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2008年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2008年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2008年3月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

マリナーズに、待望の先発投手が加入

  
 2月8日、キャンプ直前になって、マリナーズはエリック・ベダードを獲得。念願だった先発投手の柱を獲得した。これで、先発陣は整った。打線に関しては、ホセ・ギーエン、アダム・ジョーンズが抜けたことで不安はあるが、計算のできる打線。今年のマリナーズは、期待できそう。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは2月13日現在のものです。
 
  
 

先発選手を補強

決まる、決まると言われながらなかなか決まらなかったが、2月8日、ようやくエリック・べダードのトレードが確定して、マリナーズは念願の先発投手を補強できた。

ボルチモア・オリオールズのエースだったベダードは、ただの先発投手ではない。地元紙などでその実績はすでに紹介されているが、昨年は182イニングを投げて221三振を奪った力の持ち主で、先発の1番手を任せられるポテンシャルを秘めている。昨年は、ケガのため8月の終わりに離脱したが、そのまま投げ続けていれば、サイ・ヤング賞の候補になっていただろうとも言われ、メジャー全体の評価も高い。このオフは、ヨハン・サンタナのトレードが話題となり、最終的にはニューヨーク・メッツに決まったが、サンタナに続く実力投手として「移籍するのでは」と言われたのがベダード。マリナーズとしてはかなりの代償を払ったものの、トレード市場では、2番目に注目された投手を得たことになる。

これでマリナーズの先発は、ベダードに加え、フェリックス・ヘルナンデス、ミゲル・バティスタ、カルロス・シルバ(ミネソタ・ツインズからフリーエージェントで移籍)、ジャロッド・ウォッシュバーンの5人となり、リーグでも屈指の先発陣を保有することとなった。

このトレードで、オリオールズに移籍したジョージ・シェリルが抜けたため、中継ぎの穴が気になるが、ブランドン・モローも成長しており、昨年をほぼ棒に振ったマーク・ロウらが復帰してくれば、十分に穴埋めはできる。よって、極端な戦力ロスは、ないと思われる。

抜けた穴も大きいが……

ベダードとのトレードで、かなりの代償を払ったと触れたが、いちばんの代償こそ、今年からライトで先発出場することが予想されたアダム・ジョーンズの放出である。将来のケン・グリフィーJr.とも噂された逸材で、昨年活躍したホセ・ギーエンとの契約延長を諦めてまで、マリナーズは彼のために守備位置を空けたのである。
ジョーンズが抜け、ギーエンが移籍したことで、オフェンスへの懸念はある。昨年、99打点をマークしたギーエンは、打線の中核でもあった。3割こそ逃したが、2割9分を打ち、本塁打も23本。途中からマリナーズの3番も打ち、リッチー・セクソンの不振の穴を埋めた。

また、マリナーズはブラッド・ウィルカーソンとも契約。昨年はテキサス・レンジャーズでプレーし、119試合の出場で20本塁打を放ったものの、打率2割3分4厘と、粗の目立つ選手という印象。ケガも多く、1年を通じてライトを守ることも無理だろう。ジェレミー・リード、マイク・モース、ブラディミア・バレンティンらとの併用も考えなければならない。また、ギーエンのように中軸を任せることもできないので、その辺りを、エイドリアン・ベルトレらがカバーできるか、ということになる。

悲願のプレーオフ進出を目指し

本来なら、リッチー・セクソンの復活に期待したいところだが、計算はできない。また、ラウル・イバネス、ホセ・ビドロらが、衰えを見せる可能性もあり、投手力のアップこそ果たしたが、打線に関しては得点力が下がるかもしれない。その懸念の払拭を期待されたのがジョーンズでもあっただけに、その意味でも、ジョーンズの移籍はダメージが大きい。

ただ、セクソンには期待しないまでも、ベルトレ、イバネス、ビドロが昨年同様の活躍をしてくれるなら、さほど悪い打線ではない。後半になって不振に陥ったホセ・ロペスが、オールスターに出場した一昨年前半のような打撃を思い出すなら、昨年と比べても見劣りしないだろう。

こうして見てくると、投打共にプレーオフを狙える戦力が整ったと言っていい。ただし、ア・リーグ西地区のトップを争うことになるであろうロサンゼルス・エンゼルスの戦力も相変わらず充実しており、そのエンゼルスに昨年のように苦手意識を持つなら、今年もポストシーズンはない。去年と同レベル――88勝は計算できるチームだけに、あとは、直接対決でどんな数字を残すかが、7年ぶりのプレーオフ進出を左右するかもしれない。

開幕直後、マリナーズに誤算

  
 開幕3試合を2勝1敗と勝ち越したマリナーズだが、直後、バルチモア・オリオールズにはいきなり4連敗。
その裏には、守護神とエースの離脱。その誤算に苦しめられ、マリナーズは序盤で借金生活を強いられる。
J・J・プッツとエリック・ビダードの完全復調が、5月攻勢のカギ。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは4月15日現在のものです。
 
  
 

開幕戦、白星を飾るものの…
開幕戦を白星で飾ったマリナーズ。しかし2戦目につまずく。8回裏に逆転をしながら、翌9回表にJ・J・プッツ投手が、痛恨の逆転2ランを浴びた。それで白星が逃げただけならまだいいが、マウンド上のプッツは、その前に対戦したマイケル・ヤングへの3球目で、すでに右の脇腹を痛めていた。
プッツは、翌日に故障者リスト入り。これこそがチーム最大の誤算。何しろ去年、マリナーズは8回までにリードしていた試合で、75勝0敗という戦績を誇っていたのである。
守護神の不在を、直後の遠征先、ボルチモアでも突かれる。4連戦の3試合目は、9回まで2対0とリードしながら、クローザーの代役と目されたエリック・オフラハティーとマーク・ロウが3点を献上し、サヨナラ勝ちを許してしまう。もちろんこの試合も、プッツがいれば難なくものにしていただろう、という展開だった。勝負の世界に「タラレバ」は禁物だが、この時点でマリナーズは、4勝2敗と勝ち越していたはずである。
彼の不在は、ほかのところでも影響を見せた。勝ちパターンの継投が崩れたため、ショーン・グリーン、ロウ、オフラハティーが登板過多に陥り、全体の試合数の6割近い登板数になったのだ。これでは、彼らが夏前にでも崩れそう。昨年の春先も、マイク・ハーグローブ元監督がリリーフ陣を酷使したため、8月の終わりから9月に掛けて、彼らがそろって疲れを見せるということがあった。
ジョン・マクラーレン監督に対しては、こうした投手起用において非難する声もあるが、プッツが戻るまでは非常時だけに、仕方がないとの見方もある。

誤算続きの投手陣
さて誤算は、プッツだけに留まらなかった。将来のクリーンナップ候補と言われたアダム・ジョーンズを放出してまで獲得したエリック・ビダードもまた、序盤に故障してしまった。スプリング・トレーニングでも結果を残せなかった彼は、予定通り開幕戦に先発したものの、5回を4四球と苦しむ。雪辱を期待された4月6日のオリオールズ戦では、臀部の痛みのため先発を回避。2日後の試合に先発して、今季初白星こそ挙げたが、13日の試合でまた痛みが再発し、先発を見合わせた。何年も前から時々痛みがあるそうで、その症状は良くなったり、悪くなったりなのだとか。マリナーズは、そこに目をつぶってでも獲得したのだろうが、この大事な開幕時にそれがぶり返すとはなんとも痛い。
ビダード、プッツと言えば、先発とブルペンの柱である。そのふたりを欠いた戦いとしては、まずまずなのかもしれないが、ふたりがしっかりさえしていれば、開幕ダッシュも可能だっただけに、そこもまた悔やまれる。

打線に心配はなし
対照的に打線は、計算通りといったところ。城島健司が最初のボルチモア、タンパの遠征でノーヒットに終わったが、ぼちぼち調子も戻ってきている。ホセ・ビドロも苦しんではいるが、実績のあるベテランだけに、彼への心配もいらない。
打線の懸念と言えば、新しくライトに入ったブラッド・ウィルカーソンだが、彼が不振でも、オープン戦でチーム史上最高打率を残したマイク・モースを起用できるというオプションもある。それはそれで、ケガの巧名というか、プラスに転じる要素だ。ただ、モースのディフェンスは平均以下。13日の試合でも、無理なスライディングキャッチを試みて、左肩を痛めた。また、目測を誤って、ライトフライを2塁打にしてしまう場面もあった。そこに目をつぶれるだけの余裕が、チームにあるかどうか。
イチローも滑り出しは良いとは言えないが、例年4月はこんなもの。5月から調子を上げるタイプだけに、心配はないだろう。むしろ、ガンガン打ちまくるほうが怖い。
さて、いずれにしろこの号が出るまでには、プッツもビダードも完全復帰していることを願う。5月に入っても、ふたりがそろってケガを抱えているようなら、4月の開幕ダッシュが失敗したということになるのだから。

低迷マリナーズに負の連鎖。浮上のきっかけ、つかめず……

  
 プレーオフ進出を期待された今季だが、5月に入って、投手陣、打線と全体的な不振が続く。
地区最下位に沈み、ポスト・シーズンへの望みは厳しくなるばかり。
ただ幸い、まだシーズンの序盤。今後、なんとか巻き返して欲しいのだが……。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは5月12日現在のものです。
 
  
 

ライバルに置いていかれる……
マリナーズが、予想外に厳しいシーズンを送っている。
4月いっぱいは、勝率が5割前後で推移していたが、5月初めのクリーブランド、ニューヨーク遠征で5連敗。ここで、大きくロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムら地区のライバルに置いていかれた。
その後、ホームに戻って、テキサス・レンジャーズ、シカゴ・ホワイトソックスと、やはり苦しんでいるチームと対戦したが、結果は2勝5敗。その時イチローは、「このホーム・スタンドで最初勝って、最後勝ったわけですから、オセロみたいにパタパタパタって白くなったらいいのに」と語ったが、もちろんパタパタ白くなるはずもなかった。
4月下旬、不調の理由はリリーフ投手陣にあった。J・J・プッツの離脱が響き、マーク・ロウ、ライアン・ローランドスミスらが、終盤のリードを守れない。ショーン・グリーンなどは、明らかに登板過多となり、疲労の色をにじませていたようだ。
そうして勝てない日が続いた後、いよいよその不振が打線に伝染する。5月に入ってしばらくは、2点を挙げるのが精いっぱい。5日に7点をマークしたが、その翌日からは1点、0点、0点、2点……。先発投手は踏ん張っていたが、打線がそれに応えられないというありさまだった。
しかしその後、打線に復調の兆しが見られる。12日のレンジャーズ戦では12点を獲得。しかし、投手陣が13点を許し、試合には勝てなかった。イチローは試合後にひとこと。「勝たないとね……」

イチロー、城島は好調
そんな中で城島健司は不振を脱しつつある。5月10日からは3試合連続でマルチ安打を放ち、12日にはついに今季初本塁打が出た。それは3点差で追う9回、2死1、3塁、2ストライクという状況。誰もが試合が終わったと思っていたが、そんな場面で飛び出した1発だった。しかし、そんな奇跡的な1発も勝利につながらないのが、今のマリナーズ。城島も試合後、喜ぶに喜べない顔をしていた。
さて、こういう中で選手は何をすべきか。イチローも城島も、「まず、自分の持ち場をしっかりすること」と言う。5月4日、ニューヨーク・ヤンキース戦に敗れた後のイチローの言葉を紹介しよう。
「こういう状況の時は、視野を広くしようとしても、余裕がないために空回りしたりすることが常ですから。狭くすると言ったら言い方が悪いけど、フォーカスする所をちょっと絞っていかなければいけない」
そのイチローは、5月に入ってやはり調子を上げてきた。12日まで、すべての試合でヒットを重ね、12日の時点では打率を3割目前まで上げている。
5月は、4割近いペースで「5月男」の本領を発揮。ただ、そのイチローにチームメイトがついてこれない。打順は、試合ごとにめまぐるしく変わり、誰も役割を全うできなくなっている。投手陣に始まった負の連鎖は、完全に選手のリズムを狂わせた。

負の連鎖をストップさせるために
借金が2桁に達し、地区上位のエンゼルス、オークランド・アスレチックスとのゲーム差も2桁に達しようとしている。ここでできることは何か。イチローはこんな話をした。
「ここでは(開き直りも)ありかもね、僕はしないけど。レベルの低い話ですけど、いいんじゃないですか。ただ、それはいつもと違う動きっていうことも含まれますから。当然、それはポジティブにはとらえられないですけどね。ただ、ここまで状態が悪い、結果が出ないと、そういうこともしなくてはいけない日もあるのかなぁとは思う。日ですよ、複数ではないですよ」
どうやら、その開き直りさえも、うまくできないのが今のマリナーズ。6月に入ってその流れが変わるのか。先発投手に故障が出ない限り、その可能性はあると思うが、とにかく今は、チーム全体に流れる負の連鎖をどこかで止めたい。

マリナーズの状況、好転せず

  
 プレーオフ出場が期待された開幕前だが、今となっては、
地区首位のロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムに大差をつけられての最下位。
チームは今、プレーオフにこだわり続けるのか、来季に向けた改革をスタートするのか、その岐路に立たされている。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは6月15日現在のものです。
 
  
 

打撃コーチ、解雇
厳しいシーズンが続く。持ち直すかと思われた時期もあるが、6月1週目に行われたロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムとの3連戦で全敗を喫すると、ゲーム差が15.5ゲームとなり、今季の行方も望み薄となってきた。3試合目の試合後には、ジョン・マクラーレン監督の解任もうわさされた。その日の会見では、放送禁止用語を連発してフラストレーションを爆発させ、その場を後にするという一幕もあった。
その後、来季に向けたチーム改革が始まるとささやかれたが、解雇が有力とされたリッチー・セクソンはスタメンに名を連ね続け、得点力不足の責任を取る形で、ジェフ・ペントランド打撃コーチだけがクビになった。これはやや驚きで、当日のシアトル・ポストインテリジェンサー紙も、「なぜ、ペントランドだけなのか?」と疑問を投げ掛けている。解雇理由を問われたビル・バベシGMは、結果を理由に挙げたが、それならペントランドよりも先に解雇されるべき人がいるはず……というわけだ。

マリナーズはどこへ向かう
さて、シーズンの行方どころか、今や、今後の行方さえ混沌としてきた。
たとえば、6月13日になってR・A・ディッキーを先発に回し、不振のミゲル・バティスタを中継ぎに降格したが、シーズンを諦めていないなら、どうして5月が終わった時点で、それを決断できなかったのか。多くが5月中旬から、何度も口にしてきたことである。リリーフでディッキーが好投する度に、地元記者らは「先発に回すか?」と問い掛けてきた。
また、マクラーレン監督が不満を爆発させた後、バベシGMは「セクソンよりも、ジェフ・クレメントやブライアン・ラヘアー(AAA)のほうが良いかもしれない」と話して、若手にチャンスを与える方針を口にしたものの、何も変わっていない。いや、バベシGMは実行に移そうとしたが、マクラーレン監督がそれに反対したとされる。真相ははっきりしないが、監督とGMの間にも、いまや、不穏な空気が流れている。(※編集部注:追って6月16日、球団はバベシGMを解任、19日にはマクラーレン監督を解任しました)
そういう中で、6月中旬、守護神のJ・J・プッツ投手が右ひじを痛め、今季2度目の故障者リスト入りした。これで、ブランドン・モローがクローザーに回ることになったが、地元メディアの改革派は、モローの先発転向を主張していたから、この決断にも納得がいかないファンは多いだろう。
まだシーズンを諦めずに戦うのか、来季に向けて準備を始めるのか、結局そこがあいまいなのである。もちろん監督らは、「今季を諦めていない」と言う。それならば、セクソンを諦めて、クレメントにチャンスを与えたほうが可能性は高いだろう。繰り返すが、バティスタをブルペンに回す決断も遅かった。
残念ながら、「まだ終わっていない」と言っているのは、マリナーズの首脳陣だけかもしれない。ほかのチームは、もはやマリナーズなど眼中にないし、悲しいかな、それが現実と言えるだろう。

イチローの3,000本安打到達は?
先日、シアトル・タイムズ紙のラリー・ストーン記者は、苦労して獲得したエリック・ビダード投手のトレードを匂わせる記事を書いていた。それはつまり、シーズンを諦めることにほかならないが、それが極めて現実的な記事であることを、ある意味、理解しなくてはならないと思う。
チームの調子と連動するかのように、イチローの調子も上がってこない。シーズン前には、「オールスターまでに日米通算3,000本安打を達成したい」と話していたが、それも今は微妙な状況。劇的にペースが上がらない限り、オールスター前の記録達成は難しい。
となると、今季中の日本記録更新(3,085安打)もまた、微妙となる。共にシーズン前に掲げた大きな目標だが、プレーオフを意識したマリナーズのシーズン同様、到達できなければ、ファンの間に失望感が広がりそうだ。
チーム全体について言えば、不振の原因をひとつに絞ることは難しい。投手陣にも打撃陣にもそれは言える。昨年は、プレーオフ進出まであと一歩と迫ったが、ここからのシーズンは出直しを迫られることになりそうだ。

マリナーズは、どう変わるのか?

  
 シーズンも残り2カ月。実質的にプレーオフ進出は厳しい状況だ。
チームは、6月にゼネラル・マネジャーのビル・バベシとジョン・マクラーレン監督を相次いで解雇して、
改革の道を歩み始めた。チームは今、どこに向かおうとしているのか?
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは7月9日現在のものです。
 
  
 

トレード・デッドラインを迎えて
6月にチーム最高経営責任者のハワード・リンカーンが、ドラスティックにチームを変えていくと宣言した通りなら、7月のトレード・デッドラインで、多くの選手がチームを去ったはずである。
まず、7月中旬の時点で、解雇という形でチームを去ると予想されるのは、リッチー・セクソンとホセ・ビドロ。理想としてはトレードだろうが、どのチームも両選手に対してオファーをするとは思えない。ギリギリまでその可能性は探るだろうが、無理と判断した時点で、あっさり諦めるかもしれない。(※編集部注:セクソンは7月10日に解雇されました)
トレードで放出されそうな選手は、ぱっと数えただけでも片手では間に合わない。まずは、エリック・ビダードがその筆頭だろう。今季のシーズン前に獲得した大物投手だが、全くの期待外れに終わり、わがままな性格も災いして、獲得から半年もたたないうちに放出候補となってしまった。ただトレードするとしても、マリナーズがボルチモア・オリオールズに放出したような選手と同様の見返りは期待できないと言われる。彼の価値は大幅に下がり、けがの懸念もある。せめて、将来有望な先発投手がひとり取れればいいが、それさえも微妙である。
6月に入って好投を続けているジャロッド・ウォッシュバーンもトレード要因か。来年で契約が切れるが、チームとしてはその前に放出したいと考えている。幸い、調子が良いだけに、彼を欲しがるチームはあるかもしれない。見返りよりも、来季の年棒を相手チームが負担するという条件なら、マリナーズはすぐにでも手放すだろう。

トレードもさまざま
やはり来季で契約が切れるミゲル・バティスタは、昨年16勝を挙げたものの、それがまぐれであることを自ら証明してしまった。こうなると、彼のトレードは難しい。トレードするにしても、来季の彼の年棒の大半をマリナーズが負担しなくてはならないだろう。それでもマリナーズは、放出したいはずだ。
ジェレミー・リードとウィリー・ブルームキストもトレード対象。ふたり共、6月以降は頑張っているが、それが残留につながることはないだろう。むしろ彼らの活躍は、チームの首脳にしてみればうれしい誤算。これでトレードの相手チームが少しでも評価を上げてくれたら、マリナーズにとってはトレードがしやすくなる。
ラウル・イバネスは、どのチームも欲しがるという意味で、トレード候補。守備は平均を下回るが、勤勉な左打者に目を付けているチームは多い。今年で契約が切れるだけに、多くの見返りは期待できないが、重要なトレード・ピースであることに変わりはない。もちろん、どこかへ移籍しても、今シーズンが終わったら、再びマリナーズと契約できるだけに、そこに含みを持たせれば、イバネスもトレードを受け入れるかもしれない。
エイドリアン・ベルトレは、トレード候補の中で、いちばん価値が高い。それだけに慎重に行きたいところで、多くのナ・リーグのチームがすでにその成り行きに注目している。現時点では、トレードするかどうかをチームは決めていないが、マリナーズがその気になれば、トレード・パートナーは簡単に見つかると思われる。

本当の「改革」、始まるか
守護神のJ・J・プッツも、オールスター後に復帰して、昨年のようなピッチングを見せれば、トレードできそうだ。今年を見ているとピークを過ぎた感があり、他チームもそれに気付いているだろうが、まだまだこの1、2年はクローザーとして通用する。若い可能性のある投手を相手が諦めるなら、マリナーズとしてはちゅうちょする理由はない。
さて、対照的に絶対に移籍がないのは、イチロー、城島健司、フェリックス・ヘルナンデス、ジェフ・クレメント、ブランドン・モローの5人だけか。リンカーンは、「例外はない」と断言したが、彼らには手をつけないことは、誰もが知っている。
もちろん、それだけ多くの選手がトレードされた場合、現在のフロント・スタッフも一掃されるかもしれない。そこまでやって、初めて「改革」と言えるのだから。

マリナーズ、再建に向けた動きを加速させる

  
 残念ながら、マリナーズはすでに来季に向けた戦いを始めている。来季を見据えた戦力テストという
側面から見ればプラス要素は多いものの、投手にしても野手にしても、まだまだ足りないという印象を受ける。
本来はトレードしたいベテラン選手らの契約も厄介で、今回の再建はどうやら長引きそうである。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは8月14日現在のものです。
 
  
 

注目の若手選手
マリナーズは若手を起用して、来季に向けた戦いを続けている。9月に入るとベンチ入りの枠も広がるので、これからさらに多くの若い選手を目にすることになるだろう。
野手の注目は、1塁手のブライアン・ラヘアー、外野手のブラディミア・バレンティン、捕手のジェフ・クレメント。いずれもパワーがあって魅力だが、メジャーの投手に対しては、まだまだもろさも見せている。そろって変化球に対応できず、スイング軌道もいまひとつ。はまれば打球は遠くに飛んでいくが、それ以上に三振をしている印象のほうが強い。
チームの構想としては、バレンティンがレフトに定着してくれれば、ラウル・イバネスを指名打者に回せる。で、1塁にはラヘアーだろうが、クレメントも理想としては指名打者。今は、捕手のテストを受けているが(そのために城島健司の出場機会が激減している)、残念ながら、キャッチング、スローイングはメジャーの域にない。クレメントの打撃を生かすなら、彼には指名打者が最適となる。

ポジション争いはどうなる
その場合、今季でフリーエージェントとなるラウル・イバネスが必要なくなるが、バレンティンにしても、クレメントにしても、活躍する保証はない。やはりマリナーズとしてはイバネスと再契約して、レフト、指名打者あたりの層を厚くしておきたいところだろう。
ラヘアーに関しても、代わりがいないからメジャーにいるだけであって、現時点では、正1塁手として開幕から起用するには、心もとない。イバネスも一応1塁ができるので、そういう意味でもイバネスをキープする価値は、小さくない。
あとは、今季序盤に左肩を脱臼したマイク・モースがどうここに絡んでくるか。本来内野手の彼は、やはり1塁がベストだろう。昨年のキャンプでは、5割近い数字を残した。彼が同じような数字を残せるなら、1塁は決まりと言っていい。
さて、こうして見てくると、中堅手がいない。現在はジェレミー・リードが主に守っているが、彼では根本的な解決策にならない。ましてや、ウィリー・ブルームキストでもない。おそらく、フリーエージェント市場、もしくはトレードで選手を調達しなければならないとしたら、このポジションだろう。金額的には安くないだろうが、仕方がない。

投手陣にも不安が残るまま
投手に目を移せば、ブランドン・モローが来季に向けた先発テストを受けている。彼が順調に適応できるなら、来年の先発は、フェリックス・ヘルナンデスとモローに決まりである。
エリック・ビダード、カルロス・シルバ、ミゲル・バティスタ、ジャロット・ウォッシュバーンの契約も残っているが、ビダードはこのオフにトレードで放出される可能性がある。残りの3人についても、マリナーズとしては放出しても、引き取りがないとされる。彼らをどう整理するかが、オフの最大の課題。
リリーフに関しても、不安が尽きない。J・J・プッツがケガから復帰したものの、相変わらず不安定なピッチングを続けている。もう、彼が9回に出てきても、試合が終わりという感じがしない。プッツがいない時にはモローがクローザーを務めたが、彼は先発に回ることになったので、セットアッパーとクローザーという、勝ちパターンでの投手に、マリナーズは不安を抱える。マーク・ロウやショーン・グリーンにしても、そこまでの役割は無理で、プッツが来年も今の状態なら、マリナーズは今年と同じように、終盤に逆転されて負けるパターンが増えそうだ。
先発では、ライアン・ローランドスミス、ライアン・フィーラベンドが食い込む可能性がある。経験が浅いが、シルバらよりも計算ができるかもしれない。
いずれにしても、新しくGMになる人は、必要な選手を取るだけでなく、不必要な選手の整理も迫られる。実は、そちらのほうが厄介で、今回のチーム再建が、少なくとも数年は掛かると言われる所以である。
このチームはどこに向かっているのか。まずはこの9月、若い選手の活躍に期待したい。

最下位でシーズン終了。再建に向け、まずはGM選びから

  
 7年振りのプレイオフ進出を目指したものの、今季のマリナーズは、故障と主力選手の不振によって低迷。<残念ながら、シーズン序盤から最下位に居座ってしまった。チームは今、再建に向けて、まずは新しいGM、監督探しを始めている。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは9月15日現在のものです。
 
  
 

負の連鎖は初期から
マリナーズの2008年シーズンが終わった。高い期待を掛けられ、シーズン前には2001年以来のポスト・シーズン進出を誰もが意識したが、終わってみれば最下位で、地区優勝を飾ったロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムの背は、はるか彼方。実質的なシーズンは、6月の声を聞かずして終わっていたと言えるかもしれない。
誤算だらけのシーズンだった。まず、開幕2戦目に、絶対的な守護神のはずだったJ・J・プッツが脇腹を痛めて故障者リスト入り。直後に、鳴り物入りで移籍してきたエリック・ビダードが、やはり故障。開幕後わずか1週間で、先発投手の柱とブルペンの柱が離脱したことで、負の連鎖が始まった。プッツ不在の間は、さまざまな若手がクローザー役に挑戦したものの、誰もその役を担えない。その時、ブランドン・モローはまだマイナーで調整していたから、彼を起用することもできなかった。
先発に関して言えば、不調だったのはビダードだけではない。ミゲル・バティスタも、ジャロッド・ウォッシュバーンも開幕から不振。3連勝を飾ったカルロス・シルバさえ、そこからは投げる度に負けを重ねていった。

投手も打者も噛み合わず
打線も、苦しむ投手陣をカバーできなかった。つながりが悪く、走者をかえせない。イチローの第1打席の打率が4割近かったのに、彼の出塁を生かせない。クリーンナップはコロコロと打順が変わり、ベストな組み合わせを当時の監督だったジョン・マクラーレン監督もなんとか必死に探ったものの、どれも噛み合わなかった。結果としてチームは、早い段階でブラッド・ウィルカーソンを解雇し、マイナーからジェフ・クレメント、ブラディミア・バレンティンらを昇格させて起用したが、彼らも不振の波に飲み込まれ、ベテランらを刺激することができなかった。
不振の象徴とされたリッチー・セクソン、ホセ・ビドロは夏にそれぞれ解雇。そんな流れの中で、昨年、一昨年と3割近い打率を残した城島健司も極端な不振に陥ってしまった。4月は1割台の低打率にあえぎ、5月には2割7分を打ったものの、通算では2割2分台。6月に入るとクレメントの再昇格と共に、スタメン・マスクを被ることが少なくなっていった。

来季はGM次第!?
ただ、それでも8月ぐらいから、徐々に明るい材料が生まれ始めた。ライアン・フィーラベンド、ライアン・ローランドスミスら、新しい先発投手陣が結果を残し始め、来季への可能性を感じさせた。9月に入ってから、ブランドン・モローが先発に回ると、初先発のヤンキース戦で、8回2死までノーヒット・ノーランを演じ、高いポテンシャルを見せつけている。シーズン半ばには、ナックルボーラーのR・A・ディッキーも頭角を現し、投手陣に関しては楽しみな要素が増えてきた。あとは、最後まで波に乗り切れなかったプッツが、来年の開幕を完璧な状態で迎えられれば、来季の投手陣は、そこそこ計算ができる。
問題は打線だろう。フリーエージェントのラウル・イバネスとは再契約の方針、来季で契約が切れるエイドリアン・ベルトレとも契約延長の意向だ。ただ、彼らに加えて、もうひとりクリーンナップを打てる選手が欲しい。今のところ来季は、1塁にマイク・モースが予定されており、指名打者はクレメンテ。共にポテンシャルは高いが、クリーンナップを打てるという計算まではできない。ポジション的に空いているのはセンターで、ここに誰を補強できるかになる。フリーエージェント市場にはめぼしい選手がいないので、おそらくここは、トレードで埋めることになるのかもしれない。いずれにしても、そうした来季構想は、新しいGM次第。その人がどんな監督を選び、どんな野球を目指すのか。おそらくGMに関しては10月中にも決まると思うが、まずは再建に適したGMを1日も早く選び、監督、コーチを固めること。そして選手編成に早い段階で動く必要がある。マイナーでも人材難なので、このオフは、そうした将来を見据えながらの動きも必要だろう。
とにかくこのオフは課題だらけ。マリナーズのフロントは、忙しい時間を過ごすことになりそうだ。

丹羽政善
『スポーツ・ヤァ!』や日本経済新聞、MAJOR.JP、ESPN.COMなどに寄稿するスポーツ・ライター。
Mariners Updateの執筆は2000年3月より。