第三話:牡蠣 | ||||
日本式とアメリカ式 牡蠣の歴史はとてつもなく古く、三葉虫が生まれる以前のカンブリア紀にはいたというから、なんと5億年という気の遠くなる昔から海の中で生き続けていることになる。そして今、我々が口にしている牡蠣は、その後人類によってそれぞれの地域・風土に合うように改良し続けられてきた、最も栄養豊富な海産物のひとつだ。 アメリカ東海岸のチェサピーク湾で養殖が盛んな丸形の牡蠣はヨーロッパ原産だが、ここ西海岸の牡蠣は、ほとんど日本の「真牡蠣」、またはその改良種である。明治時代、交流の深かった広島から養殖用にと牡蠣を輸入するが、海水の温度差はもとより、根本的な養殖方法が違うために生じた間違った原盤(種子を付けるための大きな貝殻)選びが原因で、度重なる失敗があったという。海中につるして行う日本式養殖法では昔から軽くて表面積の広いホタテの貝殻を使っていたが、アメリカでは原盤を海底にばらまいて養殖するため、片面が海底に張り付いてしまうホタテ貝では、下になってしまった側の種牡蠣は皆、窒息死してしまう。試行錯誤の末、低温水でもよく育つ宮城産の種を、デコボコしたいびつな牡蠣の殻に付けて持ってくることで、西海岸の牡蠣養殖はやっと成功したという。その名残りが今どこでも見掛ける牡蠣のブランド「MIYAGI」である。 日本での牡蠣の旬は冬、アメリカでは“R”が付く月と言われているが、水温の低いここシアトルでの牡蠣についてだけは、どうも私は納得がいかない。たぶんこれは昔、自称食通のやからが、こじつけただけの話だなと確信する。たしかに夏場、北半球では気温が上がるため水揚げされた牡蠣は腐りやすくなる。また、気温の上昇とともに水温も上昇、海中に雑菌が増すので、食当たりを起こす確率も上がる。さらに、牡蠣は春の終わりから夏にかけ胞子・卵を抱えるため、内臓は白濁した柔らかいミルク質となり、食感が悪くなる。つまり、牡蠣の旬にまつわる通説は、あくまで生食を基準として決められたものなのだ。しかし火を通すことによって牡蠣をよりおいしく食べられる方法はいくらでもあり、現に「牡蠣弁当」で有名な北海道厚岸で採れる「長牡蠣」は生食には向かず、ほとんどが調理用である。また、殻の大きさが30cmにもなる北陸名産の「岩牡蠣」も焼き牡蠣として食す旬は夏である。これらは両方とも「北方種」と呼ばれ、今の日本の「真牡蠣」の原種と言われている。それを考えると本当の牡蠣の旬は夏なのかもしれない。 余談になるが、人間の知恵とはすごいもので長い歴史の中、偶然にもこの両極端の養殖条件を満たす場所を探し当てることになる。それがリアス式海岸である。これはスペイン語で「川」の意味を表す「リオ」に複数形の「S」が付いて「リアス」に変形したものだと言う。この入り組んだ地形は海によって浸食されたものではなく、川によって浸食された谷が地殻変動や海面の上昇により海中に沈んだものであり、入り江の奥には必ずいまだに川が流れている所と定義づけられているそうだ。 文・なかまちジョージ <タルタルソースの作り方とポイント> リブステーキ牡蠣のソテーつけ合わせ |
牡蠣
- 11/10/2020
- なかまちジョージ・料理のおはなし
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