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バイリンガル環境が子供の言語発達に及ぼす影響、メリット・デメリットについて教えてください |
< 回答者|言語聴覚士 鈴木美佐子さん>
バイリンガル児は、日常的にふたつの言語に触れて生活しています。そういった環境が発達に何らかの影響を及ぼすであろうことは想像に難くありません。
まず利点ですが、モノリンガル児に比べて考え方が柔軟で認知能力も高い傾向があります。つまり、場面や人に応じて柔軟に言葉や表現を使い分ける社会性言語に優れています。認知面では、音や声を聞き取る力である聴覚弁別力や、背景の中から目標となる物を見つけ出す力(例『ウォーリーをさがせ』)などの視覚認知力が高いという研究結果があります。
一方、弊害としては日本語と英語の混同使用、語彙不足、文法の誤り、発音の誤りなどが挙げられます。これらはすべて2言語が互いに影響し合うためで、特に幼少期によく見られるものです。しかし、文法や語彙などといった言語的観点から自分の言葉が正しいかどうかを分析判断する能力である「メタ言語」力が身に着いてくる5、6歳になると、その多くが解消していきます。
このように見ていくと、弊害と言っても一時的なもので、利点が多いことがわかりますが、弊害を最小限にし、利点を最大限にするために留意したいことが2点あります。まず、言葉を使った親子コミュニケーション。言葉は文化と密接に結び付いていて、人の心情をも表現するものです。そのため、親にとって最もなじみがあり心を伝えられる言葉で親子のコミュニケーションを取ることが重要です。2点目は、2言語に触れる機会の保障。モノリンガル児に比べてそれぞれの言語に触れる絶対量が不足しがちなため、ふたつの言語に触れる機会を保障してあげる必要があります。どちらの言語力も中途半端になり、学習能力にも悪影響を及ぼすような事態は避けたいものです。
言語発達につまずきがある場合、かつては子供の負担を減らすため、ひとつの言語に限定すべきだという指導が主流でした。しかし近年の研究によると、バイリンガル環境そのものが言語障害の原因になることはなく、その子のペースでふたつの言語を学ぶことができるということがわかっています。むしろ、親の母国語で豊かな親子コミュニケーションを取ることが言語発達を促すことにつながるのです。
子供の可能性を最大限に伸ばす手助けをしてあげながら、育児を楽しんでいきましょう。
(2011年8月)
言語聴覚士 鈴木美佐子さん
日本言語聴覚士国家資格を取得後、言語聴覚士として勤務。渡米後、ポートランド州立大学言語聴覚科修士課程修了。米国言語聴覚士学会、オレゴン州及びワシントン州認定Speech-Language Pathologist。現在、ウィルソンビルにて「Suzuki Speech Therapy」を開業。スカイプを使ったセラピーも開始。
Suzuki Speech Therapy
TEL.503-925-4507 www.suzukispeechtherapy.com
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