルブランも出番を待っている状態だ。誰かがケガをして緊急の補強が必要なら別だが、今は動く必要はないと思う」

フィンリーについては、マリナーズが興味を示していると全国紙でも伝えられたが、チームの選手予算がすでにないことから、高額サラリーを要求するであろうフィンリーも見送りの公算が高いという。シアトルのローカル・メディアも、今年の補強予測についてはほぼ口を揃える。
「どうだろう、今のチーム状態なら、動かない可能性の方が高いのではないか。戦力的に特に弱い部分も見当たらず、大きな故障もない。むしろここで動くことこそリスキー。7月は、いつになく静かに過ぎ去っていくかもしれない」

そんな中、マリナーズはボストン・レッドソックスからマット・ホワイト投手をトレードで獲得。ブルペンにアーサー・ローズしかサウスポーがいないことを受けての補強だが、彼がいわゆるファイナル・ピースなのかどうかと問われれば、難しいところだ。しかし、これが最初で最後の動きになることは十分予想できる。

他チームは?
となればむしろ注目は、ライバルの動向。中継ぎ陣崩壊で大型補強が予想されるニューヨーク・ヤンキースは、テキサス・レンジャーズのクローザー、ウゲット・ウルビナをセットアッパーとして獲得するとの噂があり、また、オークランド・アスレチックスから昨年のMVP、ミゲール・テハダ放出の情報も流れている。マリナーズ・ファンとしてはこうした動きに、より注意を払うべきなのかもしれない。

ポートランド・エクスポズ誕生?

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▲走攻守、三拍子揃ったオールスター選手、ブラディミール・ゲレーロを果たしてポートランドで見られるのだろうか?MLB

モントリオール・エクスポズの移転計画がある。早ければ来年だが、先ごろ発表されたプランでは、もう1年遅れるかもしれないとのこと。しかし、移転そのものは確定的で、現在、ワシントンDC、ノーザン・バージニア、そしてポートランドの3都市が候補地として手を挙げている。

いずれも新球場建設の青写真を示しながらプレゼンしているところだが、ワシントンDCは目と鼻の先にあるボルチモア・オリオールズがマーケットを脅かされるとの理由で反対を表明しており、事実上はノーザン・バージニアとポートランドの一騎打ち……と言いたいところだが、ポートランドにもマリナーズの中継権を持つFOXスポーツ・ネットが懸念を表しているので、すんなりとはいかない様子だ。

マリナーズのゲームはFOXスポーツ・ネット・ノースウエストを通して、ほぼポートランド全域で放送されている。しかしここに新チームができれば、当然多くのベースボール・ファンの目はそちらに向いてしまう。そうなればマリナーズ戦の視聴率が低下することは明らかで、FOXスポーツの懸念はそこにある。

FOXスポーツは、年間30億円近い放映権料をマリナーズに払っているわけだが、その高額な放映権も高い視聴率に支えられてこそ。視聴率が下がれば、広告収入などもダウンし、FOXスポーツはダメージを免れない。マリナーズはエクスポズの移転を歓迎したいところだが、チームの経営もFOXスポーツに負っている面があるだけに、パートナーの障害はマリナーズの障害にもなる。

「もう10%も可能性がないのではないか」
と、『シアトル・タイムズ』紙のスポーツ・コラムニスト、スティーブ・ケリーは言う。現実は、そこまで後退してしまっているようだ。

7月15日にシカゴ・ホワイトソックスの本拠地、U.S.セルラー・フィールドで開催される、第74回MLBオールスター・ゲーム。マリナーズの選手達や今年ヤンキース入りした松井秀喜外野手が選ばれるかどうかは、おおいに気になるところ。「大どんでん返しはないはず」という確信のもと、行方を予想。(文/丹羽政善)
*分析は第1回中間発表の結果(5/29現在)に基づき、アメリカン・リーグは【ア】、ナショナル・リーグは【ナ】で表しています。
*ゲームは7月15日(火)5:00 p.m.(太平洋時間)~、FOX系列局でオン・エア予定。

投票の途中結果
(6/17現在。各リーグの1位と注目の選手のみ紹介)
*詳細はMLBウェブサイトのAll Star Gameのページ、BALLOT UPDATESから見られます。

■ファースト

ア1位:
5位:
ナ1位:

Delgado, C.(Blue Jays)
Olerud, J.(Mariners)
Bagwell, J.(Astros)

408,667票
172,489票
311,234票

■セカンド

ア1位:
2位:
ナ1位:

Soriano, A.(Yankees)
Boone, B.(Mariners)
Kent, J.(Astros)

716,557票
411,341票
302,865票

■サード

ア1位:
ナ1位:

Glaus, T.(Angels)
Rolen, S.(Cardinals)

316,326票
572,872票

■ショート

ア1位:
ナ1位:

Rodriguez, A.(Rangers)
Renteria, E.(Cardinals)

567,928票
380,878票

■捕手

ア1位:
5位:
ナ1位:

Posada, J.(Yankees)
Wilson, D.(Mariners)
Rodriguez, I.(Marlins)

554,677票
141,649票
332,013票

■外野手

ア1位:
7位:
9位:
ナ1位:

Suzuki, I.(Mariners)
Matsui, H.(Yankees)
Cameron, M.(Mariners)
Bonds, B.(Giants)

550,581票
247,434票
186,396票
608,340票

■指名打者

ア1位:

Martinez, E.(Mariners)

486,809票

【2003年7月『YOUマガ』掲載記事】

 

  
 予想に反して(?)マリナーズが好調なスタートを切った。決定力、先発ローテーションのコマ不足等、シーズン前はずいぶん地元紙にも指摘されたが、今、その声はなりを潜める。そのマリナーズ快進撃の要素は何なのか? また、この力は本物なのか? テーマごとにシーズン前の懸念と比較しながら、今月は話を進めていきたい。
※本文中データはすべて5月14日現在のものです。(取材・文/丹羽政善)
 
  
 ヤンキース戦だぞ!?
さあ、ポイントを絞って検証……。いや、その前にちょっと脱線。5月6日から行われたヤンキース3連戦。最初の2試合に行った人は驚いたと思う。観客席が埋まっていなかったことに。最終戦こそ売り切れたが、最初の2試合はソールド・アウトしなかった。プレスボックスからも特に空席が目立った2階ライトスタンドを見上げながら、議論が起きていた。

「ヤンキース戦だぞ」

「松井も来てるんだぞ」

話題には事欠かないはずだったのに、なぜこんなことが起きたのか? 『シアトル・タイムズ』紙のスポーツ・コラムニスト、スティーブ・ケリーはあるひとつの理由を挙げた。
「シアトルの経済状況だと思うね。全体として冷え込んでるのは知っていると思うが、とうとうマリナーズの試合にまで、その影響が出始めたということだ」

マリナーズのゲームの平均チケット・プライスは、約$20。家族4人で行くとしたら合計$80。これに当日の食事代、駐車場代などが加算されれば、1日で約$150ドル前後の出費となる。どうだろう、高いといえば確かに高いかも。しかし、今のチーム状態と地区のトップ争いをしている状況を考えれば、昨年、一昨年同様、連日のようにチケットが売り切れていてもおかしくないとは思うのだが。対照的にマリナーズのゲームを放送しているFOXスポーツ・ネットは高視聴率を稼いでいる。ファンがマリナーズから興味を失ったわけではないことがここから分かる。寒さと経済的要因。このダブル・パンチがファンの足を遠ざけているのだろうか?

好調な理由を検証
随分回り道をしてしまったが、いよいよ本題。シーズン前に懸念された課題は大きく分けて3つ。第4、5の先発投手、決定力不足、そして新監督の采配。ここからはその3点に絞って話を進めよう。脱線なし。

1. 第4、5先発投手
うれしい誤算といっては失礼だが、ライアン・フランクリンがここまで3勝2敗、ギル・メッシュが4勝2敗。おそらくマリナーズ首脳は、2人合わせて5分の成績なら上出来と考えていたはずである。それが、逆に貯金3。この差は大きい。驚きはフランクリンよりもメッシュ。肩の故障で約3年間をリハビリに費やし、一時は“もう2度とマウンドに立てないかも”とまで言われた投手だ。スプリング・トレーニングでもパッとせず、ほかに投手がいない台所事情から先発ローテーションに抜擢されたまでである。才能がないとは言わない。もともと、マイナーの頃から将来を嘱望され、マリナーズも大事に大事に育ててきた。しかし、度重なる肩のけがは、彼の将来に暗い影を投げ掛けていた。切れのあるムービング・ファーストボールのほかに、ナックル・カーブ、スプリットなどを操り、防御率2.86はマリナーズ先発陣の中でトップ。このまま肩の痛みを感じることなくシーズンを過ごせるなら、2けた勝利はもちろん、シーズン終盤の大事なマウンドでも任せられそうである。肩が壊れないように……。ただそれだけを祈りたい。

2. 決定力不足
4月上旬、マリナーズは得点圏にランナーを進めるものの、まったくタイムリーが出なかった。その頃、エドガー・マルチネスが足を痛めて休んでいた。これこそが、マリナーズがシーズン前に懸念していた問題だ。エドガーがいない時、マリナーズは極端に得点力が落ちる。その場合、誰がエドガーをカバーするのか? 今のところエドガーが頑張っているので明るみには出ていないが、エドガーが休むと、なぜかブレット・ブーン、ジョン・オルルドなど中核にも当たりが止まる。ここ数年来の課題はいまだ解決されていないと言える。グレッグ・コルブラン、ジョン・メイブリーらに調子が出てくればエドガーに疲れが出る前に、もう少し休みを与えられるのだが、現状では多少エドガーに無理をさせているかもしれない。この決定力についての問題は、依然エドガーのけがと連動し、マリナーズにとっても古傷のような、いつぶり返すか分からない怖さがある。

3. 新監督采配
これまでのところ、オフェンス、ディフェンス両面でボブ・メルヴィン監督の采配が光る。ローテーションをうまく回し、ブルペンの使い方にも無理がない。佐々木主浩が戦列を離れた時も、無難に乗り切った。ベテランが多く、自分の役割が分かっている投手が多いので、それほど監督の力を必要としないのかもしれないが、起用法などにもそれほど不満が出ていないので(多少はあるようだが)、このままけが人さえ出なければ、うまく1年を乗り切れそうだ。オフェンスでは、2番で不振だったランディ・ウィンを7番に持ってきて、再生させた。いずれウィンを2番に戻す構想は持っているが、タイミングよく打順を下げ、ウィンを一時的にでもプレッシャーから解放したアイデアは評価が高い。また、開幕当初不振を極めたジェフ・シリロを我慢強く使い続け、彼もまた結果を出し始めている。こうした選手の扱い方は、選手からも信頼を得ているようだ。だが、まだ本当のトラブルをメルヴィンは経験していない。真のメルヴィンの評価はそうなって初めて語れるのかもしれない。むろん、開幕1カ月半を語るなら、素晴らしい評価に溢れているが。

エドガーのバックアップが今後の課題
さて、ここまで3つのポイントに絞ってチーム力を検証したが、すべての面においてシーズン前の予想を上回っている。フランクリン、メッシュの安定感、そしてメルヴィン監督の信頼度。総合すればチーム力そのものは昨年よりもいいようだ。現時点で憂うべきは、エドガーの足の状態。毎年、毎年、毎年同じだが、マリナーズのオフェンスにいまだ彼に頼らざるを得ない。もし彼がけがで戦列を離れた時に、誰がバックアップするのか? そうした選手の成長こそが、これからの課題だろう。【2003年6月『YOUマガ』掲載記事】

 

  
 開幕直後こそ凡打が続く戦いぶりでふがいなさを感じさせられたものの、目先の1勝にとらわれない「プラス志向」で中盤には上昇してきたシアトル・マリナーズ。ただシーズン開始早々、気になることもある……。
*本文中データはすべて4月15日試合終了時のものです。(取材・文/丹羽政善)
 
  
 リズムをつかみ始めた4月前半戦終盤
シアトル・マリナーズのファンは、この2週間の戦いをどんな風に見守っていたのだろう。開幕した頃は、好機で繰り返される凡打を見るにつけ、「昨年夏の悪夢を見ているよう」。ある意味、そんな思いだったかもしれない。しかしあの頃、ボブ・メルヴィン監督以下、選手が集う、マリナーズ・クラブハウスの雰囲気はさほど悪くなかった。悲観的でもなく、楽観的でもなく。それがテキサス・レンジャーズ、オークランド・アスレチックス戦での連勝にもつながった。

無論、カンザスシティ・ロイヤルズのように連勝スタートを切れることに越したことはないが、デトロイト・タイガースのように「ようやく1勝を挙げた!」というわけでもなく、むしろ投手陣は安定し、ディフェンスも安心して見ていられる。もちろん、これが9月で、プレー・オフを争っている時なら話は別だが、ここまで8勝6敗は悪くない。

アトランタ・ブレーブス、アリゾナ・ダイヤモンドバックスという両有力チームが、低迷している。ブレーブスは、エースのグレッグス・マダックスが、ダイヤモンドバックスはランディ・ジョンソンが、共にまだまだ本調子とは言い難い。「懸念」という言葉はこういうチーム状態のことを言う。

タイムリーが出なかった開幕当初、「長いシーズンを通してみれば、必ずこういう時期はある。それがたまたまこの時期だと、ポジティブに考えるしかない」と、メルヴィンは話していたが、その通り。最近は徐々に得点圏でもヒットが出るようになった。同じ頃、選手も「たまたまリズムが合わないだけ。この時期からシリアスには考えていない」とコメントしていたが、そうしたプラス志向が、ようやく最近、噛み合い出してきたと言える。「この時期、4割、5割の打率を残す奴もいる。でもそれがシーズン終了後まで続くはずがない」。そうした選手の言葉のひとつひとつが、今証明されつつある。「目先の1勝」にこだわる選手はいなかった。

“寒い”セイフコ・フィールド
ただひとつ気になるのは、目立つ空席。記者席から観客席を見渡して気づくのだが、特に2階のライトスタンド。“夏場はまぶしい”など、一般的に人気のない席であるが、ホーム・オープナー(地元開幕戦)以来、ほとんど埋まらない状況が続いている。4月8日以来の観客者数を以下の表にまとめたが、観客者数が4万人を割る状態がこれほどまでに並んだのは、昨年では記憶にない(実際記録を調べたら、4試合連続で4万人を割ったことはなかった)。マリナーズのホームゲームに取材しに行くと、毎日のようにプレス・リリースが配られ、そこには今後10試合程度のチケット・セールスに関する情報も含まれているが、軒並み2万枚以上のチケットが余っていると記載されている。

ゲームが近づけば当然チケットは売れるし、そのまま2万枚以上のチケットが余ることは稀なのだが(少なくとも去年までは……)、4月14・15日のアスレチックス戦では、なんと26,000人台まで観客数が落ち込んだ。14日の26,567人は球場史上ワースト2位、15日の26,666人はワースト8位。過去2年間のように連戦連勝してはいないが、一応ア・リーグ西地区の単独首位である。ましてや開幕間もないこの時期の観客数としては、やはりさびしい。

もちろん、他球場の観客数を見れば、2万人すら切っているゲームがほとんど。そういう意味ではマリナーズのフ場合、まだかなり優良なのだが、昨年、一昨年と、満員のセイフコ・フィールドしか知らないファンには、妙にスタジアムが寒々しく感じるに違いない。

この時期、確かに寒い。特にナイターなどは回が進むに連れて、簡単にセ氏10度なんて切ってしまう。メルヴィン監督も、開幕戦からの寒さで風邪を引いたそうだ。ベンチにはヒーターが入っていても、防寒には気を遣う。ベンチがそんな状況なら、当然スタンドの状況は想像に難くない。しかし、シアトル独特の春の底冷えの寒さが、ファンの足をも遠ざけてしまっているのだろうか。

TV観戦を止め球場へ行こう
球団社長のチャック・アームストロングは、こういう状況を「確かに心配している」とコメントした。実際これだけ観客が落ち込んだのは球場オープン以来初めてのことだから、「うろたえている」とコメントしたいのが本音かもしれない。先ほどのメルヴィン監督や選手のコメントではないが、もし「こういう時期もある」という程度の認識なら、それは違う。『シアトル・タイムズ』紙のラリー・ストーンは、「変わらないメンバー。新たにファンを球場に呼び寄せる魅力的な補強がオフ・シーズンにできなかった。ファンはその辺に敏感だ」と話す。そうしたファン心理は理解できる。

だが、この時期スタジアムに足を運ぶと、ミッドシーズンとは確実に“何かが違う”雰囲気に満ちている。気軽にサインに応じる選手、寒い中訪れるのは本当のファン。日本にいたときにイメージしていた、メジャー本来のゲームというか。それを言葉で表現するのは難しいが、訪れれば必ず感じるはずだ。ゲームそのもの、球場全体から受ける、新鮮な居心地の良さを。さあ、TVのスイッチを切り、スタジアムに出掛けよう! チケットは当日窓口で買えばいい。ある意味ボールゲームの本来あるべき姿が、この時期、グラウンドにはあふれているのだから。【2003年5月『YOUマガ』掲載記事】