第二話:烏賊 | |||
ピュージェット・サウンドの謎の集団 「くそ寒びー、もうちょっと寝たろ」と“猫”がつぶやく週末の午後。 東西南北。山々にはどっさり雪が積もり、その山々にすっぽり囲まれたノースウエストの街にも、本格的な冬将軍がやって来た。雨、雪が降っているうちはまだ温かいが、突然それが止んでしまう夜中の晴天、これはいけません。星はキラキラいやギラギラと輝き、おっ月さんなんか、まあるい蛍光灯のような冷い光を放ち始める。風と気温の下降は止まず、ついには冬の悪魔、ブラック・アイスがすぐそこまで顔を出す。そんな極寒の中、ピュージェット・サウンドの深海より、天空の光とウォーター・フロントの灯りに誘われて浮上して来る謎の集団がある。この集団を漢字で「烏賊」と書く。忍者、盗賊、はたまた“空飛ぶ追剥ぎ”と思わせる文字だが、これを何と「イカ」と読むそうだ……。漢字とはどこかにその固有名詞や意味を連想させるところがあるが、こやつはまったくその気配さえ感じさせなかった。おかげで私、若い頃に大恥をかいた。 中央線吉祥寺北口サンロードの外れにあった「回る元禄寿司」。 土から生えてくるなら木へんか草かんむり、海、泳いでるんなら魚へんぐらい付けとけよな、お前。 ともあれ今回は冬のピュージェット・サウンドで、たくさんの釣り人を喜ばせてくれるこの「烏賊」、いや「イカ」を自分で釣り上げてみるところから紹介しよう。 道具はしなりのある細目のロットに小型リール、道糸に10cm程度の泡入りの赤のプラヅノ(疑似餌)を直接くくり付ける。数メートル先の海中に投げ入れ2~3m程の棚を取った後、竿先を小さくあおってプラヅノを躍らせて誘う。 竿が急に重くなったら、ゆっくり糸を巻き上げると、針にイカが乗っかって上って来る。周りの上手そうな人の動作を真似すればいいのだ。要は学習能力のない人間でない限り、群れに当たれば初めてでも5~6匹は必ず釣れる簡単な釣りだ。 寒風吹きすさぶ中、小さなイカが1匹釣れるたびにはしゃぎ回る人たち。よく見るとこの人たちには皆尻尾があり、いつのまにか「雪やコンコン」の歌も流れて来た。この群れは……“犬”か……。 昔から日本では猫に“烏賊”を食べさせすぎると腰が抜けて歩けなくなると言うが、犬に“烏賊”を食べさせすぎるとどうなるのかなー。今度いっぺんやってみたろ。 今回の料理は、浜料理。言ってみれば漁師の料理ゆえ大胆、かついいかげん。細かな調味料の量などあまり気にしない。味が濃ければビールで流し込み、薄ければしょう油をかければいいのだから。 家に戻ったら、素早くイカの墨や汚れを冷水で洗い流してザルに取る。次にわたと軟骨を抜き取り、胴の内側から縦に上まで包丁を入れ完全に開き、外側の黒皮を耳と一緒に引きはがすと、透き通ったきれいなむき身が現れる。 これを細長く刻めば「イカそうめん」。別にきれいに切り揃えられなくても、ブツ切りでいいじゃないか。市販のそうめんつゆにしょうが汁を落としていただこう(海苔のせん切りに、うずらの卵を添えるとなお良い)。 ゲソはわたから切り離し、開いて目と口を取り、熱湯の中に一息(5秒)入れ、冷水に取る。ふきんで水気を切れば「ゲソの刺身」。このゲソをゆでた青ネギと酢みそで和えれば、これまた絶品の「ゲソぬた」の出来上がりである(酢みそは、みそ2に対してみりん、酢、砂糖を各0.5の割合。それにからし少々を加え、平鍋に入れて一度よく火を通してから冷ます。味の強弱はみそと砂糖で調節)。 「生ものはどうも」という人には、イカをオリーブオイルとガーリックで炒めれば、「イカのガーリック焼き」になる。にんにくは、油が冷たいうちに入れれば、焦げなくて香りがよく出る。塩、こしょうを少々入れ、最後にバターを少し落とす。白ワインがあれば、少々振り掛けると味が引き締まる。男の料理ゆえ、調味料の分量は全部適当に! こんな仕込みは面倒でイヤだと言う横着人間には、洗ったイカをそのまま強火であぶるだけの「イカの丸焼き」を。最後にしょう油を垂らせば、いくらでも食べられる。 子持ちイカも、しょう油とみりんを少量の酒でのばした中で丸のまま強火でさっと煮れば「子持ちイカの煮付け」。しょうが汁を少し入れれば、冷蔵庫で1週間は持つ(煮汁は、しょうゆ、みりん1に対して、砂糖、酒0.5)。 ヤリイカは水分が多いため弱火で調理してもベタベタになるだけでうまくない。すべての料理は思い切り強火で短時間で仕上げること。煮物以外は中が少々生でも鮮度は抜群、気にしないで食べられる。特にイカのあの黒い墨は体にも良く、食品の防腐作用までもある優れ物なので、あまり神経質にならないように。 文・なかまちジョージ
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烏賊
- 11/10/2020
- なかまちジョージ・料理のおはなし
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