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七転八起!ママの就活

七転八起!ママの就活

第1回 新天地での生活が一変

ワシントン州出身の夫が念願のシアトルに就職が決まり、越して来たのが1年半前。日本行きの直行便もあり、自然に囲まれた美しい州での生活、そして娘もグランマに会える回数が増え、大喜び。普段はサムライ気取りで無口な夫も、故郷の澄んだ空気と潮風に「生きている心地がする」と褒め言葉を連発する。そんな娘と夫の姿を見て、私も家族との幸せな暮らしを実感していた。
そんなある日、私達家族に思い掛けない出来事が起こってしまった。夫がレイオフに遭ったのだ。一瞬にして、頭が真っ白になる。どうしよう!? 不安な気持ちが胸をよぎった。いても立ってもいられない衝動に駆られながらも、何とかしなくてはと対策を練り始めた。しかし、夫はショックもあるようだが意外にも冷静。「これは家族の絆を深める絶好のチャンス」と至って楽観的だ。慌てふためく私の気持ちとは裏腹に、娘と夫は家族の充実した時を過ごし、「We are happy family」とばかりに理想的な親子関係を築いている……。
夫の再就職活動は思ったより難しかった。私の立場としては夫のプライドがあるから、やたら人に話すわけにもいかない。こんな状況を誰にも言えず、悶々とする孤独の中で悲鳴を上げながら、たくわえとその数字を計算する毎日を過ごすことになった。ついには「ここは内助の功の見せどころ」と、勇んで就職活動を決意。家計を支えるため、専業主婦の衣を脱ぎ捨て、いざ出陣だ! しかしながら、このご時世、企業が求める人材のレベルははるかに高かったのだった……。
(次号につづく)

使える★就職ワザ

図書館の無料講座

図書館の無料ワークショップを利用すると便利。私の住むスノホミッシュ郡の図書館では、月に1回の割合で求職者向けに無料ワークショップを開催しており、職探しに関連するコンピューター・クラス、英文履歴書の作成ポイントを学べるクラスなどに参加できる。

第2回 その質問、違法じゃないの?

英文の履歴書とカバー・レターを夫にもチェックしてもらい、就活準備は万端。しかし、夫はプライドのせいか、妻の就職が先に決まることに対し、懸念を抱いている様子。娘も「ママは働かなくていいよ」という態度である。家計を守るために働きたい気持ちと、マイペースな夫と娘の狭間で、後ろ髪を引かれる思いだった。
書類を送付してから2週間ほどで、面接の連絡が来た。日系企業の面接はこれが初めて。スーツでバッチリ決めて臨んだが、独特のお辞儀、名刺受け渡しなど「ここは日本?」と思わず錯覚してしまう。日本を離れて約12年、日本のマナーを復習しておけば良かったと反省。仕事内容についての説明、志望動機などの質問の後、簡単な筆記、タイピング、日本語の試験があった。ここまではさほど問題ない。しかし、面接の後半になって妙な質問をされた。「夫の職業」や「子供」についてだ。その時は、仕事欲しさに真面目に答え、面接を終えた。
どうも納得できない。家に帰る途中、家族について聞かれたことが何度も頭をよぎった。これまでアメリカの会社で面接を受けた経験はあるが、そんな質問はされたことがない。夫と共に法律について調べようと試みたが、3年ぶりの面接でどっと疲れが出て、それ以上深く追求しなかった。数日後には、不採用の連絡。やっぱりダメだった。
アメリカでは、年齢、性別、人種、宗教などを聞くと差別の対象になる。「アメリカの会社なら法律に基づいているから厄介なことにならないだろう」と夫。アメリカの会社なら働いてもOKだと認めてくれたのかな……?
(次号につづく)

使える★就職ワザ

インターネットをフル活用

検索サイトで「英文履歴書」「英文カバー・レター」などのキーワードを入力すると、無料サンプルが見つかる。また、求人情報サイト(www.craigslist.org、www.monster.com、www.go2worksource.comなど)で「Japanese」とキーワードを入れると、日本語関係の仕事が探せる。日系求人情報サイト(www.iiicareer.com、www.shigotosagashi.com)もある。

第3回 顔も見ないで採用の有無を判断するの?

日系企業の面接での失敗を踏まえ、今度はアメリカ企業に絞って応募。これで、子供や夫の職業のことで差別されることもないだろう。早速、2週間以内に、電話による1次面接を知らせるEメールが届いた。面接当日、勤務時間などの説明から始まり、志望動機、前職、コンピューター・スキル、短所、通勤方法、給料の希望額などについて質問を受ける。中には「こんな場合、あなたならどうする?」的な質問も。緊張したが、感じ良く面接を終え、幸運にも2次へ進むことができた。
これまた電話で行われ、質問内容もさほど変わらない。しかし、不運にも面接官が早口なうえ、強いなまりの持ち主だった。まだ私が答えているのに質問を繰り返されたり、ほかの用で中断されたりすることもあり、次第に頭の中がこんがらがってくる。自分でもわけのわからないことを口走ってしまい、あぁ~もう助けて!という心境に。その面接官との波長の合わない会話の後、次を期待するのはやめた。ここはアメリカ、なまりのある英語が聞き取れない自分の勉強不足と判断し、陣を引くことに。電話面接で意欲を伝えるには、巧みな英語力が必要。差別がない代わりに、話だけで私の能力を判断されるのだ。
夫と娘は慰めるどころか、「ママは仕事するなということ」と、好き勝手なことを言う。義父母から帰郷を促す申し出があったせいか、夫と娘はさらにマイペースで毎日を送っている。このままだと、ド田舎にある夫の実家の庭先で、シャワーもトイレもないキャンピング・カー暮らし? 何としてでも、仕事を見つけなければ。(次号につづく)

使える★就職ワザ

英語での模擬面接

英会話レッスン・サイト、Talkenglish.comで、面接における質疑応答の練習をしてみよう。「Interview English Lesson」の見出しをクリックし、希望するカテゴリーを選択していくと、100以上の英語のサンプルが音声付きで用意されている。さまざまな面接英語をリスニングやスピーキングを含めて身に着けることが可能だ。

第4回 思わずこんな返答をして大失敗

「何としてでも仕事を見つけなければ」。まるで長刀を持ち、敵に向かって突進しているような気分だ。そんな心境で英語面接に臨んだ私は緊張のあまり、とんでもないことを口走ってしまった……。
「会社のポリシーに反する行為をしている同僚に対し、どう対処しますか」という一般的な質問。以前の私なら「会社のポリシーに従い、同僚にそれとなくポリシーについて話してみる。その後、改善されなければ上司に相談する」などの模範解答ができたはずだ。仕事欲しさに焦った私は、「人は人、自分の仕事だけ最善を尽くしてやります」と、全く意に沿わない言葉を口にしてしまった。チームワークや会社のポリシーを確認する質問だったのに! その後、いろいろな修飾語を並べて訂正しようと試みたが「覆水盆に返らず」のごとく。あぁ~!
次回のために、しっかりと模範解答を頭に叩き込み、社風に合わせてポジティブに答えられるよう準備することにした。専業主婦の生活が長くなり、家庭を守るという態度が身に着いてしまったせいかもしれない。またアメリカ人夫との生活で「他人は他人、自分と家族のニーズがいちばん!」という気質が、知らないうちに染み付いていたようだ。夫からは、「他人のペースに乱されるな」「いつもマイペースで自分の位置付けを守れ!」と叩き込まれているのだ。日本のOL時代に学んだチームワークや生真面目さ、そして私のモットーである宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の精神を見直してみよう。これは自分探しの良い機会だ。次の面接に向かって的を絞り、頑張るしかない! (次号につづく)

使える★就職ワザ

面接への備え

自分のアピール・ポイント、長所、短所を英語でまとめておくと便利。面接を受ける会社の概要はしっかり勉強を。また、私がためになったのはこのウェブサイト。
米労働省 面接時に必要なポイントを学べる
タイピング・テスト 無料のテストでタイピング練習できる

第5回 過剰表現でも、積極的な態度を見せる!

ある日、予期せぬ会社からのメッセージが留守番電話に残されていた。履歴書を送付してから3週間くらい経過していたので、すっかり忘れていたのだ。電話を掛ける前に、素早くウェブサイトで会社概要をチェック。そして、電話面接が開始された。
これまでの面接経験を生かし、今回は仕事に対する意欲を積極的に表現することに専念。自分の職歴について説明後、その会社のホームページを丸ごと読み上げ、企業研究していることをにおわせた。なんとなく良い印象を与えたという手応えあり! 「できます」「やったことがあります」「ぜひやらせてください」「自信があります!」などの言葉を連発しているうちに、その仕事が本当にできる自信が湧いてきた。きっと、英語だからこその過剰表現。日本語だったら、こんなに大胆な発言はできなかっただろう。まだ候補者がいるので後日連絡するという言葉を最後に、電話面接を終えた。
自分の発した美辞麗句の数々にちょっと戸惑いを覚える。が、やる気は十分に伝わったはず。その5日後、次の面接の連絡があった。
夫いわく「積極的態度で自分をアピールしろ」「能力があるかどうかは会社が判断する」「できなくても弱気にならず、やる気だけは伝えろ」というのが、アメリカでの面接に対するアドバイスだという。しかしながら、そんな夫自身の就職活動は一体? いまだ失業中だというのにマイペース過ぎる夫の性格は私には理解しがたい。今や夫と娘は、「ママはどうしても働きたいんだね。それが夢らしいよ」と勝手な解釈さえしているようだ。そんな家族に励まされて、いよいよ2次面接へ。この不思議な状況を喜ぶべきなのだろうか?
(次号につづく)

使える★就職ワザ

身元調査に備える

内定をもらっても安心は禁物。ドラッグ検査(Drag Screening)を受けたり、さらに身元調査の承諾書に署名して犯罪歴の有無を調べられる(Criminal Check)ほか、クレジット歴のチェック(Fair Credit Reporting Act/Consumer Disclosure and General Authorization)もされたり。また、レファレンスとして、推薦人の名前と連絡先を求められるので、前もって信頼できる人にお願いしておこう。

最終回 ロールプレイで奮闘

専業主婦の私が「家計を支えたい」という一心で始めた就活。数カ月が過ぎてようやく娘と夫の理解も得られ、「ベストを尽くして!」と温かい言葉を掛けてくれるようになった。
そんなある日の面接で、面接をしてくれたマネジャーがその会社のプロモーションについて説明し始めた。ふむふむ、これは私がすでにリサーチした内容だ。それにしてもこのマネジャー、非常にハイパーな人のようで、声も大きく、よく話す。面接中に「僕になれと言わないが、僕のように話せる人を求めている」と、こんなヒントを与えてくれた。その後、マネジャーを相手にロールプレイをすることに。「弾丸のように話せる人を演じよう」とひらめいた。彼を真似してプロモーションについて必要なポイントを連発。「商品名が違うよ」と注意されたが、なんとか終了。最後の「あなたは私達チームのカラーに合うと思うか?」という質問には、「私の能力、懸命に働く生真面目さ、チームワークを重んじる精神はこのチームに必要であり、必ずチームに役に立つ人材です」と大胆な回答を残した。とりあえず、娘と夫に言われたようにベストを尽くして自分をアピールできたので満足。後日連絡をもらえるということで、面接を終えた。
1週間後、その会社から採用通知の電話が。「やっと仕事が見つかった!」。私の能力を認めてもらえたことが何よりうれしい。感謝感激の一瞬を家族と分かち合った。
夫のリストラ、自分の英語力のなさ、社会に認めてもらえない無能な自分に落ち込む日々もあったが、最後まであきらめなくて良かった。時世の厳しさ、そして家族の愛を感じたこの経験を、今後の人生に役立てたいものだ。

使える★就職ワザ

予告なしの電話面接に動じない

履歴書送付後、突然の電話面接に驚くことがある。自分の職歴やよくある質問「目標達成のためにどんな努力をしたか」「残業についてどう感じてどう対処したか」「どんなミスをしてどう解決したか」「この職務で大切なことを3つ挙げよ」「会社を辞めた(辞めたい)理由は」などの回答を頭の中にインプットしておくと便利だ。

大和なでし子 シアトル郊外在住。日本では金融業界、アメリカでは日本向け製品プロジェクトに携わり、大学院で行政学修士(MPA)を取得。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」をモットーとする一児の母。江戸時代のサムライを思い起こさせる風変わりなアメリカ人の夫を持つ。