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おせち

   
  
 第一話:おせち 
  
 正月が来ると思い出す
「正月が来たら、またひとつ大きゅうなるね」 年末になると、おばあちゃんが言ってた言葉を思い出す。子供の頃は、皆早く大きくなりたいと願い、年を取るというのは毎年の楽しみでもあったように思う。確かあるときまでは……。

十分に年を取ってしまった今は、正月なんてもう来て欲しくもないし、正月早々、年など取りたくないわいと思っているのは私だけではないだろうが、悲しいかな、いざ正月が来ると、それはそれでめでたいことで、皆で楽しい酒が飲めるのも事実。自分の誕生日の存在を否定し始めたにもかかわらず、プレゼントをもらった後の女心と同質なのが、お正月の到来かもしれない。

毎年師走の28日頃にもなると、普段物静かな祖母が近所の親屋や親せきの女衆を集めて、おせち料理の先頭指揮を執る。いつも口うるさい母も、小生意気な姉たちも、この日だけは彼女に絶対服従。さすがおばあちゃん、まだまだ本家の嫁の貫禄十分である。幸や福を呼ぶと言われる様々な高級食材をふんだんに使い、物によっては何週間も前から、手間暇かけての仕込みが始められる。日本各地の伝統と文化の頂点に立つ食の芸術品、おせち料理の中に隠された最高の業と知恵とは?

今と違い、昔、世の女性たちは朝早くから夜遅くまで365日、毎日毎日家事に追われていた。瓦斯、水道、電気のない時代のそれは、大変な仕事であったに違いない。そんな中で、おせち料理だけは年末のうちに作り上げ、正月の3日間は食事作りをしないで、男も女も一緒の席に着き、皆で料理をつつきながら新しい年を祝おうではないか……、日本中で、そういう意味合いが、おせち料理に定着していった。これを男が提案したのか、「正月ぐらい休んだってバチは当たらんわい」と女が思ったのか、今ではそれは定かではないそうだが、何か心温まる話である。そして現代の料理人たちでさえ驚かされる料理技術も、そこに存在した。

おせち料理は常温の室内で、少なくとも3日間以上保存ができたという。ものによっては3日目からが一番おいしい食材もあるそうだ。今の私たちには何でもないことのように思われるが、日本に家庭用冷蔵庫が普及し始める昭和30年代以前では、驚異的な保存食品であったと、料理人たちも口を揃える。

おせち料理とは、長い年月をかけ選ばれた山の幸、海の幸の長所短所を見極めた上で始まる料理。味付け、それはまるで魔法でも使ったような、完璧な調味料の組み合わせ。神業としか言いようのない包丁さばきで切り揃えられた食材とその色彩。それぞれの素材が持つ、幸せの意味と生い立ちに則って作られた物語が、壱の重、弐の重、そして参の重へと語り継がれる……と、これはあくまで遠く懐かしい「昔のお正月料理」への、憧れにも似た私のおはなし。


年に一度思い切り食べたい「数の子昆布」
「正月が来たら、またひとつ大きゅうなるね」 年末になると、おばあちゃんが言ってた言葉を思い出す。子供の頃は、皆早く大きくなりたいと願い、年を取るというのは毎年の楽しみでもあったように思う。確かあるときまでは……。

十分に年を取ってしまった今は、正月なんてもう来て欲しくもないし、正月早々、年など取りたくないわいと思っているのは私だけではないだろうが、悲しいかな、いざ正月が来ると、それはそれでめでたいことで、皆で楽しい酒が飲めるのも事実。自分の誕生日の存在を否定し始めたにもかかわらず、プレゼントをもらった後の女心と同質なのが、お正月の到来かもしれない。

毎年師走の28日頃にもなると、普段物静かな祖母が近所の親屋や親せきの女衆を集めて、おせち料理の先頭指揮を執る。いつも口うるさい母も、小生意気な姉たちも、この日だけは彼女に絶対服従。さすがおばあちゃん、まだまだ本家の嫁の貫禄十分である。幸や福を呼ぶと言われる様々な高級食材をふんだんに使い、物によっては何週間も前から、手間暇かけての仕込みが始められる。日本各地の伝統と文化の頂点に立つ食の芸術品、おせち料理の中に隠された最高の業と知恵とは?

今と違い、昔、世の女性たちは朝早くから夜遅くまで365日、毎日毎日家事に追われていた。瓦斯、水道、電気のない時代のそれは、大変な仕事であったに違いない。そんな中で、おせち料理だけは年末のうちに作り上げ、正月の3日間は食事作りをしないで、男も女も一緒の席に着き、皆で料理をつつきながら新しい年を祝おうではないか……、日本中で、そういう意味合いが、おせち料理に定着していった。これを男が提案したのか、「正月ぐらい休んだってバチは当たらんわい」と女が思ったのか、今ではそれは定かではないそうだが、何か心温まる話である。そして現代の料理人たちでさえ驚かされる料理技術も、そこに存在した。

おせち料理は常温の室内で、少なくとも3日間以上保存ができたという。ものによっては3日目からが一番おいしい食材もあるそうだ。今の私たちには何でもないことのように思われるが、日本に家庭用冷蔵庫が普及し始める昭和30年代以前では、驚異的な保存食品であったと、料理人たちも口を揃える。

おせち料理とは、長い年月をかけ選ばれた山の幸、海の幸の長所短所を見極めた上で始まる料理。味付け、それはまるで魔法でも使ったような、完璧な調味料の組み合わせ。神業としか言いようのない包丁さばきで切り揃えられた食材とその色彩。それぞれの素材が持つ、幸せの意味と生い立ちに則って作られた物語が、壱の重、弐の重、そして参の重へと語り継がれる……と、これはあくまで遠く懐かしい「昔のお正月料理」への、憧れにも似た私のおはなし。

文・なかまちジョージ

●数の子昆布●
材料(4人前)
数の子昆布 思いきり食べたいので2lb以上は欲しい

<漬け汁(材料の割合)>
かつおだし 4
酒 1
みりん 1
しょうゆ 1.5強

  1. まず数の子昆布の塩抜きをする。ブロックのままなら2時間、先にひと口大に切るのなら30~40分間。塩気は全部出し切らないで気持ち残すつもりで。薄い食塩水の中に漬ければ失敗は少ない。
  2. 1の間に「漬け汁」を作る。かつおだしは沸騰した1リットルの湯に、ひと握りの特上花がつおを入れ、すぐに火を止めザルでかつおぶしをこす。上記の割合の調味料を平鍋で一度軽く沸騰させた後、常温まで冷ます。
  3. ひたひたのだし汁に2日間ほど冷蔵庫の中で漬けておく。半日でも良いが、食べ頃は2日目から1週間ほど。 ポイント 漬け汁の割合だけは正確にしないと、せっかくの高級素材が台無しになるので要注意。酒は良い酒、みりんは必ず本みりんを使うこと。

数の子昆布は、「宇和島屋」各店など、日系の食料品店やシーフード専門店で取り扱っている。品切れの場合もあるので、事前に電話で確認すること。問い合わせ先はJENテレフォンガイド2003年版の「日本・アジアの食料品店」か「食料品」の「シーフード」の欄を参照。