シアトルのIT企業でレジュメ2万枚を読んだ採用のプロ、鷹松弘章氏が業界、職種の選び方から求人への応募、面接、条件の交渉まで、アメリカでの就職・転職について教えます。
業界、職種の選び方
仕事の探し方が分かりません。どうやって自分に合った業界、職種を見つければいいのでしょうか?
仕事探しは好きなこと探し
年齢を問わず、就職・転職活動で見受けられる悩みに「何を仕事としたいか」というものがあります。特に前職の仕事内容に納得できずに転職する場合は、再考する良い機会でしょう。まずは「自分が何をしていて楽しいか?」と自問自答してください。楽しいこと、好きなことを職業にできる人は少ないと言いますが、それは社会での自分の役割と楽しみの接点を見出す作業、「自己分析」が不十分であることの結果です。職業は「自分にベストな役割=居場所」を見つける観点で探すことが大切です。人間は好きで楽しんでいる時には効率が良く、苦しみがあっても感じないものです。それでも答えが見つからない場合、「子どもの頃、何に夢中だったか?」と考えます。編み物や、裁縫が好きであれば、裁縫道具を作る会社で働いたり、オンラインでクラフト用品を売ったりする仕事もあるでしょう。ブロックやパズルが好きだった人は、コンピューター関連の仕事が向いていたりします。
日本でよく言われる「業界研究」は、仕事選びの大きな間違いの一歩です。業界を選び、そして職種を選ぶ。この順番で選ぶと思い込んでいる人が多いのです。しかし、実際は、好きな職種を見つけ、それをいろいろな業界の中で求める方が自分に合った仕事を素早く見つけることができます。例えば、前出の例のように裁縫が好きであれば、エンターテインメント業界で衣装を作る仕事があるかもしれませんし、スポーツ業界でカスタムユニフォームを作る仕事があるかもしれません。アメリカでは、昨日まで車を売っていた凄腕営業マンが、今日からコンピューターの部品を売っていたりすることがよくあります。売るものが違っても、品物の良さを伝えることが好きな人は、そうして業界を渡っていくことができるのです。
異業種での経験を歓迎するアメリカ
アメリカでは優良企業であるほど、採用では経験を重視し、知識を重視しない傾向にあります。知識は後から身に付けられても、経験をすぐに積むのは難しいからです。もし自分が知識を理由に雇われそうだと思うなら、私はその会社を勧めません。その会社は「あなた」という「人」を見ているわけではないですし、過去の知識は未来の変化についていけないからです。経験を重視する会社は英語で言う“IHP(Intellectualhorsepower)=知的に作業を運び完遂する力”を見ています。こうした会社は会社の成長をきちんと見据えている傾向が強く、社員と会社が成長できる場合が多いのです。
つまり、別業界での経験でも役に立つ経験があれば、業界を変えることも可能ということです。IT業界でよく見かけるのは、ミュージシャンからエンジニアへ転向する人です。プログラミングにはこだわりや芸術性が必要なところがあるからだと思われます。また、私の住むシアトルでは、ボーイングからアマゾンなど全くの異業種間で転職する人が多くいます。
とは言え、業界や職種を知らなければ選びようもありません。業界や職種を研究する一番の方法は、その業界や職種で働く人の話を聞くことに尽きます。知り合いから知り合いを紹介してもらうぐらいの心構えで、少しでもその業界に関わる人脈にたどり着く、そういう気持ちでつながりを見つけることが大切です。日本では昔から「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、業界や職種を選ぶのは、自分の好きなものの再発見という面が強く、再発見が成功すれば、納得のいく仕事に就けるでしょう。
求人に応募する時の注意点
興味のある求人を見つけました。問い合わせの仕方、レジュメの書き方など、応募する時の注意事項を教えてください。
求人の問い合わせで、鍵になるのは「自己表現のバランス」と「ネットワーク探し」です。いくら主張の国アメリカとはいえ、目立ちたがり屋で主張の強い人は、リクルーターから敬遠されます。かといって、日本人特有の節度と混同した謙虚過ぎるアプローチは、目立たず、返事がもらえないこともあります。
また、人気の求人には、毎日膨大な数の応募が殺到しています。私が以前働いていたMicrosoftでは、オンラインでの応募が1日当たり数千件ありましたので、リクルーターはその中から目ぼしい応募を見つける作業に苦労していました。
そこで大切なのがネットワークです。問い合わせの際、可能な限り知り合いをつたってその会社で働いている人やコネクションのある人を見つけ、内部から紹介(Referral)してもらいましょう。一説によるとアメリカの中途採用の60~70%程度が何らかの紹介によるものだと言われています。私の現在の職場でも65%が紹介によるものだそうです。
アメリカのレジュメとは?
レジュメとは日本の履歴書と同等のものと思っている方がいますが、アメリカのレジュメは日本語でいう「職務経歴書」にあたります。アメリカのレジュメはフリーフォームであるだけに、答えがなく、作成に困るかもしれません。インターネットの検索で出てくる例も参考になりますが、ある程度個性を出して目立つものにするバランス感覚も必要です。
レジュメの導入部で「自分は何を求めているか」と記述することがよくありますが、この部分は、その応募ポジションに対するやる気とキャリアゴール、自分のキャリアが合致するように書きましょう。この部分は、人で言えば「顔」にあたるもので、第一印象はここから始まります。
目に止まるレジュメ、敬遠されるレジュメ
1つのレジュメをあちこちの会社へ送りつける人がいますが、応募するポジション・求人に合わせてある程度調整したものを作る方が賢明でしょう。冒頭の文章と経歴には自分が応募する求人の求人情報(JobDescription)によく出てくるスキルのキーワードを網羅すべきです。採用担当者が送られてきたレジュメをキーワードで検索したときに、引っかかるか否かで、チャンスが大きく変わってしまいます。
また、長いレジュメは、数千人のレジュメを読む採用担当者から敬遠されがちです。レジュメには今までの経験や携わったプロジェクトについて、簡潔かつ濃い内容が記されていなければなりません。担当者が1人のレジュメを閲覧する初回の平均時間は3~4分程度です。数多くのレジュメから、これと思わせるために、簡潔で目を引くというバランスを忘れないでください。選考に入った後、さらに多くの人がレジュメを読みますから、細部まで気を抜いてはいけません。
要注意、リクルーターとのコミュニケーション
レジュメ提出後、リクルーターから連絡がきたら、コミュニケーションには細心の注意を払いましょう。リクルーターが持った印象は、社内に伝えられることが多くあります。「この候補者は感じが良かった」とか「この候補者は話にまとまりがない人ではあるけれど…」などとリクルーターから聞いた面接担当者は候補者と会う前にある程度の固定概念を持ってしまいます。
ポジティブな固定概念を作ってもらうためにも、彼らとのコミュニケーションには注意したいものです。挨拶や丁寧なお礼など日本人が得意とするところをメールや電話の会話でぜひ表現してみてください。
国籍、英語力、ビザなどの影響
アメリカの就転職で、国籍、英語力などはどれくらい影響しますか? また、応募時点で就労できるビザを持っていないと不利でしょうか?
アメリカでは「平等な雇用機会-Equal Employment Opportunity(EEO)」という文化とポリシーが浸透しています。特に東海岸や西海岸などホワイトカラーの職業が多くあるところでは、出身、年齢、人種、見た目、性別、信仰などによる採用差別に気を配る会社が多くなりました。
ですから、レジュメにこのような情報を書く必要もなく、ましてや写真を掲載するなどタブーです。とはいえ、レジュメを見るのは人間ですから、いろいろな情報から意識的にも無意識にもこのような部分を判断していることがあります。
例えば、大学や高校の卒業年を記述していれば、そこから年齢を想像されたり、名前から性別が分かったりという具合です。できる限り、こういう情報をレジュメから判別しにくくすることは、公平に自分を見てもらうテクニックで、多くのアメリカ人はこのような行動に出ています。
アメリカ企業の面接官のタブー
どんな言葉を話すか、出身がどこかなどの質問は、面接で禁止している会社がほとんどです。これは、EEOに従った決まりです。また、面接で年齢や人種に関する質問をすることは、違法行為となることが多くあります。求職者から法的に問題視されるリスクを減らすため、企業では、そういった教育を欠かしません。
しかし、アメリカといえども、面接で法に触れるような質問があった、性的に不快な質問をされたなどと耳にすることもあります。もし、面接中にこのような事象に遭遇したら、面接や転職のプロたちは決まって「その会社と関わるのをやめなさい」とアドバイスします。仮に、その面接官一人の問題だとしても、そういった面接官の存在と質問を許す企業だという判断です。
面接はお見合いのようにお互いを知る作業と捉えれば、このような企業から離れるべきだと分かるでしょう。
国籍、英語力はどれくらい重要か?
もちろん職種によりアメリカ国籍保持者でないと応募できないポジションがあるのも事実です。これは国家機密に触れる仕事などで、IT関係や、航空産業、製造業にもあります。しかし、JobDescription(職務記述書)に特別な記載がない場合は、基本的に出身に関係なく応募できます。
英語力は、アクセントが強くても、相手に理解してもらえる程度の内容を心地よく会話できれば、問題になることは少ないでしょう。もちろん、電話応対のサポート業務など、毎日のようにお客様相手に話をするような職種であれば、会話力はポイントになります。
また、外国語を必要とするポジションであれば、企業はその旨をJobDescriptionに記述しなければいけません。
ビザがないときのもう1つの道
ビザは難しい問題です。職種によってはHビザをサポートする企業もあります。学生であればOPTビザから、他のビザへの切り替えをサポートしてくれる企業もあるでしょう。応募時点で就労ビザを保有しているべきか、またはサポートが可能なのかはリクルーターへ問い合わせるといいでしょう。
アメリカで働きたいがビザが気になる場合、複数の移民法関連の弁護士への相談をお勧めします。中には経験豊富で、他の弁護士が見つけられないような方法を知っている弁護士がいるからです。ビザがないと諦めず、開ける道を探し続けることも大切です。
なお、現在のアメリカの就職プロセスでは、面接を通り、候補者がオファーを受理した時点でバックグラウンドチェックを開始することが普通で、その時に国籍の有無、SSNの提出、以前の職歴確認などをしています。
新卒採用の実力判断①
新卒採用の際、学生のどこを見て採用を決めているのでしょうか? まだ仕事の経験のない人の何を評価しているのですか?
「学生の何を評価しているのか?」と聞かれれば、ずばり“才能”・“馬力”・“情熱”の3つです。以前、アメリカでは知識より経験を重視すると書きましたが、新卒者には経験がありません。ですから、将来を考えたとき、これから訪れるであろう困難から学習して状況判断できるようになる“才能”と、切り抜けてやり切る“馬力”があるか?を見ています。併せて“馬力”を生む仕事や製品・サービスに対する“情熱”も見抜こうとします。
これらを見る方法として、実際にその職場で起きた問題をシンプルな形にしたり、仮想の問題を提起したりして「あなたならどう解決しますか?」と問います。意図的に大雑把に概要だけを伝えることで、そこから概略、真実へ近付いていくプロセスをたどる馬力や、情熱に裏付けされた根気があるかを試しています。新卒の社員にとって、職場でこれから直面する問題は、未知の問題で、それを解決するには、3つの総合力が必要だからです。では、実際にどう探るのかみてみましょう。
才能(Aptitude)の見抜き方
漠然とした質問をされたら、まずその問題を取り囲む条件を質問せねばなりません。日本的に考えると、面接官へ質問を返すのは失礼に思えて遠慮がちになりますが、アメリカの場合は全く逆です。面接官は、質問から、課題や質問へ取り組む姿勢、想像力、状況判断力、情報収集能力など多岐にわたる才能を観察し、読み取ろうとします。面接で質問の全く出ない候補者に出会うことがありますが、ほとんどの場合、残念な結果になります。
馬力(Horsepower)の見抜き方
馬力とは遂行する力と捉えてください。面接官は、質問の条件を途中で変更するなどして、実務で起こりうる危機的状況で論理的に判断して諦めずに仕事を続けられるかを探っています。「納品日に間違いがあり、予定の半分のあと2日で納品しなければならないと判明しました。それを知ったのは金曜日の午後5時です」という具合です。さまざまな方法が考えられますが、社風によって求められる解決策が変わるでしょう。ビジネスが急成長していて社員が週末でも意欲を持って働く会社と、社員のプライベートを大切にしている会社では、賛同の得られる答えが違って当然だと思います。こういうときのために会社の研究をしておくことは大切です。
情熱(Passion)の見抜き方
情熱とは、業界にアンテナを張っているか、お客様を理解する気持ちがあるかなど、いろいろな方向へ向けられるものです。
例えば、IT業界なら「携帯電話の位置サービスが、なぜ位置を特定できるのか、あなたの祖父母へ説明してください」というようにお客様の立場に立って説明する情熱があるかを測ってみます。または、「先日〇〇という新しい技術が発表され、業界の流れが変わりそうですが、あなたはどう思いますか」といった質問もあります。もし自分の分からないこと、知らないことが出てきたら丁寧に知らないと伝え、その場で学びたい姿勢を示しましょう。正直さとそこから学ぼうという姿勢も情熱への大切なステップであるからです。
本コラムで繰り返すように、面接はお見合いの要素が強く、このように新卒の面接といっても結局は、話しやすく、一緒に働きたいと思ってもらえることが、重要なポイントです。面接官は、学生を一緒に仕事をする仲間と仮定し、スムーズかつクリエイティブな話し合いができる相手かどうかを観察しています。新卒だからといってへりくだり過ぎず、正直に、そして情熱的に自分を表現することを忘れないでください。
学生が就活前にすべきこと
アメリカで学生が新卒採用してもらうため、就職活動前に準備すべきことを教えてください。
今回は学生が就職活動前に準備しておくべきことに焦点を当てます。
アメリカ人大学生のインターン事情
昨今、日本でも議論を呼んでいるようにアメリカでの新卒採用を語る際、避けて通れないのは「インターンシップ」です。通常、卒業後に就職を希望するアメリカの大学生は、入学した年からほぼ毎夏、インターンができるように面接をたくさん受けます。特に、就職や自分のゴールに意欲のある学生は、在学中にインターンの機会を増やすことに躍起になっています。
企業側も、インターンで学生に一緒に働いてもらい、その実績や印象で「来年のインターンもよろしく」とか「卒業したらうちの会社に就職してください」とオファーを出して次につなぐことを考えています。特に優秀な学生を多く採用するため、単に一緒に働いてもらうだけでなく、会社を好きになってもらうイベントをインターン中に企画するなど、企業はあの手この手で優秀な学生を探そうとします。
通常インターンは夏休み中に行いますが、冬休み(年初の1、2カ月)にインターンを採用する企業もあります。インターンをする回数は学生自身の活動と勉強との両立の都合でまちまちですが、多い学生では在学中(院も含む)に4~6回程度のインターンをしています。それらの経験は、実務経験としてレジュメに記載できるわけですから、新卒採用の際、大きな武器にもなります。
なお、アメリカでのインターンは有給と無給があり、学生ビザで留学している場合、有給のインターンが可能かどうかは所属大学のオフィスと対象の会社に尋ねてみる必要があります。
インターン以外で大切なこと
実務経験を積める、レジュメに記載できるということで言えば、アルバイトをすることや、非営利団体などでのボランティア活動も大きくアピールできます。特にアメリカの場合、非営利団体が関与する分野も広く、団体の数も多いので、就きたい職業や業種に関連する分野の経験は、自分にとっても採用側にとっても貴重な体験であることは間違いありません。留学生でインターンを見つけづらい場合、ボランティア活動も職歴経験の視野に入れることが大切です。
さらに、本格的に就職、インターン活動を始める前に大切なのはネットワーキングです。採用側としても全く知らない人間を採用するよりは、少しでも知っている人間を採用する方が安心です。いろいろな人と知り合う場に顔を出したり、LinkedInなどを使って、可能な限り知り合いを増やすことが肝要でしょう。
これは一見、労力ばかりで実にならないように感じられますが、いざ就職活動となると、どこの誰から強力なネットワークが見つかるか分からないので、どんなつながりも疎かにせず大切にしたいものです。
日本とアメリカの学生の就活の違い
見方を変えると、日本で大学3年あたりから一斉にスタートする就職活動が、アメリカでは大学1年目から自由に始まっているという感じです。アメリカの就職活動は日本のそれと全く違い、新卒・既卒という区分もなく、全ての活動は自発的に自己責任で行うものであることを認識しましょう。この点を理解するのが遅く、アメリカで就職したかった日本人学生が、やむを得ず日本での就職の道を選ぶという例を今まで何度も目にしてきました。
とは言え、アメリカの場合、大学・大学院卒業時点で就職先が見つかっていないという人も珍しくありません。それでもポジティブに自分のやりたいこととの出会いを自由に見つけるというのがアメリカ式なのだと思います。
面接が決まったら準備すること
無事にレジュメが通り、面接のアポイントメントが取れました。当日までに、どんな準備をしておけばいいでしょうか?
この連載で何度も繰り返していますてください。が、面接も含めて転職・就職での全ての作業は、企業との「お見合い」であることを念頭においてください。
多くの日本人にとって謙虚であることは大切ですが、度が過ぎて「面接を受けさせていただく」という心理に陥ると、極端に緊張したり、準備を完璧にしようと溢れる情報で頭や心が混乱したりして、せっかくのお見合いの席で本当の自分を表現できず、結果的に後悔を残すことが多いようです。
「事前にできることは精いっぱいやった」と思いたいところですが、行き過ぎた自分へのプレッシャーは、逆効果を生むことがほとんどでしょう。それに、実は完璧な準備など誰にもできません。とは言え、全く準備が必要でないということでもありません。本来の自分を「表現する」という観点から、必要な準備を考えてみます。
物理的に準備すべきこと
面接会場までの道のりや交通手段の確認は、ウェブサイトだけで済ませず、面接の時間と同じ時間に現地まで行ってみるとよいでしょう。実際に自分の面接に向かう時間の渋滞状況や道路状況、交通機関の確認だけでなく、当日の自分の気持ちをシミュレーションすることもできます。こうして当日の行動を実際に行うだけで面接会場へ着いたときの落ち着き方も変わります。
また、予期しない事態に遭遇しても、より冷静に対処できる準備になるでしょう。
知識として準備すべきこと
応募する時点である程度の研究はしていると思いますが、再度その会社の求めている人物像、その会社が目指している存在価値、会社が社員に求めている働き方(最近はコア・バリューという言葉で定義されていることが多くあります)などを再確認して、その会社がどのような文化で仕事をする環境なのか確認しておきましょう。面接官から出てくる言葉はその文化をベースにしていることが多いはずで、波長を合わせられるかどうかはこの「予習」によって変わります。これも当日の面接の質問に動揺せず、「軸」をずらさずに落ち着いて答えるための作業です。
注意が必要なのは、面接直前に業種や業界についての最新ニュースを読みあさったり、一夜漬けで知識を得ようとしたりしないことです。こういった努力は、学校のテストでは役立つかもしれませんが、面接では自信のない内容の会話を生み、自分を動揺させてしまう原因になりかねません。ここは「まな板の鯉」と思って、自信を持って自分らしく行動しましょう。
肉体的・精神的に準備すべきこと
いくら知識や物理的な準備が整っていても、体調が悪かったり、元気がなかったりしては、自分を最大限に表現できないでしょう。面接前日は、とにかくよく睡眠をとることです。面接前日に、よい睡眠のための行動をとりましょう。人それぞれですが、軽い運動や、趣味に没頭する時間を作るなど、体や脳を使って心地よい疲れを感じ、肉体的にも精神的にも少し面接のことを忘れ、一度リセットするとよいと思います。
いずれにしても、自分を自分らしく表現するための準備はできても、面接当日までに自分自身を変えることなどできません。自分が相手を、相手が自分を好意的に思うか思わないかの作業が面接だと割り切って、事前の時間を過ごしてください。そうすることで、落ち着いた気持ちで面接に臨めますし、ありのままの自分を表現しつつ面接官の質問の深さに気付ける気力・体力も温存できるでしょう。そして、すがすがしい気持ちで面接の当日を迎えてください。
面接の流れと面接方法
アメリカの就職・転職の面接は、一般的にだいたいどれくらい時間がかかり、どんな流れで進むことが多いのでしょうか?
アメリカの就職・転職での面接方法と時間は、業界や企業、その会社のサイズによってまちまちです。決まった形がないことが、アメリカらしいと言えばアメリカらしいですが、面接を受ける側としては予想しづらいので困ることが多いかもしれません。その中でも、一般的にあるいくつかの例を挙げながら解説していきましょう。
面接が始まる前に心掛けること
通常、面接で会社に出向くと、面接官以外の人(受付の人など)に自分が来たことを伝え、チェックインします。そして担当者が出てくるのを待つわけですが、どのタイミングで担当者が現れるのか予測ができませんから、気を抜かないようにしてください。携帯電話で面接官の名前などを確認することは構いませんが、携帯電話に集中して迎えに出てきた担当者に気が付かないような事態は避けましょう。事前に面接官の名前や面接時間のリストを渡してくれる会社もあるので、その確認などをして待ちましょう。
大きな会社では、複数の面接官に会う前に人事担当者との懇談の場が設けられることがあります。通常は20~30分程度ですが、人事担当者というのはとても重要です。面接官が仕事の内容、ポジションについて面接をするのに対し、人事担当者は候補者の印象や会社の社風に合っているかなどを、表面から読み取ろうとしていますし、面接終了後に採用決定に悩む面接官たちに対して、印象的な一言をかけることのできる立場でもあります。人事担当者との会話は大切に、心地良く終わることができるよう心掛けてください。
面接官の人数と面接の形式
アメリカでは多くの場合、特に中途採用では、1対1の面接が多いでしょう。2、3人の面接官がいることもありますが、私の知る限り、日本の新卒採用試験のような候補者が複数いる面接は、プライバシーの観点からもアメリカでは行わないと思われます。
面接時間は、1対1の場合、30分~1時間くらいが多いでしょう。通常、面接官を変えて、2~5回ほど面接を繰り返すことになります。IT業界などでは、1日で5、6回の面接を連続して行い、マラソンのように持久力が試されることもありますが、「次はこの人と面接してください」と、次の面接が違う日程になることもあります。
複数回にわたって面接をする場合、同じ質問が違う面接官から出ることがあります。その際は、自分の話の一貫性に気を配ってください。後で面接官同士が相談するときに、話が食い違っていると信用を失いかねません。
また、余談ですが、面接するはずの面接官がバケーションを取っていて不在のため、全く別の人が代わりに面接を行うこともアメリカでは珍しくありません。そういった突然の変更が起きたとしても、慌てずに対応したいものです。
よく確認しておきたい面接の流れ
予定されていた面接が全て終わったら、まだ次の面接があるのかどうかを必ず確認しましょう。私の勤めていた会社では最初に4人の面接官の名前と時間の書いてあるスケジュール表を候補者へ渡します。実際に私が経験したことですが、ある時、候補者の人が4人目の面接が終わると帰ってしまいました。実は4人の面接がうまくいった場合、最後にゼネラルマネージャーと面接をする慣習があり、面接官がロビーで待っているよう伝えたのに帰宅してしまったのです。その候補者は、面接がうまくいっていたにもかかわらず、自己判断を即座に下してしまう人ではないかと疑問を持たれ、採用されませんでした。非常にもったいない話です。
次回は、面接官が面接で何を見ているのかをお話したいと思います。
面接官が見ているポイント①
面接官が面接中に観察しているのは、どういうところですか? どのような準備が必要でしょうか?
どの業種でも共通する面接の導入
面接の導入部分は、日本のそれとあまり変わらないかもしれません。まず、自己紹介とレジメに書かれていることを簡単に説明する場を与えられるでしょう。2~3分程度で説明できるよう、まとめておいてください。この部分が長いと、面接官からあっという間に興味を失われてしまいます。
また、初対面の印象が大切です。相手に聞こえるはっきりとした声と内容で簡潔に、でも固くならず、にこやかに伝えるよう心掛けてください。その時の面接官の反応を見ながら、スピードは速い方が良いか、簡潔に終わらせるべきかを考えながら伝えることが大切です。
自分の経歴を話す際に、どこに種をまくか、またはまかないかも重要です。プロジェクトで苦労したことに少し触れると、そこに興味を持った面接官が、「その場面はどうやって切り抜けたの?」などと遮ってくることがあります。自らその種をまいて、自分のペースで話せるように準備しておけば、それは「してやったり」という感じで、自分のペースで説明することができますし、自己アピールを事前準備しておくことができます。しかし、無意識に経歴をだらだらと話していて、準備のないところに質問や指摘をされるとアピールどころか慌ててしまい、逆に悪印象につながります。一見、自己紹介の導入とは簡単なようですが、こういった戦略的な準備も大切です。
よくある具体的な質問の種類
IT関連やコンサルティングなどの職種の面接の質問としてよく出る内容を挙げると、コミュニケーション能力、問題解決能力、お客様の気持ちを理解する能力、質問力(理解を深める能力)に関するものがあります。それぞれの質問の種類をみてみましょう。
コミュニケーション能力に関する質問の例
多人種国家のアメリカでは、いろいろな価値観の人間が寄り集まって仕事をしていることが多いので、「あうんの呼吸」というものは、ほとんど存在しません。仕事の効率や成果は、いかにうまくコミュニケーションがとれるか?という部分が大切なわけです。
よくある質問の例としては「今までで、一番働きづらい上司・同僚はどういう人だったか?」「働きづらい相手と結果を出すには、どんな方法を使ったか?」「働きづらい相手に対して、どう工夫して意見を伝え理解してもらう努力をしたか?」「プロジェクトがうまく進まなかった時の原因は何だったのか?」「パフォーマンスの低いチームのメンバーをどう取り込んだか?」などがあります。
これらの質問は、あなた自身がコミュニケーションをする上で、相手の立場や感情を捉えつつ、自身の主張を共有する方法について聞いています。もちろん正解は一つではありませんが、相手への理解を深めてそれを尊重しつつも論理的に自分の意見もきちんと説明して聞いてもらえる場を、自ら作り、共に働くことができることをアピールしてください。
具体的には、どんな問題やどんな相手だったかをネガティブになり過ぎず簡潔に説明し、自分がどう考え、どう計画し、どんなアクションをとったのかを説明します。相手に、なるほどこういう人と一緒に働いたら働きやすいであろうと感じてもらうことが大切です。日本人は、「こんな当たり前の話を改めてしても、分かりきっているだろう」と思って話さないことが多いですが、こうした部分を丁寧に話すことができることは説明の仕方、協力の方法を知ってもらう上でとても重要です。 次回は引き続き、問題解決能力、お客様の気持ちを理解できる能力、質問力の例についてお話します。
面接官が見ているポイント②
面接官が面接中に観察しているのは、どういうところですか? どのような準備が必要でしょうか?
今回は、どの業種でも最も重要で、面接の肝でもある問題解決能力について解説します。
問題解決能力( Problem Solving)とは?
仕事とは、日々起こることに対する対応力を必要とするものです。職種の差はありますが、IT系や医療系の仕事であれば、未知のことに遭遇することもあるでしょう。お客様と対面する仕事であれば、緊急事態を回避しなければならない場面もあると思います。問題に直面したとき、論理的に最善の道を探して解決できる力を問題解決能力と言います。①「解決策を探し当てる」、それを②「実行する」、この2つの能力が必要で、どちらかが欠けていると、採用されにくくなることを覚えておいてください。
問題解決能力を測る質問として、マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツが、面接で「富士山をどう動かしますか?」と聞いていたという有名な話があります。この質問は、一見不可能な質問を候補者に投げかけて、反応を見ていたのだと思います。「無理です」と答える人もいたといいますが、諦めず解決しようとするインテリジェンスを元にした馬力(IHP:IntellectualHorse Power)を発揮できるかがこの質問に隠された鍵です。
質問から何を見ているか?
私が候補者として聞かれた質問に「2つの鉄塔の間の高圧線が異常な凍結をして、送電効率が下がりました。どう解決しますか?」というものがありました。問題解決能力を試す質問は、時に大雑把で、細かい条件が伝えられません。これは「オープンクエスチョン」と呼ばれ、あえて条件を付けない質問手法です。読者の皆さんにも、面接でポカーンとなるような質問をされた記憶のある人がいるでしょう。
この高圧線の質問では、「高圧線の下で大きな焚火をしてはどうか」という人もいれば、「高圧線に電熱線を巻いてはどうか」という人もいるでしょう。しかし、これらの答えはどのような条件でどんな道具がそろえられるかという前提条件を全く確認していない、半ば当てずっぽうな答えです。焚火の燃料を集めることが可能か、焚火をするスペースは空いているのか、電熱線を入手できるのか、下がっている電圧で電熱線が使えるかなど、即座に思い浮かんだ答えそのものが実現可能かどうかという問題が出てきます。
そもそも問題解決の手順には、可能な限り、条件や周りの状態を把握することが必要です。面接においては、面接官に対する質問で状況を把握してほしいのです。面接官としては、その質問を聞けば、候補者の思考パターンや、解決に向けて良い方向へ向かっているかなどが判断できます。こうした質問には、基本的に唯一の答えはなく、答えよりも候補者が解決までどういう道筋で辿り着くのかを見たいという意図があります。加えて、条件を知ったときに計画の変更ができる、つまり仕事上で欠かせない柔軟性も見ています。
具体的な質問例
他の質問の例としては、「今、車で知らない地域を運転していますが、信号待ちをしている時に工事をしている情景が目に入りました。その工事が何の工事か判別する方法を教えてください」とか、「今日ここに面接に来るまでに興味を引かれたものを教えてください(その内容の中から問題が出される)」とか、「あなたはロサンゼルスの交通局職員だとします。バスに空席の目立つ地域の担当で、旅客の利便性を損なわずに50%のコストを削減する方法を考えてください」など、さまざまなものがあります。
こうした、予測できない質問が出ても、落ち着いて柔軟性のある、そして論理的な対応をしたいものです。
面接官が見ているポイント③
面接官が面接中に観察しているのは、どういうところですか? どのような準備が必要でしょうか?
今回も引き続き、面接官が見ているポイントを解説していきます。
お客様の気持ちを理解できる能力
どのような職種・職業でも、必ずその商品・サービスを使うお客様が存在します。たとえ自社の社内サービスを提供する職種でも、アメリカではよくInternal Customerという言葉を使って、社内に自分の顧客がいることを説明します。CustomerSatisfaction(顧客満足度)とは、これら社内外のお客様の満足度のことです。面接官は、どんな職種であってもお客様の気持ちに立って仕事を遂行する力があるかを見抜こうとします。
その判定方法もさまざまで、直接的に「こんなお客様がいたらどんな対応をしますか?」と質問をすることもあれば、私自身がよくする質問には「携帯電話の位置情報(GPS機能)によって、迷子になりにくくなる理由を、自分の祖父母に理解できるように説明してください」というものがあります。
私の関わるIT業界のエンジニアという人たちは、往々にして自分たちが分かっている専門的な内容を、一般の人も分かっているという前提で話しがちです。これは、アメリカでは医療関係、特にドクターにも多い現象かもしれません。しかし、接しているお客様はあくまでも一般の人で、そのお客様が問題に直面したとき、専門家でなくても理解できるように説明できる力を必要とします。
先のGPSの例では、「GPS」や「衛星」、「IPアドレス」などの専門用語を使わず、いかに簡潔にGPS機能を解説し、祖父母に携帯電話を持って歩くことのメリットを説明できるかが重要になるわけです。お客様への理解とは、つまるところ「分からない気持ちを理解する力」「人の立場に立って理解する力」なので、普段から大切にしたい思いかもしれません。
質問を考える力
やる気のある社員、コミュニケーション能力の高い社員、問題解決能力に秀でた社員が欲しい企業はたくさんあります。こうした企業は、面接中に候補者側から出てくる質問を厳しく見ています。質問力は現状を把握する力につながり、その力は、会社やお客様にとって最善の決断や判断を導くエネルギーになるからです。
まれに面接中、面接官の質問に答えるだけで、全く質問しない候補者に出会うことがあります。面接官同士でもそのような人の話題になりますが、多くの面接官は、面接中に質問をしない態度を、仕事や会社に対する興味の薄さ、自信のなさ、現状を把握せず先走る人、と判断しがちです。
日本人は無意識のうちに「行儀の良い人と思われたい」と遠慮した行動を取ることがあります。その結果、「面接官に質問することは失礼では?」と勘違いをして、面接中に質問をしないことがないよう、時間の許す限り質問をしましょう。
アメリカの面接では面接の最後に面接官が「何か質問はありますか?」と候補者に尋ねることがほとんどでしょう。これはとても大切なチャンスで、会社や組織、職種や仕事内容、チームのメンバーやお客様に至るまでいろいろな質問をできる良い機会です。面接前に会社や職務について調べることで、充実した質問を準備できますので、ぜひたくさんの質問を準備してください。同じ質問を違う面接官にしても構わないと思います。それにより、いろいろな人の見方を知ることができ、自分もその会社を面接できるわけです。
もし、自分の質問が面接の時間内の会話で答えられてしまった場合は、「こんな質問を用意していましたが、先ほどの話と前の面接官との会話でクリアになりました」と一言加えましょう。面接官はあなたが何に興味を持っていたのかを知ることができます。
面接中の印象
面接官は候補者の発言や態度からどんなことを感じ取るのでしょうか? また、面接中、面接官の接し方に変化を感じた場合の対処方法はありますか?
面接での候補者の印象は、結果をも左右する大切なものです。この連載で繰り返しているように、面接はお見合いですから、良い印象を持ってもらうことは大切です。どんな点に注意したら良いのか考えてみましょう。
面接前の始めの挨拶
採用に至るまでの全てのプロセスにおいて、その会社や組織の人たちとは初対面の連続です。面接官は、できる限り候補者のコア(中身)を見抜こうしますので、第一印象だけで採用が左右されることは少ないでしょう。とは言え、第一印象は大切です。どんなに経験のある面接官も一人の人間なので、第一印象を引きずることがあります。最初の挨拶から2、3分が第一印象を決定付ける時と心得てください。
つまり、面接に入る前、挨拶から今日の天気や週末に何をしたかなど、アメリカにいるとごく普通に交わされる何気ない会話の中で、第一印象を決定付けられることが多いのです。これを理解していないと、候補者の何気ない一言が面接官の気持ちを変えてしまうこともあります。例えば、週末はどうだったかと聞かれ、詳しく家族のことを話すと、そこから得られるプライベートな情報から勤務時間への制約や、家族に対する考え方などを読み取られてしまいます。この場合、「家族と一緒にリラックスして過ごしました。あなたはどうでしたか?」と切り返すぐらいが良いかもしれません。子どもや配偶者の話をし過ぎて、深みにはまらないよう気を付けましょう。
質問に対する返答の方向性
我々日本人を含め、アジア人によく言えることですが、質問に対する回答がネガティブな印象を生むことがあります。質問に対し、その解決プロセスで出てくる問題点や発生する困難な状況を想像し過ぎて、回答でそういう方向へ偏りやすいのです。アメリカの職場で大切な要素に「建設的に前向きに仕事をする」という文化があります。難しい点ばかり羅列し、解決策をポジティブな方向で答えられなければ、面接官は一緒に仕事をする仲間と見なさないかもしれません。しかし、全てがポジティブなことばかりでは問題意識がないと取られてしまいます。難しいかもしれませんが、問題点の認識と解決策への導きと決断を、バランス良く盛り込む答え方を身に付けましょう。
また、面接中に話せば話すほど、面接官がさらなる疑問を持つような表情や態度を示したら、それは回答の方向性に対する黄信号かもしれません。そのサインに気が付いたら、直接的で構わないので「私の回答の方向性は、ネガティブ過ぎますか? 私はあなたの回答にきちんと答えていますか?」と確認して良いと思います。そうすれば、面接官が感じていることを引き出すことができ、余計な不安を抱える必要がなくなります。
ディスカッションでの異なる意見の取り入れ方
面接中、問題解決に関する質問や、前の職場について話すとき、面接官とディスカッションになることがあります。そんな時が、面接官があなたへの印象を決定付けている時間帯であることを忘れないでおいてください。例えば、候補者が導き出した答えに対し、「こういうことは起きてしまいませんか?」「この部分は見落としていませんか」などと質問される場合があります。「確かにそういう考えもありますね」とか「なるほど、その部分も加える必要がありますね」など、相手の意見を取り入れる姿勢も見せましょう。
面接官はその言い方や他人の意見の取り入れ方を聞きながら、この候補者は建設的に話ができるか、他人の意見を役立てて良いものにしようとしているか、などを観察して印象を固めていきます。
日本人として気を付けること
アメリカの採用や面接は、日本と比較するとどのようなところが違うのでしょう? また我々日本人がアメリカで面接を受ける際に気を付けることを教えてください。
採用方法の違い
アメリカでは「ポジション採用」が基本になります。日本の場合、特に新卒採用などでは「一括採用」をして、それから部署の配置を会社が決めるというスタイルがありますが、アメリカでは学生の採用であってもポジション採用が基本です。自分がどんな仕事をするかをはっきりさせた状態で就職・転職活動をするわけです。
時期によっては大学を卒業したばかりの学生と中途採用の経験者が、同じ土俵に乗ってくることもあります。学生とポジションを争うのは不思議な感じがするかもしれませんが、キャリアパスを変更するために学校へ行き直すアメリカ人の大人が多いことを考えれば、むしろ当たり前かもしれません。そういう意味でも、転職を考えている人は、常にスキルを磨いたり自己啓発に励んだりして、こうした環境の中での自身の競争力を維持することが大切です。
自己アピールの違い
また、採用担当のリクルーターへのコンタクトや、連絡の取り方でも、ここは日本ではなくアメリカであることを忘れないようにしてください。
日本人以外の他の国の候補者たちは、我々日本人の想像を超える自己アピールをしてきます。日本人の中には、謙虚なあまり自分の実力や経験を過小評価する人が多くいます。そうした部分は、セルフコンフィデンス(自分への自信)が低い人と映り、結果的にアメリカの職場環境では責任を持って仕事をしてくれないのではないか?という疑念を生んでしまいます。
リクルーターへコンタクトをしたり、ネットワークを築こうとしたりするときは、日本人なら自己評価している実力や経験の20~40%増しぐらいでアピールしてちょうど良いかもしれません。話をするとき、押しを強くするのではなく、それとなく自分の経験やこんなことができるのだというアピールを少し織りまぜるようなことを繰り返してみてください。
レジュメについては、以前にも触れたように、応募するポジションに応じて内容を柔軟に変えましょう。日本の履歴書や職務経歴書と違い、内容が自由なレジュメは、その都度ポジションに応じて書き換えて当たり前という文化があります。
面接方法の違い
アメリカでは、プライバシーの観点からも集団面接という方法をとることは、まずありません。キャリアセッションやネットワーキングという形で大人数に集まってもらうイベントを開催する会社はあっても、実際に応募した候補者を横並びにして集団面接を行うことはしません。
また、会社や職種によっては面接官が5、6人に及ぶこともあり、その5、6人との面接を終えるのに1日で終わらせてしまう場合もあれば、数週間に及ぶ場合もあります。待たされている間にリクルーターから全く連絡がなく不安に陥るという話をよく聞きますが、不安になった時には遠慮せずにリクルーターへ連絡しましょう。
それからこれは、日本人に言うとよく驚かれるのですが、面接の日程が決まったら、採用担当のリクルーターに面接ではどんな質問をされるのかを聞いても構いません。リクルーターは候補者が面接で合格してほしいと思ってサポートしています。自分が見つけてきた候補者なわけですし、とにかくスピーディーにより良い人材が採用されるよう活動しているのがリクルーターなのです。面接が決まったら、リクルーターはあなたの応援団の一人です。面接での質問内容、面接がどのような流れで運ぶのかなど、知りたい情報は遠慮なく聞いてみましょう。
面接でのタブー
アメリカの就職活動、面接でのタブーはありますか? 日本の常識と違う部分を教えてください。
日米共通のタブー
面接のタブーは、日米同じものがたくさんあります。例えば、面接やリクルーターとのメールのやり取りの中で挨拶がないことや、話をしているときに目を見なかったり、落ち着きがなかったりなどもそうです。また、貧乏ゆすりをしながら面接をする人に出会うことがありますが、 早くこの時間が過ぎ去ってほしいと思っているのだろうとか、会議中にこのような態度をとる同僚はいらない、などの印象を面接官に持たれてしまいます。
服装に関しては、身だしなみという点では共通しています。服のしわ、汚れ、スマートでないだらしない身なりはアメリカでも印象はよくありません。また、アメリカの面接でもスーツをしっかり着ている人はいます。ただ、業界によってはスーツを着ている面接官などいない職場もあるので、業界や相手に合わせるといいでしょう。この部分は、リクルーターへ事前に確認しても差し支えありません。
このコラムでは候補者が質問することを奨励してきましたが、タブーに近い質問はあります。アメリカでよくあることですが、「質問はありますか」という面接官の質問に「私の面接はどうでしたか?」と聞く人がいます。一見、これはアメリカでも良い類いの質問に見えますが、面接官への印象の予測が全くつかないので、こうした質問は避けた方がよいでしょう。
さらに、論点の見えない漠然とした質問をしたり、1、2分もかかる長い質問をしたりすると、せっかく簡潔にきちんとした面接をしても、好印象を逆転させてしまうかもしれず危険です。質問はおおいに結構ですが、質問の仕方、内容には少し気を配ってください。
また、面接官にその会社や仕事の面接への準備不足がうかがい知れてしまうことは、日米ともに大きなタブーであることも付け加えておきます。
候補者として忘れてはならないものに、前のボスや同僚の悪口もあるでしょう。経験として「働きづらい人」とどう接して解決したかと話すことは、構いませんし、それをポジティブなトーンで話すことは大切です。しかし、悪口になるような言い方や不満を述べるだけでは、一緒に働きたい仲間とは思われませんので注意が必要です。
日本とは違うタブー
文化が違えば、就転職活動でのタブーで異なる部分もあります。
アメリカでは、面接官がしてはならない質問が多くあります。年齢や生年月日、学校を卒業した年など、年齢に関連し、候補者の年齢を推測できるものを聞くことはアメリカでは大きなタブーです。出身国を聞くこともタブーになっています(ビザ・永住権の保有に関しては確認することがあります)。最近では、候補者の性別が分かりづらい場合、その確認をすることも大きな法的リスクを伴います。このあたりはアメリカ独特なのかもしれませんが、年齢については日本でも見習ってほしい部分ではありますね。
さらに、最近アメリカで、面接官が聞いてはいけないと言われているのは、通勤時間に関する質問です。なぜかというと勤務時間、オフィス滞在時間などを予測しているのではないかと勘繰られてしまうからです。
家族に関する質問も気を付けなければいけないのが一般的で、プライバシーを守るのがアメリカの文化です。もちろん面接前後の挨拶の中で、家族を推測させる内容があったとして、そこで息子さんはいくつですか?と聞くことはあります。面接中とそうでない時をわきまえることも大切です。
ここで解説した内容は、面接官からのタブーでしたが、それは逆に候補者にとってもタブーであり、つまり自ら触れなくてもよいトピックであるということを覚えておいてください。
条件の交渉
転職の面接で合格した後にオファーレターを受け取りました。金額面の条件などは交渉可能なのでしょうか?
アメリカでは通常、面接に合格した後、通知(Offer Letter)を受け取り、サインを求められます。日本人はサインを求められると、そこに書いてある給与や内容は変更できないと思いがちですが、サイン前に交渉は可能です。
オファーレターのからくりは、大抵こうです。まず、リクルーターは上司からオファーレターの承認を得る際、自身の裁量で交渉できる金額範囲も決めます。例えば、年俸8万ドルの提示なら、候補者の条件交渉(CounterOffer)が年俸8万5000ドルまではリクルーターが即決で上方修正できたりするのです。これは、時給や月給、ボーナスの割合であれ同じことです。
大手企業やIT関連の会社であれば、株式の取得権(Stock Options、StockAwards)が付随していることもあります。こちらは、総額または総ストック数でいくらと書かれていて、権利行使期間などの記述があるでしょう。
リクルーターとの交渉の進め方
実際の交渉は、まず、リクルーターが話をしたいと知らせてくるでしょう。入社後に上司になる予定の人が同席することもあります。事前に金額を知らされていれば、それほど慌てませんが、金額をその場で提示された場合、交渉をどうするか頭の中でまとめるのは難儀な作業です。仮にその場で即答を求められた場合は、慌てずに、数時間でも数日でも時間がほしいと伝えてください。実際は、オファーを渡してからサインするまでの有効期限(Offer Expiration)を数日~1週間ほどくれる企業がほとんどです。
オファーは淡々と受け取りつつ、感謝と好印象は残しましょう。たとえ、自分が入社する意思のない会社からのオファーでも、後でどんなつながりがあるか分かりませんし、人事担当は会社を超えて話をする機会があるので、自分の評判という意味でもきちんと対応したいものです。
数社のオファーを得て、一番行きたい会社が最良の条件でない場合、その会社のリクルーターに「実は、他社の条件が良くて目移りしている」と言うと良いでしょう。他社のオファー内容も伝えても良いかもしれません。リクルーターが上司と相談する時の良い材料になります。リクルーターは、候補者の交渉代理人であることを忘れないでください。彼らに情報を与えれば、あなたの味方になってくれます。
もし一つのオファーしかなくても、それとなく他にもっといい条件のオファーをもらえそうだとか、今の給与からあまり上がっていないと伝えて良いかもしれません。率直に8万ドルでなく8万4000ドルならば自分の決断に弾みがつくと伝えてもいいです。ただし、突拍子もない金額を言わないように気を付けましょう。あくまでも常識的に、あとちょっとという範囲です。
株式取得権の場合、前職を辞めることで失うものがあれば、その金額+αぐらいの額を伝えましょう。リクルーターはそこに近付ける努力をしてくれることが多いです。
前職の給与や希望をどう知らせるか?
面接前後や申し込み時に、今の給与水準を聞かれることがあるかもしれません。まれに給与の明細やタックスリターンの書類を求められることがあるそうですが、私は今まで見たことがありませんし、州によってはそのような請求は違法なので、しないのが普通です。ただ、前職の職務等級を伝えると、一般に出回っている情報から給与を推察されることはあるでしょう。
給与を上げることは、転職の大切な要因なので、あくまでも今より上乗せした希望額を出しましょう。現在の収入を大きなウソにならない程度に伝えつつ、ボーナスやその他の収入も含めてどう希望するか、いろいろ考えてみてください。オファーを受け取ったら冷静に、というのがカギです。
採用側の困っていること
転職や就職で、採用側が困っていることはありますか?それを知ったうえで活動のアドバイスをお願いします。
採用サイドの状況を把握することで、ベストと思える行動を取ることもできるでしょう。今回は、採用側が困っていることをお話しします。
どんなときも、リクルーターは自社のマネージャーたちが望む条件(Job Description)と人物像を満たす候補者探しに苦労しています。企業はコストをかけてでも候補者を探しています。成長企業であれば、数百人単位のポジションを2、3人のリクルーターで埋めなければならず、猫の手も借りたいのが実情でしょう。安定企業や商店であったとしても求めている人物像に近い人材を探すことは、太平洋の中から落とし物を探すような感覚です。
コストをかけずに早候補者を見つけたい
この状況は、候補者に何をもたらすのでしょうか? 第1に、知り合いや社員のネットワークを通じての採用は、企業側から見ればコストがあまりかからず、スピーディーな候補者探索方法と言えます。転職に向けてネットワークを広げておくことは大切で、「ちょっとした知り合い」レベルの関係を広げておくことが良いでしょう。というのも、親しい友人は、あなたの良い面も気になる面も知り過ぎて、友人の就職後に自分に戻ってくるフィードバックまで気にしてしまうのが性だからです。ですから、できる限り、ちょっとした知り合いネットワークを、コツコツ作っておくことは大切でしょう。
インターネットで候補者が見つからない
第2に候補者の売り方の工夫が必要です。リクルーティング専門企業やリクルーターは、インターネットを駆使して効率良く候補者を見つけようとしています。アメリカでは数年前からLinkedInがその中心になってきました。LinkedInは専門職のSNSとして発展してきましたが、今では大学生でもレジュメ代わりに使うようになりました。LinkedInには、お金を払ってでも情報を得たい企業の採用担当者とリクルーティング専門企業が毎日のように群がり、さまざまな条件で候補者を検索しています。Monster.comやDICEのような既存サービスも同様です。
このような中で自分を見つけてもらうには、自分のレジュメの言葉に気を使う必要があります。おすすめの方法は、自分がターゲットにしている求人(Job Description)によく使われている単語を探し、そうした単語を自分の経歴に使うことです。自分のレジュメで昔の役職名が古く見えるのであれば、今風にアレンジするのも良いでしょう。例えば、以前はSales Consultantと呼ばれていた職に就いていて、今では同じポジションがAccount Consultantと呼ばれているのであれば、レジュメの過去の役職をAccount Consultant(Sales Consultant)と書いてみてください。驚くほど連絡が増えるはずです。
社内からスピードを求められる
企業では採用が遅れると、「採用できないまま数カ月が経ったなら、このポジションは必要ないのでは?」という疑問を社内で持たれる恐れがあります。また、前任者の担当していた仕事が疎かにならないうちに採用(Back Fillと呼びます)したいと考えています。いずれにしても、採用側は迅速に採用を終えたいと思っています。
この状況を、候補者が把握しておくことは大切です。例えば、メールや電話の折り返しのスピードに気を使いましょう。数日待たせるだけで、他の候補者と話が進んでしまうかもしれません。面接日も「2、3週間後ぐらいに設定してください」などと言うと、後から現れた候補者に追い抜かされ、先にポジションを取られてしまうかもしれません。焦る必要はありませんが、採用側とのやり取りとスケジュール決めはスピードが重要です。
レイオフと米国内転職のコツ
会社のレイオフで職を失いました。レイオフ後の再就職は難しいのでしょうか? また、転職の情報はどのように集めればいいですか?
レイオフはマイナスか?
アメリカでは、日本人を含め多くの外国人がレイオフはマイナスという感覚があり、再就職が難しいと思いがちです。しかし、個人的な成果・パフォーマンス・倫理違反など、俗にいう「クビ」でない限り、アメリカではレイオフは悪いことではありません。
投資家から見れば、レイオフは企業が健全な状態でいようとする活動なので、ほとんどの場合、レイオフを発表すると株価が上昇します。そのレイオフのターゲットになり、自分のいたポジションがなくなった場合、あなた個人がどうしたというより「会社都合」の名目で人員減らしをした離職だと判断されます。こういう場合は、決して悲観せず「今回、レイオフに遭ったので、職を探しています」と、どんどん転職活動をしてください。仮に個人的な理由のレイオフだとしても、個人情報を傷付ける形で会社・人事担当者間で共有することはないので、次へ向かってください。
また、レイオフに遭っても、焦らずじっくり次の職場を探しましょう。アメリカでは数カ月から数年の仕事のブランクがあるレジュメでも、面接ではあえてそこに触れないか、または候補者本人が「その期間は自分を見つめるために勉強していた」とか「家族と過ごすことに集中していた」などと説明することがあります。それはそれと受け止められることがほとんどですから、ブランク期間はあまり気にしないでください。
注意が必要なのは、人の口コミです。多くの人は聞かれると、つい他人のことを話してしまいます。例えば、これから応募する会社のマネージャーと自分の前職の同僚が知り合いだったなんていうことはよくあることです。するとそのマネージャーは「この前までそちらにいた○○さんがこちらに来たいと言っているけど、何か問題ある?」と聞いてしまうかもしれません。人の口に戸は立てられませんから、退職前の職場での人間関係も良好に、そして節度ある態度を心掛けましょう。
転職情報はどこで手に入れるか?
前回も紹介しましたが、アメリカでは現時点でLinkedInがとても良い就活ツールになっています。ビジネス用SNSのLinkedInは世界20カ国で5億6200万人のユーザーがおり(2018年6月)、アメリカだけで1億4600万人のユーザー(2018年3月)がいると言われています。
LinkedInでアカウントを作って自分の経歴を共有するのは無料で、有料のPremium会員になれば、特別な待遇が受けられます。例を挙げてみましょう。
・ 就活中と宣言すると、自分の情報がリクルーターの検索上位に上がる。
・ 就転職にまつわることが相談でき、転職情報のメールが受信できる。
・ 各企業の最新の採用情報、企業風土や働きやすさのデータが分かり、採用担当者に直接連絡ができる。
・ どの会社のどのリクルーターが何回自分の情報を覗いたか分かる。他にも特典があり、転職活動の大きな武器になることは間違いありません。誰にも聞けないような質問ができるのは、大きなメリットでしょう。
この連載で何度も繰り返しましたが、面接はお見合いです。憶することなく、自分のしたいこと、できること、楽しめることを存分に表現して、新しい仕事を見つけられるようお祈りしております。日本人・日系人である私たちがアメリカで存在価値を上げる手伝いができたのなら幸いです。16回の連載で、読者の方々から私もたくさん学ばせていただきました。もし、今後、ご質問などありましたら下記またはhttp://hiroakitakamatsu.comにご連絡ください。これまでありがとうございました。
1998年Microsoft Corporationに入社。技術職の主幹マネージャーとして開発の傍ら、採用、給与・等級の決定からレイオフまで携わる。その間、毎年、平均数千枚のレジュメを読み、300回前後の面接を行った。17年、Tableau Software入社。スターティアホールディングス株式会社社外取締役。元Seattle Japanese IT Professionals会長。個人でもエグゼクティブビジネスコーチとして活動中 。
・ウェブサイト:http://hiroakitakamatsu.com/
・フェイスブック:www.facebook.com/TakamatsuOfficial