第3回「さくら、さくら」今日のゲストはキャスリーン。ワシントンはワシントンでもD.C.出身の、ちょっと内気な女性である。 「ワシントンD.C.のポトマック川沿いには日本の桜があるのよ。知ってる?」 「うん。でも、ここで見る桜は、日本のとは印象がだいぶ違うんだよね」 桜だけではなく洋梨だの何だのも混じっているのだろうが、やたら種類豊富で、やたら開花期間が長い。儚いというよりはゴージャスである。 「UWのクワド広場でも、日本の桜がたくさん咲いてるわよ」 桜と聞いて小学校の入学式の晴れがましさを連想する人もいることだろうが、カオルにとっては、桜は夜桜である。例えば、シアトルへ発つ直前のとある晩のこと。悪友数人と共に、安くてうまい居酒屋でたらふく飲み食いし、カラオケを歌いまくってその腹をこなした後、深夜の上野に繰り出した。業務としての花見にいそしむサラリーマンも、彼ら目当ての屋台のおっちゃん達も、とっくに消えた恩賜公園の遊歩道。何時間か前の喧騒が嘘みたいな静けさの中を、暗い夜空に浮かぶ淡いピンクの雲のような満開の桜を見上げながら、ふらふらふらふらとさまよい歩いたのだ。あの夜の桜、怖いくらい綺麗だったよ。 仕上げは吉野屋。各自牛丼を前にして、まったりと桜の余韻に浸ったのであった。ああ、なんて日本的な思い出であろうか。 「夜桜っていうのがまた良くてねぇ。そうか、クワドで夜桜というのもなかなか……」 「あのー、カオル?」 「ん?」 「屋外での飲酒、禁止だからね」 えっ、そうなの? せっかくなのでワシントン大学には行ってみた。確かに桜はあるわな。上野公園の桜みたいに巨大じゃないけど、見慣れた感じの桜である。初々しさの残る若者達が、にこにことピースサインで記念撮影中。しかし、この健康的な図式。やっぱり儚さのかけらも感じられなかった(ま、行ったのが昼間だったせいもあるのだが、しらふで夜桜はちょいとキビシイではないか?)。 カオルのささやかな思い出、アメリカで追体験するのは少々難しそうである。 |
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