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2005年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2005年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2005年1月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

■2005年1月号

マリナーズの今オフを語る~2001年野球からの脱皮~

取材・文、阿部太郎

今オフのマリナーズ・フロント陣は本気だ。過去に例のないほどの大枚をはたいて、ふたりの大砲を獲得した。リッチー・セクソンとエイドリアン・ベルトレ。ふたり合わせて総額は100億円を超える。これまでは、選手への総年俸を最小限に抑えて、チーム力アップを図っていたマリナーズにとって、創設以来初めてとも言える大型補強。この補強の裏には、年間116勝を上げた2001年シーズンの呪縛からようやく解かれたマリナーズ・フロント陣の今シーズンに懸ける並々ならぬ決意が伝わってくる。

2001年シーズン、マリナーズは年間を通じて圧倒的な強さを見せた。シーズン116勝(162試合)。プレー・オフでニューヨーク・ヤンキースに敗れたとは言え、レギュラー・シーズンの強さは30球団ナンバー・ワンであった。しかし、その大リーグ史に燦然と輝くマリナーズの年間最多勝利(タイ記録)が、同時にマリナーズ野球崩壊に向かう序章であったことは、その後の3年間を見ればわかる。昨シーズン(2004年)までマリナーズは、ずっと2001年のマリナーズ野球を追い求めた。広いセイフコ球場を意識して中距離打者を集め、「つなぐ野球」に徹し、投手が最小限の失点で抑えて接戦をものにする。単純に言えば、イチローが出塁して、ブレッド・ブーンやエドガー・マルチネスが安打で返す。続く打者がたたみかけてビッグ・イニングを作る。マリナーズが求めていたのは「ホームラン・バッター」よりも、打点を稼ぐ「クラッチ・ヒッター」だった。

しかし、である。この野球は2001年以降徐々に輝きを失った。そして、昨年ついに年間99敗を喫し、西地区単独最下位という屈辱的な敗北を味わった。ボブ・メルビン前監督は貧打に喘ぐ打線を幾度となくてこ入れしたが、効果は全く上がらなかった。2001年から変わらず継承してきた「つなぐ野球」「接戦をものにする野球」は、エドガーの衰え、ブーンの不振、ジョン・オルルドの移籍、中距離打者補強の失敗(リッチ・オリリアやスコット・スピージオ、ジェフ・シリーロなど)と共に泡となり消え去ってしまったのである。昨年のチーム本塁打数136、打点数698はいずれもアメリカン・リーグ最下位。チャンスにあと1本が出ない、ホームラン・バッター不在でビッグ・イニングが作れない。マリナーズは2001年野球の改革に迫られた。そして今オフ、すぐさま中距離打者から本塁打打者の獲得へ戦略をシフト。惜しみなく大金を注ぎ込み、FAの目玉とも言える大物ふたりの獲得に至った。

このふたりの獲得で、今までのマリナーズ野球ががらりと変わることは間違いない。ベルトレは、昨季ロサンゼルス・ドジャースの4番として48本塁打を放ち、ナショナル・リーグの本塁打王に輝いた右の大砲。アリゾナ・ダイヤモンドバックスから移籍してきたセクソンも、昨シーズンこそ左肩痛で23試合出場にとどまったが、2001、2003年と本塁打45本を放ち、通算本塁打でも200本と大リーグでも屈指の長距離砲である。一気に年間40発の可能性を秘めた打者がふたりも加入したことにより、2001年の「つなぐ野球」から新たな一歩を踏み出したことは明確。即「パワー野球」と位置づけるのは安易だが、マリナーズ・フロント陣が以前より「パワー」への比重に重点を置いたことは間違いない。

「イチローをトップに起用し、ベルトレ、セクソン、ブーンを中軸に据える打線は、高い得点力がある」。マイク・ハーグローブ新監督は、両大砲獲得後、今季のマリナーズ打線への手応えを口にした。マリナーズの最高経営責任者、ハワード・リンカーンCEOも「ふたりの補強は狙い通り。目標はワールド・シリーズ優勝だ」と期待に胸を膨らませている。昨年の最下位がよほど身に染みたのか、例年になく、マリナーズ・フロント陣の鼻息は荒い。リンカーンCEOは、シーズン・チケット保有者に今シーズンの巻き返しを誓う旨の手紙を送ったそうだ。果たして、このフロントの大型補強は吉と出るのか、凶と出るのか。2001年野球からの脱皮をはかった新生マリナーズの真価が問われる。

 

■2005年2月号

今季マリナーズ投手陣を語る~前評判を覆せ!~

取材・文、阿部太郎

打撃陣は例年になく活発に補強したシアトル・マリナーズだが、投手陣はとなると、ほとんど手つかずの状態。今オフに補強した投手といえば、先発のアーロン・シーリー(34歳)と中継ぎのジェフ・ネルソン(38歳)。いずれも以前マリナーズに在籍していた選手で、実績は申し分ないが、ここ数年、年齢による衰えが目立ち不本意なシーズンを送っている。両者がマリナーズに多大な貢献をもたらした選手ということを考慮して、マリナーズのフロントが他球団から声の掛からなかった彼らにチャンスを与えたという見方が正しいであろう。ふたりの契約内容がマイナー契約である点からも、フロントが彼らに過度の期待を掛けてないことがわかる。

そうなると、マリナーズの投手陣は昨年とほぼ同じ戦力で戦うことになる。昨シーズン99敗し、崩壊した投手陣が、主だった補強もなく、今シーズンを迎えるのは非常に心許ないと思っているファンも多いであろう。マリナーズの投手陣に対するメディアの評価も、揃いも揃って低いものばかりである。確かに昨シーズンだけを判断材料にすればそういった評価や心配もわかるのだが、果たしてマリナーズの投手陣はそんなに弱投なのだろうか。

2003年、マリナーズは1966年のロサンゼルス・ドジャース以来初めて、先発投手5人のローテーションを一度も崩さずシーズンを終了した。惜しくもプレー・オフは、アメリカン・リーグ西地区の高過ぎる勝率のために逃したが、それでもシーズン93勝。恥ずかしくない数字を残した。その時の先発ローテーションは、ジェイミー・モイヤー、フレディ・ガルシア、ジョエル・ピネイロ、ライアン・フランクリン、ギル・メッシュの5人である。今年のメンバーと比較すると、ガルシアがシカゴ・ホワイトソックスに移籍した代わりに、左のボビー・マドリッチが加わっただけ。大差はない。2003年には先発投手の全員が2桁以上の勝ち星をあげており、今シーズンも2桁以上勝てるポテンシャルを持った先発投手が4人いると言っていい。しかも、マドリッチは昨シーズン後半から急成長した有望株の投手で、今シーズンのブレイクが期待できる。年齢による衰えが心配されるのは、ジェイミー・モイヤーだけで、その他は全員20代後半から30代前半の選手。今年ピーク時を迎えてもおかしくない。昨年後半、強打のボストン・レッドソックスを完封したメッシュにしても、時おりポテンシャルの高い投球を披露したピネイロにしても、まだまだ伸びしろはあると言えるだろう。

中継ぎ、抑えに関しても、昨年の成績だけで今年の投手陣を懸念するのは早計であろう。昨年は、ラファエル・ソリアーノの故障、長谷川滋利の不調、シーズン後半にかけてのエディ・ガーダドの故障と、中継ぎ・抑えの要となる選手が相次いで活躍できなかった。しかし、そのために今年もマリナーズの中継ぎ・抑え投手陣が崩壊するとは言えない。昨年の崩壊が今年プラスに転じる可能性もあり得る。若いJ・J・プッツやジョージ・シェリルが育ってきたのは、その最たる例である。ガーダドの左肩故障の影響は大変心配だが、ガーダドのめどが立ち、長谷川が昨年の不調から脱出すれば、ブルペンに安定感が出る。今シーズン、投手陣の弱体化が心配されるマリナーズだが、実力を分析すると、周りが言うほど投手陣が劣っているとは考えられない。

昨シーズンの成績が悪いと、得てして前評判は低いものである。しかも、今シーズン・オフに際だった戦力補強をしなければなおさら評価は低くなる。しかし、評判がそのままシーズンの成績を左右する訳ではない。誰が昨シーズン前にマリナーズが100敗近く負けると予想しただろうか。誰が、アレックス・ロドリゲスを失ったテキサス・レンジャーズの躍進を信じただろうか。ほとんど皆無に近い。今シーズンから指揮をとるマイク・ハーグローブ監督も、投手陣について「昨年の状態はひど過ぎた。あのようなことはまずあり得ないと思う」と楽観的な見方を示した。同感である。投手陣の実力的には、西地区のライバル・チームと何ら遜色ない。マーク・マルダー、ティム・ハドソンの抜けたオークランド・アスレチックス、もともと投手陣の弱いテキサス・レンジャーズよりもよっぽどいい。先発の5本柱と中継ぎ・抑えが、けがなく実力通りのピッチングをすれば、間違いなくプレー・オフ争いに加わるであろう。ただ、もし昨年のことで判断材料があるとするならば、それは昨年残した「成績」ではなく、気持ちの問題。つまりは、昨年失った「自信」である。これさえ取り戻せば、マリナーズの前途は明るいと思うのだが。

阿部太郎

スポーツ・ライターになりたい、大リーグを取材したいとの一心で渡米を決意。「スポーツは世界を救う」をモットーに、いつの日か自分の書いた文章が多くの人に勇気を与えることを夢みている。シアトル在住4ヵ月。本業はスポーツ・ライターと言いたいところだが、半人前の学生。上智大卒。

 

マリナーズタイトル
  
 大物の補強で今季が楽しみなマリナーズだが、もろ手を挙げての期待は難しい。
ベルトレ、セクソンに額面通りの活躍が期待できるかなんて誰も保証できないし、
投手陣も懸念だらけ。スプリング・トレーニングは、多くのクエスチョン・マークと共に始まった……。
取材・文/丹羽政善 ※本文中のデータは2月15日現在のものです。
 
  
 

念願の主砲を獲得したけれど

エイドリアン・ベルトレとリッチー・セクソン。このオフ、マリナーズは派手に動いた印象があるものの、インパクトを与えられそうな補強と言えばこの2人だけである。後はアーロン・シーリーだったり、ジェフ・ネルソンだったり。ダン・ウィルソン、エディ・ガーダド、ロン・バイロンらとも再契約に成功したが、チームを劇的に蘇らせるほどの期待は掛けられない。

欲を言えば、先発投手をあとひとり、もしくはショートに人材が欲しかったところ。ノーマー・ガルシアパーラ、エドガー・レンテリアら、FAマーケットにはオールスター級のショートがいただけに、懐具合が厳しいのはわかるが、獲得したのがポーキー・リースではやや寂しい。

投手はカール・パバノをヤンキースに取られた時点で、諦めてしまったのだろうか。ケビン・ミルウッドも、エリック・ミルトンも狙い所ではあったが、大金をはたいてまで……というフロントの判断なのだろう。今オフだけですべてを望むのは、やはり限界がある。

ベルトレ、セクソンの活躍は?

1番イチロー、2番ランディ・ウィン、3番ベルトレ、4番セクソン、5番ブレット・ブーン、6番ラウル・イバニエス、7番バッキー・ジェイコブソン、8番ポーキー・リース、9番ミゲル・オリーボと予想される打線は、ケン・グリフィーJr.やアレックス・ロドリゲスがいた90年代後半の強打線を彷彿させる。控えにも、ジェレミー・リード、ホゼ・ロペスら若手がいて、昨季はメジャー25位、698得点という貧打戦だったが、少なくともそこからは抜け出せそうだ。

ただ、ベルトレとセクソンに過度の期待は禁物。ベルトレはまだ25歳で、昨季はバリー・ボンズに次いでナ・リーグのMVP投票で2位になったが、それまではごく平凡な選手だったのだ。打率は2割5分前後。ホームランは20本台。打点は80~90点。粗さが目立ち、昨季の開幕は確か7番だったが、本人以外はみんなその打順に納得していたのである。守備に関してはトップクラスだが、バッティングに関してはどちらに転ぶかわからない。願わくば、昨年並みの活躍を期待したいけれど。

リスクという意味では、セクソンの方が高い。ベルトレの契約金5年6,400万ドルもすごいが、セクソンの4年5,000万ドルも、イチローが昨オフに結んだ4年4,400万ドルを上回る。確かにセクソンは過去に2度、45本のホームランを放ったことがあるが(2001・2003年)、昨年はバットを振っただけで左肩を脱臼してしまったのである。しかも同じ個所を2度も。一般的に、脱臼は癖になるという。スイングだけでなく、簡単な交錯プレーでも危険度は増す。ベルトレ同様、そうした懸念が杞憂に終わればいいのだが。

投手陣はアップグレードならず

先ほども触れたが、パバノを逃したことで先発ローテーションは昨年と同じ。ジェイミー・モイヤー、ジョエル・ピネイロ、ボビー・マドリッチ、ギル・メッシュ、ライアン・フランクリンで、バックアップにはシーリー。ただし、シーリーの調子次第では、フランクリンとシーリーが入れ替わる可能性もある。本来はフランクリンがブルペンに回った方が理想的。マリナーズには今、信頼できるロング・リリーフがいない。

ブルペンはガーダド、長谷川滋利の復活が必須だが、ケガで昨シーズンのほとんどを棒に振ったラファエル・ソリアーノの復活次第でずいぶん変わる。ソリアーノが2年前のようなピッチングができるなら、クローザーのガーダドまで、長谷川、ソリアーノ、バイロンで繋げる。3人ともタイプの違う投手なので理想的な流れになるのだが、ソリアーノがまた戦列を離れるなら、昨季のように各投手のスクランブル起用が続くことになる。開幕は絶望視されているソリアーノだが、彼の復帰がブルペンの鍵を握ることになりそうだ。

大物FA選手が額面通りの活躍ができるか。モイヤーを筆頭に投手陣は復活できるのか。ちょうど始まったばかりのスプリング・トレーニングでは、まずその辺りが見所になる。

 

マリナーズタイトル

  
 オープン戦は3月3日にアリゾナ州ピオリアで始まったが、昨年同様、厳しいスタート。
投手陣が早い回で崩れ、打線も得点を挙げられない。まるで去年の試合を見ているようだ。
取材・文/丹羽政善 ※本文中のデータは3月15日現在のものです。
 
  
 

先発ローテーションに懸念

今年、投手陣のアップグレードはなし。先発はジェイミー・モイヤーとジョエル・ピネイロは固定だろうが、ボビー・マドリッチもギル・メッシュも、先発を確定できるだけのアピールができていない。最終的にはローテーションの一員になるはずだが、候補がいないため 「仕方なく」 という感じだろう。

42歳のモイヤーに不安があるだけに、彼らが崩れれば、マリナーズは昨年同様、春先で地区争いから脱落する危険性をはらむ。若手の成長はある意味、マリナーズの生命線かもしれない。

ブルペンは横ばい、もしくは上向き。エディ・ガーダドも長谷川滋利も、昨年より悪くなるとは思えないからだ。

投手陣はエンゼルスが安定

同地区のライバルを見渡した時、ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムの先発ローテーションがベスト。バートロ・コロンやジャロッド・ウォッシュバーンら、実績のある投手が揃い、ブルペンの実績も十分。FAでトロイ・パーシバルがチームを去ったが、フランシスコ・ロドリゲスが抑えに昇格し不安はない。投手の総合力という面では、ア・リーグの中でもトップクラスだろう。

長年、リーグ随一の先発ローテーションを誇ってきたオークランド・アスレチックスだが、ティム・ハドソンとマーク・マルダーをトレードで放出して再建中。ブルペン、クローザーはまずまずだが、厳しいシーズンを覚悟しているに違いない。先発もロング・リリーフもできる薮恵壹投手の加入は、チーム投手陣にオプションをもたらすことになったが、彼が救世主となることは期待できない。

テキサス・レンジャーズは、相変わらず先発の核がいない。ブルペンはまずまずだが、先発が崩れれば、そこまで繋ぐことができない。テキサスの球場は打者に有利なため、実績ある投手がFAになっても、ここが魅力的な球場には映らない。この傾向が続く限り、レンジャーズの打高投低というチームカラーは変わらない。

セクソン&ベルトレ獲得で得点力がアップ

オフにリッチー・セクソンとエイドリアン・ベルトレを獲得したマリナーズは、迫力ある打線になった。イチローが作ったチャンスをセクソンとベルトレで得点に結び付けられば、わずか698得点(リーグ最下位)という昨年のようなことはないはずだ。右打者ばかりなので、欲を言えば左のパワー・ヒッターをクリーンナップに加えたかったが、ニューヨーク・ヤンキース以外はチームの予算がある。現状ではこれ以上を望めまい。ただ、ポジションによってはあぶれる選手がいるので、シーズン中のトレードはあり得る。ランディ・ウィン、スコット・スピージオ、ラウル・イバニエスらの名は、地元紙でも頻繁に挙がっている。

エンゼルスとレンジャーズ打線甲乙つけ難し


投手力同様、オフェンスでも地区1の戦力を持つのはエンゼルスか。ウラディミール・ゲレロやギャレット・アンダーソンらのクリーンナップは安定感があり、今年からそこに昨季36本塁打を放ったスティーブ・フィンリーが加わった。ショートにもボストン・レッドソックスで昨年活躍したオーランド・カブレラが入り、いよいよ穴がなくなっている。打撃戦でもここは相手を圧倒するだけの戦力を持っている。

しかしひょっとしたら、エンゼルスを上回る打線を持つのはレンジャーズかも。アルファンゾ・ソリアーノがケガから復帰してリードオフに収まれば、マイケル・ヤング、ハンク・ブラロックらが長打で返す。彼ら3人の内野陣だけで100本塁打、300打点を期待できるだけに、やはり他チームには脅威だ。

アスレチックスは昨年同様、しぶとく繋いで効率良く得点を挙げる打線が健在。かつてのように、パワーで相手を圧倒する力はないが、相変わらず嫌らしい。新加入のジェイソン・ケンドールが、打線の鍵を握る。

マリナーズは、先発投手の補強が急務か


駆け足でア・リーグ西地区の戦力を追ったが、やはり総合力トップはエンゼルス。マリナーズは2位と見るが、最後まで地区優勝を争える状態であろう。しかしそこから一歩抜け出すには、安定感のある先発投手があとひとり欲しい。夏までのトレードで、実績のある投手を加えられれば、地区優勝をさらうこともできよう。だが逆に、それが不可能ならレンジャーズに足元を救われて3位転落もあり得る。ワイルド・カードによるポスト・シーズン進出も阻まれるだけに、ビル・バベシGMの仕事は、まだ終わっていないようだ。

 

マリナーズタイトル

  
 開幕1週間を2勝4敗のマリナーズ。翌週カンザスシティーで3連勝を飾ったが、ファンの本音は「ロイヤルズじゃなあ」。シアトル・タイムス紙のラリー・ストーン記者は「思ったより投手がいい」と書いていたが、“思ったより”ではやはり怖い。開幕から不安定なチームは投手陣に懸念。イチローを核に打線は得点力があるだけに、今後の奮起に注目したい。
取材・文/丹羽政善 ※本文中のデータは4月15日現在のものです。
 
  
 

打高投低――。

開幕前のマリナーズへの前評判がその通りであったことは、開幕1週間で証明された。打線はイチローを中心にまずまず。5年6,400万ドルの契約で獲得したエイドリアン・ベルトレと4年5,000万ドルで契約したリッチー・セクソンは初戦から活躍。特にセクソンは開幕戦で2本の本塁打を放つなど、早々とファンの期待に応えている。ベルトレも昨年の48本塁打がフロック(まぐれ)ではないことを証明。これまで必要に応じては右に流す技術があることも披露しており、そんな打線の印象をイチローも「今年は違う、という気がします」と答えている。

ただ、イチローの前後を打つ打者が不安定。2番のジェレミー・リード、8・9番を打つミゲル・オリーボやウィルソン・バルデスらには、もう少し貢献を望みたい。オリーボとバルデスには初めから多くを望めないが、リードはイチローが出塁している時、簡単に打ち上げてしまうケースが目につく。リードは開幕前「2番の役割を理解しているつもり。7番を打つのとは、明らかに違う」と話していたけれど、やっていることは7番打者のバッティング。もちろん、イチローが塁に出れば盗塁あり、ヒット&ランありと、さまざまなケースを想定しなければいけない。その中で自分らしさを出すのは容易ではないが、3番のベルトレや4番のセクソンが安定しているだけに、リード次第でさらなる得点を挙げられるはず。彼の成長は今後の打線のカギとなるかもしれない。
投手陣は予想通り苦しい。先発は、いきなりボビー・マドリッチが左肩を痛めて戦線離脱。長期欠場は避けられない状況で、中継ぎのライアン・フランクリンを急遽、先発に戻す始末。ギル・メッシュは相変わらず精神的にもろく、これでアーロン・シーリーが予想外の活躍を見せていなければ、先発陣には目も当てられなかったところ。4月8日にジョエル・ピネイロが戻って来たのは心強いが、マドリッチがいないローテーションは今後、予断を許さない。

リリーフ陣は明暗。長谷川滋利、フリオ・マテオ両投手ら、昨年苦しんだ投手に安定感が戻る一方で、エディ・ガーダドやJJ・プッツ、ロン・ビローンら、勝ちゲームで繋げたい投手に信頼が置けない。最初の4敗などは、すべて逆転負け。先発が試合を作っても、彼らが試合を壊してしまった。このままでは勝利へのリズムが作りにくく、今後も勝ちゲームで、薄氷を踏む思いが続くかもしれない。

予想外の問題

ところで、もっとも信頼できるはずのディフェンスに問題が出ていることは、残念というか、今後の大きな課題だ。特に4度のゴールド・グラブ賞を受賞しているブレット・ブーンニ塁手やバルデス遊撃手にミスが目立つのはいただけない。彼らのエラーが原因で負けた展開もあった。セクソンもこのゴールド・グラブ賞の候補との触れ込みだったが、ファール・フライを追う足はおぼつかず、左右の動きもぎこちない。捕球は問題ないが、何となく緩慢なプレーも目に付き、ドキドキだ。その点、ベルトレは期待通りの守備を見せているけれど。

また、監督の采配にも疑問。春先は先発投手が長い回を投げられないので、ブルペンに頼る試合が続く。しかし、その継投でミスを連発。早めに換えては代わった投手が打たれ、辛抱してはマウンドに残った投手が打たれている。特に4月10日の試合などは、球数も多くなっていたマット・ソロントンを引っ張りすぎて逆転負けを喫した。その前日はジェイミー・モイヤーを諦め切れず、続投を決断した直後にタイムリーを打たれている。しばらくの間はどの投手をどのタイミングで使うのかを見極めるべきだが、それでもタイミングが少しずれていた。
マイク・ハーグローブ監督は「打線も投手の評価も、40~50試合しないとわからない」と話しているが、そこまで悠長に待っていられるのだろうか。

まずは、投手陣の立て直しが急務。下から選手を上げるのか、トレードを画策するのか。マリナーズのフロントには、オフ以上のフットワークが求められている。

 

厳しいシーズン続くマリナーズ

  
 大砲を獲得して迎えたシーズン。期待は高かったものの、1カ月半の時点ではほぼ昨年と変わらないペース。
「優勝絶望」とまで思い詰める必要はないが、明るい話題に欠け、このままいけばズルズルと地区トップの
エンゼルスから離されてしまいそう……。 取材・文/丹羽政善 ※本文中のデータは5月13日現在のものです。
 
  
 

先発陣が勝利のカギ

マリナーズの厳しいシーズンが続いている。5月中旬までの勝敗は、ほぼ去年と同じ。幸いにも、ア・リーグ西地区トップのロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムももたついているため、ゲーム差は絶望的とまでいっていないが、5月上旬のボストン、ニューヨーク遠征のような状態が続けば、去年のように、夏の声を聞く前にマリナーズのシーズンは終わってしまうかもしれない。

チームが常勝のきっかけをつかむであろう要素はいくつか考えられるが、大きく分ければ、先発の立て直しとエイドリアン・ベルトレの復調か。先発はアーロン・シーリーとジェイミー・モイヤーの両ベテランが、はっきりとした衰えを見せ始めている。5月10日のヤンキース戦では、シーリーがわずか2回2/3を投げて8安打、7失点。せっかくもらった2点のリードも簡単にフイにした。その翌日はモイヤーが先発したものの、同じく初回に5点のリードをもらいながら、2回1/3を投げて10安打6失点と崩れた。彼らは2月下旬ごろから早い回に点を許すケースが目立ち、シーリーに関しては、もう一度与えられるチャンスで結果を出さなければ、解雇の可能性も。地元紙では早速、メキシコ出身のホルヘ・キャンピロ投手の名が挙がり、シーリーの代わりとして期待されている。

モイヤーの状況も変わらない。前半の調子が良かっただけに「もう数回は様子を見るだろう」と、シアトル・タイムズ紙のコラムニスト、スティーブ・ケリー記者は言うが「そこで結果が出なければ、彼も安泰ではない」と話す。

彼の代わりには、3Aにいるフェリックス・ヘルナンデス投手の名が挙がる。将来を有望視される19歳の投手で、コントロール以外はすでにメジャー並みの投手との評判だが、「もう少しじっくり育てるべきだ」との声もあり、その場合は開幕から好調なフリオ・マテオ投手の先発昇格も噂されている。モイヤーを先発から外す決断はシーリーを切るほど簡単ではないと思うが、その時期は今シーズン中に遅かれ早かれ来るのかもしれない。

ベルトレの早期復活に期待

打線に関しては、ベルトレの復調次第。開幕当初は、ロサンゼルス・ドジャースでの実績が示す通りの活躍を見せたが、4月下旬辺りから、チャンスで打てない彼の姿が目につく。確かにヒットは出ているが、5月13日現在、ランナーを置いての打率は2割4分4厘で、打点はわずか19。イチローの打点が13なので、あまり変わらない。昨年48本の本塁打に至ってはたったの3本で、イチローと同じである。彼は「打順降格を監督に申し出ようと思った」と言うが、それは今後も数字が上がらないのなら、あり得るだろう。しかし、ほかに3番を打てる打者がチームにいないのも事実で、マイク・ハーグローブ監督がその気でも、動きが取れないのかもしれない。

2番を打つランディ・ウィンの調子が上がっているだけに、イチローと彼の出塁率は高い。ベルトレはランナーを置いての打席が必然的に増える。よって、彼が昨年並みの活躍を見せるなら、マリナーズが不振を脱するきっかけには十分なり得るはずだ。

「セクソンが問題?」「三振かホームランか?」。まあ、セクソンにはこれ以上高望みをするのは無理。元々、こういう打者であることを予想して、マリナーズは獲得したのだから。5月13日現在、三振の数は35個でリーグ20位タイ。しかし、ホームラン9本は5位タイで、29打点もリーグ4位タイ。十分とは言わなくとも、少なくとも求められている数字は挙げている。さらにケガをしていないだけでも、喜ぶべきかも知れない。

これを書いている5月13日から本誌の発行まではあと2週間あるが、その間に先発ローテーションの顔触れはすっかり変わっているかもしれないし、ベルトレの調子も予想がつかない。シーリーが外れて、キャンピロが先発。モイヤーはなんとか持ちこたえて、ベルトレはやや復活。せめてトップまでは5ゲーム差ぐらいの位置でいたい。そんなところが、5月終わりの状況か。

 

このまま行くのかマリナーズ?

  
 相変わらず厳しいシーズンが続くマリナーズ。得点力アップを狙って獲得した戦力もイマイチ。
ブーン初のスタメン落ちもあり、全試合に先発出場しているのはイチローだけになった。
そんな今では「優勝」と言う文字は、はるか遠くに感じられる。
取材・文/丹羽政善 ※本文中のデータは6月14日現在のものです。
 
  
 

非難の矛先は…

昨年の今頃。試合後の会見を終えた当時のマリナーズ監督、ボブ・メルビン(現アリゾナ・ダイヤモンドバックス監督)は、吐き捨てるように言った。

「何なんだ、このクリーンアップは。誰ひとりとして仕事をしてないじゃないか!」

そこには、数人の記者が残っていただけで記事にはならなかったが、普段温厚なメルビンが苛立ちをあらわにしたことは驚きだった。それも仕方がない。昨年は得点や打点、さらには本塁打もわずか136本で、ア・リーグの最下位だった。クリーンアップを打っていたエドガー・マルチネスとブレット・ブーンは、ことごとく期待を裏切った。新しく加入したラウル・イバニエスは、シーズン・トータルではまずまずの成績を残したが、それはプレッシャーの掛からなくなった9月に数字を稼いだだけ。打つべき春先には、2割5分台をウロチョロ。6月には足を痛めて約1カ月も戦列を離れた。

そんな反省を踏まえて、エイドリアン・ベルトレとリッチー・セクソンを獲得。その値段は、ふたり合わせて1億1,400万ドル(約125億円)。マリナーズはまず得点力アップを狙ったのである。しかし今季、得点はリーグ14チーム中13位。打点・本塁打はリーグ最下位だ。得点はリーグ・トップのテキサス・レンジャーズと比べると、約100点の差。本塁打はレンジャーズの99本に対し41本と、半分以下である(6月13日現在)。
わずか2カ月半で判断を下すのはかわいそうだが、地区のトップ争いから大きく遅れている状況を考えれば、ベルトレとセクソンに非難の矛先が向いてしまう。

ベルトレもセクソンも、「違うリーグから来たんだ。何もかもが違う」というようなことを話しているが、それなりの額をもらっている選手の言い訳としては情けない。例えば昨年、ナ・リーグのモントリオール・エクスポズから、ア・リーグのロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムに移籍したウラジミール・ゲレーロは1年目から結果を出し、MVPを獲得している。本当に優れた選手なら、リーグが変わっても結果を残すはずである。

セクソンよりもベルトレが問題か?

セクソンに関しては及第点。例え打率が2割4分4厘でも、それは想定範囲内。本塁打14本と打点49は、いずれもア・リーグのトップ10に入っている。しかしベルトレは、打率はセクソンと同じだが、本塁打はわずか5本で打点30(6月14日現在)。年俸が半額以下のイバニエスよりもその数字が劣る。元来スロー・スターターだが、5年で6,400万ドル(約70億円)の契約は今の成績を到底許さない。

昨年までロサンゼルス・ドジャースのベルトレを見ていた、LAタイムス紙のティム・ブラウン記者は、「アウトコースのボール球を追っている。あのコースの見極めができるようになったから、彼の数字は上がったのに。あれじゃあ、2年前までの平凡なベルトレじゃないか」と話していた。

ベルトレがメジャーのトップ・スラッガーの仲間入りをしたのは、昨年が初めて。打率3割3分4厘、本塁打48本、打点121。しかしそれ以前は、打率2割6~7分、本塁打20本、打点70~80の選手だった。昨年の開幕戦、彼はドジャースの7番。彼は猛烈に怒ったというが、誰もが当然だと思っていたらしい。

さて今年の数字。このままだと、数年前より劣る。本塁打は20本いくかどうかで打点も80前後。今年の年棒は14億円余り。ホームラン1本の値段が1億円近い。

マイク・ハーグローブ監督は、辛抱強いと思う。何があっても、3番ベルトレ、4番セクソンを崩そうとしない。いや、本音では入れ替えたいと思っているかもしれないが、ベルトレの代わりに誰が3番を打てるのかとなると、誰もいない。

本誌が発行される7月1日になっても、地区トップのエンゼルスに10ゲーム近く離されていたら、マリナーズは昨年同様、来季以降を目指した戦いを強いられるだろう。クリス・スネリングを引き上げ、160キロを投げるフェリックス・ヘルナンデスも昇格させる。ブレット・ブーンを放出して、2塁はホゼ・ロペスに守らせる…。
そんな春のキャンプのような試合を、本当はこの時期に見たくないのだが。

マリナーズは、来季に向けてどう動くのか?

  
 7月31日がトレードのデッドライン。7月14日現在では動きはないが、今年はこれまで以上に大きなトレード
があると言われている。ウィンは? ガーダドは? 長谷川は? もし彼らがすでに移籍していれば、
こんな背景があったはず。そこにのぞくは当然来季へのシナリオ……。

 
  
 

ブーン放出の余波

7月31日は、トレードのデッドライン。マリナーズはどんな改革を断行しているのだろうか。これを書いているオールスター直後の時点では表立った動きはない。しかし地元各紙は水面下での動きを連日のように追っている。

ブレット・ブーンの放出を決めた7月3日。ゼネラル・マネージャーのビル・バベーシは「まだ今シーズンの望みは捨てていない。だからこその決断だ」と話した。その流れに沿うなら、有望な若手に押し出される形で、ランディー・ウィン、エディー・ガーダド、ジェイミー・モイヤー、長谷川滋利らもトレード候補になる。彼らのうち半分が違うチームのユニホームを着ていても驚かない。

ウィンが放出候補の理由は、クリス・スネリングの昇格。ブーンが戦力外通告をされた日、デーブ・ハンセンが故障者リストに登録され、その枠にオーストラリア出身のスネリングが滑り込んだ。2002年にメジャー昇格するも、走塁中に左ひざを痛め長期離脱。マリナーズとしてはようやく復帰した彼にチャンスを与えたい。トレード・バリューのあるウィンが若手投手との交換で、クラブハウスを去っていることは十分考えられる。

レッドソックスの動きはいかに?

ガーダドも微妙だ。プレーオフ進出を争っているチームなら、のどから手が出るほど欲しい左のリリーフ。今季は好調で、これまで1度しかセーブ機会を逃していない。彼は「残留希望」と言うが、「自分を求めてくれるチームがあれば、トレードも受け入れる」とも話す。またレッドソックスが興味を示していると、6月ごろから言われていた。

レッドソックスにはクローザーのキース・フォークがいるが、6月から調子を崩し、7月に戦列を離れて左ひざを手術した。復帰には6週間程掛かるとされ、おそらく8月下旬までは登板できない。レッドソックスがガーダドを獲得できれば、フォーク復帰までの間、抑えを任せられる。また終盤からプレーオフに掛けては、フォークとのダブル・ストッパーも可能になる。ガーダドの対価なら、マリナーズもそれなりの若手を手にしているはずだ。

レッドソックスは、早くから長谷川にも興味を示していた。彼なら短いイニングから、状況によっては3回程投げられる。登板過多のマイク・ティムリンの負担を少しでも軽くしたい。そんな事情で、長谷川を偵察していた。

7月上旬、シアトルP-I紙のジョン・ヒッキー記者が長谷川に関する記事を書いた。それは「マリナーズが長谷川をわざと登板させていない」という疑いに満ちたもの。長谷川の来季の契約はチーム・オプション。長谷川が今季58試合以上登板した場合、自動的に更新されるそうだ。しかし、更新したくないマリナーズは、マイク・ハーグローブ監督に言い含めて、登板機会を減らしているのではないか?とヒッキー記者は疑った。長谷川もハーグローブも当然のように憶測を否定したが、いずれにせよ長谷川の不可解な起用法の背後に何かがあると記事は匂わせる。これがトレードの伏線なら、すべてにつじつまが合う。

ほぼ残留確実のモイヤー

モイヤーに関しては残留濃厚。彼はいわゆる「10-5」選手。10年以上メジャーに在籍し、5年以上同じチームでプレーしている。そうした選手には、どんなトレードでも拒否する権利がある。たとえ多くのトレード・オファーがあっても、モイヤーは首を縦に振らないだろう。おそらく彼も今年で引退。家族もみんなシアトルにいる。わざわざ単身赴任をするか? プレーオフで最後に投げたいと彼が思えば、今ごろ違うユニホームを着ているだろうが。

若返りを図るマリナーズ

こうして見てくると、マリナーズは若手への切り替えを一気に図っていることがわかる。投手もボビー・マドリッチが間もなく復帰予定。そうなれば、アーロン・シーリーも押し出されるように、いずれ放出されるだろう。長谷川、ガーダドが出たら、マリナーズはその枠に、リハビリ中のラファエル・ソリアノと3Aのフェリックス・ヘルナンデスを昇格させるつもりか。

大逆転でプレーオフを狙う動きとは到底いえないが、来季への布石は着々。まるで、去年のように。

 

マリナーズの次世代を担う若手選手

  
 早いものでもう9月。大型補強で期待されたシーズンも、失望という言葉と共に終焉を迎えようとしている。
しかし一方で、フェリックス・ヘルナンデスのデビューなど、明るい話題も。
今月は、そんなマリナーズの次世代を担う、いや、担って欲しい若手達にフォーカスを当てる。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは8月16日現在のものです。
 
  
 

加速度を増す世代交代

今季のマリナーズも残念ながら終わりが見えた。4年連続でプレーオフを逃すことは確実で、今年のオフには、またもや戦力の再編が行われるだろう。ブレット・ブーン、アーロン・シーリーが消え、おそらくダン・ウィルソン、ジェフ・ネルソンらも姿を消す。数年前から進められていた世代交代は、加速度を増しそうだ。

その世代交代の中で、中心になるであろう若手達が今、必死にメジャーになじもうとしている。5月31日にはマイク・モースがデビューして、8月16日現在、3割5厘を打っている。7月にはキューバ出身のユニエスキー・ベタンコートが昇格して、セカンド、あるいはショートのポジション定着を目指す。8月にはついに、大器とうたわれる19歳のフェリックス・ヘルナンデスが初登板。数年後の顔ぶれが、グラウンドに揃い始めた。

若手注目株ヘルナンデス

中でも注目は、ヘルナンデス。ベネズエラ出身の19歳はマリナーズと契約した2002年7月から期待される存在。翌年には1Aでプレーし、5勝0敗、防御率0.82という成績。22イニングで、31三振を奪った。以来、マイナー・リーガーの特集があると、必ず「期待される選手」のトップ3に入り、その昇格は昨年頃から噂されるほど。

初先発は8月4日のデトロイト・タイガース戦。いきなり無死満塁のピンチを招いたが、1失点で切り抜けると、5回までに許した安打は3本のみ。2失点のうち、1点はキャッチャーのパス・ボールと、十分に大物の片鱗を示した。初勝利は9日のミネソタ・ツインズ戦。8回を5安打、無失点に抑えると、敵のロン・ガーデンハイヤー監督に、「脱帽」とまで言わしめている。

ヘルナンデスの快投を、その日ライトから見守ったイチローも「まだ粗いけど、それがいいんですよね。5年間で、楽しみなピッチャーは初めてですよ」と評価した。さらに、「外野にいて圧迫感を感じない。何かを持ってるんでしょうね」と、精神的な安心感を野手にももたらすほどの投手であることを匂わせている。

一方、モースは、デビューした当時はあまり期待されていなかった選手。しかし、ポーキー・リースの不在など、ショートが手薄だったことからチャンスをものにすると、6月のインター・リーグでは、全体の首位打者を獲得した。しかし、守備は難題。スピードもなく、全体の動きも鈍い。ただ今の調子でヒットを重ねられれば、このメジャーという世界で生き抜いていくことができそうだ。

ベタンコートはキューバから亡命してきた23歳。2003年の終わり、9人の仲間と共に、キューバを出発。4日間かけて、メキシコ・カンクンに到着した。捕まっていれば、当然のように野球ができなくなっていただろう。しかし、マリナーズと契約すると、あっという間にメジャー昇格を果たした。前々から国際舞台では知名度が高かった選手。17~18歳の選手だけが出場できる世界選手権では、キューバ代表選手としてプレーし、打率5割2分3厘という成績。セカンドかショートか、正ポジションが決まらない状況だが、フットワークが軽いのでどちらでもこなせそうだ。

来季のマリナーズはいかに?

コア・プレイヤーであるイチロー、エイドリアン・ベルトレ、リッチー・セクソンは長期契約を結んだばかり。もし来年、今回紹介した若手選手3人のうち、2人がレギュラーに定着して活躍するなら、マリナーズの見通しは明るい。あとひとり、パワー・ピッチャーをオフ中に加えることができれば、年を追うごとにプレーオフ進出の可能性は高くなるだろう。

さて、このオフシーズン。マリナーズはどんな動きを見せるのか。ヘルナンデスのピッチングを見ながら、チームの将来に目を向ければ、それほど悲観することもないように思えてくる。

マリナーズの世代交代急速。オフも大改革必至?

  
 ダン・ウィルソンが引退を表明。ジェフ・ネルソン、ジェイミー・モイヤー、エディー・ガダードらの去就も微妙。
マリナーズは今、ドラスティックに世代交代を進めている。このオフはパワー・ピッチャー、
パワー・ヒッターの補強を目指し、昨年以上にアクティブなストーブ・リーグになりそうだ。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは9月16日現在のものです。
 
  
 

ダン・ウィルソン引退

ダン・ウィルソンが9月12日、引退を決断した。引退会見は午後4時から。インタビュー・ルーム脇のエレベーター・ホールには、その少し前からマリナーズで働く人達がずらりと並び、定刻を少し過ぎたころ、エレベーターのドアがゆっくりと開いて中からウィルソンが顔を出すと、盛大な拍手が贈られた。
ウィルソンはちょっと戸惑い気味。まるで予想していなかったらしい。見る見るうちにその瞳は涙で溢れ、従業員らと共に出迎えた夫人や子供達と抱き合うと、涙が頬を伝った。

「ありがとう。ありがとう。こんなに多くの人が出迎えてくれるなんて……」

その後行われた記者会見でも、彼は涙する。「このチームには、多くの、多くの思い出が詰っているから」。もうこれで、1995年のミラクル・マリナーズのメンバーは、ほぼチームを去った。唯一残ったジェフ・ネルソンは言う。

「これで、みんないなくなっちゃったね。いや、いなくなるんだろう」

「いなくなるんだろう」は未来形。自身、まだ現役続行か引退かを発表していないが、その言葉は同時に、自らの去就をほのめかす。

イチローは言う。「痛いね。戦力としてではなく、チームのリーダーとしての存在がいなくなっちゃうことは」

恐らくその言葉は、多くのファンも感じていることだろう。エドガー・マルチネス、ウィルソン、ルー・ピネラももういない。奇しくも1995年から10年目の今年、さまざまな記念行事が行われる中で、当時の主役達が消えてゆく。

ブルペンも若返りか

世代交代が急速だ。今季の開幕メンバーからは、ウィルソンのほか、ブレット・ブーン、ウィルソン・バルデス、ランディー・ウィンが消えた。野手の半数である。今、ショートにはユニエスキー・ベタンコートが入り、セカンドにはホセ・ロペス。彼らが順調にオフを過ごせば、来年の開幕候補は堅い。共に20代前半の2人は、チームの変化を象徴する。

投手陣も改革が急ピッチ。アーロン・シーリーが消え、ジェイミー・モイヤーも来季の去就を明らかにしていない。来季は19歳のフェリックス・ヘルナンデス中心のローテーションで、それにジョエル・ピネイロ、ボビー・マドリッチらが続く。ひょっとすれば、来季の先発投手は全員が20代になる可能性もある。

リリーフ陣はネルソンが抜け、長谷川滋利、エディー・ガダードも抜ければ、一気に平均年齢が下がる。3人のうち誰が残るかは未定だが、来季のブルペンも大幅な若返りが予想できる。良くも悪くも、それが時代の流れ。

再びパワー・プレーヤー獲得が課題

ただ、若返るだけでチームが良くなるかというと、それは別の話。ベタンコート、ロペス、ヘルナンデスが順調に伸びたとしても、まだまだマリナーズには足りないものがある。それはヘルナンデスに続く2番手のパワー・ピッチャーであり、左のパワー・ヒッターでもある。そうした選手は、マイナーを見渡してもおらず、このオフにはトレード、フリー・エージェント(FA)での選手補強が求められる。

昨オフは公約通り大型補強を敢行し、エイドリアン・ベルトレとリッチー・セクソンを獲得した。同様の動きは当然今年も求められ、フロリダ・マーリンズのA.J.・バーネット辺りが理想だが、ひじに爆弾を抱えるだけに、リスキーでもある。サンフランシスコ・ジャイアンツからFAとなるジェイソン・シュミットも魅力だが、32歳という年齢がややネックか。

より厳しいのは、パワー・ヒッターの補強。FA市場にはめぼしい人材がおらず、恐らくFAでの調達は難しい。ならばトレードとなるのだが、それなりの選手を取るには、それなりの出血も必要。そこで躊躇すれば、再びラウル・イバネスに3番を任せるしかない。本来、ここが打線における根本的な改革のはずなのに。

ビル・バベシGMの責任問題も今後問われるだろう。マリナーズはこのオフも、慌ただしくなりそうだ。

丹羽政善
『スポーツ・ヤァ!』や日本経済新聞、MAJOR.JP、ESPN.COMなどに寄稿するスポーツ・ライター。Mariners Updateの執筆は2000年3月より。