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どうなる?2008年アメリカ大統領選挙

民主党への政権交代で、歴史的大統領の誕生となるのか。世界中から熱い視線が集まる2008年米大統領選挙をわかりやすく解説。
(文/佐々田博教)

どうなる?2008年アメリカ大統領選挙

第1回★アメリカ大統領選挙の仕組み

選挙人制度による間接選挙

今月号から1年間、大統領選挙の基本知識と今回の選挙の焦点について説明していきます。どうぞよろしく。まずは大統領選挙のプロセスです。

大統領選挙は11月に行われますが、1月から6月にかけては民主党と共和党の予備選挙があります。予備選挙では各州で党員が投票(党員以外が投票できる州もある)し、勝った候補が9月の党大会で公認候補に指名されます。

本番の大統領選挙では、各州の人口に応じて選挙人(Electoral College)が割り当てられます。例えば、最も多いカリフォルニア州は55人、最も少ないモンタナ州などは3人です。各州、一般投票で最も多い票を集めた候補が、その州の選挙人の票すべてを獲得。全州での得票結果で、選挙人票の総数が最も多かった候補が、大統領に選出されます。

この複雑な選挙人制度は、識者が一般有権者を代表して選挙人として投票し、直接民主主義の弊害を防ぐことが本来の意図であったのですが、今では形だけのものになっています。そんな中、2000年の大統領選挙では、一般投票の得票数で上回ったアル・ゴア候補が、選挙人票数で勝ったジョージ・ブッシュ候補に敗れる事態が発生。これでは民意が選挙結果に反映されないということで、その原因となった選挙人制度の廃止が唱えられたのですが、未だに実現していません。

巨額のマネーが動く

アメリカの大統領選挙の特徴としては、とにかくそのスケールが大きいことがあげられます。各候補の出馬表明が出始めるのが本選の約2年前。予備選挙まで各候補は全国的なキャンペーンを展開し、党大会後は、党をあげての総力戦が展開されます。

また選挙資金の面では、2004年の大統領選挙でブッシュ陣営が2.7億ドル、ジョン・ケリー陣営が2.4億ドルを使い、予備選挙でも各候補が巨額の資金をつぎ込みました。特にお金が掛かるのがテレビCMで、30秒のCMをたった1回放送するだけで1万数千ドルにもなることがあるそうです。

日本の自民党総裁選挙は、長くてもせいぜい2カ月(前回は国会会期中だったので、わずか5日間でした)で、選挙費用も数億円程度らしいですから、大きな違いです。アメリカでは、予備選挙の活動期間が長期化し、選挙費用も高騰しているため、大統領選挙のスケールはさらに拡大していくと思われます。

来月号では、民主党と共和党の違い、今回の大統領選挙候補者の顔ぶれについて紹介します。

スーパー・チューズデーを制するのは誰?
1月3日にアイオワ州で最初の予備選が行われ、公認候補をめぐる激しいサバイバル・レースの火ぶたが切られました。1月15日時点で、民主党はバラク・オバマ上院議員1勝(アイオワ州)、ヒラリー・クリントン上院議員1勝(ニュー・ハンプシャー州)、共和党はマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事1勝(アイオワ州)、ジョン・マケイン上院議員1勝(ニュー・ハンプシャー州)、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事1勝(ミシガン州)。なお、ミシガン州での民主党予備選の投票結果は、党本部によって無効とされてしまいました。2月5日には20以上の州が一斉に予備選を行う「スーパー・チューズデー(Super Tuesday)」が予定されており、予備選最大の山場になると予想されています。 

第2回★予備選挙の候補者

ベトナム戦争の英雄、マケイン

今回は予備選挙の候補者の顔ぶれを見てみましょう。

まず共和党から。ジョン・マケイン上院議員は、海軍士官として参加したベトナム戦争で5年間の捕虜生活を耐えたことで、解放後は英雄扱いを受け、政治家に転身しました。87年からアリゾナ州の上院議員を務めています。中道的な政策を取り、無党派層にも人気です。

牧師の資格も持つマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事は、非常に保守的な社会政策を掲げ、支持基盤はキリスト教右派などの保守勢力です。ロン・ポール下院議員は、所得税の撤廃やIRS(内国歳入庁)の解体など極端な経済政策やイラクからの早期撤退を唱え、異彩を放っています。

ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事や、映画俳優のフレッド・トンプソン氏、同時多発テロ事件で強いリーダーシップを発揮したルディー・ジュリアーニ前ニューヨーク市長らは、すでに脱落。ロムニー候補は、財界での人気と潤沢な資金が武器でしたが、政策に一貫性を欠いたのが敗因。ジュリアーニ候補は、当初は本命と目されていましたが、予備選の序盤を捨てる戦術が裏目に出て、撤退を余儀なくされました。

「経験」のヒラリーと「変化」のオバマ

次に、民主党の有力候補を見てみましょう。元々弁護士だったヒラリー・クリントン上院議員は、夫で元アーカンソー州知事のビル・クリントン氏が大統領に当選し、ファースト・レディーとなりました。01年からニューヨーク州の上院議員を務めています。もし当選すれば、元ファースト・レディーの女性大統領誕生という異例の結果となります。政策面で最も力を入れているのは、ファースト・レディー時代から提唱している国民医療保険の導入です。

史上初の黒人大統領を目指すバラク・オバマ上院議員もまた、支持を広げています。オバマ候補はケニア移民の父と白人の母を持ち、ハーバード大学を卒業後、弁護士として活躍し、イリノイ州の上院議員になった立身出世の人です。政策面で目立つのは、イラク戦争からの早期撤退の実現と国内労働者の保護。黒人カリスマTV司会者、オプラ・ウィンフリー氏の強力な支援を受け、特に若者の間で支持層が拡大しています。

このほかに、04年の大統領選挙で民主党の副大統領候補だったジョン・エドワーズ元上院議員や、ビル・リチャードソン現ニューメキシコ州知事、ジョー・バイデン上院議員などがいましたが、すでに撤退を表明しました。

来月号では、共和党と民主党の違いについて説明します。

民主党の候補者選びは大混戦の様相

2月5日のスーパー・チューズデーでは20以上の州で予備選が行われ、共和党はマケイン候補が9つの州で勝利し、候補者指名に大きく前進。民主党はオバマ候補が12の州で勝利しましたが、クリントン候補がニューヨークなどの大票田を含む8つの州で勝利したため、ほぼ互角の結果となり、決着は今後に持ち越しに。このほか、民主党のエドワーズ候補、共和党のロムニー候補とジュリアーニ候補などの有力候補らが撤退を表明しました。

ちなみにワシントン州では2月9日に党員集会での投票が行われ、オバマ候補(民主党)とマケイン候補(共和党)が勝利。民主党の候補者選びは、これまでにない接戦の様相を見せています。

第3回★共和党と民主党の違い

日米関係重視の共和党
共和党と民主党、両党の最大の違いは、保守かリベラルかという点です。
保守的な共和党の政策は、税率を下げる代わりに、政府の規模と財政支出を最小限にし、市場における自由競争を促進する「小さな政府」を目指すもの。政府の干渉や福祉政策への負担増を嫌う、高所得者層(特に白人マジョリティー)と大企業が支持母体です。
社会政策の面では、近年、キリスト教右派の影響力が拡大したことで、中絶廃止や同性結婚の禁止など、保守的な政策を推進し、郊外や農村部の住民から強い支持を受けています。
外交的には、国際機関をあまり重視せず、単独行動に基づいた一国主義を取る傾向があり、海外から批判されることも。また、日本を戦略的パートナーとして重要視し、友好的な日米関係を強調する知日派が多くいます。
イラク戦争に対して、共和党の大統領候補であるジョン・マケイン上院議員は、現ブッシュ政権の安全保障政策を評価し、継続するという意向です。

国内の社会福祉に力を入れる民主党
これに対してリベラル勢力である民主党の経済政策は、政府の役割と支出を増やして、社会福祉を充実するべきだとする「大きな政府」を目標とし、所得格差の解消や労働者の権利保護も重要視しています。社会政策では、人種差別の撤廃、女性や同性愛者の権利向上などの問題に敏感で、都市部住民、低所得者、労働組合、マイノリティーなどが主な支持層です。
外交政策は、国連などの国際機関との協調行動を基にした多国間主義。日米関係はさほど重視しておらず、むしろ中国を重要なパートナーと見なす向きがあります。人権外交を掲げていますが、国連の承認を得ない軍事行動を取ることも。最近は安全保障政策に関して、共和党が好戦的で民主党が反戦主義だとされることがあるものの、これは正確ではなく、必要とあれば武力行使を辞さないのは両党に共通しています。
民主党の大統領候補であるヒラリー・クリントン上院議員を含め、当初イラク戦争に賛成していた民主党議員も多数。また、第二次世界大戦、ベトナム戦争、ユーゴ空爆などは民主党政権下で起きました。同じく民主党の候補、バラク・オバマ上院議員も、イラク戦争には一貫して反対していますが、アフガニスタンでの武力行使の必要性は認めています。前述した共和党のマケイン候補といい、誰が大統領になっても、アメリカの戦争はすぐには終わりそうにありません。
来月号では、今年の大統領選挙で注目される主な問題について説明します。

ヒラリーとオバマの戦いはまだまだ続く
3月4日にテキサス州、オハイオ州などの大票田を含む4州で予備選挙が行われました。この結果、連敗したマイク・ハッカビー候補が撤退を表明。マケイン候補が共和党の候補者指名を確実にしました。民主党のクリントン候補にとっては、負けると撤退必至という厳しい戦いだったものの、結果的には3州で勝利し、オバマ候補との勝負は振り出しに。次は4月22日のペンシルバニア州での予備選挙が大きな勝負となりますが、民主党の候補者争いの決着は、まだまだ先になりそうです。投票結果が無効とされたフロリダ、ミシガン両州では、民主党の予備選挙のやり直しが議論されています。もし、やり直しの投票が行われることになれば、候補者争いに大きな影響を与えそうですが、実現の可能性は低そうです。

第4回★今年の選挙で注目される主な問題

長引くイラク戦争
2008年大統領選挙で争点となっている問題には、大まかに、イラク戦争、医療保険、景気対策、環境問題、移民問題などがあります。最大の争点は、開戦から5年が経過したイラク戦争です。独裁者、サダム・フセイン元大統領を打倒し、イラクに自由と民主主義をもたらして、中東の安定に寄与するというのが本来の目的でした。しかし、フセイン政権は崩壊したものの、民族間の抗争やテロ攻撃が続き、民主化の遅れと治安の悪化が問題になっています。アメリカがイラク戦争に費やした戦費は5,000億ドル以上に達し、アメリカ軍の死者も4,000人を超え、アメリカでは民主党を中心に早期撤退を求める声が多数派です。イラク戦争をどういった形で終結させるか、アメリカ軍をいつ撤退させるかで意見が分かれています。
各候補が、イラク戦争についてどのような政策を主張しているかについては、次号で詳しく解説します。

医療・景気対策、地球温暖化や移民問題の対処
第2に、アメリカにおける医療費と保険料の高騰が挙げられます。医療保険を持たないアメリカ人は2005年時点で4,700万人と言われ、貧困の原因にもなっているのが現状です。病気にかかっても病院に行けなかったり、巨額の治療費の支払いで家や財産を失ってしまったりするケースが増えています。こうした事態を防ぐために、国民健康保険制度を導入するかどうかについて議論されているところです。
第3に、景気対策。原油価格の高騰やサブプライム・ローン問題などによって、現在アメリカ経済の景気が急激に後退しています。今後さらなる悪化が予想される経済情勢に対応するために、公的資金の投入、企業や個人向けの減税、社会保障の充実、国内産業の保護など、さまざまな対処が求められています。
第4には、地球温暖化など地球規模の環境問題。事態が深刻化する中、アメリカも抜本的な対策を取らざるを得ない状況ですが、現ブッシュ政権は温暖化対策には非常に消極的。しかし、今回の大統領選では、温室効果ガス削減や代替エネルギーの研究開発などに向けた対応策が挙がっています。
最後に、中南米などからの移民問題。移民がアメリカ社会のあらゆる面で重要な役割を果たしている一方で、不法に入国する移民の増加による治安の悪化や失業率の増加が懸念されています。移民に対して厳しい規制を設けるのか、それとも移民に寛容な措置を取るのか。何らかの対策が講じられる必要があります。

ヒラリー、ペンシルベニア州予備選制す
4月22日に行われたペンシルベニア州の予備選では、当初から優勢が伝えられていたヒラリー・クリントン候補が、得票率10ポイントの差をつけ、勝利を飾りました。しかし、ここ1カ月の間に、ニューメキシコ州知事を含む特別代議員32人がバラク・オバマ候補支持を表明したので、代議員獲得数でオバマ候補が大きくリードした状況は変わっていません。5月にはオレゴン州を含む5つの州で予備選が予定され、白熱した争いが続きますが、民主党候補者選びの長期化による党内の分裂が、本選に悪影響を与えるのではないかと懸念されています。一方、早い段階で候補者を決定した共和党では、ジョン・マケイン候補が着々と票固めを進めています。

第5回★最大の争点、イラク戦争

イラク戦争とは
今回の選挙でいちばんの争点となっているのは、混迷が続くイラク戦争です。この戦争が勃発したきっかけは、01年の同時多発テロを起こしたテロリスト集団アル・カイダと、イラクの独裁者だったサダム・フセイン前大統領のつながりが問題視されたこと。アメリカはアル・カイダの拠点であったアフガニスタンに侵攻したものの、同様にイラクにも攻撃すべきという声が上がりました。そして、イラクでの大量破壊兵器製造疑惑。中東地域の安定を築くため、イラクに民主主義政権を樹立することを目的として、03年3月に攻撃が開始されました。
その他の理由として、イラクの石油埋蔵量が世界第3位であることや、アメリカ国内で強い影響力を持つイスラエル・ロビーの関与も指摘されています。フセイン政権は崩壊したものの、宗派間・民族間の抗争やテロ攻撃が続き、民主化の遅れと治安の悪化が問題になっているのが現状です。5年間でイラク戦争に費やした戦費は5,000億ドル以上に膨れ上がり、米軍の死者も4,000人を超えていることから、撤退を求める声が高まっています。

各候補の主張
共和党のジョン・マケイン候補は、現ブッシュ政権の対イラク政策の継続を支持し、イラクにおける民主化と中東の安定を実現するまでは、撤退すべきではないと主張しています。
米軍がイラクから撤退すれば、アメリカを敵視する隣国のイランやアル・カイダの影響力強化につながり、アメリカ及び中東の安全が脅かされる。こうしたマケイン候補の考え方は、共和党支持者に受け入れられています。また、中東におけるアメリカの影響力拡大を望む石油業界やイスラエル・ロビーとの関係も深いことから、ブッシュ政権と同様に積極的な軍事介入政策を取るとの見方が大勢です。
一方、民主党のバラク・オバマ、ヒラリー・クリントン両候補は、ブッシュ政権が攻撃の理由として挙げた大量破壊兵器製造やアル・カイダとの関係が誤りであったことから、イラク戦争の正当性を疑問視し、段階的撤退を訴える主張。しかし、両名共に反戦主義者というわけではなく、アフガニスタンなどでのテロ集団に対する軍事力行使の必要性は認めています。
オバマ候補は、開戦時から一貫してイラク戦争に反対し、ブッシュ政権の政策を強く非難。同じく民主党のクリントン候補も、現在はイラク戦争反対の姿勢を取っていますが、開戦時にはイラク侵攻を認める法案に賛成していました。それをオバマ候補から厳しく攻撃されており、クリントン候補にとっては頭の痛い問題だと言えます。

民主党の候補者、決定か
長期化した民主党の候補者選びもようやく決着がつきそうです。5月6日の予備選挙では、ノースカロライナ州でオバマ候補が圧勝し、インディアナ州ではクリントン候補がわずかの差で勝利。この結果、両候補の代議員獲得数の差がさらに広がり、新たにオバマ候補を支持する特別代議員も増えたことで、オバマ候補の民主党候補者指名がほぼ確実となりました。クリントン候補は最後の予備選が行われる6月3日まで撤退しないことを表明しているものの、オバマ候補はすでに本選の相手である共和党のマケイン候補を視野に入れた選挙戦を始めています。しかし、クリントン候補の支持者が、本選でオバマ候補に投票しないという事態が起きるのではという懸念も消えていません。

第6回★経済政策と移民問題

アメリカ経済が落ち込んだ原因

今回の選挙で、イラク戦争に次いで重要な問題となっているのは急速に冷え込み始めたアメリカ経済をどう立て直すかという問題です。アメリカ経済の停滞の原因は、主にふたつあります。ひとつは、原油価格の高騰。これは、インドや中国などにおける需要の急増、中東での政治不安、ドル安などが主な要因です。これによってガソリンや石油製品の値段が上昇し、企業活動や家計を圧迫しています。

ふたつめは、昨年深刻化したサブプライム・ローンの問題。これは、住宅への融資を証券化することによって、信用度の低い借り手への融資を可能にするというものでした。しかし、返済ができなくなった人々が、家を差し押さえられるケースが急増し、銀行や証券会社にも巨額の損失が生じています。経済の停滞によって、失業率も増加。そして、アメリカ経済に密接に関わっている移民についても議論されています。特に、最近増え続けている不法移民をどう扱うかが問題となっているところです。

各候補のスタンス

共和党のジョン・マケイン候補は、経済対策として現ブッシュ政権が行った減税政策を支持し、その恒久化を訴えています。また、法人税を現行の35%から25%にカットするなど、主に民間企業をターゲットとした減税政策によって景気回復を図る方針です。自由貿易協定(FTA)の締結にも前向きで、自由貿易を拡大することで、経済成長を促し、雇用も増えるとしています。サブプライム・ローンで家を失った人々に対する政府援助には否定的です。

民主党のバラク・オバマ候補も景気回復のために減税政策が必要だとしていますが、ブッシュ政権が進めた減税政策は高所得者を優遇するものだと反対しており、労働者、老人、低所得者向けの減税を訴えています。また、マケイン候補とは対照的に、FTAの締結には強く反対。すでに締結されているFTA(NAFTAなど)についても、今後修正が必要であるとしています。これは、経済のグローバル化が国内労働者の雇用を奪ってしまうという考え方に基づくもので、自由貿易には強く反対しています。さらに、サブプライム・ローンで苦しんでいる人には、積極的に資金援助を与えるという政策です。

移民問題に関しては、両候補の政策に大きな違いは見られません。国境警備予算の増額、メキシコとの国境における柵の建設などが必要という意見ですが、保守層が主張するように不法移民を排除するのではなく、彼らが市民権を取得することを認めるべきという意見です。マケイン候補は不法移民問題に対してリベラルな姿勢を取っており、共和党支持者の保守層に批判されています。

副大統領候補は誰になる?
6月3日にサウスダコタ州とモンタナ州で最後の予備選が行われ、オバマ候補が民主党の代議員数の過半数を獲得しました。この結果を受けて、ヒラリー・クリントン候補は撤退宣言をし、オバマ候補を支持することを表明。これで、共和党のマケイン候補と民主党のオバマ候補が11月の本選で争うことになりました。6月上旬に行われた世論調査では、オバマ候補の支持率がマケイン候補の支持率を小差でリードしているという結果が出ています。今後は、両候補が副大統領候補(ランニングメート)に誰を選ぶかが注目されるところです。副大統領候補は、選挙戦で大統領候補の弱点を補う重要な役割を果たすため、両候補とも慎重に人選を行っています。。

第7回★医療保険と環境問題に対する各候補のスタンス

公的保険は拡大すべきか?

今回の選挙の争点となっているものとして、医療保険と環境問題があります。
まず医療保険ですが、アメリカには国民全員に適用される公的保険がなく、一般の人々は民間の医療保険に加入しなくてはなりません。しかし、保険料が高額であるため、医療保険に加入していない人は4,700万人(2005年時点)にも上ると言われています。昨年話題になったマイケル・ムーア監督の「Sicko」という映画でも取り上げられているように、世界一の経済大国なのに病院にも行けない人達が増えているのが現状です。

民主党のバラク・オバマ候補は、こうした状況は深刻な問題だとし、すべての子供、そして民間の保険に加入できない人全員に、政府の公的保険を適用するべきと主張。公的保険拡大の財源は、富裕層への増税でまかなうとしていますが、これには富裕層からの強い反対が予想されます。

共和党のジョン・マケイン候補は、健康保険はあくまで民間の保険会社が提供すべきで、公的保険拡大には反対しています。現行の福祉制度の改善と減税を行うことで、すべての国民が民間の医療保険に加入することができるという意見です。マケイン候補の公的保険拡大への反対姿勢は、医療・保険業界から多額の政治献金を受けているからだという見方もあります。

温室効果ガス削減に向けて

さらに地球温暖化など、地球規模の環境問題が深刻化していますが、現ブッシュ政権は、温室効果ガス(GHG)削減や石油に代わる代替エネルギーの開発などに極めて消極的です。こうした背景には、現政権と石油業界とのつながりがあるとも。しかし、同じ共和党のマケイン候補は、GHG削減には積極的で、石油消費量削減の対策として原子力発電所の建設を訴えています。このようにマケイン候補は、前号で取り上げた移民問題と同じく、環境問題でもブッシュ政権とは一線を画した立場です。しかし、ブッシュ政権同様、GHG削減を目指す国際条約(ポスト京都議定書)の批准には、中国などの途上国が含まれず不公平だとして反対しています。

オバマ候補は、各企業が排出できる温室効果ガスに上限を設けることで、2050年までに1990年時の排出量の80%を削減することが可能とする主張です。さらに自動車の燃費基準を2020年までにより厳しいもの(40マイル/ガロン程度)にする、代替エネルギーの研究開発への政府支援、植林・森林保全の促進などを訴えています。しかし、企業の協力を得ることができるかどうかは未知数です。

優勢のオバマ候補にマケイン候補が猛追
白熱した長い予備選が終了して1カ月ほど経ちましたが、党大会(民主党は8月25日~28日、共和党は9月1日~4日)までは目立ったイベントは行われないので、大統領選の盛り上がりも小休止といった感じです。
しかし、マケイン、オバマ両候補は精力的に各地を回り、票固めを行っています。7月に実施された世論調査では、オバマ候補がマケイン候補を小差でリードしているという結果が出ていますが、前月に比べると差が縮まってきており、マケイン候補が猛追していることがうかがえる情勢です。
ここのところ、アメリカ経済の停滞がさらに深刻化しているというニュースが報じられています。各候補は今後、以前に増して、より具体的な対策の提示を要求されることになるでしょう。

第8回★アメリカ政治の分極化

分極化が意味するものとは
今号のテーマは、近年のアメリカ政治における最も重要な傾向のひとつである「分極化」が、大統領選挙に与える影響についてです。
分極化とは、ある国の政治が、極端にかけ離れた立場を取るふたつの勢力に分かれてしまうことを言います。アメリカの場合は、リベラルと保守という、非常に異なった政策を支持する勢力に二分化。昔から民主党=リベラル、共和党=保守という大まかな特色があったのですが、両党とも比較的中立的な立場を取っていました。しかし、近年その政策の違いが顕著になっています。
分極化の問題点は、政党間での合意がなかなか得られず、その結果、政治が硬直化してしまうことです。例えば、中絶や同性結婚の問題では、民主党と共和党の間に大きな隔たりがあり、妥協点が見つからず、政策決定ができなくなってしまうケースがよくあります。
もうひとつの問題は、中立的な立場にいる有権者を代表する政治家が少なくなっていることです。有権者のほとんどは、それほど極端な立場を取らない人々ですが、分極化した状況では、そうした人々の選択肢が限定されてしまいます。

両候補の政策への影響
では、今回の大統領選挙の候補者はどうでしょうか。これまでの号で両候補の政策スタンスを紹介してきましたが、やはり分極化の影響が色濃く現れていると言えるでしょう。
民主党のバラク・オバマ候補は、党内でも比較的リベラル傾向が強い政治家で、特に経済問題では極端にリベラルな政策を打ち出しています。例えば、オバマ候補が唱える自由貿易政策の抜本的な見直しや、国内労働者への手厚い保護、財政難の中での大幅な社会福祉拡大などは、一般有権者には受け入れにくい点です。
共和党の中ではリベラル寄りと目されるジョン・マケイン候補の政策も、保守色の強いものです。特に、米軍のイラクでの長期駐留も辞さないという姿勢は、イラク戦争の早期解決を望む多くのアメリカ人の意見とかけ離れています。
こうした分極化の要因のひとつは、キリスト教右派(保守)や労働組合・人権団体(リベラル)といった極端な立場を取りがちな政治団体の影響力が、政党内において急激に拡大したことです。その結果、中立的な立場の有権者は、自分の意見に近い候補者がいないと感じ、政治に対する失望感が生まれる恐れがあります。
アメリカ政治の分極化は収まりそうにありませんが、次の大統領には、二分化しつつあるアメリカ社会をまとめ上げる強いリーダーシップが期待されています。

マケイン候補、逆転して優勢か!?
本誌が出るころには、両党で党大会(民主党8月25日~28日、共和党9月1日~4日)が開かれ、各党の大統領候補が正式に決まるでしょう。党大会では、いよいよ副大統領候補も指名されます。オバマ候補は7月末、中東や欧州などを歴訪し、海外での知名度の高さと外交能力をアピール。メディアの注目もオバマ候補に集中していますが、8月初めの世論調査ではマケイン候補が逆転したとする調査もあり、これまでオバマ候補がリードしていた状況が一転してきました。今後、数回行われるテレビ討論会で両者が直接対決する機会も増え、党大会が終われば、11月の本選に向けて本格的な選挙戦が繰り広げられます。

第9回★ネガティブ・キャンペーン

大統領選挙の結果を左右する影響力
いよいよ両党の正副大統領候補が選出され、選挙戦も終盤に入りました。今回は、大統領選挙におけるネガティブ・キャンペーン(中傷戦略)がテーマです。
本来の選挙活動では、候補者自身の政策や人柄をアピールして、有権者の支持を集めようとします。これとは逆に、相手候補の欠点や過去の失敗を指摘したり、時には映像による印象操作といった手法を使ったりして、相手候補の支持率を下げることで選挙戦を優位に進めようとするのが、ネガティブ・キャンペーンです。
アメリカ大統領選挙におけるネガティブ・キャンペーンの歴史は古く、中には選挙結果に決定的な影響を与えたものもありました。有名な例には、1964年の大統領選挙で民主党のリンドン・ジョンソン候補が流したテレビCMがあります。このCMでは、幼い少女の映像と共に「3・2・1……」のカウントダウンの声が流れ、核爆弾が爆発する映像が登場しました。対抗馬であった共和党のバリー・ゴールドウォーター候補が大統領になれば、核戦争が起きかねないという印象を与え、恐怖心をあおることに成功。当時は、キューバ危機などで米ソの緊張が高かった時期で、このCMは絶大な効果がありました。
さらに、1988年の大統領選挙では、共和党のジョージ・ブッシュ候補が、民主党のマイケル・デュカキス候補を攻撃したCMの例があります。マサチューセッツ州知事だったデュカキス候補に仮釈放を認められた受刑者が、再び凶悪犯罪を犯したことを強調したCMでした。死刑廃止論者だったデュカキス候補が、犯罪者に甘いという印象を有権者に植え付け、序盤でリードしていたにもかかわらず大敗した原因のひとつとされています。

マケイン候補による中傷広告
今回の選挙でも、すでにいくつか中傷広告が登場しました。予備選挙中はヒラリー・クリントン候補がバラク・オバマ候補に対して行いましたが、最近はジョン・マケイン候補がオバマ候補に対して行っています。
マケイン候補の中傷広告では、オバマ候補はブリトニー・スピアーズやパリス・ヒルトンのようなセレブ(有名人)だが、指導者としてはふさわしくないというメッセージを流しました。さらに、民主党の副大統領候補に指名されたジョセフ・バイデン氏が、予備選挙中にオバマ候補を批判した時の映像を流し、両者のミゾを強調しています。
オバマ候補は、これまでほとんど中傷広告を行わない戦略をとっていますが、最後までその姿勢を貫くのか、それとも終盤まで温存しているのか、注目されるところです。選挙戦の終盤では、ちょっとしたきっかけで結果が左右されることもあるので、ネガティブ・キャンペーンから目が離せません。

副大統領候補が決定!
民主党・共和党両党の党大会が開催され、オバマ候補、マケイン候補がそれぞれ正式に大統領候補として指名されました。そして副大統領候補に選ばれたのは、民主党がバイデン(上院議員・デラウェア州)、共和党がサラ・ペイリン(アラスカ州知事)の両氏でした。バイデン候補は、民主党の重鎮。外交問題に精通した人物で、外交経験が浅いと見られているオバマ候補には頼もしいパートナーです。一方、ペイリン候補は44歳の女性州知事。マケイン候補に欠けている若さと保守的姿勢を買われ、クリントン氏を支持した白人女性へのアピールを期待されています。対照的なふたりの副大統領候補が、選挙にどのような影響を与えるかに注目です。

第10回★対日政策

共和党のほうが日本寄り?
投票日が間近に迫ってきましたが、今月は、両候補の対日政策についてお話しします。
アメリカと政治的・経済的に緊密な関係にある日本にとって、日米関係に大きな影響を与える大統領選の結果は、非常に大きな関心事です。しかし今回の大統領選では、日本に関する話題は全くと言っていいほど登場していません。これは、金融危機やイラク問題などに注目が集まっていることと、現在、日米関係が良好であることが主な理由と言えます。だからと言って、大統領選が日米関係に影響を与えないというわけではありません。
一般的に、共和党のほうが日本にとって友好的な政策を取ると考えられており、日本政府も共和党関係者とのつながりは強いものの、民主党関係者とのパイプは少ないと言います。民主党のクリントン政権では、日本への風当たりが強く、日本の重要性を軽視した姿勢は「ジャパン・パッシング(日本無視)」と評されました。今回の大統領候補は、対日政策に直接は言及していませんが、両候補の過去の演説などから推測できます。

今回の各候補の見方はどうか
共和党のジョン・マケイン候補の対日政策は、ブッシュ政権のものに近いですが、それ以上に、日本の国際社会における積極的な貢献を求めるでしょう。過去の演説の中で、マケイン候補は、同盟国としての日本の重要性を強調したうえで、日本が対テロ戦争などにおける軍事的な貢献に、より積極的に取り組むべきだと述べています。そのため、日本の国連安保理常任理事国入りを支持しており、さらに日本が軍事的な国際貢献を行うのに足かせとなる憲法を改正し、「普通の国」となることを要求してくるでしょう。経済面でも、ブッシュ政権同様、友好的な政策を取ると考えられますが、自由貿易の観点から、日本の農業市場開放などの点では、引き続き強い圧力を掛けてくると思われます。
民主党のバラク・オバマ候補は、日本に対して友好的でなかったビル・クリントン元大統領とは違うようです。政策顧問にも知日派が多く、日米関係を軽視するような姿勢は見られません。むしろ、人権問題などを抱える中国に対する風当たりが強まるという見方が有力です。また、オバマ候補は、日本企業の多くが積極的に環境問題に取り組んでいる点や、アメリカ国内に工場を建設し、雇用増に貢献している点を高く評価しています。しかし、国内産業・労働者の利益に敏感なため、海外への雇用流出や安い輸入品の増加に歯止めを掛ける政策を支持しており、日本企業が難しい対応を迫られることがあるかもしれません。

金融危機はマケイン候補に逆風!?
大統領選の投票間近に発生した出来事が、選挙結果を左右したことが過去にも何度かありましたが、今回もアメリカ発の世界的な金融危機が発生し、大統領選に大きな影響を与えています。両候補とも経済は専門ではありませんが、特にマケイン候補は経済が苦手と見られており、しかも市場の規制緩和を主張していました。金融市場における適切な規制の欠如が招いた今回の事態は、マケイン候補には非常に不利なものになっているようです。10月半ばの世論調査では、オバマ候補が10ポイント以上リードしているという結果が出ています。しかし、まだ誰に投票するか決めていない有権者も多くいますので、このような人達にどれだけアピールできるかが勝負のカギとなるでしょう。

第11回★オバマ政権、始動

圧勝に終わった大統領選挙
11月4日に行われた大統領選挙では、バラク・オバマ候補が予想以上の圧勝で、ジョン・マケイン候補を下し、第44代大統領に当選。投票前はフロリダ、バージニア、ペンシルベニアなどの大票田で両候補が接戦を演じていて、これらの州の行方が勝敗を左右すると言われていましたが、ふたを開けてみれば、重要な州のほとんどをオバマ候補があっさり制するという結果になりました。
今回の選挙は、いろいろな面で歴史的な選挙でした。まず、アメリカ建国以来初の黒人系大統領が誕生したこと。1964年に人種差別を禁止する公民権法が作られましたが、依然として人種間の格差が問題となっています。今回の結果は、マイノリティーに大きな希望を与えるものでした。また、いつもは投票率の低いアメリカの選挙ですが、多くの低所得層や若者が投票所に足を運んだことで、非常に高い投票率を記録。そして、連邦議会でも民主党が上院・下院の両方で記録的な大勝利を収めました。政権交代によって、アメリカの政策が大きく変革することが予想されます。

アメリカの大統領ができること
さて、世界最強の軍事力と世界最大の経済力を持つ国の頂点に立つアメリカの大統領ですが、果たして、どういった職務と権限を持っているのでしょうか?
まず、大統領には国家元首としての職務があります。大統領夫人はファースト・レディーと呼ばれ、大統領の家族全体がアメリカの象徴的な存在となり、外交でも重要な役割を果たすのです。これは、日本の皇室や英国の王室の存在と似ています。
そして、大統領は、行政府の長、つまり連邦政府運営の最高責任者です。連邦政府の長官、裁判官、大使などの任命権を持つと同時に、アメリカ軍(陸・海・空・海兵隊)の最高司令官の立場にあります。この辺は、日本の首相と似ていますね。しかし、以下の点では大きく異なります。
まず、独自の判断で大統領令という特別な法令を出すことが可能です。また、議会が可決した法案に対する拒否権もあります。これは、大統領に拒否されると、議会の両院で2/3以上の賛成を得なければ、廃案となってしまうというものです。こうした権限は、日本の首相にはありません。

日本の首相との違いは?
では、首相と大統領のどちらの権限が強いのかというと、これは難しい問題です。直接選挙で選ばれる大統領は、4年間の任期があり、途中で辞任することはほとんどありません。拒否権を使って議会に圧力をかけることも可能です。また、日本の首相は大臣・副大臣・政務次官を任命しますが、大統領の任命権はより広範囲に及ぶので、政権交代が起こると、連邦政府の省庁などで大規模な人事異動が起こります。
大統領制では、大統領とは別の党が議会を支配することもあります。例えば、現在のブッシュ大統領は共和党ですが、議会を支配しているのは民主党です。こうした状態は、日本では起こりません。また、首相は解散権を使って議会運営を有利に運ぶこともできますが、アメリカの大統領は解散権を持っていません。というわけで、政治学者の間でも意見が分かれる点です。
オバマ次期大統領は、民主党による議会の多数支配、高い支持率という強い指導力を発揮する条件がそろっています。徐々に実体経済にも影響を与え始めた金融危機と、混迷が続くイラク・アフガン情勢にどう対応するか。新大統領の手腕が期待されています。

最終回★選挙総括と米国政府の今後

金融危機打開へ向けた国民の選択
この連載も今回で最後です。1年間ご愛読ありがとうございました。最終回では、選挙の総括と共に、オバマ政権のメンバーについてお話しします。
「選挙は水物」だと言われ、予想が難しいものですが、今回の選挙もやはり意外性の高いものでした。予備選挙前に大本命と目されていたのは、共和党はルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長、民主党はヒラリー・クリントン上院議員。中道派で“一匹狼”のジョン・マケイン上院議員と黒人系候補のバラク・オバマ上院議員は、有力候補ではあったものの、最終的にこのふたりの対決になると予想した人は少なかったでしょう。
予備選はかつてないほど熾烈な争いとなり、特に民主党はクリントン、オバマ両候補が最後まで激しく候補者指名を争いました。本命候補の主な敗因としては、ジュリアーニ候補の場合、ニューハンプシャー州など予備選の序盤を無視する作戦が完全に裏目に出たこと、クリントン候補は従来型の組織を中心とした選挙戦に依存したため、オバマ候補のように若者票や浮動票を取り込めなかったことが挙げられます。
本選の序盤では、オバマ、マケイン両候補の接戦が伝えられましたが、勝負を決定付けたのは、10月頃に急速に深刻化した金融危機。それまで重要議題とされてきたイラク戦争、医療保険、移民問題などへの関心が薄れ、危機に瀕したアメリカ経済をどう立て直すかという1点に注目が集まりました。
マケイン候補は、経済分野を苦手としていたうえ、いっそうの規制緩和や市場自由化を唱えていたため、金融規制の不備が引き金となった今回の金融危機は大きな痛手に。また、副大統領候補のサラ・ペイリン・アラスカ州知事の適性が疑問視されたこともあり、オバマ候補の圧勝という結果につながりました。

オバマ政権の顔ぶれ
オバマ次期大統領は、すでに次期政権の閣僚の人選を発表。日本の外務大臣にあたる国務長官には、予備選で激しく争ったヒラリー・クリントン氏を指名しました。クリントン氏を政権に取り込むことで、党内の融和を強調する狙いがあるようです。しかし、両者の外交政策には相違点があるので、どのような政策を進めるのかが注目されます。
国防長官は、ブッシュ政権のロバート・ゲーツ現長官留任へ。政権交代をしたのに、大臣が留任することは日本では考えられませんが、イラクの治安改善をもたらしたゲーツ長官の手腕が高く評価された結果でしょう。商務長官には今回の大統領選にも出馬したビル・リチャードソン・ニュー・メキシコ州知事を指名しました。選挙戦撤退後、オバマ氏支持で貢献した功績に対する論功行賞的な人事だと言えます。
金融危機への対応に大きな役割を果たす財務長官には、ニューヨーク連邦準備銀行のティモシー・ガイトナー総裁が指名されました。ガイトナー氏は47歳の若さですが、財務分野での経験は豊富で、日本での留学・大使館勤務経験もあり、知日派だと言われています。退役軍人長官には、日系3世のエリック・シンセキ元陸軍参謀総長が指名されました。
いよいよ、1月20日に就任式を迎えるオバマ大統領ですが、未曾有の金融危機に加え、イラクとアフガンでの戦争など、かつてないほどの難題を抱えた新政権の船出となりそうです。選挙戦で発揮したような強いリーダーシップで、経済の立て直しと国際社会の安定化を実現してくれることが期待されます。

HiroSasada:1974年生まれ、熊本県出身。滞米歴15年。ワシントン大学大学院政治研究学科博士課程修了のPh.D.(政治学)で、専門は国際政治経済と比較政治。非常勤講師として、ワシントン大学で日本政治や国際政治経済の授業を教えた経験を持つ。現在も同大学で研究プロジェクトに携わる。

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