※このページは、2001年から2012年までシアトル・マリナーズに在籍したイチロー選手の活躍ついて、在籍当時に作成・掲載された記事を基に再構成したものです。
- 1 イチロー去就後のマリナーズ(2012年)
- 2 シアトル・マリナーズ対ニューヨーク・ヤンキーズ、中盤戦レポート(2011年)
- 3 記録とイチロー、「連続安打止まった」翌日、「イチローらしさの3安打」(2009年)
- 4 イチロー、「がっさ気持ちいい」2連続アーチでマ軍の勝利に貢献(2009年)
- 5 イチロー対松坂、今季4度目の直接対決の行方は!?(2007年)
- 6 今季3度目、大注目の一戦!松坂・岡島がセイフコ・フィールドで投げた!(2007年)
- 7 イチロー、2012年までの残留確定(2007年)
- 8 去年とは違う?マリナーズ序盤の戦いぶり(2006年)
- 9 好敵手 ~8月13日、対ヤンキース戦~(2004年)
- 10 イチロー、契約更新!日本人&マリナーズ初の1,000万ドルプレーヤー(2004年)
- 11 イチロー、長谷川契約問題の行方(2003年)
イチロー去就後のマリナーズ(2012年)
(『ゆうマガ』2012年9月号掲載)
ポスト・イチロー時代がスタート。マリナーズは予期せぬ形で再建を迫られたが、柱なき再建は、決して望んだ形ではない。ただ、イチロー側からトレードのリクエストがあった以上、選択肢はなかった。マリナーズとしては、これをうまく転機に変えられるか。※本文中のデータは8月15日現在のものです。
■ 予期できなかったイチローのトレード
イチローがああいった形でトレードされるとは、誰にも予想できなかった。相手がニューヨーク・ヤンキースだったにもかかわらず、発表当日まで、全く話が漏れなかったのも予想外。
ニューヨークの記者は、普段からスクープ合戦を演じている。それぞれが独自のソースも持っている。その網に架からなかったということは、彼らにとっても、イチローのトレードは予期できないものだったのだろう。いずれにしても、これでマリナーズは再建の柱を持たぬまま、再建を進めなければならなくなった。本当は、いつかは訪れるイチローの引退の前までに、ダスティン・アクリー、ジャスティン・スモークといった選手らが、イチローに変わってチームの屋台骨を支える……そんな状態に成長することを期待していたが、アクリーは2 割台前半の打率で低迷し、スモークも不振を抜け出せぬまま。世代交代が必要なことはわかっていたが、その準備が整わぬうちに、イチローが去ってしまったことになる。精神的な支柱も消えた。
■ マリナーズ、再建のために必要な要素は
確かに、フェリックス・ヘルナンデスはいるが、本来、毎日プレーする野手の中からリーダーが生まれるのが理想。しかしながら現在の打線を見ると、誰ひとりとして固定した役割を持たない1番から9番まで、すべての打順を予想することは不可能に近い。ただ、それがマリナーズの選んだ道。これからは、アクリー、ヘスス・モンテロ、カイル・シーガー、マイケル・ソーンダース、マイク・カープらの成長を期待しながら戦っていくしかないのだろう。
再建の中では投手陣も徐々に顔触れが変わりそうだ。すでにブルペンでは始まっていて、7月の終わりにブランドン・リーグがトレードされると、カーター・キャップス、ステンファン・プライアーという投手が昇格してきた。100マイルのストレートを投げるプライアーは、将来のクローザー候補。キャップスも100マイルを投げ、彼らふたりからクローザーのトム・ウィルヘルムセンに繋ぐ勝ちゲーム継投は、今後なかなか楽しみだ。先発は、昨年のドラフトで全体の2位指名を受けたダニー・ホルツェンがローテーションの一角に食い込めるかどうか。定着できるなら、なかなかの先発投手陣ということになる。
■ 岩隈、川崎両選手の来シーズンは?
さて、その将来の構想の中に、岩隈久志、川崎宗則はどう組み込まれているのか? 共にフリーエージェントだが、ふたりが望むならチームは残留させたいだろう。岩隈は前半の最後から先発に回ると、その力が本物であることを証明している。川崎はチームのムードメーカーで、エリック・ウェッジ監督のお気に入り。練習の段階でユニホームが破れるまで体を動かす選手はなかなかいない。
岩隈は、残留すれば先発ローテーションの一角に入れるはず。ただ川崎は、また控えの役割かもしれない。それを本人が望むかどうか。ほかのチームでもレギュラーの空きがなければ、日本のチームとの契約も選択肢か。いずれにしても、今のマリナーズは若いチーム。プレーオフ争いができるようになるには、まだ数年掛かるだろう。若手がそろって壁にぶつかっている。彼らがそれをどう破るかに、チームの将来はかかっている。
ところで、イチローもまた、シーズンが終わるとフリーエージェントだ。ニューヨークのメディアに聞けば、「再契約はない」で一致している。ヤンキースにはブレッド・ガーナーという左翼手がいる。彼は現在故障中で、その代わりを臨時でイチローが務めている、という認識を彼らは持っているのだ。であるならば、イチローはこのオフ、移籍先を探すことになる。それがどこになるのか。シーズン終了後、岩隈、川崎の行方を含め、目が離せなくなりそうだ。
カーター・キャップス投手 Carter Capps 背番号58
昨年のドラフトでマリナーズから3巡目で指名された新人投手。マイナーから7月31日に昇格する、ヤンキース戦でデビューを飾った。100 マイルのストレートを武器に、マイナーの2Aでは19セーブをマーク。今後どう成長するか楽しみな若手選手である。
丹羽政善 1967年愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務ののち渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBA、ゴルフなど、現地のスポーツを精力的に取材、コラムや翻訳記事の配信を行う。日本のメディアでは、『サンケイスポーツ』『日本経済新聞』などを中心に活動。海外メディアではかつて、「ESPN.COM」などに寄稿している。著書に『メジャーの投球術』(祥伝社)、『MLBイングリッシュ~メジャーリーグを英語のまま楽しむ!』(ジャパンタイムス)、『メジャーリーグビジネスの裏側』(キネマ旬報社)がある。在米生活は今年で17年目を迎える。 |
シアトル・マリナーズ対ニューヨーク・ヤンキーズ、中盤戦レポート(2011年)
2011年9月13日号
文/黒岩大地 写真/小西正幸
今年、不調気味だったマリナーズ。期待のイチロー選手も打率は2割台と良い成績を出し切れていない。スタジアムにもそれほど多くの人の姿が見えなかった。そんな中迎えたヤンキースとの3連戦の中盤、2011年9月13日の試合。この日のゲームは両チームともミスが目立つゲームになった。
マリナーズの先発は今年メジャーデビューしたファーブッシュ。1回の表、初球をヤンキースの1番ジーターがセンター前にヒットを打ち、早くも不穏な気配がするが、失敗を取り返すかのような好プレーを見せ、打者3人でこの回を終えることができた。このプレーに両方のスタンドから拍手が送られる。マリナーズの攻撃になりイチローがバッターに立つと、日本人のライトスタンドから多くの日本人が声を出し応援する。不調の時期でも多くの日本人がパネルを持ち声を出す姿にはイチローの凄さが伺えた。
対するヤンキースの先発はバーネット。地元のファンの熱い声援に応えられずこの回イチローは空振りの三振で終わる。
2回の表、ヤンキースの攻撃でゲームは早くも動き出した。4番のカノがセンタースタンドにホームランを放つと、続く5番、6番と連続ヒットを放ち、焦りが出たのかワイルドピッチでランナーを帰してしまう。無死の状態から打者3人を三振で打ち取る姿はさすがだが、不安定なピッチングに少し不安が残る。
同回、2点を追うマリナーズは5、6番と続くヒットとピッチャーのワイルドピッチによって、マリナーズが1点を取り返す。さらに、3回の裏マリナーズは2番シーガーのライト線への2塁打や死球で1死2塁のチャンスを迎える。6番オルボの犠牲フライで同点へ追い付く。
ゲームは再び硬直状態になったが、相手のミスから得点を得るマリナーズとヒットで得点を得ているヤンキース。両者の力の差を感じざるをえなかった。そんな中、6回表ヤンキースの2番スウィシャーがセンターフェンス直撃の2塁打をキッカケに再びゲームは動き出しヤンキースは1点を得る。ここで、マリナーズは投手をケリーへと交代する。ショート・ジータの活躍でダブルプレーでこの回を終えた。
その後、1点を追うマリナーズだが、両チームともめまぐるしいピッチャーの入れ替えで得点を得る事ができずゲームが進んでいった。
8回裏マリナーズにビッグチャンス訪れた。3番アックリーのレフト前ヒットをきっかけにヤンキースの3番手投手ロバートソンの四球が続き、2死満塁。代打のロビンソンが打席に立つ。観客はみな立ち上がり声を張り上げ、スタジアムには期待が高まっていた。しかし、空振り三振に終わり、3者残塁に終わった。
9回裏マリナーズの最後の攻撃時、ヤンキースは通算600セーブまであと1となっている守護神のリベラを出す。そんな時にイチローがレフト前ヒットを放ち、場内は再び盛り上がった。これから、巻き返しかと思っていた時にイチローが盗塁する。きわどい判定だったが結果はアウト。そのまま、ゲーム終了。マリナーズは3対2で負けを喫した。
何だかやりきれない気持ちになったが、2死という状況にもかかわらず果敢に盗塁に挑戦したイチロー。率直してチームを引っ張っていこうとする気構えを感じた。
▲イチロー選手の地元、愛知から応援
▲ボールを捉えるイチロー選手
黒岩大地 群馬県出身。日本で子供達に体操を教えるアルバイトをしながら国際経営学や、日本文学を学ぶ。好きな物、読書と旅。苦手な物、夏の夜の蚊。 |
記録とイチロー、「連続安打止まった」翌日、「イチローらしさの3安打」(2009年)
2009年6月号
取材・文/齋藤篤志(サイトウアツシ)
●27試合連続安打の記録が止まった(6月5日)
この日、マリナーズ・イチロー選手がツインズ戦に1番右翼で出場。自己記録・球団記録共に更新中だった連続試合安打が、27で止まった。1点を追う延長10回裏、二死ランナーなしの場面で打席がまわってきたイチロー。ファンの誰もが「ここで一発」と期待を込め、「イ・チ・ロー、イ・チ・ロー」とスタンドが沸いていた。しかし、ツインズの守護神・ネーサンの外角ストレートに、最後はイチローのバットが空を切り、空振り三振。チームの勝敗も1-2でツインズに軍配が上がった。
試合後の会見で「悔しいよ」と言った。記録更新中、この記録に執着していないと語ったイチロー。「ただ、興味を持ちながらやっていましたから」と、この記録終焉をイチロー節で締めくくった。
●安打製造機、4打数3安打で再出発(6月6日)
ホームゲームでのツインズ第2戦、イチロー選手は1番右翼で出場し、打って走るいつもの“安打製造機”の姿に戻っていた。
連続試合安打が途切れ、再び量産へと向かうスターへのファンの期待は大きかった。3回裏、第2打席で本日1本目となるシングルヒット、そして0-1の5回二死1塁、右中間を深々と破る同点の走者を迎え入れる2塁打。8回は内安打とし、二死後グリフィーの左中間2塁打で決勝のホームを踏んだ。
マリナーズの勝利に貢献する、「打って走る」本来のイチローらしさが見えた試合。ダイヤモンドを駆け抜け、勝ち越しのホームを踏んでベンチに戻ってくるイチローを祝福するベンチ、勝利を確信したスタンドは共に大いに盛り上がり、この日は2-1でマリナーズが勝利した。
●「また行きたくなる球場」で見られた光景
シアトル在住、シーズンチケットホルダーのアメリカ人の男性が、ファールボールで獲得したボールとメンバーカードを誇らしげに私に見せてきた。座席からグランドに手を伸ばし、ボールを取った時にそのまま前転。体はグランドに投げ出されたらしい。ファールボール獲得はこれで2回目とのこと。ボールは孫にプレゼントするそうだ。
彼は「野球観戦以外にも、メンバーズカードとファールボール獲得への楽しみがあるから、またこの球場に来たくなる」と話してくれた。メンバーズカードとは、ファールボールを取った観戦客のところに係員が走っていき、「Seattle Mariners Foul Ball Club MEMBER」と書かれたカードを手渡すファン・サービスのひとつである。もちろん正式会員なるものはない。カードには自分の名前、日付、打った選手の名前が記入でき、遊び心満点の記念品となる。そのほかにも、子供達による「Play Ball」コール、イニング間のダンス・ショーなど、球団のファン・サービスはさまざまである。
ファンにとっては「また行きたくなる球場」、球団にとっては「常連客を導く売り場」となるセイフコ球場。仕掛ける側、仕掛けられたファンの反応を見ることができる非常に面白い場所である。
▲本来の安打製造機の姿を見せるイチロー
▲一塁べース上のイチロー
▲獲得したファールボールとメンバーカード
▲3塁ベンチ上でダンスをするエンターテインメント
齋藤篤志(サイトウアツシ) 名古屋出身、旅とスポーツが好きなYoumagaインターン生。大手電機会社の海外駐在員を経験した後、現在シアトルの大学でビジネスを勉強中。ヤンキースの松井選手とレッドソックスの松坂選手がアメリカで活躍する試合を2007年に観て感動し、もっぱら大リーグのファンに。同年代である”松坂世代”という言葉に何故か超敏感。 |
イチロー、「がっさ気持ちいい」2連続アーチでマ軍の勝利に貢献(2009年)
2009年5月号
取材・文/齋藤篤志(サイトウアツシ)
(5月15日レッドソックス戦)
スターの2発
マリナーズ・イチロー選手がボストン・レッドソックス第1戦で4年ぶりの2打席連続ホームランを放ち、チームの勝利に貢献した。
鋭いライナーで右翼スタンドへ飛び込んだ5回の第3打席。そして、きれいな放物線を描きながら右中間スタンドに吸い込まれた6回の第4打席のホームラン。スターが打つホームランに、マリナーズ・ファンで埋まる右翼スタンドは、大いに盛り上がっていた。
「がっさ(すごく:神戸地方の方言)気持ち良いよね」と、自身の気持ちを表現するイチロー選手。1発目が出た後、次の打席に入る前、「もう1回行ったろうかな」と思ったと、さらに振り返る。そして「僕の記憶の中にはあまりない(2打席連続ホームラン)よね」と最後にコメント。スターの叩き込んだ2発の大花火がチームに連敗脱出をもたらした。
打つべき人が打てば、その試合は勝つもの
マリナーズが勝利目前に迫った9回表2死1塁の場面、左翼スタンドに飛んだレッドソックス、ベイ選手の打球に球場はどよめいたが、ボールはオーバーフェンスぎりぎり手前で失速し試合が終了した。
試合後の会見で、「イチローさんが打っていたから、(スタンドへ)入らなかったんでしょう」と城島選手は振り返る。さらに、「昔、王さんが“打つ人が打てば、その試合は勝つ”とよく言っていましたね。王さんが打ったら巨人が必ず勝つというように」と笑顔で続けた。/p>
ファンの声援&選手のファン・サービス
選手への応援メッセージが書かれたプラカードを持ったファンの声援、その声援に笑顔で応えている選手のファン・サービスは、よく目にする光景である。5:10 p.m.の開門と同時にファンが走って向かう先は、両軍ベンチ上の最前列だった。
ファンの目的は選手にサインをもらうこと。マリナーズのウェブサイトの日本語ページには“選手のサインをもらうには”という項目があり、ここには「ゲートが開く試合開始2時間前からバッティング練習が終わる試合開始45分前までには、選手にサインを求めて良いことになっています」と記載されており、積極的にファンサービスを行っている場面があった。マリナーズ、レッドソックス両軍ベンチの上にはそれを手伝う係員もいたほどである。また、レッドソックスの選手の中には、スタンドにいる子供2人を抱っこし、そのまま3塁側ベンチに座らせてあげる選手もいた。
ファンは選手を応援し、選手はそれに応える(ファンサービス)という、球場の中でごく普通に行われているコミュニケーション。それはやがて両者の信頼関係を大きくし、チームの勝利へと繋がるのだろう。
▲ファンのサインに快く答える城島選手
▲選手の登場を待つレッドソックス・ファン
齋藤篤志(サイトウアツシ) 名古屋出身、旅とスポーツが好きなYoumagaインターン生。大手電機会社の海外駐在員を経験した後、現在シアトルの大学でビジネスを勉強中。ヤンキースの松井選手とレッドソックスの松坂選手がアメリカで活躍する試合を2007年に観て感動し、もっぱら大リーグのファンに。同年代である”松坂世代”という言葉に何故か超敏感。 |
■2007年6月号
イチロー対松坂、今季4度目の直接対決の行方は!?(2007年)
2007年6月号
取材・文/岡村由樹
土曜のナイター、試合開始は7時5分だったが、3時過ぎには球場外に列ができていた。ゲートが開くと同時に観客が両ベンチに押し寄せ、選手に声援を送る。約4万7,000人を収容するセイフコ・フィールドは、マリナーズ・ファンはもちろん、熱烈なボストン・レッドソックスのファンでほぼ満席となり、球場は異様な熱を帯びていた。試合前のイチローは入念にウォーミング・アップをしつつ、ゲストの子供達と時折笑顔で会話を楽しみ、リラックスした様子を見せた。
前回までのイチローと松坂大輔の対戦は、チームとしてはマリナーズが勝っているものの、松坂のピッチングにイチローのバットは沈黙していた。一方、松坂の投球は決して悪いものではなかったが、チームとしては負け続き。何とか勝利をもぎ取りたい松坂は初回から攻めの投球を見せた。
イチローの第1打席は初球、真ん中低めの球をセカンドゴロに打ち取られ、松坂に軍配が上がった。続く第2打席は両者の意地がぶつかり合う場面となった。3ボール1ストライクからイチローはファウルボールを連発して粘り、どちらも1歩も譲らない。松坂は10球を投げ込み、最後は155キロの速球でイチローを遊ゴロに討ち取った。「今までは変化球で逃げていた時があったが、今回は直球で勝負したかった」と松坂が語るように、鋭いスウィングでバットに当ててくるイチローに対し、力の込もった速球に加え気持ちの面でもやや松坂が上回った形となった。
5回裏マリナーズの攻撃。4回までに何本かヒットを打たれるも、しっかりと打線が松坂を援護。ここでも松坂はイチローをピッチャーゴロに抑えた。6回にはラウル・イバネスに死球を与え、続く打者も四球で歩かせ、ピンチを招く。しかし、この日の松坂は落ち着いていた。次の打者を3球三振、城島健司をショートフライに打ち取るなど、動揺のないピッチングを見せた。7回裏、イチローの第4打席。前の打者にソロホームランを浴びるが、イチローを内角のショートゴロに打ち取り、続くホセ・ギーエンを見逃し三振に仕留めた。松坂はここでマウンドを降り、投球内容は7回2失点、被安打6、10奪三振。
8回には1点差に詰め寄ったマリナーズ。ここで何とか逆転したいところだったが、9回、イチローの最終打席はレッドソックスの投手、ジョナサン・パペルボンに対し、2-0カウントから最後は空振り三振。その後、2者を四球で歩かせサヨナラの走者を出したパペルボンだったが、エイドリアン・ベルトレをキャッチャーファウルに打ち取り、ここで試合終了。松坂が勝ち投手となり、1年目で早くも13勝を挙げた。
ほぼ完璧なピッチングを見せた松坂は、試合後「ほかの誰に打たれても、イチローさんだけには絶対に打たれたくなかった」と振り返る。その言葉通り、イチローは守備こそ中盤で好プレーを見せたものの、5打数無安打と完全に封じ込められ、今季4度目となる対戦は個人としてもチームとしても松坂に軍配が上がった。
「何もコメントすることはないです」とイチロー。プレーオフを狙うマリナーズにとって、この敗戦とイチローの不調続きが今後どう影響してくるのか。現在地区1位のロサンジェルス・エンジェルス・オブ・アナハイムとは微妙なゲーム差だけに、体制を立て直し、着実に勝ちを重ねていって欲しいところだ。
▲好投を見せた松坂
▲イチローは松坂に押さえ込まれ、快音は響かなかった
岡村由樹 野球とアメフト好きな元チアリーダーのインターン生。メジャー・リーグではやはりマリナーズひと筋。グッズを大量に買い込み、応援面だけでなく経営面でもマリナーズに貢献する22歳。スポーツ業界、マスコミ業界などに興味あり。 |
今季3度目、大注目の一戦!松坂・岡島がセイフコ・フィールドで投げた!(2007年)
2007年6月号
取材・文/徳田文
この日は、平日のデー・ゲームということにもかかわらず、観客動員数はなんと約4万3,500人。1、2階席はマリナーズとボストン・レッドソックスのファンの両方に埋め尽くされていたうえに、1階席の後ろは立って見ている人でごった返しという状態。今季3度目となるイチローと松坂大輔の対戦は、それほどの多くの注目を集めていたと言えよう。
対決した前2試合では、イチローに対し5打席無安打2四球1三振という素晴らしい成績の松坂だが、チームとしては2回とも負けている。それを松坂本人も十分意識しており、試合前には、「イチローさんとの対戦よりも、今季2度負けているので試合に勝ちたい」と言っていた。
試合後のインタビューで、この日は変化球を待っていたと語ったイチローだが、そんなイチローの思惑とは裏腹に、松坂は今回、直球で挑んできた。注目のイチローの第1打席が、空振り三振という結果だったのは、そのせいもあっただろう。しかし、やられたまま終わらないのが職人イチローである。3回の2打席目では、1球目からバットを振り、二塁後方へポトリと落ちるヒットを打った。その間に、二塁にいたジェイミー・バークがホームにかえり、マリナーズに1点。第3打席では、松坂のキレのある投球にまたも三振に倒れた。今回のイチローと松坂の対戦は、ここで終わり。またしても、松坂に軍配が上がる結果となった。全体として松坂は8回を投げ、8三振を奪い、ヒットを3つに抑える好ピッチングを見せた。
その松坂の後、中継ぎとして出てきた岡島秀樹。それをイチローが打席で迎え入れた。第4打席となるイチローは、シングルヒットを放ち、続くホセ・ロペスがバントでイチローを二塁へ送る。3人目のビドロにヒットを打たれ、1死一、三塁とし、ここで交代。
この日のイチローは打席よりも守備で魅せてくれたと思う。イチローのいるバック・フィールドへ飛んでいった打球は合計10球あった。中にはレフトよりやライトよりの打球もあったが、イチローは自慢の足で追い付き、見事にすべてをキャッチした。そんなイチローを筆頭に、守備でスーパー・プレーを多く見せたマリナーズは、7回の1点以外、レッドソックスに得点を許さなかった。そして、延長11回、マリナーズの攻撃。第5打席となるイチローは四球で一塁へ。次のロペスが、左中間フェンス直撃の二塁打を放ち、マリナーズがサヨナラ勝ちした。
対イチローでは断然優勢の松坂だが、チームとしては負け続き。全く悪い投球はしてなかったが、打線のサポートがもらえなかった。今回勝ち負けは付かず、2桁勝利は次の登板の時までお預けである。松坂はオールスターでも通用しそうか、という質問に対しては、はっきりしたコメントを控えたイチローだったが、今季の松坂の投球内容を見て、内心期待しているのではないだろうか。
徳田文 マリナーズ好きの学生インターン。記者としての初仕事でこの大仕事を任された超新人記者。これにより、かなり記者への興味が出てきた! 日本では、地元が中日ドラゴンズの本拠地だというのに、その中でひとり、ヤクルトスワローズの熱狂的ファンだったというひねくれ者。 |
イチロー、2012年までの残留確定(2007年)
後半戦が始まってすぐ、イチローの再契約のニュースが飛び込んできた。なんと、2012年までの5年契約。加えて、イチローがチームへの手応えを口にしたことが、マリナーズ・ファンにとってはうれしい限りだろう。もちろん、イチローがマリナーズで引退する可能性も高まった。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは7月16日現在のものです。
5年で9千万ドル
イチローが、ついに契約延長を決めた。5年で9千万ドルという長期高額契約。その数字は破格だが、イチローがメジャー入りしてからの実績を考えれば、驚く数字ではない。彼はそれだけのことを、数字でもプレー・スタイルでも残してきた。
キャンプ前、イチローは移籍も示唆したが、結局はチームの方向性に納得したよう。7月13日に行われた会見でも、「この2、3年、苦労してきたチームが、ようやく実り始めた、というふうに感じている。向こう5年というのは、十分に可能性のあるチームで居続けることができると僕は思っています」と口にした。
まずは、監督がジョン・マクラーレンになって、「雰囲気が良くなった」と、イチローはたびたび話す。彼はシーズン・オフに、少なくとも数年契約を結ぶと見られており、「彼(マクラーレン監督)は立体的なものの考えができる」と、マクラーレンを慕うイチローには、願ってもないことになりそうだ。
そのほかの切り札
ほかの戦力も徐々に整い始めている。現在、マイナー(3A=タコマ・レーニアズ)では、アダム・ジョーンズ、ウラディアミア・バレンティンといった選手が絶好調。ジョーンズは、すぐにでもメジャーで通用すると言われ、来年の開幕では、ライトかレフトを守っているはずだ。また、バレンティンは本来外野手だが、一塁も守れる。リッチー・セクソンの契約が来年いっぱいで切れるので、セクソンが抜けたあとは、彼が入ることになるだろう(セクソンの再契約は、ほとんどないと言っていい。
その場合、ラウル・イバネスが指名打者となるが、ジョーンズが8月にも昇格すれば、ジョーンズがレフトに回って、イバネスが指名打者になるシナリオもある。現在指名打者のホセ・ビドロの契約は、2008年まで残っているが、スイッチ・ヒッターの彼には、代打の切り札としての役目を担ってもらえばいい。もちろん、トレードで引き取ってくれるところがあれば、それも選択肢となる。
より大きな懸念は投手陣だが、イチローは先日、「(先発の)4人目までは見えてきている」と話した。4人とは、フェリックス・ヘルナンデス、ジャロッド・ウォッシュバーン、ミゲル・バティスタ、ジェフ・ウィーバーだが、来年の5人目の枠には、現在、中継ぎとして活躍しているブランドン・モローが入るはず。もし彼が、その期待に応えられるような成長を見せれば、先発の駒がそろう。もちろん、ウィーバーとの契約は1年なので、来年は移籍している可能性が高いが、ホラシオ・ラミレスが穴を埋めれば問題はないし、白嗟承も控えている。セクソン、ビドロがいなくなることを考えれば、フリーエージェント市場での投資もできる。
とにかく今オフは、2番手までの先発を任せられる投手を補強すること。フォーカスがしやすいだけに、それだけはなんとしても達成してもらいたいものだ。
今後のイチローの選択肢
さて、5年という長期契約を結んだことで、イチローがマリナーズで引退する可能性が強くなった。今年10月に34歳になるイチローの契約が切れるころには、彼も39歳になっている。この時期になっての移籍は難しく、今回の契約が、事実上最後の大型契約になるだろう。次の契約時には、もちろん年間2千万ドルは無理だろうが、マリナーズはおそらく功労者としての意味合いも含めて、どのチームよりも高い給料を払うはずだ。もちろん、勝てないチームに嫌気がさし、「キャリアの最後をプレーオフに出られそうな強豪チームで過ごし、ワールド・シリーズを経験したい」という選択肢もイチローにはあるが、同時に彼は、ひとつのチームでキャリアを全うする夢を持っているようにも感じる。そうであるのなら、10年以上も過ごしたチームから、よほど特別な理由がない限り移籍するつもりはないだろう。いずれにしてもイチローの再契約は、チームの明るい展望を映し出してくれた。
丹羽政善 『スポーツ・ヤァ!』や日本経済新聞、MAJOR.JP、ESPN.COMなどに寄稿するスポーツ・ライター。 Mariners Updateの執筆は2000年3月より。 |
去年とは違う?マリナーズ序盤の戦いぶり(2006年)
10試合で5勝5敗。この勝敗は何を意味するのか。去年より打線につながりを感じる一方で、27イニング無得点も記録してしまった。投手陣も一部に不安。期待されたフェリックス・ヘルナンデスが1勝も挙げていないのは凶なのか。マリナーズ序盤の戦いを振り返る。
(取材・文/丹羽政善)※本文中のデータは4月14日現在のものです。
貯金2と借金2
良いのか悪いのか。マリナーズの戦いはまだまだ不安定だ。開幕4試合は3勝1敗。打線がつながり、勢いを感じさせた。この時点での貯金2は04年以来。これにはイチローも「情けないですね」と苦笑い。そこにはもちろん皮肉が込められているが、こう言えるだけでも今季序盤の戦いに手応えを感じていたとも解釈できる。しかし、その翌日から見事に打線が沈黙。2試合でわずか3安打は(正確に言えば2試合連続2安打以下)、チーム記録になってしまった。おまけに、開幕4戦目の7回から始まった無得点イニングは27回にまで伸張、これはマリナーズ史上ワースト2位(ワースト1位は04年6月7~11日の29イニング)。
3勝4敗で遠征に出たクリーブランド・インディアンスとの初戦も、終盤に反撃を試みたが、それも試合が決まってからのこと。この時点でチームは早くも借金「2」。今年もか……という雰囲気を少なからず感じたに違いない。ところがその翌日の試合は乱打戦を制し、13日の試合では前半の4点差をはね返して勝利した。
勝ち試合のカギはイチローと城島
興味深いのは、ここまでの戦いの中で、勝利試合では必ずイチローと城島健司が絡んでいる点。逆に4連敗を喫した時、イチローは無安打だった。
4月4日 4-5 ●
イチロー 5打数1安打
城島 3打数1安打、1本塁打
4月5日 10-8 ○
イチロー 4打数2安打
城島 5打数2安打、1本塁打
4月6日 6-4 ○
イチロー 3打数1安打
城島 3打数1安打
4月7日 6-2 ○
イチロー 5打数2安打
城島 4打数2安打
4月8日 0-5 ●
イチロー 4打数無安打
城島 3打数無安打
4月9日 0-3 ●
イチロー 4打数無安打
城島 2打数無安打
4月10日 0-3 ●
イチロー 5打数無安打
城島 1打数1安打
4月12日 5-9 ●
イチロー 4打数無安打
城島 4打数2安打
4月13日 11-9 ○
イチロー 4打数3安打
城島 4打数1安打
4月14日 9-5 ○
イチロー 4打数1安打
1本塁打、城島 4打数1安打
13・14日、城島は各1安打だが、13日は満塁で逆転2塁打、14日は9回にダメ押し2塁打を放った。イチローも14日は1安打だが、それが反撃の狼煙を上げる2点本塁打。こうして見てみると、彼らが得点に絡んだ日は勝利につながり、そうでない日は打線が沈黙――この傾向はあながち偶然ではない。7番の城島が塁に出れば、イチローが走者を置いて打席に立つ回数が多くなる。またイチローが塁に出れば、クリーンナップの誰かがつなぐだけで、城島には走者を置いた場面で打席が回ってくる。そこで2人がヒットを打てば、当然得点に結び付く。そんな攻撃の流れ、去年はなかったパターンが、今季のマリナーズにはある。
5番のエイドリアン・ベルトレ、6番のカール・エベレットが打率1割台にあえぎながら、この得点力はやはりそうした要素が大きい。2番のホセ・ロペスもいい打撃をしている。この流れが続けば、“リーグ最低の得点力”というありがたくないレッテルをはがせそうだ。
投手陣の復調が今後の必須課題
対照的に投手は微妙。先に触れたように12、13日はイチロー、城島らの活躍で連勝したが、ギル・メッシュ、フェリックス・ヘルナンデスが共に早い段階で崩れてしまった。11日もジャロッド・ワシュバーンが乱れた。5~7日の3連勝は、いずれも先発投手が試合を作って勝っただけに、内容は良かったと言える。また、ブルペンでも、クローザーのエディー・ガーダドの調子がすっきりしない。13日も9回はハラハラの展開だった。辛くもこの日初セーブを挙げたが、今季の防御率は、13日現在“12.00”。3イニングを投げて5安打、4失点。打線のリズムがあるうちに先発投手が立ち直り、守護神が復活することが今後の戦いに必須だ。そんなチーム状態になれば、今季のマリナーズは楽しみである。
丹羽政善 『スポーツ・ヤァ!』や日本経済新聞、MAJOR.JP、ESPN.COMなどに寄稿するスポーツ・ライター。 Mariners Updateの執筆は2000年3月より。 |
好敵手 ~8月13日、対ヤンキース戦~(2004年)
2004年8月号 イチローVSゴジラ松井スペシャル!
取材・文、阿部太郎
明らかに意識していた。日頃の淡々とした様はそこにはなかった。プレーの一つひとつにいつもより余分な力が加わる。普段は絶対に犯さないミスを犯し、普段は絶対に見せないハッスル・プレーで観衆を沸かせた。精密機械と呼ばれる体に人間の本能を蘇らせたのは、まぎれもなく、同じ日本から渡ったもうひとりのスーパー・スターだった。
8月13日、ここまで地区首位をひた走るヤンキースと地区最下位に沈むマリナーズとの一戦。レギュラー・シーズンとしてはさして重要でないこのカードだが、スタンドは満員の観客で埋まった。その中には日本から訪れたファンも多く含まれていた。イチローと松井秀喜。日本が誇るスーパー・スターの競演は、熱心な野球ファンならずとも心が躍る。日本の茶の間でテレビの前に釘付けになったファンも多いであろう。だが、この日最も心躍ったのは、いや正確にいえば、心高ぶったのは、ほかならぬ本人達に違いなかった。
前日まで、8月の月間打率5割以上をキープし、週間MVPを獲得するなど、絶好調のイチローは、この日の試合も、当然活躍するものと思われていた。体のキレも抜群で、打撃練習でも、柵越えを連発。試合前は、確かにいつも通りのイチローだった。しかし、初回の打席に、強振しすぎて、バットが抜けそうになった瞬間、いつもとは違うイチローを感じた。それは、2回表の守備でさらに顕著に現れる。ヤンキースのホルヘ・ポサダが放ったファウル・フライをフェンスによじ登ってボールをつかみにいった。ファンの妨害に遭い、ボールを取り損ねると、必死の形相で審判にクレームをつけた。第3打席目には、とんでもないボール球に手を出し、ピッチャーゴロに倒れた。こんなイチローは、今シーズン1度たりとも見たことがなかった。かつて「ヤンキースは自分の力を最大限に引き出してくれる相手」と語ったイチローだが、この日は空回りが目立った。ヤンキースという最強軍団、しかもその中心にいる松井に強烈な対抗意識を燃やしているのが見てとれた。そしてそのライバル意識が、イチローに備わる精密な装置の歯車を狂わせた。結局、この試合は無安打に終わり、全く見せ場を作ることなく7回途中でベンチに退いた。
一方、松井もそんなイチローに合わせるかのように不発だった。猛打爆発のヤンキース打線の中にあって、内野安打を打つのが精一杯。あまり失投はなかったとはいえ、打ち損じが多かった。イチローほどの強烈な意識はないにせよ、どこかいつもとは違う雰囲気があった。意識はしていないつもりでも、どこか心の片隅でイチローの存在を意識している、そんな感じを漂わせていた。
「今日は何もなしでいいんじゃないの」。試合後のイチローは、こう語り会見を切り上げた。松井も、記者団の質問に丁寧に答えたものの、イチローへのコメントはなく、こちらも早めに会見を終えた。お互い無関心を装ってはいるが、これがかえって、ライバル意識に拍車をかける。それは試合を見ればわかる。しぐさ、表情、バッティングの状態、ボールの追い方。野球は敏感な、精神的影響が出やすいスポーツである。精神状態が如実に行動に現れる。この日のふたりの意識がお互いに向き合っていることはすぐにわかった。
日本史上最高のライバル関係にあるふたりが、いつの日か、大リーグ史上最高のライバル関係となることを切に願う。
阿部太郎 スポーツ・ライターになりたい、大リーグを取材したいとの一心で渡米を決意。「スポーツは世界を救う」をモットーに、いつの日か自分の書いた文章が多くの人に勇気を与えることを夢みている。シアトル在住4ヵ月。本業はスポーツ・ライターと言いたいところだが、半人前の学生。上智大卒。 |
イチロー、契約更新!日本人&マリナーズ初の1,000万ドルプレーヤー(2004年)
獲得を目指したミゲール・テハーダをボルティモア・オリオールズにさらわれ、地元出身のオマー・ビスケルは健康診断で引っかかるなど、決してスムーズではないシアトル・マリナーズのオフ・シーズン。イチローの再契約にこぎつけたことでファンは胸をなでおろしたと思うが、まだまだこのままでは戦力補強に不安。これまでの動き、今後の課題をまとめた。 (取材・文/丹羽政善)
沈滞気味の交渉
大リーグ30球団の首脳陣や全米の代理人が集結し、直接トレードなどの話をするウインター・ミーティングで、シアトル・マリナーズはオークランド・アスレチックスからFA(フリーエージェント)になっていたミゲール・テハーダの獲得に失敗。続いて、シアトルに住む(正確にはイサクア)、クリーブランド・インディアンズのオマー・ビスケルをトレードで獲得しようとしたが、ビスケルはマリナーズが行った健康診断にパスせず、トレードそのものが白紙。ほぼ同時期に、アナハイム・エンゼルスからFAになっていたスコット・スピージオと3年契約を交わしたが、全体的に沈滞ムードが漂ったマリナーズ。そんな中、イチローとの契約が調停に持ち込まれるかどうかギリギリのところで合意に達したことは、多くのマリナーズ・ファンに安心感を与えたことと思う。間違いないだろう、と思っていても、ここまで長引くとは思わなかっただけに、ローカル・メディアも交渉の難航を示唆し始めた矢先だった。
オフ、これまでの動き
オフ・シーズンの総括を、と言っても、まだトレードもあれば、年棒調停もある。現時点でマリナーズの来季が見えたかどうかを書くには早い気もするが、とりあえず、ここまでのマリナーズのオフ・シーズンの動きを検証していこう。
まずは、長谷川滋利投手との再契約。この契約成功は大きな意味を持つ。長谷川本人が日本で行われたトークショーで松井秀喜のいるニューヨーク・ヤンキースからオファーがあったことを認めていたから、どうなることかと思ったが、マリナーズが見事に長谷川との契約にこぎつけ、ブルペンの貴重な人材を確保した。最初の交渉の段階では若干開きがあったようだが、長谷川も昨年の悔しい経験から「マリナーズに残って、プレーオフに出たい」と思っていたようなので、むしろこの交渉は、長谷川の方が歩み寄ったと見ることができそうだ。
続いて、マリナーズが見せた動きは、ミネソタ・ツインズからFAになっていたエディ・ガーダド投手との契約。昨年41セーブを挙げている豪腕左腕は、アーサー・ローズの抜けた穴を期待されているが、もちろん、クローザーとしてのメンタル・タフネスも持ち合わせているだけに、マリナーズは佐々木主浩投手に加え、長谷川、ガーダドと3人のクローザーを抱えたことになる。
ボブ・メルヴィン監督は「あくまでKAZUがクローザー」と話し、長谷川、ガーダドにはセットアッパーの役割を託すつもりらしいが、佐々木の復調が遅れるようなら、長谷川、ガーダドによるクローザー争いになるかもしれない。
残念ながら、マリナーズはマイク・キャメロンをキープできなかった。昨年11月の時点で、カンザスシティ・ロイヤルズからFAになっていたラウル・イバネス外野手を獲得していたから、その動きはすなわち、キャメロンとの契約更新をほぼ諦めたことを示唆するものだったが、実際にチームを離れることが決まってしまうと、ショックが大きい。彼の抜けた穴は昨年までレフトを守っていたランディ・ウィンが入ることになるだろうが、その穴はシーズンが進むにつれて、はっきりと見えてくるかもしれない。
しかしながら、イバネスにレギュラーを託さなければならないとは、マリナーズも厳しい。一度はマリナーズから放出され、ロイヤルズで過去3年はそれなりの成績を残したものの、マリナーズが求めていた打者とは随分イメージが違う気がする。マリナーズはさらに、スピージオにサードを任せるようだが、サード、レフトという今オフの補強ポイントがこの2人では、インパクトどころか、答えにもなっていない。
確かに、イバネスもスピージオも悪い選手ではない。しかし、マリナーズが求めていたのは“インパクト・プレイヤー”。だからこそテハーダにも、あれだけ積極的にアプローチしたのである。テハーダ獲得に加え、イバネス、スピージオならわかるが、テハーダ獲得失敗に終わった時点で金銭的余裕ができたのだから、そこでスピージオに動くのではなく、モントリオール・エクスポズからFAになったウラジミール・ゲレーロ外野手獲得に乗り出す手もあったのに。もちろん、無理だったのかもしれない。しかし、トライする前から無理と言われても、ファンは納得できない。
▲残留が決まったフレディ・ガルシア投手
今後のオフ・シーズンの動きで注目されるのは、フレディ・ガルシアの処遇。ひょっとしたらこの記事が出る頃には、FAになってしまっている可能性もあるが、マリナーズは調停に持ち込むのか、それともトレードするのか。トレードの方がより現実的なシナリオだろうが、これまでもさんざん、いろいろなチームにアプローチしては断られているだけに、選択肢が少なくなってきているのかもしれない。ただ、ガルシア・クラスが動く時は、相手もそれなりに大物。そうなると、多少時間がかかることは仕方がないであろう(編集部注:12月20日現在、フレディ・ガルシア投手はマリナーズと1年契約をしています)。
折りしも、アレックス・ロドリゲス(テキサス・レンジャーズ)とマニー・ラミレス(ボストン・レッドソックス)のトレード話が進行中(現状では厳しくなったが、レンジャーズはまだ「終わった」と認めていない)。これが決まるのか、流れるのかによっても、今後の展開は大きく変わるだろう。ひとまずその話に決着が付けば、ガルシアに興味を示しているロサンゼルス・ドジャーズやシカゴ・ホワイトソックスも動けるだろうから、本当の動きはこの年明け前後なのかもしれない。
投手陣は相変わらず安泰。しかし、打線には問題が多い。エドガー・マルチネスは再契約したが、今年が本当に最後。また、ジョン・オルルドも来季限りでの引退を匂わせている。彼らの後も含め、マリナーズはロング・タームでの“答え”を見つけられないでいる。もしテハーダが取れたら、あるいはゲレーロが取れたら、イチローと2人で今後のマリナーズの柱になり得たのに……。もちろんオリオールズがテハーダに提示した額は破格で、マリナーズがあれにマッチすべきだったとは思わないが、落胆は大きい。
イチロー、長谷川契約問題の行方(2003年)
契約更新の時期を迎えたイチロー。フリー・エージェント(FA)の長谷川滋利。日本人ならずともマリナーズ・ファンには彼らの去就が気になるところだが、ワールド・シリーズも終わり、いよいよ本格化する交渉シーズンを前に、その行方を検証してみた。
(取材・文/丹羽政善)
※本文中のデータはすべて10月15日現在のものです。
イチローの契約金の妥当な線
地元紙でもシーズン後半から話題になっているのが、イチローの契約更新問題。メジャーでは6年間プレーしないとFAにはなれないが、イチローがマリナーズ入団の時に結んだ契約は、一旦今年で切れた。マリナーズの支配下選手であることに変わりはないが、このオフにマリナーズはイチローと新しい契約を結ばなければならない。が、問題はその金額と年数。チーム内のほかのFA選手のベースになるとも考えられるだけに、その交渉の行方は俄然、注目を集めている。
『シアトル・ポストインテリジェンサー(シアトルP-I)』紙のリポートによると、イチローのエージェント、トニー・アタナシオは「年間、約1,200万ドル(約13億円)」を求めているという。契約年数には触れていないが、この金額はほぼ妥当。ケン・グリフィーJr.(シンシナティ・レッズ)、ラリー・ウォーカー(コロラド・ロッキーズ)らと同等で、マリナーズが尻込みするような金額ではない。問題は、マニー・ラミレス(ボストン・レッドソックス)、サミー・ソーサ(シカゴ・カブス)クラスの金額、すなわち年間1,600万~1,800万ドル(約17億円~20億円)を要求された時。そうなると、マリナーズはあっさりと「YES」の回答は出せないであろう。ただアタナシオは、「イチローは法外なサラリーを求めていない。チームの勝利が優先」と話し、ここまでの金額は要求しないと思われる。つまり、1,000万~1,200万ドル(約11億円~13億円)は、両者にとって程良い落としどころだと言える。
注目が集まる契約年数
厄介なのは年数。年数について、アタナシオは言及していないが、最低でも5年は求めてくるだろうと、ローカルのメディアは見ている。
「5年間で6,000万ドル(約66億円)」と、ひとつの目安をはじき出したのは『シアトルP-I』紙のマリナーズ・ビートライター、デビッド・アンドリーゼン。さらに「ボーナスまで入れて、5年間で7,000万ドル(約77億円)までアップ」と、インセンティブまで含めた総額も予想する。
「もしイチロー側がこれでOKしてくれるなら、マリナーズは喜んでサインするだろう」つまりこれは、“むしろディスカウントな契約”との見方だが、もう少し違った見方もある。「マリナーズは2年のオファーしか出さないかもしれない」と見る『シアトル・タイムズ』紙のビートライター、ボブ・シャーウィンは、「2年後にイチローとの契約がもう一度切れることになるが、まだFAではないため、その時にこそ、長期契約を結ぶつもりではないか」との考えを示す。
マリナーズにとって、2年契約のメリットとデメリットは以下の通り。
●メリット:FAになる前に、もう一度、独占的に契約交渉ができる(長期契約は、ケガでプレーできなくなってもサラリーを払い続けなければならないなどのリスクが大きい)。
●デメリット:イチローの価値がさらに上がっている可能性がある。今年1,200万ドルで契約できたとしても、2年後には2,000万ドル(約22億円)選手になっているかもしれない。その場合、それ以上のキープが難しい。もちろんその逆もあるが、2年後のイチローは恐らくキャリアのピークを迎えているので、価値が下がることは考えにくい。
2年契約の場合、年間1,500万ドル(約16億5,000万円)程度にベース・アップするかもしれないが、2年という年数にはアタナシオが難色を示すとも言われている。長期契約を結ぶことが、エージェントとしての仕事。イチローに対し、2年で首を縦に振るかどうか。やはり年数に関しては、5年前後が勝負どころ。
マリナーズがイチローを引退までキープしたいなら、“6年プラス7年目はクラブ・オプション(*)”というオファーも考えられる。ベースを年間1,200万ドルとして、6年で7,200万ドル(約80億円)、7年目も1,200万ドルとして、ボーナスを含めたら総額は9,000万ドル(約100億円)ということになる。そこまでの金額を保証するとなると、マリナーズにとってさすがにリスキーだが、イチローの自己管理能力を考えたら、意外と安全な投資かもしれない。
結論としては、やはり“5年間で6,000万ドル”が攻防ライン。年数に関しては、せいぜいプラスマイナス1年のズレ。金額的には年間1,500万ドルまではアップする可能性がある。もし$1,000万ドル(約11億円)で話がついたら、大ディスカウント。
長谷川のマリナーズ残留を妨げる相手
残留が確定的なイチローに対し、長谷川の行方は微妙。今シーズンのサラリーは、わずか1,800万ドル(約2億円)。マリナーズとしては、当然これ以上のオファーをするだろうが、どこまで上乗せできるか。残留の意向の長谷川は、多少のホーム・チーム・ディスカウントを受け入れるかもしれないが、他チームのオファーとの開きが余りにも大きければ、移籍の可能性もある。すでにブルペン・バジェットが厳しいマリナーズとしては、年間300万ドル(約3億3,000万円)が精一杯。もしくは、それを下回るかもしれない。そしてオファーは恐らく2年間。トータルで2年間で500万~600万ドル(約5億5,000万~6億6,000万円)というのが、ローカル・メディアの間で囁かれているラインだ。
これを上回るであろうチームが1チームだけある。それはニューヨーク・ヤンキース。今シーズンの戦いを見てもわかるように、ヤンキースはブルペンの補強が急務。最低でも3年間で900万ドル(約9億9,000万円)のオファーはしてくると見られている。年数と金額を合わせて保障される金額に、マリナーズとは400万ドル(約4億4,000万円)程度、いやそれ以上の開きが予想される。そしてさらに、ヤンキースに行けばワールド・シリーズも近い。お金と名誉、その2つを同時に獲得できるチャンスを考えた時、長谷川はそれをみすみす逃すだろうか? 長谷川がヤンキースを選んだとしても、責められまい。
ストーブ・リーグは、これからが本番。マイク・キャメロンらの去就も気になるところで、今年のオフ・シーズンは、例年以上にマリナーズから目が離せない。
*クラブ・オプション:一般的に「これに該当する選手は、まだチームの支配下にある登録選手だが、契約最終年の契約を行使するかどうかは、チームに選択権がある」という状態。チームがオプションを行使しない場合、クラブ・オプションの選手はFAとなり、他チームと自由に交渉ができる。しかし、契約の見直しを前提とした場合もあるので、オプションが行使されなくても、選手がFAでチームを離れるとは限らない。また、オプションが行使された場合には、すでに設定された金額がその選手の翌年のサラリーとなる。
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