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アート・セラピーとはどんなセラピーですか |
< 回答者|ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー 高田ディル峰子さん>
アメリカのアート・セラピーは、1950年代にナムバーグとクレーマーというふたりの女性によって始められたと言われています。ナムバーグは、クライアントの描く絵の中に表れる、自分では自覚していない潜在意識下の悩みや苦しみの表現を通じてカウンセリングを行いました。クレーマーは、オーストリアからナチを逃れてきた人で、言葉に頼らずアートの制作をすること自体がセラピーになると考えました。
それから50年経った今、アート・セラピーは自閉症やトラウマ、がんの闘病、アルコールや麻薬依存、心療内科の治療などに用いられるようになり、アート・セラピストは病院やナーシングホーム、学校など、さまざまな分野で活躍しています。
アート・セラピーとアート(美術)のもっとも大きな違いは、最終的に完成した作品ではなく、制作する過程を重視する点です。例えば、毎日ストレスがたまるばかりでイライラし、人に当たり散らしてしまうけど、どうすればいいかわからないとします。その場合、ストレスのイメージを柔らかめのコンテなどを使って紙になぐり描きしてみます。心にもやもやしているものを描いてみるだけでもリラックスしますが、そこに表れる形、イメージ、色を見ながらクライアントとアート・セラピストの会話が始まります。なぐり描きの線が、シャープでいかにも怒っているような場合は、誰に怒っているのか、その怒りをどうやってポジティブに表現していけば良いかなどを話し合います。
セラピーの内容は、対象とする方の年齢や悩みなどによっても大きく違ってきます。話をしない自閉症の子供さんの絵によるコミュニケーションの手助けや、お年寄りが人生を振り返るための絵によるアルバム作り、がんの闘病のサポート・グループで、絵で苦しみや喜びを表現し助け合うなど、その人個人に合った表現を通じて心の健康維持をお手伝いします。詳しくはAmerican Art Therapy Associationのウェブサイト(www.arttherapy.org)を参考にしてください。
(2007年11月)
ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー 高田ディル峰子さん
武蔵野美術大学油絵科卒業後、男性服のデザイナー、青年海外協力隊員、養護学校の教師を経てアート・セラピーの世界へ。ニューヨーク大学の大学院で知識を学び、現在に至る。アメリカン・アート・セラピー・アソシエーション公認アートセラピスト。日本での美術教員免許も所持する。
Mineko Takada-Dill, MA, LMHC, ATR
TEL:206-276-4915 ウェブサイト:www.studiomene.com
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