※このページは、2004年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2004年2月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。
2004年マリナーズの展望 |
1月20日現在、佐々木主浩投手の退団がほぼ確定的となった。今後、自由契約の手続きを踏むが、今号が出るまでには正式発表もあるはずだ。残念だが、家族を優先しての決断。マリナーズも申し出を受け入れる方針の模様。 なお、彼の退団でマリナーズの来季の陣容がほぼ固まった。浮いた佐々木の年棒で新選手の獲得を目指すとの憶測はあるが、フリーエージェント市場に望まれる選手はおらず、このままのメンバーでキャンプに入ると見られる。 今号は佐々木退団のニュースも含め、オフ・シーズンの動きを総括したい。(取材・文・予想/丹羽政善)(取材・文/丹羽政善) | ||||
佐々木退団!
退団の一報が流れたのは、1月19日の午前。代理人を通じてマリナーズに退団の申し入れがあり、午後になってマリナーズ側も電話会見でそれを認めた。MLB.COMのジム・ストリート氏のリポートによると、代理人のトニー・アタナシオも佐々木の退団を認め、「彼はもう帰らない。家族と一緒にいることを望んでいる」 佐々木が日本球界に復帰するのではないか、との噂が流れたのは昨年11月中旬のこと。その時はそのまま立ち消えになったが、家族のことを懸念し、また、今年開催のアテネ・オリンピックへの出場も希望していたというから、そうした複数の要素が重なっての決断のようだ。 しかし、マリナーズへのダメージは少ないと見る向きも多い。昨年、ミネソタ・ツインズで41セーブを挙げたエディ・ガーダド投手を獲得しており、ガーダド、もしくは長谷川滋利投手がそのままクローザーになることが予想されるからだ。両投手とも経験、実績共に豊富。マリナーズのブルペンが崩れる心配は少ないだろう。 オフ・シーズンの動きを総括 ショッキングなニュースから紹介しなければならなかったが、ここからはキャンプ前の総括として、オフ・シーズンの動きをまとめてみたいと思う。まず、レギュラー・クラスの新加入から。 野手では、アナハイム・エンゼルスからフリーエージェント(FA)になっていたスコット・スピージオとサンフランシスコ・ジャイアンツからFAになっていたリッチ・オリリア。この2人が、新たに三遊間を組むことになる。昨年まで三遊間を担っていたジェフ・シリロ三塁手、カルロス・ギーエン遊撃手はそれぞれ、サンディエゴ・パドレスとデトロイト・タイガースにトレードされた。 スピージオは、オークランド・アスレチックスとエンゼルスでそれぞれ4年のキャリアを持つ中堅選手。成績よりも印象に残るプレーをするタイプで、2年前のワールド・シリーズでも大活躍をした。マリナーズは、スピージオにチームを引っ張っていく役割までは期待していないが、守備でも打撃でもある程度、計算できる選手として考えているようだ。 オリリアは、2001年シーズンに37本塁打を放ち、オールスターにも選ばれた逸材。過去2年はケガなどに泣かされ、満足なシーズンを送ることはできなかったが、彼が1年を通してグラウンドに立てるならば、期待以上の成績を残せるはずだ。また、本来は中距離打者なので、広いセイフコ・フィールドも彼にとっては有利に働くだろう。さらにチームは、オリリアにリーダーシップ的な役割も期待している。王様バリー・ボンズがいたジャイアンツには、そのボンズと対立するグループもあり、必ずしも一枚岩ではなかった。しかし、一昨年はワールド・シリーズに進出、昨年はディビジョンを制したチームの陰でオリリアがキャプテンとして果たした役割とその手腕は広く知られており、マリナーズもそこに目を付けたと言える。「まだまだ、すぐにそういうわけには」 投手陣に関しては、さほど変化は見られない。フレディ・ガルシアは一時はトレードの噂があったが、マリナーズと1年契約を結んでいる。結果、たった5人で先発ローテーションを回した昨季のメンバーが、そっくり今年も帰ってくることになった。飛び抜けた投手はいないが、どの選手も2ケタ、いや、15勝は挙げられるポテンシャルを持つ。昨年来守り続けている5人ローテーションがどこまで続くのかも楽しみだ。 ブルペンは、アーサー・ローズが抜けて宿敵アスレチックスのクローザーとなったが、冒頭で触れた通り、ガーダドの獲得、フリオ・マテオやラファエル・ソリアーノに上積みが期待できることから、全体としてはグレードアップしているかもしれない。長谷川の残留も決まっており、佐々木の退団は寂しいが、昨年同様メジャー屈指のブルペンと呼ぶことができよう。 将来への布石が打てぬまま 今オフの補強で不安な点は、将来に向けての布石が打てなかったこと。おそらく来シーズン終了後、エドガー・マルチネス、ジョン・オルルドは引退する。ダン・ウィルソンも衰えが見られるだけに、マリナーズが新契約をオファーするかは怪しい。となると、マリナーズをここまで支えてきた主力がポッカリ抜ける可能性があるにもかかわらず、今のチーム構成では投手陣以外、将来図が見えてこない。サラリー枠をセーブして、来年のFAマーケットで、バートロ・コロン、ブラディミール・ゲレーロといった大物を獲得した今年のエンゼルスのように使うかどうかはわからないが、例えばボルチモア・オリオールズと契約したミゲール・テハダを無理してでも獲得していれば、イチローと2人、チームを背負う未来図が描けたのに。今ではそれも叶わない。そうした将来を考えた時の不安をファンは感じているに違いない。 |
雨のシアトルから抜け出して、青空の広がるアリゾナで野球観戦はどうだろう? 今月は間もなく始まる、オープン戦の観戦ガイド。1カ月も続くのだから、 今からスケジュールを立てても遅くないんじゃない? (取材・文/丹羽政善) | ||
今年もベースボール・シーズンの幕開けが、すぐそこまでやってきた。シアトル・マリナーズは2月20日、バッテリー陣がアリゾナ州ピオリアに集合し、25日には野手組が合流。そしていよいよ今月4日にはアリゾナでキャンプを張るチームによるオープン戦カクタス・リーグが開幕する。アリゾナでのキャンプ&オープン戦観戦をオススメする理由はいくつかあるが、あなたの“メジャーリーグ・ファン度”をベースに、参考プランを考えてみた。 1. ダイハード・メジャーリーグ・ファン あなたがもし、自称“ダイハード・メジャーリーグ・ファン”なら、やはりフロリダよりもアリゾナのキャンプがオススメ。ほとんどのキャンプ地が車で1時間以内で移動できる範囲にあり、遠くてもツーソンの2~3時間ドライブ。時間が掛かると言っても、ツーソンで過ごすのも悪くなく、1泊2泊の小旅行と思えばいい(道のりは平坦で、ドライブは飽きるが)。 2. いや、そこまでじゃないけど……というファン そんなに忙しいのは嫌!という人は、オープン戦観戦に絞ったらどうだろう? 試合が行われるのは午後からなので、午前中はゴルフやアウトレット・モールでのショッピングに費やしてもいい。同じように週末に訪れるなら、2試合の観戦が可能だが、対戦カードをばらせば4チームも見ることができる。 3. 1試合で十分。ほかに何かないの……というファン フェニックスをベースにするなら、1日は試合。もう1日は、例えばセドナへの日帰りドライブなどがいい。しばらくセドナには行っていないので、正確な時間は忘れてしまったが、2時間程度の距離のはずである。赤土の岩肌に囲まれた景観は圧巻。行けば思わず、泊まりたくなってしまうかもしれない。手頃な価格のホテルがたくさんあるので、セドナで1泊してもいい。夕焼けも素晴らしいが、日の出のセドナも、岩肌が輝いて美しい。 4. 何が何でもダブル松井が見たい!というファン ニューヨーク・ヤンキースはフロリダ州タンパで、ニューヨーク・メッツも同州のポートセント・ルーシーでキャンプを張っている。 ヤンキース参照ウェブサイト:www.yankees.comまたはwww.legendsfieldtampa.com シアトル・マリナーズ オープン戦スケジュール(3~4月) |
2004年マリナーズの行方 |
開幕まであとわずか。今年のシアトル・マリナーズはどんな戦力でプレーオフを目指すのか? ピオリアでのキャンプの様子を織り交ぜながら、チームの行方を探ってみた。 「イチロー・3番」構想も現実的で、2004年のマリナーズも見どころたくさん!(取材・文/丹羽政善) | |||
3番・イチローの可能性
今年から、ひょっとしたら「3番」を任されるかもしれないイチロー。リードオフへのこだわりも捨てきれないないだろうが、「チームが必要なら、喜んで監督に従う」と話し、その現実的なシナリオに前向きな発言。2年前の「3番・イチロー」は本人曰く「応急処置」だったが、ボブ・メルヴィン監督も過去2年間プレーオフを逃した経験を踏まえ、はっきりと「チームに変化が必要なら、イチローに3番を打ってもらうこともある」と話している。開幕からすぐ、というわけではないだろうが、打線のつながりが悪くなったり、クリーンナップにけが人が出た場合はその可能性が非常に強いので、ファンとしても「イチロー・3番」の実現のタイミングを図りながら、マリナーズの行方を追うと試合の見どころが増える。 ほぼ安泰の投手陣 |
開幕直後の連敗で心配されたマリナーズだが、4月20日現在4連勝を飾り、いい流れ。 このまま5月までに5割復帰。その後はいつも通り貯金と、そんなシナリオを期待したいが、前半のもたつきで 懸念も見える。今月はプラス要素に加え、今後のペナントレースを戦っていく上で不安な点にも目を向けてみた。(取材・文/丹羽政善) | |||
スコット・スピージオの復帰がもたらした効果
新しいスタイルに挑戦するイチロー セット・アッパー、長谷川に不安なし。 メッシュ、ピネイロら、 5月攻勢のカギは、4人の投手 |
相変わらず勝てないマリナーズ。どうしたの?を通り越し、ファンの間ではマリナーズ関連の会話を避けるような諦めムードさえ漂う。いったい何がおかしいのか? まあ、言ってみれば全体的なもので、一部に特定するのは難しいのだが、どうやら数字は嘘をつかないようだ。(取材・文/丹羽政善) | |||
数字で見る不調さ── 打撃編 ※2001年はシーズン終了時、2004年は5月19日、38試合終了時のデータ。カッコ内は共にメジャー全30球団での順位 見事な差。2001年には主要部門のほとんどがトップなのに対し、今年は主要部門のほとんどで下から数えた方が早い。例えば、得点。5月19日現在156点だが、これを全162試合に換算すると665点で、2001年と比べてざっと262点も下がることになる。これを1試合当たりに直すと1.62点のマイナス。一見、たいしたことなさそうだが、今年、1点差負けが何試合あるかご存知だろうか? この時点でなんと6試合もあるのだ。単純に1.6点分を加算すれば、6試合すべてで勝っている計算になるから、この時点での勝敗は19勝19敗の五分となり、まだまだ踏ん張っているという状況だろう。 数字で見る不調さ── 投手編 ※2001年はシーズン終了時、2004年は5月19日、38試合終了時のデータ。カッコ内は共にメジャー全30球団での順位 昨年に比べれば、開幕3試合目の内容といい、まだまだ不安定な投手の主要部門も、軒並みトップからボトムへ。これまでのところ、防御率は1点以上のプラスで、もしこのペースでシーズンを終えるなら、自責点は767点(プラス191点)、失点は814点(プラス187点)にもなる計算だ。 来季に向けて? トレードの噂 |
2004年オールスター・ゲーム |
7月13日実施予定の今年のオールスター・ゲームまで、あと2週間を切った。 だが、今回はチームの不調もあって、マリナーズにとっては厳しいオールスターになりそう。 現時点ではイチローが選ばれるかどうかだが、4年連続ファン投票トップの座は守れそうにもない。 今月はマリナーズ+ア・リーグの選手を中心に、オールスター出場選手を予想してみた。(取材・文/丹羽政善) ※本文中の順位は6月16日の第3回中間発表。また、最終予想もこの発表をベースに行った。投手は選手と監督の投票などで選ばれるため、最終予想から外した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
何人のマリナーが選ばれるか? ●投手候補:ジェイミー・モイヤー、フレディ・ガルシア、エディー・ガーダド ●捕手候補:なし ●ファースト候補:なし ●セカンド候補:ブレット・ブーン ●サード候補:なし ●ショートストップ候補:なし ●外野手候補:イチロー ●6月25日現在の最新結果
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ここまで来ると、さすがに後半戦の見所を探すのが難しい。地区の優勝争いからは4月の時点で脱落し、 ワイルド・カード争いなどは別世界の出来事だ。だが、活躍し始めたルーキー達のひたむきさは、新鮮そのもの。 あと2カ月のシーズンは彼らに注目してみよう!(取材・文/丹羽政善) ※本文中のデータは、7月19日現在のものです。 | |||||||||||||||||||||||||
マリナーズの新しい若武者達 まだシーズンは2カ月もあるのに、マリナーズはもう消化ゲーム・モード。ベテランを整理して、マイナーから若手を昇格させ、来季のための経験を積ませている。現時点では最善の策なのかもしれないが、知らない選手ばかりがスタメンに並んで、まるでタコマ・レーニアズ(マリナーズ傘下の3Aチーム)の試合を見ているようだ。 だが、プラスに考えれば、それはそれで楽しいもの。スタメンに起用され、いきなりバッキー・ジェイコブソンが放った1発は豪快だったし、ジャスティン・レオーネの2試合連続弾も鮮やかだった。ここまできたら、ファンも開き直りが大事。 長打力が魅力のジェイコブソンとレオーネ
7月17日、スタメン2試合目でジェイコブソンが放った当たりは、目の覚めるような1発だった。マリナーズにはここ数年彼のようなパワー・ヒッターがおらず、また、毎回のようにホームランを期待できる打者もいなかった。それだけに、彼の打席は16日の初スタメン以来注目され、空振りでさえ、その豪快さでファンを沸かせている。 28歳のジェイコブソンは、1997年にプロ入りするも、今年7月まではマイナー暮らし。昨年はカージナルス傘下の2Aのチームで31本塁打を記録したが、上から声が掛かることはなかった。今年からマリナーズ傘下のレーニアズに移籍し、前半だけで26本塁打を放ったものの、マリナーズのフロントはジェイコブソンの昇格に消極的。今回のメジャー・デビューは彼の熱心なファンや、ローカル・メディアの強烈なプレッシャーから実現したものであった。 彼の魅力は、なんといってもその長打力。その魅力に取り付かれたファンらは、独自の応援ウェブサイト(buckybackers.com)を6年前に立ち上げ、ジェイコブソンのマグカップなども販売している。 一方、6月に昇格してきたのがレオーネ。しばらくは不規則な起用が続いたが、マリナーズは彼のポジションを空けるためにジョン・オルルドを放出し、3塁のスコット・スピージオを1塁にコンバートしている。それだけの期待に応えたレオーネは、オールスター明けの試合で逆転2ランを放ち、チームの勝利に貢献。その翌日の試合でも、レフトに豪快な3ランを放っている。体は細いがジェイコブソン同様、レオーネも3Aでは前半だけで21本塁打を記録し、長打力に定評がある。本来は中距離打者なのだろうが、オルルドをほうふつとさせる力みのないスイングは、今後の活躍を予感させる。 そのほか、まだ3Aにいるが、フレディ・ガルシアとのトレードでやって来たジェレミー・リードも、9月にはセイフコ・フィールドで見られるかもしれない。シカゴ・ホワイトソックスのトップ・ルーキーと言われた選手で、来年のメジャー・デビューも噂されていた選手。タコマでもその片鱗を見せ、7月17日現在、打率.304を打っている。俗に言う「セプテンバー・コールアップ」での昇格は確実。その時はメジャー定着のチャンスをも与えられるはずだ。
将来を期待したい若手投手達 投手に関しては、4月以来多くの若手がメジャーに昇格したが、その多くは、十分な実績を残せぬまま再びマイナーに戻って再調整を強いられている。 J.J.プッツは、とりあえずロング・リリーフの役目を与えられてメジャーに残っているが、マット・ソロントン、クリント・ナジオッテらは制球力に難があり、マイナーへ逆戻り。初先発でメジャー初勝利を挙げたトラビス・ブラックリーも、7月16日の先発では3者連続本塁打を浴びるなど、厳しい内容となっている。 デビューはもう少し先だろうが、現在、2Aのサンアントニオにいるフェリックス・ヘルナンデスには今から注目。10代でデビューを飾ったドワイド・グッデンの再来と言われ、現在18歳だが、彼もまた10代でのメジャー・デビューを期待される逸材だ。ストレートはすでに最高97マイルを記録し、体の成長に伴って100マイル前後のスピードも予想されている。マリナーズは来年いっぱいマイナーで経験を積ませ、2006年のデビューを考えているようだが、それまで彼の才能を抑えておくことができるかどうか。来年も今年のような状況になれば、彼のメジャー・デビューは早まるかもしれない。 |
イチローの記録はどうなっているのだろう? 順調に行けばもうメジャーのシーズン最多安打を更新している頃なのだが……。打っていないものを記事にはできないので、今季最後のマリナーズ・アップデートは、来季のマリナーズに焦点を絞る。 (取材・文/丹羽政善) ※本文中のデータは、9月14日現在のものです | ||
最終戦はエドガーに注目 この原稿を書いているのは9月14日。前日の試合でノーヒットに終わったイチローのシーズン通算安打は231本で変わらず、ジョージ・シスラー(ブラウンズ:現ボルティモア・オリオールズ)が持つ257本のシーズン最多安打には、残り19試合で26本となっている。このところ、4試合でヒット2本。そのうち3試合が無安打なので、ややペース・ダウンといったところ。依然、シスラーの記録を上回るペースでヒットを重ねてはいるが、プレッシャーが掛かり始めるこれからが本当の戦いだろう。9月中にイチローが記録を更新しているとすれば、10月1日から始まるテキサス・レンジャースとのシリーズは、エドガー・マルチネスにファンの目は集中する。マリナーズ一筋18年。彼の引退と共に、マリナーズの歴史もひと区切りだ。 以下、来季の戦力について触れていくが、エドガーの抜けたマリナーズはガラっと顔触れが変わる可能性がある。遅すぎた世代交代が、今始まろうとしている。 大き過ぎるエドガーの穴 まずエドガーが抜けるDHだが、現状では後半戦から昇格し、9本塁打、28打点を挙げたバッキー・ジェイコブセンが有力だ。ひざを痛めて、9月中旬から故障者リストに入ってしまったが、キャンプまでには間に合うとのこと。チーム唯一の長距離砲との期待が高い彼だが、同時に、変化球に弱く、足もエドガー並み。研究されたら使い物ならないとの声もあり、マリナーズ首脳陣が彼に絶対の信頼を置いているわけではないだろう。 一塁も穴。9月までは、ジェイコブセン、スコット・スピージオで回したが、ジェイコブセンが戦列を離れた後は、スピージオの調子が不安定なため、ボブ・メルヴィン監督はラウル・イバニエスを試したりもしている。これは、まさに来季の構想を睨んだ使い方。イバニエスをファーストに入れて、ランディー・ウィンをレフトに。センターには、シカゴ・ホワイトソックスからフレディ・ガルシアとのトレードで獲得したジェレミー・リードに入って欲しいという希望が、マリナーズ首脳にはある。だがもちろん、リードの経験不足は明らかで、来年のキャンプを通してどれだけ彼が成長できるか──それが、来季の外野布陣のカギを握る。 セカンドはブレット・ブーンで決まりとして、三遊間が未定。チームは今、ホセ・ロペスをショートで使っているが、肩が強いとは言えず、守備範囲もそれほど広くない。どちらかと言えば彼はサード向きだろう。となると、誰がショートを守るのか? ウィリー・ブルームクィスト? ホルベルト・カブレラ? 手っ取り早いのはFA選手の獲得だが、今のマリナーズに来てくれる選手がいるかどうか。大物選手なら、より強いチームを選び、ワールド・シリーズを狙いたい。マリナーズのような再建中のチームには、当然、見向きもしないだろう。 捕手は、ミゲル・オリーボで決まり。しかし、捕球に難があり、バックアップとしてダン・ウィルソンにはチームに残ってもらいたいところ。ウィルソンはこのオフFA選手となるが、チームにとっては将来の参謀的な逸材。フロントは是が非でも、残留を働き掛けるに違いない。 ミラクル・マリナーズ、最後の世代 エドガーは、マリナーズの象徴的な選手だった。思い出すのは、やはり’95年にヤンキースとの間で行われたプレーオフでのサヨナラ・ヒットだが、考えればあの年の“ミラクル・チーム”の中で、マリナーズでいまだプレーしているのは、エドガーとダン・ウィルソンぐらいだ。エドガーが去り、ウィルソンも今季終了後にフリー・エージェント。マリナーズは、ミゲル・オリーボ捕手をすでにフレディ・ガルシア投手とのトレードで獲得しているので、ウィルソンとの再契約は微妙。仮にサインをしても、オリーボのバックアップとしてだろう。 あれから9年。「新しい時代」と言えばそれまでだが、今のマリナーズ人気はあの’95年を起源とするだけに、ファンも世代交代の必要性を感じているものの、今のマリナーズ・フロントほどドラスティックにはなれない。 メルヴィン監督更迭も? 厳しいのは投手陣も同じ。来季の先発で確定しているのは、ジョエル・ピネイロぐらい。ジェイミー・モイヤーも衰えが目立つし、ライアン・フランクリンも安定感に欠ける。ボビー・マドリッチがいい投球を続けているが、信頼できるかどうか。ギル・メッシュは精神面が問題。調子が良ければ、ボストン・レッドソックスを完封もできる素材なのだが。 それ以上に、問題なのがブルペン。誰がクローザーになるのか、誰がセットアッパーなのか。現時点では、その青写真さえ見えない。マリナーズはこのオフ、本当に厳しい改革を迫られる。その改革の第1歩は、新監督の選考になるかもしれない。
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■2004年10月号
熱いヤツ求ム!~マリナーズ弱体化の理由~
取材・文、阿部太郎
ここまで惨憺たる成績になるとはいったいだれが予想しただろう。63勝99敗。去年まではこの数字がひっくり返ってもおかしくなかった常勝軍団が、今シーズン途方もなく負け続けた。 開幕から7連敗。いつかは浮上の動機をつかむだろうと思っていたが、結局一度も日の目をみぬままシーズンを終えた。 「勝つことだけが目的ではない」イチローはシーズン終了間際に記者団の前でこう語ったが、その言葉の裏にはやはり「勝つことが最大の目的ではあるが……」という言葉が潜んでいることは明らかだった。なぜ、今シーズンこれほどまでにマリナーズは不振に陥ったのだろうか? マリナーズの今シーズンの不振を考えた時、ひとりのキーパーソンが頭に浮かぶ。ルー・ピネラ。93年にマリナーズの監督に就任後、マリナーズを常勝軍団に仕立てた名将である。2001年にはシーズン116勝という大リーグ記録を打ち立てたが、2003年にタンパベイ・デビルレイズの監督に就任し、マリナーズを去っていった。 どんなチーム・スポーツでもそうだが、強いチームには必ず「リーダー」がいる。それは、大リーグにしても同じである。 そう考えると、今シーズン(昨シーズンも言えるかもしれないが)のマリナーズには「リーダー」と呼ばれる人間がいなかった。メルビン監督は人間的にすばらしいことは間違いないが、チームに喝をいれて、選手ひとり一人を鼓舞するようなタイプではない。それでも、選手の中に「リーダー」がいれば展開は違ったと思うのだが、今年のマリナーズにそのような人材は見当たらなかった。エドガーにしろ、イチローにしろ実績は申し分ないが、いわゆる「リーダー」タイプではない。そこに今シーズンの落とし穴があったように思う。 今シーズンの最終戦を終えた10月4日、マリナーズのメルビン監督解任のニュースが飛び込んできた。メルビン監督もそのことはわかっていたのかもしれない。シーズン終了後の記者会見で「誰かが責任を取らなくてはならない」と悲しげな表情を浮かべながら語っていた。
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