第五話:胡瓜魚 | ||
直木賞作家となかまちジョージ 昔からコミさんこと作家の故田中小実昌氏とは、日本にスメルトがいるかいないかで、ずいぶん言い合った。 「でも『日本にはスメルトはいない』ってスティーブも言ってたよ」 自分でも「いない」と思っているくせに、はっきりしないことは何事においても自分の口から意見せず、すぐ他人の名を出してくるので、頭にきてよく噛みついたものである。しかし作家の文章構成力とボキャブラリーの数には勝てるわけもなく
日本にはサケ目のキュウリウオ科の中にキュウリウオ、シシャモ、ワカサギ、チカと呼ばれる4種類の魚がおり、これが英語で言うSmeltである。 海に住んでいて“キュウリウオ”とはまたおかしな話だが、「取れたての新鮮な時にキュウリの香りがするから」という単純な理由が、この名前の由来である。それではその4種類の簡単な説明から始めよう。 まずワカサギ。英語名Japanese Smelt。本来は海降型(海と淡水の間を行ったり来たりする魚)だが、今では冬、氷に穴を開けて釣る陸封型(一生を淡水で過ごし、海には降りなくなった海降型の魚。ヤマメ、ヒメマスなどサケ科の魚に多い)の小さい魚の方が一般的に知られるようになった。4種類の中で唯一、本州の湖沼にも生息している。 チカ。英語名Sea Smelt。近縁のワカサギと違って一生を海で過ごし、淡水に入ってくることはない。口も小さくてワカサギによく似ているが、大きくなると20cmにもなり、ワカサギの比ではない。こやつがシアトルで“オーシャン・スメルト”と呼ばれているやつだろうと言われている。 シシャモ。英語名Shishamo Smelt。体長15cm。“子持ちシシャモ”として有名なこの高価な魚は、北海道の太平洋側の一部でしか取れず、なかなか庶民の口には入らない。普段、私達がスーパーで買っているシシャモの99パーセント以上は北太平洋や特に北太西洋の高緯度に広く分布する、日本名、樺太柳葉魚(カラフトシシャモ)、英語名Capelinと呼ばれる、日本の“シシャモ”とはまた別の種類のキュウリウオ科の魚だと知っておいてください。 キュウリウオ。英語名Olive Rainbow Smelt。北太平洋の高緯度と北極海沿岸部に多数生息し、シシャモと同じく大きな口をして数本の犬歯を持ち、体長は35cmにもなる、けっこうどう猛な魚であるらしい。遡上を始める春頃が一番食べ頃で、フランスではオリーブ・オイルで揚げるのが最上だとされる。 しかし、このキュウリウオもシシャモも、夏には脂が多すぎて食用にはされず、大正時代までは、それらはなんと、ランプ用の油を取るためだけの魚だったと言うから驚きである。また“脂が乗った魚は旨い”と言われるが、それにはある程度の限度がある。あまりにも多すぎると煮くずれなどを起こして調理しにくいし、食あたりを起こす危険が高くなる。 そしてコロンビア・リバー・スメルト。これは体長30cmにもなり、日本名はアラスカ・シシャモ。ベーリング海からアメリカ西海岸に広く分布するこの魚の味は、日本のキュウリウオに近いと聞くけれど、日本のキュウリウオって、私食べたことないんです。どなたかよくご存じの方、教えてください。
次に、日本のイワシの骨抜きと同じような要領で、頭を落とした所から親指を差し込み、身と骨とを分ける。身の部分は薄い食塩水の中に酢を入れたものの中で、血や汚れをよく落とす。 そして皮をはがしたら、後は刺身でも、たたきにしてポン酢を付けてでも、好きなように召し上がれ。小型の魚ならよく洗い、下処理をせず、天ぷらやパン粉を付けてフライにしても良い。コロンビア・リバー・スメルトは塩・コショウをして小麦粉を付け、フライパンにニンニクを入れ、バターとオリーブ・オイル半々の中で皮がパリパリになるまで焼く。 頭も骨も内臓もそのまま食べられる。思っているより旨い魚で、しかもお値打ちだ。 この魚は季節の魚であるが、「セントラル・マーケット」や「TOP」などの大手スーパーマーケットでは、冷凍物が年中出回っている。一度試してください。ただし、コロンビア・リバー・スメルトはサーモンと同じ海降型の淡水魚であるため、絶対に刺身などの生では食べないこと。寄生虫がいます。
文・なかまちジョージ |
胡瓜魚
- 11/10/2020
- なかまちジョージ・料理のおはなし
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