シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

2009年シーズンのシアトル・マリナーズ

※このページは、2009年シーズンのシアトル・マリナーズについて、2009年3月から10月にかけてのシーズン中に作成・掲載された記事を基に再編集したものです。

マリナーズ2009年始動。チームは大改革で転換を図る

  
 昨季101敗を喫したマリナーズは、首脳陣を一新。また、J・J・プッツ投手らを放出し、若手主体にチーム構成を転換して、
チーム再建を図ろうとしている。今月は、オフの動きと、開幕までに繰り広げられるであろう各ポジションでのレギュラー争いに注目した。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは2月10日現在のものです。
 
  
 

新体制での幕開け
このオフ、シアトル・マリナーズはドラスティックな改革を試みた。開幕までには、さらにトレードが行われ、顔ぶれが変わる可能性もある。
新GM(ゼネラル・マネジャー)に就任したジャック・ズレンシックはまず11月に、オークランド・アスレチックスのコーチだったドン・ワカマツを監督に招請。それを皮切りに動きを加速させ、12月には、ウィンター・ミーティングを利用して、3チーム(マリナーズ、ニューヨーク・メッツ、クリーブランド・インディアンズ)、12人の大型トレードを成立させた。
このトレードでは、マリナーズの守護神だったJ・J・プッツをメッツに放出し、インディアンズからフランクリン・グティエレスらを獲得。守備が良いとの評判があるグティエレスにセンターを任せたいとの思惑が、このトレードの引き金になったようだ。
さらにズレンシックは1月下旬、この大型トレードでメッツから獲得したアーロン・ヘイルマン投手をシカゴ・カブスにトレードし、ギャレット・オルソン投手を獲得。ヘイルマンがマリナーズ・ファンフェストでファンに紹介された直後の決断だった。

ポジション争いは激化
これで、マリナーズの先発投手陣の争いがいっそう激化したが、これこそがズレンシックの狙いかもしれない。昨年のマリナーズは、各ポジションで全く争いがなかった。しかし今年は、例えば先発投手だけでも、フェリックス・ヘルナンデス、エリック・ベダード、カルロス・シルバ、ミゲル・バティスタ、ジャロッド・ウォッシュバーン、ライアン・ローランドスミス、ブランドン・モロー、オルソンの8人がしのぎを削る。ヘルナンデスとベダードは確定としても、残り3つの枠を5人で争う。
同様に、野手でもポジション争いが激しい。捕手では、城島健司とジェフ・クレメントが正捕手の座を争い、1塁には、移籍してきたラッセル・ブラニアンとマイク・スウィーニーに加え、マイク・モース、ブライアン・ラヘアーらが控えている。
レフトは、エンディー・チャベス、ブラディミア・バレンティン、モースらが競い、ショート、セカンドにしても、ユニエスキー・ベタンコート、ホセ・ロペスのポジションが確実に保証されているわけではない。

WBC以降に注目
投手陣にもう1度目を向けるが、クローザーもワイドオープン。モローがブルペンに戻れば、彼がその役を担うだろうが、先発にとどまれば、バティスタ、マーク・ロウ、ロイ・コーコランらが、その候補となる。いずれにしても、絶対的な存在はいない。
こう見てくると、開幕のポジションが決まっているのは、ライトのイチローとサードのエイドリアン・ベルトレだけで、ヘルナンデスとベダードの先発まで含めれば、わずかに4人が確定というところだろう。おそらく城島も大丈夫だろうから、これを5人としてもいいが、昨年と比べれば、がぜん競争が激しい。
チームの全体像が見えるのは、おそらくワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が終わる3月中旬以降か。その時になって、全選手がキャンプ地のアリゾナ州ピオリアにそろうはず。それまで今年のキャンプは、若手選手のオーディションがみっちり続く。

今月の注目

ドン・ワカマツ監督

©Seattle Mariners

メジャー経験は、1991年にナックルボーラー、チャーリー・ハフのほぼ専用捕手としてわずか18試合、31回の打席に立っただけ。引退後はマイナー・リーグの監督を経て、テキサス・レンジャースやオークランド・アスレチックスのコーチを務めた後、昨年11月、メジャーとしては初の日系アメリカ人監督に就任。日系4世の彼は「日系人の代表として監督になれたことを誇りに思う。自分をステップに、さらに多くの日系人が同様の機会を得られるように頑張りたい」と、別の意味でも自分の役割を理解する。出身は、オレゴン州のフッドリバー。

好調な出だしを切ったマリナーズ、今後の展開に期待!

  
 胃潰瘍で開幕を故障者リストで迎えたイチローも復帰。開幕から好スタートを切ったマリナーズは、下馬評を覆す勢いで良い戦いを続けている。イチローの不在時は、ケン・グリフィーJr.、マイク・スウィーニーといったベテランが若手を牽引。これからの戦いが、ますます楽しみだ。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは4月15日現在のものです。
 
  
 

イチロー、日本記録を更新
開幕直前になって、イチローが胃潰瘍で離脱。復帰までどのくらい掛かるのかと心配されたが、検査を受けた時にはすでに治りかけていたようで、15日間の故障者リストに入ったものの、4月15日にスタメン復帰を果たした。ただ、けがの功名というか、イチローはホーム・スタンドで、最多安打の日本記録を更新。多くのファンから祝福を受けた。
さて、チームは、そのイチローを開幕から8試合欠いたものの、好スタートを切っている。開幕戦をフェリックス・ヘルナンデスの好投、ケン・グリフィーJr.の本塁打などでものにすると、2戦目はクローザーに指名されたブランドン・モローが制球難から3つの四球を与え、チームはサヨナラ負けを喫する。しかし2日後には自ら悪夢を振り払い、チームは勝率5割に復帰。15日現在、7勝2敗となっている。

今季加入組も期待大!
新しい戦力が頑張っている。開幕5試合目には、30歳の新人、クリス・ジャックバウスカスが初勝利を挙げ、同じ試合では、ボストン・レッドソックスから移籍して来たデビッド・アーズマがキャリア初セーブをマーク。また、若いショーン・ケリー投手も10日、メジャーデビューを飾ると、1点差という厳しい場面で好投。新人らしからぬ強心臓ぶりを見せつけている。
また、エンディ・チャベス、フランクリン・グティエレスといった新戦力も開幕から好調。チャベスは1番打者として、イチローの不在を埋めて余りある数字を残した。グティエレスも勝負強いところに加え、センターでは広い守備範囲を披露。元々、ディフェンス力を買われて移籍してきた選手だが、その評判に違わぬ力を見せている。

城島はリーダーシップを発揮
昨年は、特に打撃面で苦しんだ城島健司。今年もスタートこそ良くないが、守備面、リーダーシップに関して、地元紙が彼の力を見直すような記事を掲載した。
開幕2試合を終えた時点で、シアトル・タイムズ紙のコラムニスト、スティーブ・ケリーが、開幕戦の城島の守備を高く評価。走者を3塁に置いた厳しい場面でもワンバウンドするような変化球を要求。実際にそうした球を投手が投げても、きっちり体で止めて前に落とすことにより、「投手陣の信頼を得ている」と結ぶ。また、大リーグ公式ウェブサイトのMLB.COMでも、モローが四球を連発して、勝ちゲームをフイにしてしまった試合の後、クラブ・ハウスでモローに話しかける城島の姿があり、「彼のリーダーシップが目に見えるようになって来た」と評価している。
シーズン前、スポーツ雑誌や新聞の予想では、ことごとく地区の最下位にランクされたマリナーズだが、若い選手達の活躍もあり、今のところはその評判を覆す勢い。若いからこそ、どこまで持つかわからないが、その可能性にも限界がない。
スウィーニーらがそんな若手を牽引。走塁ミスをした選手には、コーチよりも先に声を掛けて、どこが間違っていたかなどを、指摘するシーンも見られる。
これでこのチームが、シーズンを重ねながらどう成長するのか。ますます楽しみとなってきた。

今月の注目

マイク・スウィーニー内野手 Mike Sweeney 背番号5

©Seattle Mariners

かつてはカンザスシティー・ロイヤルズの主砲として活躍。けがを重ねてからは、現役続行さえ危ぶまれたが、今季はマリナーズに救われると、オープン戦で好成績を残し、招待選手の立場から、メジャーリーガーに復帰した。今のところ、指名打者が主な役目だが、単にオフェンスの戦力としてだけでなく、チームのリーダー的な役割も担う。明るい性格で、若い選手をまとめる力にも定評。チーム好調の影には、こんな黒子の存在も光る。

5月に入り、負の要素が見え出したマリナーズ

  
 4月を地区首位で折り返したマリナーズだったが、5月に入って連続でサヨナラ負けを喫するなど、苦しい戦いが続く。チームは今後、どんな方向性を探るのだろう。ベテランの補強で建て直しを図るのか、逆にベテランの放出で来季以降を目指すのか。今、分岐点に差し掛かっている。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは5月14日現在のものです。
 
  
 

得点パターンを模索中
マリナーズが、5月に入ってすっかり別のチームになってしまった。
4月は13勝9敗。5月は14日現在で3勝10敗。最大で6個もあった貯金を使い果たし、借金生活に入った。昨年も3、4月は、13勝15敗とまずまずだったが、5月に8勝20敗と大きく負け越して、地区の優勝争いから早々に脱落している。
わかっていたこととはいえ、厳しいのはオフェンス。5月6日からマリナーズはカンザス・シティー・ロイヤルズ、ミネソタ・ツインズに3連敗を喫したが、その3試合の得点は1点、1点、0点。不振を象徴した。
5月14日の試合を終了して、チーム防御率はまだリーグ5位と頑張っているが、得点力はリーグ13位。下にはもう1チームしかいない。ドン・ワカマツ監督も、5月頭から頻繁に打線を入れ替えて、新たな得点パターンを模索しているが、どれも効果が見られない。
ただ、こうなることは、マリナーズが今年のチームを橋渡し的なチームと位置付けた時点で予想できたことでもあった。チームは認めなくても、マリナーズは再建中。若い選手にチャンスを与えながら、数年後に勝てるチームを作り上げる……そういう過渡期のチームなのである。

負の要素の中に見える光
幸か不幸か、このままチームが低迷すれば、逆にジャック・ズレンシック・ゼネラルマネジャーは動きやすくなる。
現状、今季で契約が切れるジャロッド・ウォッシュバーン、エリック・ビダードが好投している。彼らと再契約するチャンスはないとされるが、ならば思い切って、7月にトレードに出せる。チームが地区優勝を争っている状況ならそれは難しいが、5月の流れを止められなければ、チームは彼らをトレードして、若い選手を獲得することになるだろう。今なら、彼らのトレード・バリューも高いだけに、相手から足元を見られることもない。
おそらく、エイドリアン・ベルトレもその対象か。彼の契約も今季限り。チームとしては再契約したい意向だが、本人にそのつもりがないと伝えられている。ならば放出して、若い選手をチームは獲得しなければならない。彼にしても、守備は一級品。そこそこの見返りが期待できる。
オフの改革で、マリナーズのディフェンス力と投手力には、改善の兆しが見られる。しかし、オフェンス力に関しては、まだ先が見えてこない。トレードの狙い、このオフの課題は、必然的にそことなる。
一方で、逆にチームが盛り返し、7月までに地区優勝を争えるところにいれば、それはそれでまた難しい選択を迫られよう。

まずはオフェンスの強化を
チームに必要なのはオフェンス。プレーオフに進出するため若い選手を犠牲にして、計算のできる打者をトレードで獲得すべきかどうか。それが成功につながればまだいいが、若い選手をトレードに出すこと自体、チームの長期的計画のうえでは、ステップバックとなる。
将来を犠牲にして、今年のシーズンにすべてを賭けるか、あくまでも計画を崩さず、あえて今季をあきらめてでも、その道を進むか。マリナーズは今後、勝てば勝つほど、どこかで難しい選択を迫られる。負けが込めば、改革が加速することになるだろう。

今月の注目

ラッセル・ブラニアン外野手 Russell Branyan 背番号30

©Seattle Mariners

1998年にクリーブランド・インディアンズでデビューしたが、なかなかレギュラーに定着できず、シンシナティ・レッズ、ミルウォーキー・ブリューワーズ、タンパベイ・レイズ、サンディエゴ・パドレスなどを渡り歩き、10年余りのキャリアでマリナーズが7チーム目。典型的なジャーニーマンで、チャンスは与えられるものの、その度にチームの期待を裏切り、放出されてきた。しかし今季は、マリナーズの4月の快進撃を支え、なくてはならない存在に。5月に入って数字を落としたが、オフの補強では、うれしい誤算となった。

打てない、守れない…投手陣頼みが続くマリナーズ

  
 5月の上旬に崩れかけたマリナーズだが、今は、なんとか5割前後で持ちこたえている。その要因は投手力だが、オフェンスに難があり、チームはそれ以上の勢いに乗れないでいる。ただ、チームが今後、プレーオフに絡むとすれば、懸念はディフェンス。防げるミスを防げるかが、今後を左右しそうだ。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは6月15日現在のものです。
 
  
 

投手陣は良いのだが……
6月に入ってからは、勝ったり負けたりの展開が続くマリナーズ。投手陣が良いだけに大きな連敗はないが、打線が不安定なため、大きな連勝もない。この我慢を強いられる状態は、まだまだ続くだろう。
投手陣は、先発、リリーフ共に、リーグでトップ・クラス。しかしながら、得点力はリーグ最低。よく、野球は“投手力”という言葉を耳にするが、ある程度、いや平均程度の打力があってのこと。いくら投手が良くても、無得点では試合に勝てない。
打線に加え、守備にも懸念。6月11日、上原浩治を打ち崩して、バルティモア・オリオールズに連勝し、勝率を5割に戻したマリナーズだったが、翌日からのコロラド・ロッキーズ戦では連敗。敗因は、共にエラーだった。

荒療治で奮起なるか
開幕前からドン・ワカマツ監督は、投手力とディフェンスの重要性を訴えてきた。打線の補強がうまくいかなかったことで、得点力についてはある程度覚悟していたのだろう。それを補うために、投手力とディフェンスについてはキャンプの段階で、徹底的に鍛え上げた。投手についてはその成果が出ているものの、守備については、これまでのところ期待外れと言えよう。送球ミスなど、凡ミスを重ねるショートのユニエスキー・ベタンコートなどは、地元メディアでも批判のターゲットとなり、ワカマツ監督も先発を外すなどの荒療治で奮起を促しているが、それを待つよりも、むしろトレードの可能性のほうが高まっている。昨年、ゴールドグラブ賞を獲得したエイドリアン・ベルトレにしても、今年は凡ミスが多い。今季でフリーエージェントとなるだけに、彼もまた7月にトレードされる可能性が指摘されているが、このままではトレード・バリューが低下。マリナーズとしては、トレードをすることもできないかもしれない。セカンドのホセ・ロペスに関しては、言わずもがな、である。
外野陣は、メジャーでも屈指。特にセンターのフランクリン・グティエレスは守備範囲が広く、使えるめどがついた。固定されていないレフトに難があるといえばあるが、平均は上回っているだろう。
「打って勝つ」のではなく、「投手力とディフェンスで勝つ」のが今年のチームに要求される勝ち方で、目下のところ選択肢はない。今後、チームがプレーオフ争いに残るとしたら、とにかく防げるミスをなくしていくことだろう。

城島の復帰も間近
ところで、5月後半の試合で、左足の親指を骨折した城島健司。現時点では、まだ故障者リストに入っているが、この号が出る7月1日までには、復帰を果たしているはず。当初は前半戦絶望と言われたが、驚異的な回復力を見せた。
イチローは5月に49安打を放ち、自己新の27試合連続ヒットをマークするなど、リードオフとしての役割をしっかり果たしている。しかし、それが得点に結び付かないのは、やはりクリーンナップの不振に尽きよう。今季は、過去8年続けてきた100得点が危ない。イチローが目標とする「200安打、100得点」の、ふたつのうち一方が、今年で途切れるかもしれない。ただ、200安打のほうは、今のペースなら9年連続で到達しそうである。この記録に向かうイチローの安打が、どれだけ勝利に結びつくか。今後は、そこに注目していきたい。勝利につながるなら、得点もさらに増えるはずだから。

今月の注目

ブランドン・モロー投手 Brandon Morrow 背番号35

©Seattle Mariners

好調な投手陣にあっては、悩める主力投手と言えよう。シーズン開幕はクローザーとして迎えたものの、制球に難があり、中継ぎでの調整が決まった。とは言え、それでも制球難は解消されないのが現状だった。実はブランドン・モローに関しては、昨年の終盤に先発へ転向したのだが、それが不向きと判断され、キャンプでは再びリリーフとなった経緯がある。しかしここへ来て先発復帰が決まった。起用が不安定になっていた流れの中での、先発再転向は彼に最後のチャンスを与えているようでもある。

強豪を相手に勝ち越し。プレーオフ進出も視野に

  
 マリナーズが健闘している。前半を終えた時点では、十分にこれからプレーオフを狙える位置にもいる。だが逆に、それが今後の舵取りも難しくしていると言えよう。今年にかけるのか、将来を見据えた動きをするのか。いずれにしても今のマリナーズは、興味深い展開になっている。 
  
 

トレードの行方に注目
この号が出る8月1日までにはいろんな結果が出ていると思うが、シーズン前半を終えたマリナーズは、46勝42敗で、十分にプレーオフを狙える圏内にいる。5月は厳しいと思われる位置まで下がったが、6月の踏ん張り、また、6月の終わりから7月の頭に掛けて、ロサンゼルス・ドジャース、ニューヨーク・ヤンキース、ボストン・レッドソックスという強豪相手に遠征で勝ち越したことで、今年のシーズンを興味深いものとした。

さて、これからチームはどうするか。7月10日、ユニエスキー・ベタンコートをカンザスシティ・ロイヤルズにトレード。エイドリアン・ベルトレは左肩のケガで、離脱中。目下、三遊間は控え、またはマイナーにいた選手で戦うことを強いられている。残念ながら、三塁を守るクリス・ウッドワードも、ショートのロニー・セデーノも、守備では及第点を付けられるが、オフェンスでは、相手にとって安全パイである。ロブ・ジョンソンがマスクを被れば、7~9番は、自動的にアウトというぐらい、出塁率も低く、これではイチローにつなげられない。

トレードの狙いは、サードもしくはショート。前半終了直前にオークランド・アスレチックスからジャック・ハナハンを獲得したが、彼が答えになるわけではない。本来、どちらかに打てる打者が欲しいが、ジャック・ズレンシックGMは、ベタンコートのトレードで若い投手を獲得したように、これまで即戦力と将来を見据えた、総合的なトレードを行っている。となると、予想できる範囲内のトレードはしないかもしれない。むしろ動くとしたら、将来の三塁手、という動きを見せるのだろう。いずれにしても結果は、この号が出るまでには見えているかもしれない。

興味深いチームに成長
投手陣に関しては、5月の時点でジャロッド・ウォッシュバーン、エリック・ビダードが共に7月の終わりまでにトレードに出されると言われていたが、おそらく8月の初旬もチームにいるのではないか。幸いチームは、プレーオフを意識できるポジションにいる。夏場の戦いの中では、彼らの力が必要。シーズンを終えれば彼らはそろってフリーエージェントなので、チームを去ることが確実だが、何とか今年いっぱいは戦力になってくれるとの計算が働いている。将来を見据えれば、もちろんトレードをしたほうが良いが、久々に巡ってきたプレーオフ進出のチャンスを、エース格ふたりを放出することによってあきらめることは許されまい。

ただ、後半戦が始まって負けが込んだ場合は、その限りではない。彼らがそろってこの段階でチームにいないとすれば、それはマリナーズがプレーオフ圏内から脱落したことを意味する。

それにしても、マリナーズはこの戦力でよく持ち応えている。ラッセル・ブラニアン、フランクリン・グティエレスといったうれしい戦力的な誤算があったとはいえ、控えの層も薄く、この戦力でよく勝っていると本当に思う。今年は、再建の時期と考えられていた。プレーオフを狙えるとしたら数年後だろうと誰もが思ったが、それぞれの歯車がうまくかみ合って、なかなか負けないチームになっている。このあたりは、初の日系人監督となったドン・ワカマツ監督と、ズレンシックGMの手腕によるものかもしれない。

今月の注目

デビッド・アーズマ投手 David Aardsma 背番号53

©Seattle Mariners

コロラド州出身の27歳。惜しくもオールスター戦出場は逃したが、シーズン途中からクローザーに指名されると、前半だけで20セーブをマークした。2004年にサンフランシスコ・ジャイアンツでデビューしてから、毎年のようにチームを渡り歩き、今年がメジャ-5年目で、5チーム目。これまでは平凡な中継ぎ投手で、防御率は4ー6点台だったが、今年は2点を切っている。球種はほとんどがストレートだが、キレの良さで勝負するタイプだ。マリナーズに来て、ついに才能が花開いたようだ。

トレードで、今後の方向を定めた(!?)マリナーズ

  
 トレード期限前にさまざまな引き金を引いたマリナーズ。現状のアップグレードと将来の補強を同時に行った。ただ、チームの目は、あくまでも数年後に向けられており、ファンも我慢が必要か。しかし、昨オフから行われている再建策は、形になりつつある。今回のトレードも、ファンの支持は厚いようだ。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは8月14日現在のものです。
 
  
 

プレーオフ進出はあきらめた!?
8月中旬、マリナーズはまだ、辛うじてプレーオフ進出の可能性を残している。地区首位を走るロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムを捉えるには、彼らが落ちることを期待しなければならないが、ワイルドカード争いではトップと5ゲーム前後につけている。マリナーズがどこかで8連勝、10連勝ができれば、捉えられないゲーム差ではない。

ただ、それは簡単ではないことは明確。7月の月間MVPを受賞したジャロッド・ウォッシュバーンは、デトロイト・タイガースにトレード、エリック・ビダードも左肩にメスを入れ、今季の復帰は絶望。となると、フェリックス・ヘルナンデスは計算できるにしても、残り4人の先発投手は、いずれも経験のない若手ばかり。そろって好投を期待するのは酷だろう。

トレードの吉凶は?
ウォッシュバーンのトレードを行った時、チームは白旗を挙げた……つまり、ポストシーズンをあきらめたと考えられていたが、その後、ワイルドカード争いでトップを走っていたボストン・レッドソックスが6連敗を喫するなどして、落ちてきた。トレード期限がその後であれば、ウォッシュバーンを放出することは見送ったかもしれないが、タイガースからは、先発投手ふたりのオファーがあった。すでにメジャーで先発投手となっていたルーク・フレンチよりも、もうひとりのマイナーの選手マウリシロ・ロブレスのほうが、将来の有望株だそう。マリナーズとしては、今年をあきらめてもこの機会を逃すわけにはいかなかったようだ。

また、ジャック・ズレンシックGMは、将来の捕手/指名打者/一塁手ジェフ・クレメントをあきらめて、ピッツバーグ・パイレーツからジャック・ウィルソン遊撃手を獲得した。かつて、オールスターに選ばれたこともあるウィルソンは、守備に定評。年間200安打を打ったシーズンもあり、クレメントと一緒に放出したロニー・セデーノよりは、打撃面でも期待できるとの評判だが、8月中旬の時点では、その期待に応えられないでいる。やはり、リーグを変わったことによる適応に苦労しているのか。ただこのトレードで、マリナーズはイアン・スネルという先発投手を獲得しており、彼も有望株。パイレーツでは2年連続で2けた勝利を挙げており、チームにうまくなじめれば、同様の期待ができるだろう。

結局マリナーズとしては、どちらかと言えば、来季以降に比重を置いた戦力補強を行ったと言える。現実には、まだプレーオフを狙える位置だったが、路線としてはファンも後押し。不満の声はない。後は、この流れをオフも続けられるかどうか。長期的視点に立った契約、トレードができるなら、マリナーズはさらに期待のできるチームになるだろう。

イチローの200安打超え
ところで、イチローの記録達成が迫る。この号が出るころには、もう達成しているかもしれないが、メジャー通算2,000本安打、9年連続200安打がカウントダウンに入っている。これまでのペースを維持すれば、8月後半から、9月前半には到達するだろう。

9年連続200安打は、もちろんメジャー記録。できれば、まだチームがプレーオフを争っているような、緊張感のある試合の中で達成をして欲しいが、さて、どうだろう。8月中に達成すれば、年間240、250安打ペースとなり、どこまでヒット数を伸ばすか、ということも気になるところだ。

今月の注目

ジャック・ウィルソン遊撃手 Jack Wilson 背番号9

©Seattle Mariners

7月末にピッツバーグ・パイレーツから移籍したばかり。守備に定評があり、リーグでもトップクラスとされる。打撃は、2004年に年間201安打を放ち、3割8厘という数字を残したが、それ以来、3割は打っていない。守備さえ期待通りなら、打率は2割6、7分でも問題はないだろう。それ以外にも彼には、リーダーシップ的な役割が期待されている。元来、明るい性格。これまでのマリナーズにはいなかったタイプだけに、そんな一面にも注目が集まる。

土台固めとなった今季、来季は飛躍の年に!

  
 今季もプレーオフを逃したマリナーズだが、昨年秋からのドラスティックな再建策は実を結びつつある。この秋から冬にかけての補強ポイントも明確になってきており、来季に向けては、このオフがまずは楽しみとなった。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは9月15日現在のものです。
 
  
 

プレーオフ進出はならず
まだシーズンは終わっていないけれど、今年もプレーオフ進出はならなかった。ただ、シーズン前に予想されたよりもはるかに成績は良く、昨年と比べた場合、勝率のアップ率はメジャーでトップ。4月11日から5月5日までは、久々に地区の首位にも立った。
残念ながら脱落したのは、夏場のオールスター・ゲーム明け。それ以前は、まだプレーオフ進出の可能性があった。イチローもオールスター・ゲーム前日に行われた会見で、「今年は、野球をやっている感じがする」と手応えを口にするほど。ゴルフに例えて、最初からOBではなく、パーオンして、バーディーかパーかというレベルにある、というような話もしている。

7月の痛い連敗
では、どこで脱落したかを考えれば、やはり7月24日からのクリーブランド・インディアンズ3連敗か。
球宴開け、マリナーズはインディアンズ、デトロイト・タイガースと敵地で戦って5勝2敗。そこまでは良かったが、シアトルに戻って来てインディアンズにスウィープ(シリーズ全敗)された後、トロント・ブルージェイズとの初戦も落として4連敗。この時に地区トップを走るロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムとの差は7.5ゲームにまで広がり、以降その差を縮めることはできなかった。
その後は我慢のしどころではあった。ただ、8月18日からアウェーで行われたタイガース、インディアンズとの6連戦で完全に脱落。連日のように終盤で逆手負けを喫すると、プレーオフのチャンスは一気に遠のいてくる。5勝1敗でもおかしくなかった展開が、2勝4敗。その後の12試合を9勝3敗と大きく勝ち越しただけに、あの6試合の勝敗が、せめて逆だったらどうだったかと思う。
9月5日から10日まで、チームは5連敗を喫しているが、これは勝負がついてからの話。そこはもう、シーズンの行方に影響を与えていない。
そんな中でもイチローは、例年通りの活躍。チームが崩れても、本人が崩れることはなかった。9月6日、オークランド・アスレチックスとの試合で大リーグ通算2,000本安打を達成。その1週間後の13日に、メジャー記録となる9年連続年間200安打をマークしている。
今年は、開幕から8試合、胃潰瘍のために欠場を迫られた。また、ふたつの節目を目前にした8月下旬も、左足のふくらはぎの張りのため8試合を欠場しており、体調面では、これまでになく厳しい状況に置かれた。それでも今季の開幕前に立てた目標に到達できたのは、イチローならでは。「さすが」としか言いようがない。

オフ・シーズンの課題
さて、すぐに始まるオフの課題は、3塁手、左翼手、指名打者の補強か。ここ数年、監督、コーチ陣の入れ替えから始まり、選手補強は後手になっていたが、今回はピンポイントで補強に集中できる。状況としては、それだけでも来季に向けて、例年になく早い第1歩を踏み出したと言える。
今季が土台固め、基礎作りの1年だとしたら、来季は飛躍の年。プレーオフはまだ無理でも、9月まで争えるチームを作ることがまずは目標か。そのためには、先発2番手の投手の獲得と、打線のてこ入れが急務。3塁手と指名打者に長打を期待できる選手を補強したいところだ。

今月の注目

ライアン・ローランドスミス投手 Ryan Rowland-Smith 背番号18

©Seattle Mariners

オーストラリア出身の先発左腕投手。まだ中継ぎで投げているころから、城島健司が「先発で投げさせたら面白い」と話していた投手だ。開幕直後、左腕の故障で離脱したが、夏場に復帰してからは、毎回のように6、7イニングを安定して投げ抜いている。来季のマリナーズには、先発の3~5番手候補の投手はたくさんいるが、1番手のフェリックス・ヘルナンデスに続く投手がいない。シーズン終盤の勢いを持続できれば、間違いなくローランドスミスが先発2番手候補。大いに期待したい。

丹羽政善
日本経済新聞やESPN.COMなどに寄稿するスポーツ・ライター。
著書に『メジャーの投球術』(祥伝社)、『MLBイングリッシュ~メジャーリーグを英語のまま楽しむ!』(ジャパンタイムズ)がある。Mariners Updateの執筆は2000年3月より。