第四話:春の野菜 | ||
わけのわからぬ言葉たち 「せり、なずな、 おぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草」。これ、ご存じだろうか? これは鎌倉の世、日本の春の恵み、めでたくもありがたい春の七草を歌った歌だ。「春の七草?」。昔、ばあちゃんから聞いたことのある言葉ではあるが、はたしてこれらがどんな植物なのか、はたまたどんな味がするのか、全部知っている人、いるだろうか? もしいたらすごい人だ。 そこで今回は、皆さんと一緒に春の七草の勉強から始めましょう。 まずは、せり。これは皆さんご存じだと思うが、葉には香り、根にはシャキシャキとした食感と甘味があり、おひたしや和え物にして食べる。春の日本料理に欠かせない食材で、特に長野産が最良とされている。次に、なずな。春を過ぎると茎が立ち堅くて食べられなくなるので、春早く葉が地面にくっついて広がっている時期に食べる。線路わきからボタ山のてっぺんまで、栄養分が少ない所でも生える生命力のある草である。きっと、なずなと呼ぶより“ペンペン草”と言った方がよくわかると思う。どう、聞き覚えのある名前でしょう? そしておぎょう。ごぎょう、またはハハコグサと呼ばれるこの草は、早春の野草の中では葉が大きめなのだが、それを寒さから守るように白い綿毛が覆い、黄色い綿のような花が固まって付く。よもぎと同じキク科の植物で、餅に入れて草餅を作る。見れば必ず「あーあー、こいつか」と言うはず。次に、はこべら。現在は“はこべ”と呼ばれるが、メジロ、スズメ等の野鳥を飼ったことのある人にはおなじみの草。特にニワトリはこれに目がない。しかし普通、人は食べないでしょう……。そしてほとけのざ。学名“こおにたびらこ”。人をなめたような名前の草だが、じつは私は本物を食べたことも見たこともない。知っている方はどんな形と色をしているのか、そしてどんな食感なのか教えてください。すずなは単にカブ。すずしろはダイコンと言えばわかるだろう。 七草に関する最古の書物は、平安時代の『枕草子』にまでさかのぼる。旧正月の六日の昼、子供達に野草を採りに行かせ、そこで採った野草を米・アズキ・ハスの実にひじきやアラメといった海草と混ぜておかゆを作り、七日の朝食に食べたのが七草がゆの始まり。当時は“菜種草”と呼ばれていたのが、のちに“七草”に変化した。その後、鎌倉時代に和歌でブレイクし、室町時代には旧正月七日の縁起料理として定着した。今では「正月においしい食事とお酒を飲み食いし続けて弱った胃にやさしいおかゆを」という解釈がされているようだが、これは大間違いですぞ。江戸や明治、いや大正時代になっても平民達は正月と言えど、そんな贅沢な食生活ができるわけなく、この話は昭和の時代、それも40年代以降に作られた説得力のある作り話ということだ。また、今の正月と旧正月では長い時には3カ月近くも時期に差があるため、ほとんどの七草は芽を出しておらず、季節的にはまったく釣り合いが取れていない。七草がゆの本当の意味は、春の始まりに貧しくともおかゆを炊き、家族全員の健康を神にお願いする女達の祈りであり、別に7種の野草が全部揃う必要はなく、何か1種類でも入っていれば七草がゆと呼べるそうだ。身内を思う心、その温かさが七草がゆという温かい食べ物に変身したのかもしれない。 さて、春の七草を紹介してみたものの、ここシアトルで見掛ける野生の七草は、はこべくらいで、鳥しか食わない草を食ってもみじめになるだけ。そこで、これから近場で生えてくるおいしい野草を紹介しましょう。 まずはウォータークレス。日本では“クレソン”と呼ばれ、ビーフ・ステーキの付け合わせに出てくる。野生の物は辛味が強く、サラダやおひたしにすると旨い。ベルビューでは、Forest Dr.と147 Ave.から152 Ave.間の右側、芝生の水たまりの中に今年は少々生えている。2年前はフェデラル・ウェイのダッシュ・ポイント・ステート・パークのパーキングの周りに生えていたけれど、この春はどうだろう。 たらの芽はアメリカでは“デビル・クラブ”という恐ろしい名前で呼ばれている。クーガー・マウンテンのトレイル沿いにたくさん生えているが、公園内の植物は採ることができない。なのでトレイルを横切って原生林へ奥深く入り込み、水気の多い日光の当たらない斜面を探すこと。特徴は枝がなく、てっぺんから地面まで茎の太さが変わらないトナカイの角のような感じ。英名通り、茎には大型で固いトゲがびっしり付いているので、採取には工業用の革手袋が必要。子供には絶対触らせないこと。 わらび。3月の終わり頃からベルビュー辺りのどこにでも顔を出す。手に持ってポキッと簡単に折れる部分から上だけを収穫する。それより下をナイフで切っても固くて食べられない。Hwy. 202からカーネーションへ抜ける道の両側や、エナムクローからHwy. 410でマウント・レニアに向かう道にたくさん生えている。しかしこれらすべて今年成長する新芽を摘んでしまうわけだから、家族で春の香りを楽しむ分だけ採ったら終わりにしてあげよう。 クレソンは流水でよく洗うだけ。市販のイタリアン・ドレッシングに黒コショウをバッチリきかせて召し上がれ。 たらの芽は薄い衣を付けた天ぷらが一番。塩だけで食べてみてほしい。また、よく洗ってトゲを切り取り、市販の金山寺みそやもろみそを付けて、生のまま食べても旨い。 わらびはアクが強いので、量が多い場合アク抜きに一昼夜かかってしまうが、10本程の少量なら大きめの鍋に湯をいっぱい沸かし、火を止めた中で5分程泳がせてから冷水を入れ、4~5時間置いておけば大丈夫。あとは適当に切り市販のそば汁をかければ、わらびのおひたし。また、市販のうどんつゆをかけて油揚げと一緒に煮ても良し。 文・なかまちジョージ |
春の野草
- 11/10/2020
- なかまちジョージ・料理のおはなし
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