シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

みるちゃん みる みる


日米文化のはざまでもがく幼児の言い分

目次

第1回 「幼児教育をみる みる」

わたし、みる。4歳。だけどお洋服は8歳用でパッツンパッツン。おとうちゃんはアメリカ人で185センチ。おかあちゃんは日本人のくせに177センチ。そんなのから出てきたんだもん、でかくもなるわ。寝たきりの頃は、ぶよぶよで「Thunder Thigh!」なんて呼ばれてたわ。
 
1歳から保育園通いのわたし。社会に出て苦労してこれでもやつれたのよ。わたしのおかあちゃんは、しょっちゅう日本に出稼ぎにいくの。だからわたしも日米の保育園をいったりきたり、日本にもう13回も行ったわ。保育園だってピンからキリまで行きまくり。保育園のことならなんでも聞いてちょんまげ。本が書けるわ。字は書けないけど。
 
日本の保育園は天国ね。今も夢に見るのが栄養士さんの作った愛情ランチ! ミートボールにはお野菜細かくして入ってるわ、にんじんはお花の模様だわ、技がありあり。アメリカンの保育園じゃ、「あんた人間が食べるもの作ったことあんの?」って聞きたくなるオネエチャンがお作りになる。わたしら命がけのお毒見隊。だからマカロニ・チーズがご馳走になるわけ。アメリカのお子様はこんなものばっか食べてるからビタミン剤なんか飲むのよね。
 
先生だって、日本の方がやる気があってよろしい。みんなNHKの歌のおねえさんのノリで、脳天から突き出るような声でお歌もうまいし、エプロン姿もかわいいしー。こっちの先生はどかっと座りこんで「きのうトニーがさあ、ちょめちょめぺけぺけ……」なんて話してばっかり。モラルがとっても低いのよ。
 
今は、モンテッソリーのプリスクールに通ってるわ。モンテッソリーは最高! なんてったって先生がやさしい! 「声を荒げて叱らない」、「ネガティブな評価をしない」ってのが掟らしいのね。うちの鬼かあちゃんにも見習ってほしいわ。よい子のお母さんはどなったり、ひっぱたいちゃだめよ。すぐ幼児虐待でしょっぴかれるからねえ。
 
ああ、小腹がすいたわ。マイルームで隠れ食いしよーっと。ベットの下にへそくりヨックモックがあるの。奥さん!  子供部屋はよーくお掃除してね。最近、わたしのクローゼットの中からミイラ化した2年前のへそくり枝豆が発掘されて、おかあちゃんぶちキレてたわ。当時は枝豆にはまってたのよねえ。「みる知らない」って言いはったけど、まんざら嘘じゃないわよ。刹那的に生きてるわたしらお子様に過去の記憶はございません。人生楽しいことが多すぎていちいち覚えてられないのよねえ。
 
実は、最近チョコばっかり隠してたらヒーターの熱で溶けてカーペットにべっちょりついちゃった。冬だと思って油断してたらやられたわ。おかあちゃんにはないしょのしょー。まあ、あの人掃除なんてしないからあと2年はばれないと思うけど。
 
さあ、今日も見てみる、やってみる!! 悪さをしにいってきまーす。みなさんとどっかでばったり会うのを楽しみにしてるわねえ。わたしはしょっちゅうベルスクで発狂してるわよー。ばいばーい。
 
(2001年5月)

 

第2回 「お受験をみる みる」

毎年春になると我が家にやって来るのが花粉症と不合格通知。今年もどちらも来ましたよ。不合格はこれで3年連続だぜベイビー。
 
今通っているモンテッソリーの学校は前にも言ったとおり最高なのだけど、もともと本命は近所の私立の学校だったのね。まあ、これが入れないったらありゃしない。毎年2月に願書を出すと、自動的に4月に不合格通知が来るのじゃあ。不思議じゃあ。どうやらジェニファーが通ってるらしく、「目指せジェニファーのご学友!」って、受験者が急増しているらしい。ああ、いい迷惑。せっかく寝ぼけたままたどり着ける距離にあるっていうのにブー。
 
親友のRちゃんは神童が集うらしい「開いてる窓学校」に行ってるの。高校まではこれで安心っていばってるわ。けどRちゃんのお誕生会で会った4歳の自称「神童」のみなさんには呆れたわ。まず親が、「わたしの子はおりこうさんなのよ、みてみてほらほら」光線をばらまいて、子供にビシーッとついてまわってるの。子供がこけるとこの世の終わりのような慌てよう。Overprotectiveもいいとこ。わたし、「神童」よりもでかいし強いし、ひとりでお尻だって拭けるもんね。あの学校なら簡単に番長になれるわ。
 
Rちゃんのママもこれまた“神童育成”に命をかけているの。おやつの時間も、「みるは今クッキーを4個食べたいと言いました。しかしすでに2個食べてしまいました。さて、あと何個食べられるでしょう?」なんて、いちいち算数教室はじめるのよ。食べたいだけ食べさせろー。餓死するぞー。 最近こういう教育ママが多いわね。共通点はアンチ・バービー。あと、リープフロッグのおもちゃでしか遊ばせてくれないこと。お誕生会なんかでも、「バービーくれるな」って招待状に書いてあるのよ。おもしろいから、リカちゃんあげるようにしているわたし。リカちゃんはねえ、外交官になるんだから。才女なのよ!っていばってるわ。
 
赤ん坊の頃から塾に行かせる日本のお母さんは異常だと思っていたけど、アメリカも同じね。こういう親には最近の『TIME』読んでもらいたいわ。フラッシュカードや習い事なんかくそくらえ! 子供らしくバカやってるのが一番の勉強だ!って書いてあるわよ。わたしの生き様が肯定されて、いい気分。
 
まったくこのへんは人口が増えすぎ。学区のいいところにみんな引っ越してくるでしょ。だからせっかくいい公立の学校も、どんどんマンモス校になっちゃうのよね。で、私立に目を向けるみなさんが増えていくのに学校は増えないから、お受験がこれまた大変になっていくわけ。こんな若い身空で先のこと心配したくもないけれど、幼稚園くらいまでにエスカレーターに乗っとかないと、誰か突き落として降ろさない限りチャンスが来ないのよー。早いうちにお受験するに限るのよー。
 
ああ、来年は桜の下での胴上げ達成なるか! また不合格記録を更新するのか! わたしに寝坊させてくれ! 歩いて学校に行かせてくれ! なんか、お金のかからない、いい裏口入学の悪知恵あったらシェアしてね。 じゃあまたね。ばっははーい。
 
(2001年6月)

 

第3回 「ハーフのみる みる」

空は青いぞ。すいかはうまいぞ。夏休みだー!
よい子のお兄さんお姉さんは、こっちの学校が終わったら日本へ越境入学しに行く、勤勉な皆さまも多いのではないでしょうか? わたしも「日本語が危ない」と、この夏はおばばのところへ飛ばされそう。
 
「ばばあー! 元気か? キティーちゃん買ってこいよ」、なんてこの前電話でモシモシしたもんだから、日本の親族一同がわたしの日本語の行く末を心配しているわ。マミーのまねしてただけなんだけどねえ。みんながダディーの日本語をお手本にしなさいって。ヘンな家庭に育つとバイリンガルも疲れるわ。
 
ああ、疲れると言えばシアトルの夏! だって夜がこないじゃないの。遊んでも遊んでも夜がこないから寝られないのよ! 寝不足で最近とってもCRANKYよ。日本に飛んだほうが体が休まるかしら。
 
ただねえ、日本はねえ、行くとじろじろ見られるからいやだわ。「ガイジン」顔だからじゃないのよ。見てくれ的にはどっぷり日本になじんでいるのに、英語でしゃべくるもんだからじろじろ見られるのよね。日本に行くと「ハーフなんだ」って言われるの。それもさあ「うわあ、ハーフなんだー(かわいい!)」ってのじゃなくて、「エ? ハーフなんだ(げー、見えない)」の方。
 
なんか「かわいい」、「チャパツ」、「スタイルよし」ってのがハーフらしいんだな。ハーフならゴールデン・ハーフ・スペシャルやキャロライン洋子になって芸能界デビュー!って思ってる日本人がまだまだいるのよね。
 
それにいまや純血日本男女もとってもガイジンしてるじゃないの。わたしなんか北国の色白青っぱな垂れ小僧にしか見えないわけ。そんな美貌のわたしが日本で「マミー」なんて呼んでると、「なにこの西洋かぶれが!」って目で見られちゃうの。“アンパンマンわかめ”のハーフがいて悪いか! 見てくれで差別するな!
 
そうそうハーフと言えば、去年の今ごろ美しい日米ハーフのお姉ちゃんの結婚式で、フラワー・ガールに任命されて大失敗こきました。コロンビア・タワーのてっぺんの、とってもハイソなウエディング。同じハーフのよしみで選ばれたわたくし。ゴージャスなドレスに身をつつんだわたしは、ネコに小判、ブタに真珠、一寸先は闇の3歳児(当時)。本番でトイレへ行きたくなちゃったのだ。
 
「我慢しろー」
「でちゃう!」
「2秒でしろー」
「うんちだもん!」
 
あせりまくる親を無視して自然の摂理に身を任せてしまったわたし。すかっとジャーして出てきた時には、時すでに遅し。おねえちゃんはもうバージン・ロード縦断成功。チューチューうるうる状態。
 
「めんごめんご。自然がわたしを呼んでいた、それも大自然でやんの!」、なんて頭かきかき式場へ入ってみたけれど、「なんなのよ、あの子ハーフなのにうんちこいてる場合じゃないわよ」って、皆さまに白い目で見られちゃった。ハーフだってこきますのよ。ほっといてちょうだい。「ハーフだから」、「ハーフのくせに」はもうごめんじゃい。“うんちたれアンパンマンわかめ”と言われようが、わたしは「ハーフ=かわいい」っていうスレテオ・タイプをぶち壊すためにも、このルックスでぶいぶい言わせて生きていこうと思うのだ。
 
目指せアジャコング!シアトル周辺のハーフの皆さん! 一緒に“アンパンマンわかめ”になってハーフの人権擁護にご協力を!
 
(2001年7月)

 

第4回 「夏休みの成果をみるみる」

夏休み中の飛行機代は高すぎると、けちんぼ両親に日本行きを阻まれたわたしは、サマー・キャンプのはしごでひと夏過ごしてるわ。みんなは?
 
いやー、この夏は日本に行かずとも、日本がシアトルに引っ越してきたって感じだわね。どこへ行っても老若日本男女がうーよ、うよ。わたしの縄張りベルスクにも、「マリナーズ観戦ツアーで来たのよ、今日はショッピングよ、買って買って買いまくるのよ!」と気合の入った観光客のみなさまがうじゃうじゃ。在シアトル邦人のみなさんは、今年はマリナーズ景気で大忙しでしょ? 祖国に残してきた親類縁者のためにイチロー・グッズの配給隊となり、海を越えてやって来るという縁者のためには試合のチケット買って、ガイド兼お抱え運転手にもなってあげちゃう。
 
「毎度ありがとうございます。これでお子様にレインボー・アイスクリーム1年分でも買ってあげて下さい」って、マリナーズから大入り袋のご祝儀なんぞいただきたいもんだわね。我が家も一家総出でガイドになって、もう何度もセイフコ・フィールドに巡礼してるわよ。けどね、実は野球を見ながらも「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、とっととバスケのシーズンになーれ!」って念じてますねん。ハワードもきっとテクマクやってると思うわ。我が家はスーパー・ソニックスの超熱狂ファン。このままでは「イチロー兄ちゃんは成績優秀なのに、まったくジローときたらデキが悪いんだから!」って比較され、グレて道をはずす弟ジロー。それは困るのよー。シアトル・スポーツ三兄弟、仲良くしようよ。長男ひとりでぶっちぎるのはやめてほしいのよー。
 
しかしまあ、今年の夏は、お客さんが多いから、わたしゃほくほく。
「いい子にしないとサンタさん来ないぞ!」
なんておかあちゃんの脅しももう通用しないもんね。わたしたちクソガキにだってサンタさんが来るもんね!
 
日本から! マリナーズの試合を観に、スーツケースいっぱいのおみやげを抱えて! 何回も!
今年上半期の「べスト・サンタ」は、バツイチおじちゃんの新しい嫁。おかあちゃんにも酒だのラーメン博物館のラーメンなんだのあったけど、わたしへの貢ぎ物には気合が入ってたわね。こんなにくれるとつけあがるぞ!ってなほど。キティーちゃんビデオ、バッグ、バスタオル、電話セットなど、キティーちゃんオンパレード。中でも光っていたのが「特製陶器鉢付きハローキティー東京ラーメン」。このキティーちゃんどんぶりが、高級仕様でいいんだわ。毎日ごはんてんこ盛りにしていただいてるわ。
 
この「嫁サンタ」、せめてわたしを味方につけとかないと親戚関係やってけないって理解していておりこうさん。機内食の残りを自慢げにくれたのには目が点になったけどね。
 
いやぁ、いろいろもらいまくりの夏だけど、この夏のみやげグランプリといえばこれ! おかあちゃんの友人、彼氏いない歴35年のくりが持ってきたポケットティッシュ。これ、ちまたで流行してるのよ。水着のお姉ちゃんのぶりぶり笑顔や、漢字とか数字とか地図とかにぎやかに書いてあって、エスニックな感じがアメリカ人に大ウケ。お友達のママにずいぶんあげたけど、すかしたブロンド・ママがバッグから新宿2丁目のテレクラのティッシュ出して鼻かむ姿は笑えていいわよ。
 
マリナーズが強くないと「土産サンタ」は来なくなっちゃうのかなあ? ソニックスじゃあ、どう転んでもこんなに盛りあがらないもんね。ならば、ソニックス・ファンなんかいちぬけた!
 
(2001年8月)

 

第5回 「習い事をみるみる」

日が短くなって寂しくなってきますわねえ。夏は、子供なんか外に放り出しとけばよかったけど、これからの季節は、お子様の体力を消耗させるのが大変でしょう。わたしは家の中で自転車に乗ったり、壁にお絵かきしたりインドア・ライフもエンジョイしてるんだけど、うちのお母ちゃんは、しきりと新しい習い事を見つけてきては、わたしを追い出そうとするのよね。わたしを疲労困ぱいさせて、暴れん坊パワーの沈静化をたくらんでるのが見え見え。
 
「1粒でがっくり虚弱体質になれる!」なんてドラッグがあったら飲まされそう。気を付けなきゃ。けどねえ、奥さん! なんでも習わせりゃいいってもんじゃないわよ。もとのとれることさせなきゃね。最近ゴルフをやってる小僧が多いけど、あれは「目指せタイガーウッズ! 儲けて楽させろ!」って親の魂胆がはっきりしていてよろしい。
 
わたしなんかバレエよ。鮎原こずえじゃないわよ、ロビンちゃんよ。もうドラム缶みたいな体型でしょ、一目みれば「イケテナイ」のが分かるっちゅうに。こっちじゃさ、女の子にはバレエ習わさないとばちがあたるとでも思ってる、まぬけな親が多いのよ。 「あなたの娘はいつまでも愛らしいわけではなーい。今バレエをさせないと後悔するぞ」って脅し広告まであるものね。バレエ教室は大繁盛。ガラス張りの教室には、ビデオやカメラかかえた親がへばりついて、ニヤケてる。そんな中でひとりひとりお尻ふりながらスキップしろだの、さんべんまわってワンって言えだの。やってられないわ。見世物小屋じゃないっちゅうの。
 
「ママ見て、パパ見て!」って喜んでふりふりやってるほかの4歳児の気がしれないわ。だってあなた、わたしたちの格好なんて宴会芸のウケねらい仮装ファッションもいいとこ。むちむちボディーにピンクのレオタード&ピンクのタイツに、これまたピンクのバレエ・シューズ。これにハワイアン・ダンサーみたいな尻ふりフリルなんかも付けちゃって。みんなもちろんはみパンよ。
 
大人は酔っ払った勢いでアホさらせられるけど、しらふの4歳児には羞恥心ってものがあるのよ。わたしは踊らないの。なにがあっても踊らないって決めてるの。泣いたり叫んだりなんかはしないわよ。 「みる! お尻ふってー」って先生が言おうが、わたしはつっ立ってガラスのむこうのアホ面の親達にガンつけるのよ。バレエの発表会でもステージのど真ん中、仁王立ちで客席睨みつけてたわ。こわいでしょー。ビデオみたい? 笑えるわよ。人前で演じるのがいやなのよ。舞台女優にはなれないわ。 だけどねえ、わたし、突然ものすごい衝動に駆られるときがあるの。ある時、おりこうさんにひとり遊びをしていたわたし、変形自在の謎のボールのような物体を発見したの。その物体を棒みたいにのばしてたらむらむらってきて……。
 
「マミー、見てー! ちん○○!」って、お母ちゃんとお客さんに見せてあげたの。パンツの中にもっこり、物体を入れて。お母ちゃんとお客さんは、目が点。わたし、股間突き出し大いばり。こういうパフォーマンスは好きなのよねえ。これはもう天性なのよ、もう病気。体が自然に動いちゃう。
 
1歳の誕生日にもまわし締めて写真撮影させられたのね。わたし女よ! なんてぶーぶー言いながらもカメラマンが「ハイチーズ」っていうと、ちゃんとしこふんじゃったわ。わたし、人を笑わすのが好きなのよ。 親はわたしを厚顔無恥のバレエ小娘にしたいみたいだけど、冗談じゃない、ああいう芸は邪道だわ。銭にもならぬ。わたしの進む道はお笑いよ! わたしが二度と人前で破廉恥芸をしないようにお母ちゃんの監視の目が厳しいけれど、わたし、密室で日々、新ネタを研究してるのよ。
 
水風船を股にはさんでぶっつぶして「おもらしー」とか。お父ちゃんのひげそりムースを顔につけて「じいさん」とか。え? つまんない? うーん。修行が足りぬか……。吉本お笑い教室シアトル校でもできないかしら。気合入れて学んじゃうんだけどなあ。
 
誰か一緒にコンビ組まない? ボケのかませる4歳児募集中! じゃあまたねえ。
 
(2001年9月)

 

第6回 「お誕生会をみるみる」

よいこのみなさーん、新学年はどうよ? ちゃんといい子に学校いってる? 肉まんのおいしい季節になったわね。おやつに毎日3つもたいらげてたら、太ももの股ずれが気になりだしたわ。いつものゴムパンもくい込んでおなかがかゆくてたまらないのよ。幼児用マタニティー服なんてないものかしらね。なんてたって、30キロの大台もちょいとすぐそこ。まだ4歳だっちゅうに。おほほほほ。
 
わたしは、今学期も某モンテソーリにご通園よ。ルーム3の女王様。女王の地位と名誉をかけての縄張り争いも、新入生歓迎つるしあげも、無事終了。あとは、どうこの1年、威厳と美貌を保って頂点を極め続けるか、それが人生の分かれ道。幼児稼業も疲れるわ。結構気苦労が多いのよ。
 
アフター3だって気がぬけないわ。9 to 3は、ばっちり超エリートできめてるわたしも、学校を離れると時々魔がさしてQFCなんかで、「クッキー買ってくれなきゃおしっこもらすぞ!」って、大泣き発狂攻撃にでちゃったりするのよ。そういう時に限って、ルーム2のはなざわさんみたいな小娘セーラにフォーカスされちゃったりするのよね。
 
次の日いつものように美しく登校すると「みるは、おもらしベービーだ!」とか、「鼻から牛乳をたらして泣きわめいていた!」とか、うわさが尾ひれ背びれを付けてかけめぐり、ルーム3女王の勢力が弱まるなんてことになっちゃうのよ。これからはヅラかぶってちょびヒゲつけて、仮装してから発狂しなきゃ。
 
アフター3のメイン・イベントは、なんつったってバースデー・パーティー。家の郵便受けに「*月*日大安。来たれオードリーの4歳のお誕生会!」なんて届くカードの数は、人気のバロメーター。なにを着ようかしら、おパンツはクマか、きりんか? なんてうきうきわくわく。
 
お母ちゃんは、お母ちゃんで、カードをなめるように見まわして、その紙質と、筆跡と、住所から、家柄と金持ち指数を割り出し、「やっぱ20ドル越えかね、今回も……」なんて、持ってくプレゼントのランクを選定するプロよ。ここいらには大金持ちが多いから、なめてかかってると、行って度肝をぬくことがあるのよね。
 
シドニーのパーティーには、ポニーが4頭もやってきたし、友達も某MSのつるっぱげ親父の子供のパーティー行ったら、ドライブウェイの途中に検問所があったってさ。プレゼントがせこいと入れてくれないのかしらね。
 
バースデー・パーティーは、女王闘争にやぶれた小娘たちの願ってもない敗者復活戦の晴れ舞台でもあるのよ。いつもつまらぬジョークをかますアニーだけど、自分のバースデー・パーティーにパワーパフガールズのかぶりもの軍団を呼びつけて、パーティー・フェーバーまでパワーパフガールズ・グッズだったりしたらもう大変。次の日から突然クラス中がアニーのジョークに腹をかかえて笑い出すようになるのよ。で、これはしめたと次の誕生会の主が、これまた気合いれちゃって。チャッキーチーズでパーティーやって、ばんばんコインくれて手土産にバービー・グッズもくれちゃったりしたら、クラス中の子はもうこの子に首ったけ。アニーのジョークは冷え続け、誰かのバースデー・パーティーがあるたびに、下克上の嵐が吹き荒れる。アホ幼児は、賄賂が大好き。こんな浮動票を従えて女王やり続けるのは、日本の首相よりも大変よ。
 
しけたバースデー・パーティーなら、やらないほうがまし。合成着色料たっぷりのケーキがなかったり、鼻血がでるほどチョコレート食べさせてくれなかったり、手土産がみかんとりんごだったりしたひにゃ、このバースデー・ガールはこの1年うかばれないわね。
 
新しいクラスで一番初めに歳をとる子も、かわいそう。わたしは1月生まれだから、下々のパーティーで事前にリサーチを重ね、女王様にふさわしい演出を計算できるけどね。やっぱりかぶりもの系がアホな幼児には受けるわね。今学期は、どんなバースデーに呼ばれるのかしらん。楽しみだわ。なにがあっても女王の座はこの巨漢で守りきるけどね。
 
ほんじゃま、みんな、またねえ。
 
(2001年10月)

 

第7回 「サンクスギビングをみるみる 」

物騒な世の中になっちゃったけど、みんな元気してる? こんなご時世だから、この秋はコタツにもぐってデブの出不精にでもなってようかと思ったら、すっとこどっこい、まあ、飛びまくってるわよー。 「今なら安い! すいてる!」と家内安全も火の用心も省みず、世の中と逆行し続けるへんくつ親にひきずりまわされて、日本、ハワイ、カリフォルニア……って、マイレージためまくってるわ。席はがらがらで棒になって寝れてよかったけど、機内食はめっきりまずくなるは、フォークやスプーンがプラスチックになるは、ここほれワンワン犬がセキュリティー・チェックで分解されるは、世の中とってもせちがらくなってるのが実感できたわよ。
 
だけど、悪ガキたちよ、めげちゃいかんよ。なんてたって、ホリデー・シーズンはすぐそこ! まずやって来るのは、サンクスギビング。これは、秋の収穫を感謝していただくといった由緒正しいホリデーなのだが、いまや、遠路はるばる親類縁者が集まって狂ったように食べ、飲むだけの日になりさがっているけどね。 ターキーだ、スタッフィングだ、パンプキン・パイだなんだかんだと、お一人様1万カロリー突破コース料理がてんこ盛りになるわ、それを「今日ばかりは、はじけるまで食べるのよー!」と、すかしっぺねえちゃんたちまでがガンガン食べる、食べる、食べる……。でもって本当にボタンははじけるは、人間フォアグラになった連中が、どたどたと転がりながらもデザートに食らいついてるわ、幼児には理解できない不気味なホリデー。
 
正月にどんちゃんやって飲んで食っては大いにOK。酔っ払ったおっさんたちにお酌でもすりゃ、お年玉がふんだくれるじゃない。サンクスギビングは、ただ“binge eating”をするだけ。なんかとってもくだらないホリデーにも思える……が、実は、これは幼児にもとってもおいしいホリデーなのだな。君の家に結集してアホみたいに食いまくってる親類縁者は、1カ月後には君の夢をかなえるサンタクロースに変身するのであーる。やつらが動けなくなるほど食べた翌日からは、クリスマス商戦の火蓋が切っておとされる! 店は朝7時から開いたりして、どこもかしこもクリスマス一色! そんな好時期に、君はこの親類縁者サンタを家に拉致しているのだぞよ。満腹中枢がぶちこわれ、正常な判断ができない親類縁者の手をひいてウインドー・ショッピングに駆り出し、君の願いをすりこみすりこみ、洗脳するのであーる。もともと子供に何を買っていいかなんてわからぬ連中。願った通りのブツがクリスマスにいただける率は、とっても高いあるよ。
 
我が家も、毎年わざわざ飛行機に乗って、じじばば軍団がサンフランシスコからやって来るのよね。敵を欺くには味方から。賢いわたしは親類縁者がやって来る前に、まずは親からだましにはいるのだ。まずサンクスギビングのにおいがしだしたら、心を鬼にして年に1度のいい子モードに入るのよ。おねしょは、股をキュッとしめて我慢。発狂回数も3割減量努力。
 
まずは、義理の家族の襲来に大忙しのおかあちゃんに、「お母さま、玄関にバラの花でも生けときましょうか?」、「お母さま、ターキーのお尻にスタッフィングぶちこむの手伝いましょうか?」なんぞと言ってみる。ここでのポイントは、お手伝いなんかしたくないんだから、お母ちゃんがさせてくれなさそうなことを提案する。
 
「まあ、いい子ね、ありがとう。だけど危ないからいいわ」と言わせりゃいいのだ。そんでお母ちゃんに現実味をおびたお手伝いを発令する隙を与えず、「じゃあ、お部屋かたづけてくるねー」と2階に上がって、怠慢はってりゃいいのであーる。ここで「あの子も結構いいとこあるのね」と思わせとけば、おしゃべりお母ちゃんは、じじばばにも言いふらしてくれるであろう。
 
今年は、不況だ、戦争だで消費も冷え込んでるから、いかにこの1カ月で大人をだましていいものいただくか、例年以上の知恵が必要だわ。親類縁者のごますりは、サンクスギビングのときだけの集中洗脳でOKだけど、このあと1カ月寝食をともにするお母ちゃん、お父ちゃんへの作戦は、長期耐久可能なことにしとかないと、知恵熱出してぶったおれちゃうから気を付けてね。せっかくいい子モードが続いていたのにクリスマス・イブにくそガキにもどったりしたら、プレゼントは返品されちゃうじゃない。そんなんじゃもともこもないってもんだわよ。1カ月だけ演じきるのよ、女優になったつもりで! クリスマス・プレゼントを手にしたらすぐに開けて箱をつぶして返品不能にしてから、くそガキ・モードに復活するように。悪ガキのみんなわかった? 成功を祈る。じゃあまたねえ。
 
(2001年12月)

 

第8回 「青っぱなをみるみる」

よい子のみんな、雨にも負けず、暗闇にも負けず、ぶいぶいやってる? クリスマス・プレゼントをいただくまでの、期間限定よい子モード生活にも慣れたかしら? さあ、みんな! ラスト・スパートのときがきたわよ! ここからは狙いを絞って集中攻撃! わたしは、独身貴族のカリフォルニアのおじちゃんに狙いを定めたわ。
 
「おじちゃま! みるねえ、バービーのおうちほしいんだけど、サンタさんのEメール・アドレス知ってる?」ってかまととぶって長距離電話。おじちゃんにメールうっといてもらうことにして、そのあとは、「おじちゃま、サンタさんからお返事きたあ?」って、無邪気な姪のふりをして週に1回のフォローも忘れない完璧さ。クリスマスにプレゼントをあげる彼女もいないおじちゃんは、わたしの思い通りに今週あたりFAOに向かい、わたしの喜ぶ顔を思い浮かべながらバービー・ハウスを抱え、ほくそえむはずよ。ひとり身のわびしい男に幸せを与えるわたしって、愛の天使よね。
 
さあ、あとはクリスマス休暇まで、たらたら学校行ってればOK。この時期は、学校すいてるのよ。どうしてだか知ってる? それはねえ、みんな風邪の子になっちゃったからよ。こっちの学校は、このくそ寒い冬の雨の中、平気でリセスに外遊びを強要するのよ。日本だったら悪がきたちが外に出たがったっても、「お風邪ひいちゃうからだめよん」ってやさしく先生が言ってくれるのに、こっちの先生は風邪の子育成に余念がない。
 
もともと雨が降ろうが傘をささないのがシアトル人。学校の先生は、子供をずぶぬれの風邪の子にして、青っぱながたれ流れるのを喜んで見てるのよ。そんでもって幼稚園の掟には「青っぱな小僧は、学校来るべからず」って書いてある。とんだ教育詐欺でしょ! 透明の鼻水はノー・プロブレム。黄色は注意。青っぱなは、自宅謹慎だってさ。アメリカ人の青っぱなへの偏見が、わたしには理解できないわ。
 
公共の場で、「へークションチキショーン」なんてくしゃみして、立派な2本の青っぱなが流れ出ようものなら、「オー・マイ・ゴッド」っと人が逃げてくのよね。日本じゃ田舎の子は、みんな青っぱなでしょ? 青っぱなで学校行かないでいいなら、日本の田舎っぺは、教育を受けられないじゃないか。そんなのうらやましいぞ。学校に行ったって風邪引ひくだけだから、わたしは自己防衛のためにすばらしい技をあみだしたわ。
 
「今日はゆっくりPBS三昧とまいりましょ」ってときはねえ、朝おかあちゃんがまだいびきをかいてる間に冷蔵庫に向かうの。で、歯磨きみたいなチューブに入った練りわさびを鼻の下にぬるのよ。右1.5センチ。左0.5センチのバランスが最高。で、ねぼけのおかあちゃんのところに行って、「ゲホゲホ」2回ほどせきこみ、「おかあちゃん、みてみてみどりの鼻水でちゃった」とせまるのだ。
 
「あらあら、みどりじゃしょうがないわねえ。今日は学校行けないわ」とおかあちゃんはがっかり。幼稚園の掟に書いてあるのだからこれは、もう堂々と自宅謹慎! 「やったー」などと声をあげず、「今日はシェアリングだったのに……」と肩を落として部屋にもどり、ドアを閉めてからガッツポーズをするのであーる。
 
粒入りわさびは、ばれる危険があるので一番安いわさびを使うことね。体温計をお湯で温めるっていうクラシックな技もあるけど、わたし、5までしか数字読めないからさ、いいあんばいに熱を出せないのよねー。
 
でも、念願の自宅謹慎も楽ではない。おかあちゃんは、めんどくさがりやなので病院には行かないんですむんだけど、すぐ病院に電話して薬をもらうのよね。で、いっつもバブルガム・フレーバーのどろどろしたピンクの液体が配給されるの。こいつがゲロまず。赤ん坊のころからずっとこれ。なんで、ガムもかんだことないガキにこんなものよこすのかね。おっぱい味とか、アップル・ジュース味ならわかるけど、人生初の薬がバブルガムってのが……、アメリカ人の味覚を疑うね。だからアメリカ人はくちゃくちゃ死ぬまでガムなんかかんでんだわ。まあ、とにかくこいつがまずいわ、1週間はなにがあっても飲み続けろだのと無茶を言うわ、このおかげでずる休みも命がけよ。たかが青っぱなごときで、どうしてこうもアメリカ人はうろたえるのかね、まったく。
 
さあ、今年ももうすぐ終わり。クリスマスのあとは、忘年会! バブルガム薬にも負けず、もう1、2回わさび鼻水で学校さぼって、宴会芸でもみがこうかしらん。宴会芸の出張サービスするわよーん。お声かけてねえ。じゃあねえ、またねえ。
 
(2001年12月)

 

第9回 「新年をみるみる 」

おーい、みんなー! あけてびっくりおめでとー。
 
どうよ、みんな念願のお品をクリスマスにいただけたかしら? わたしは、作戦大成功! 親戚のみんなも洗脳したとおりの物を貢いでくれたし、ガレージに長いこと隠されていたわたしへのプレゼントも、わたしが寝ている間にクリスマス・ツリーの下にちゃんと移動されてたし。ただおかあちゃんと同じ字で、「来年もいい子でいないとプレゼント持ってこないぞ。サンタより」、なんて脅迫状まで付いてて爆笑しそうになったわよ。まったく大人は、もうちょっと知恵、働かせて欲しいわね。
 
「うわー、サンタさん、なんで日本語書けるんだろう!」って、びっくりしてやるほうも疲れるんだから。今年の一番のプレゼントは、なほちゃんが日本で買ってきてくれた藤木直人CD&DVD! 藤木君ステキー。なほちゃん、ありがとねー。
 
いやぁ、しかし、この季節だけは、半分日本人でよかったーって思うわね。セーラもポリーナもクリスマスが終わったら、もうなんの生きる喜びもないけれど、わたしたちジャパニーズ・キッズ(こういうときだけわたしも含む)には、クリスマス・プレゼントでがっぷり儲けた喜びもさめぬ7泊8日目に、再び狂喜乱舞の現金収入がある! お父ちゃん、日本人と結婚してくれてありがとう! おかあちゃん、わたしを産んでくれてありがとう! みるは、クリスマスと正月が祝えて本当にうれしい! 万歳ハーフ!いけいけ国際結婚! 結婚するなら儲かる祝日の多い国民としよう! 子供は一生恩に着るぞ!
 
……んな、わけで、お正月。お年玉がもらえる!すばらしい日本国民の祝日だけど、正月にまつわる日本人の行動は妙だと思わない? アメリカだったら、新年へのカウントダウンしてシャンパン飲んで、そのへんの連中にチュ、チュッでおひらきになってすむのが、日本人は年を越してから盛り上がる。みんな無理して起きてるでしょ。わざわざ寒い中並んでガーンとでっかいベル鳴らして眠気をさましてみたり、くそ寒い山を登って初日の出だ、初出の屁だと、なんでもお初なものに向かって人民大移動をしてみたり。わたしもあやかって初おもらし、初げっぷなんかを祝っちゃったりしちゃうのよね。
 
この妙な行動への突破口となるのが年越しそば。日本人のような、お品のいい民族が、なんで夜中にごはんを食べるのじゃ? それもそばっていったら、やっぱ、きつねとかたぬきとかが入ってくるでしょ。そんなもの夜中に食べたら胃がもたれるじゃん。いつもわたしが寝しなにへそくりのヨックモックを食べようとするとおかあちゃんは怒るくせに、大晦日の夜中には、えび天のっけたグリーシーなそばをむしゃむしゃおかわりして食べてる。それも「おまえも食え!」と強要するし。本当に寝しなにそばを食べて長生きすると思ってるのだろうか? 日本人は、酔うと麺類が好きなだけじゃない? 酔っ払いがよく、しめにラーメン食べるじゃない。翌朝の胸やけは、どうしてくれるのじゃ? 半分アメリカンなわたしには、馴染めぬ日本のしきたり。で、夜中にそんなもの食べときながら、元旦にはじゃーんと積み木のように箱が詰まれて、朝からまた修行のように飲んで食べる。このおせちってものが、またまた不気味じゃ。ひからびたサカナがねとねとしてたり、わかめの親分がふんどししてたり、マッシュポテトかと思いきやむちゃくちゃ甘い謎の黄色い物体がしな作ってたり……。唯一食べられるのは、ピンクのかまぼこだけど、これだってなるとほどの魅力はなーい。
 
正月は、やっぱ初マック詣でなんてのがいいんだけどねえ。今年も正月は、お父ちゃんとお母ちゃんはどんちゃか大騒ぎ。わたしは、お年玉もらった瞬間にアメリカ人に変身して、もらったゲンナマもってチャッキーチーズにでもギャンブルに行きたいんだけど、補助輪付きちゃりんこで行くのもかっこ悪いから、じっとがまんの子なのだ。 なんてたってわたしは、1月23日までは、いい子モードでいるのさ! そうなのよ、その日でみる誕生5周年! 1月はめでたいことづくめなのじゃあ!
 
そうそうもう一発おめでたいニュース! いやあ、最近おかあちゃんがデブに磨きをかけてるなぁ、人生捨ててるなぁ……って思ってたら、びっくりくり。ただのデブじゃなくて、おなかの中にもう1匹怪獣がはいってるんだって! わたしもおねえちゃんになるのよー。これで、くれよんしんちゃんとためはれるわ。ウルトラマンなんとかで、男か女かみてもらったけど、おちんちんが見つからなくって、おかあちゃんは、今おちんちんがはえてくるのを待ってるんだって。ちんちんの種でももらって飲んだのかしら? どのくらいではえてくるのかなあ? まあ、家来は、男でも女でもいいんだけど。我が家をしきってるのは女王様のわたしってことだけは、早い時期にわからしておかないとね。
 
さあ、2002年。今年も悪がきのみんなよ、ぶいぶいぶっちぎりでいたずらしよう! じゃあねえ、またねえ。
 
(2002年1月)

 

第10回 「人生5年をみるみる 」

やっほー。5歳になったみるですよー。1997年1月23日に「ぎえー」っとオーバーレイク・ホスピタルでおたけびをあげて以来、早いもので、このわたくしも生誕5周年記念でございまーす。
 
1997年といえば、時の首相は橋本龍太郎。たまごっちをいじくるのが流行り、イチローにいちゃんも、まだ弓子さんとの 天ぷら屋密会をスクープされたばっかの頃。まさかおふたりとも、わたしの後を追ってシアトルに来ることになるなんて、 儀保愛子も予測できていなかったあの頃……。だけど一番のびっくりは、わたくしが生まれてこれたことよ。
 
なんてったってうちの親は、子供なんていらねーって飲んで遊んでめちゃくちゃやってたのよ。そのうえお父ちゃんは、「もう日本でガイジンやるのに飽きました」ってシアトルに行っちゃうわ、お母ちゃんは、「会社、辞めたくなーい」って東京に残っての別居夫婦。そのふたりが一緒に住めるようにしてあげたのが、このわたし。
 
お母ちゃんは会社を辞めずにシアトルに来るには、「育児休暇をとるしかない!」とない知恵絞って考え付くと、「ちょっとシアトルに子供仕込みに行ってきまーす」って飛行機乗ってやって来たの。わたしは、なんてったって「ゴールデン・ウイークの一発」の賜物ですの。わたしは、「えー、こんな夫婦のところに行くのー」って、神様の配属指示にぶーぶー言いながら、お母ちゃんのおなかの中におさまってやったわけ。もう体長1ミリの頃から東京―シアトル間を何十往復したことか! お母ちゃんはわたしがおなかで巨大化した頃、「ちょっとシアトルで子供産んできまーす」って、1年会社を休職してやって来たの。で、そのままいついちゃったってわけ。わたしが生まれてなかったら、終わってたわよ、この夫婦。
 
会社休職するためにしかたなく子供でも生むか、なんて考える親だから、「育児をなめんじゃねえぞ」って気合を込めて、こうして5年間厳しくクソがきしてあげたわ。もちろん、これからもこらしめ続けてあげるつもりよ。
 
で、わたしの人間界デビューは、“ワン・ツー・スリー”の1月23日。それもお母ちゃんが、予定日も陣痛もまだだっちゅうに、「ゴロのいい日に産むぞ!」って巨漢をゆすってエアロビクスして強引に破水させたのよ、怖いでしょ。よい子の妊婦のみなさんは、まねしちゃだめよ。わたしはもうちょっと腹の中でゆたゆたしてようと思ってたのに、“ワン、ツー、スリー”ののろいで押し出されてきたわけ。
 
あれから5年……。思えば、とんだ肥満ベイビーだったわたし。太ももが太過ぎて、オムツのわきを切って着用してたっけ。おむつ生活後半は、一番大きいサイズもわたしのふくよかなお尻をカバーできず、いろんなものがはみ出てきたわ。もう次は、寝たきり老人用のおむつっきゃない!ってとこぎりぎりで、便器にまたがれるようになったのよね。
 
お茶をこぼしてやけどしてERにかけこんだり、TVの中のバーニーと遊ぼうと思って激突してたんこぶつくったり、いやあ、若げのいたりのアホ事件がいっぱいあったわね。5歳の今年は、人生のターニング・ポイントよ。このままひとりっこでぶっちぎれるかと思ったら、すっとこどっこい、もう1怪獣配属されてくるみたいだし、それも、今度は「スリー、ツー、ワンで産むぞ」って、お母ちゃん気合入れてるわよ。
 
5歳になったから、日本語補習学校や幼稚園のお受験もあるじゃないの。バスだってタダじゃ乗れなくなるし、もうお子様ワールドじゃおつぼねさんね。脳天気にベルスクのボートから飛び込み自殺ごっごなんてやってる場合じゃないのよね。あーあ、年取るって大変。
 
今月は、5歳になってちょっとおセンチなみるでした。じゃーねえ、またねえ。
 
(2002年2月)

 

第11回 「うそつき大人をみるみる 」

いやぁ、まことにもってうれしいかぎりじゃ。なんてたって春はもうすぐそこ! ひと冬かわいがってやった青っぱなもおかあちゃんのお洋服にすりすりして、来年までえんがちょしちゃったし、おけつにおもらしマーク作らずブランコやすべりだいができるし、日も長くなってきて、いたずら研究開発に没頭するお時間も増える! これから夏に向かって盛り上がろうぜい。
 
るんるん楽しい春、今年の春はまた特別の味わいなのだ。なんてたって、わたしのまわりでは、赤ん坊が大豊作。こいつだけは、一生シングルでオネエチャンをとっかえひっかえ、遊んで暮らすだけさと皆にうらやましがられていたアンクル・ウィルまでもが電撃結婚してさー。わたしなんか、わざわざ学校さぼってカリフォルニアまでフラワーガールしてあげに行ったんだけどー、なんとこのおっちゃんまでが、パパになるんだってさ。あやしいなあとは思ってたのよね。
 
いろいろ女性を開拓してきたおっちゃんにしては、ズン胴オンナと結婚したのよ。「おーおー、できちゃった結婚なの?」って、かわいく聞いてあげたのに、おっちゃんは、完全否定してたのよ。それが、今ごろになって、「みる! Guess What? みるにいとこをプロデュ-スしてあげたよ」って、しゃーしゃーと言ってくるのよねえ。
 
「なんで1月に結婚して、春にもう赤ん坊が生まれるんだよ!」
 
「どうやったら、そんなに早く孵化する赤ん坊ができるんだ!」
 
と、けちをつけたいのをこらえて、「えー、うっそー、みる感激-」って喜んどいてあげたわよ。“真っ赤なうそ”っていうのはこういう赤ん坊の存在を、否定しまくる大人のつくうそのことを言うに違いないわね。まったく赤ちゃんがかわいそう。
 
真っ赤なうその元祖と言えば貴乃花のところ。結婚式の4カ月後には子供が生まれてきたでしょ。あのできちゃった婚否定しまくりのしらじらしさもすごかったわ。
 
最近の芸能界真っ赤なうそ大賞は、狂言の和泉なんとかと(漢字が難しくて読めないぞ)、脳天から声を出すヘンなオンナ羽野晶紀。「できちゃった婚?」と騒がれても、「食べて太っただけ」なんて言ってたのよ。んで、のっぴきならない状況になったら、「体の安全がわかったうえで報告しようと思ってました」だってさ。で、ばれてからも「食べて太ったのはうそではなーい」って言いはってんの。デブと妊婦を同類にしたらデブに失礼だろうが! 狂言屋なんだから、どうせなら出産当日まで、
 
「いやあ、食べて太っただけなんですー。便秘ですー」
 
「うんこだと思ってたのに、赤ちゃん出てきてびっくりー」
 
って狂ってほしかったわね。で、名前はもちろんうん子ちゃん。そこまでやれよ狂言屋! わたしは、この狂言屋を見習って、おねしょをドライヤーで乾かしているのがバレたら、「お母様が心配するといけないと思って、下半身の安全がわかったうえでご報告しようと思ってました」って真顔で言ってやるわ。
 
まったく大人はうそつきだ! 牛の産地だまし事件やら、サッチ-やら、外務省の連中やら、どいつもこいつも大うそつき! ばれたって、しらばっくれればすむと思ってるのが許せん! わたしたちなんかうそがばれたらオモチャ没収、TV鑑賞時間削減といった拷問が待っているというのに。大人はさー、しらばっくれたあげくに、金積んで拘置所からだって出られるんでしょ? 子供はなに積めばいいんだよー。積み木積んで保釈してくれるのかー?
 
大人が中心にまわる世の中はインチキだらけでいかん。これは、もう指きりを立法化し、違反者には約束どおり針千本飲ませるべきだ! わたしらが、いつもどんなにおびえながら指切りをさせられてるか思いしれ! うそつきの大人がこれだけいれば、もう、うきゃうきゃするほど針需要が増えるでしょ。そしたら、かしこい小僧達よ、貯金箱をかちわって針会社の株を買いあさるのよ。うそつき大人で一攫千金!
 
純一郎っつあんよ! 構造改革にはこれっきゃない! うそつきは裁かれ、残ったものは善人と、のどの強い強靭な人材になり、針産業を中心として日本はたのもしい経済成長をとげられるわよ。日本にもスペース・ニードル建てたろうじゃないの!
 
……春の陽気に、ひとり熱くなるみるでした。ああ、知恵熱が……。じゃあねえ、またねえ。
 
(2002年3月)

 

みる怪獣、産休いただき中!

毎月ご愛読ありがとうございます。
みるは、ただいまみる怪獣2号の飼育準備に忙しく、字、書いてる暇がないので、今回は、ごめんちゃいさせていただきます。
来月号では、「みる怪獣2号にちんちんはあったか?」、「お受験はどうなったか?」など、いろいろまとめて教えてあげるから、許してね。
 
もうすぐおねえちゃんだぜ!
 
(2002年4月)

 

第12回 「マイ・ベイビーをみるみる」

どうも、ごぶさた。先月は、お暇いただいちゃってごめんなさいよ。もーさー、ほーんと、忙しいったらありゃしないのよ。赤ん坊がやってきて以来、わたしの人生大幅に狂っちゃってるの。
 
どーしてまあ、赤ん坊ってのは腹へっちゃ、びえー、おしっこもらしちゃ、びえーって泣くのかねえ。おかげでゆっくりおねしょしてる暇もないのよ。5歳から睡眠不足でお肌ぼろぼろにさせてたら、まったくどんなふけ顔ティーンエージャーになっちまうもんだか。ああこわい。
 
で、うちにやって来た赤ん坊。ノリが悪いんだな、これが。お母ちゃんが楽しみにしていた“3、2、1おぎゃー”を完璧にはずし、2週間も早い3月8日に生まれてきたのよ。それも夜の11時過ぎ。あと1時間お母ちゃんのおなかの中で辛抱してたら、“サンキュー・ベイビー”になれたのに。わが家はみんなウケねらいだけで生きてるってこと、おなかの中にいる間に感知できてなかったのかしらねえ。そんなんじゃ、この先わが家で生きていくのは至難の技だわ。
 
で、性別。これもはずしてくれました。分娩室で「おぎゃー」ときたら、いきみ終わったお母ちゃんは開口一番、
「ちんちんは!」
へその緒を切らせてもらっていたお父ちゃん、
「見あたりません」
で、またお母ちゃん、
「探せ!」
しかし、どこを探してもありゃしない。床にもどこにも落ちちゃいない。
「また女か……」
みんなが、がっくりしているときに、事件が勃発!
「はい、ベイビーの血液型はA型です」
「えーーーーーーー」
 
看護婦さんの発表に騒然とするお父ちゃんとお母ちゃん。なんてったってわが家は「O型の大型ファミリー」が売りなのよ。A型なんて生まれてくるはずがない! 突然のA型誕生に、「この子、誰の子騒動」が勃発したのじゃ。お父ちゃんは、「この子は、本当にわたしの子ですか!」と顔面蒼白。
 
お母ちゃんは、記憶をたどり該当者がいるか考え出す始末。同席していた看護婦さんがそんなふたりを見てあきれながら、「あのねー、どう見たってお父さんはあんたでしょ!」と一喝してくれたわ。「ほーら、ならんでみなさい。そっくりじゃないの!」って。ぶよぶよのお父ちゃんと、ふにゃふにゃの赤ん坊をくっつけてくれたのよ。ふたりはうりふたつ、っていうか、“でぶふたつ”っていうか、そっくりなのじゃ。みんなでブーっと大笑いこいちゃったわ。
 
「お父さんか、お母さんかどっちかがA型なんですよ」と看護婦さんに言われ、「うーむ」と悩む一族……。みんなO型だと思って生きてきたのに! 私も自分がO型だと信じて、彼との血液型相性占いしてたのに! わたしもA型かもしれないのよ。A型ってまじめで誠実なんだってよー。冗談じゃないわよー。わたしは、ずぼらな体力ばかのO型のはずよー。突然几帳面になっちまったら、どーするのよー。こんなお下品な連載やってられないわよー。
 
結局、家族全員血液検査しなおすことになったの。それも病院ですりゃあいいのに、お金がもったいないから赤十字に行って献血して、ただで血液型を調べてもらうんだってよ。ああ、めんどくさ。まったく赤ん坊のおかげで、人生狂いまくり。A型の妹ってなんか相性悪そうじゃない? うまくやっていけるのかしらん。
 
で、名前。誕生日のウケがねらえなかったから、せめて名前でウケをねらおうとふざけた名前が、ついちゃった。「みる」の次は、「みれ」だって。“みる、みれ、みろ”、みるの三段活用だってさ。もうひとり生まれたら「みろ」よ。もう産まないでいいよー。はずかしいよー。これじゃまるで妖怪人間べム・べラ・べロだわ。わたしまで格下げみたいじゃないの。
 
ああ、なつかしのひとりっこライフ。わたしが発狂したって、赤ん坊が泣いてるから聞いてもらえないし、今以上に狂わないと気付いてももらえないのよ。まったく疲れるじゃない。赤ん坊と談合して、時間差泣き攻撃でもしかけないと、やってられないわ。
 
世の中、思うようにならないってのを見せつけられまくりの昨今。みるはなんだか5月病。大人になるってこういうことなのね。とほほほほ……。
 
(2002年5月)

 

第13回 「今年もお受験をみるみる」

やっほー。もういくつ寝るとー夏休みー! うひょひょー。今年の夏休み、みるは日本に行ってネイティブの幼児生活を体験してくるのよ。こっちの日本人学校には「日本語の勉強して、出直してこい」って落っことされちゃってさー。こんなに美しい日本語を操る幼児なんて本場日本にだっていないと思うけど。「そう言うなら出直してやろうってんじゃないのよ」ってことで、みっちり日本の幼稚園児をいたぶりに行ってくるよ。
 
んで、帰ってきた9月から、みるはキンダーガーデンご入園。新しい学校へ行くのよ。幼稚園からエスカレーター式の学校に行って人生ラクしようと思って、この春はお受験で忙しくしてました。今年もまたジェニファーが通ってる学校を受けようと思ったら(毎年落とされてんだな、これが。 「みるちゃんみるみる」 第2回 参照してちょ。)、 ジェニファー は IQテストを受けないと入れない学校に転校しちゃってたのよ。ああ、困った。
 
「ばかでもいい、一発芸で親に楽させろ!」って、わたしったら親に体作りばかりやらされてきたのよね。いまさら進路変更してバカやめるなんて無理なお話よ。だけど「めざせジェニファーのご学友!」と、しかたなく受けてみたわよ。
 
幼児のIQテストは、心理学者のおばちゃんとさしでの90分1本勝負。おばちゃんは大人のくせにオフィスにレゴーやドールハウスなんか置いてんの。それで幼児をそそのかしてテストすんのよね。
 
「今日は何曜日?」
「25セントがなんこ集まると1ドル?」
「3月の次は何月?」
とか、幼児の人生にゃあ、どーでもいいことを根掘り葉掘り聞いちゃってさ。んで、パズルやお絵かきなんかもさせられたわ。そのあと、恐怖のお告げの時間が!
「あんたのIQはサル以下です……」って言われるんではとビビッてたら、わたしって実はとってもおりこうなんだって!
「うそだろ、おい!」
牛ほどのIQもないおかあちゃんは、娘にぬかれてショックのぱー。おっほっほ! よっしゃ、これで受験資格はOK。
 
「うちは、おりこうさんの学校よ! IQテストのスコアが高くないと受けさせてもやんないわよ」って学校、かたっぱしから受けてやったわ。ジェニファーの学校は3歳からのエスカレーター式なんだって。だから幼稚園からわりこみ、のっかっていくのは無理っていうのよ。しかたないから、クイーンアンのほうにある幼稚園から8年生までの一貫教育のところにねらいをさだめたの。IQが高くないと受験資格もないっちゅうに、32人の定員に100人以上の幼児がむらがってきてたのよ。ひえー。こういうときにどうやって目立つか! 作戦を立てねば! いまどきの学校はいろんな人種を取り込みたいと思ってるから“ガイジン”を気取るのがてっとりばやいのよ。名付けて、日本丸出し大作戦!
 
「先生ほらほら見てちょうだい。わたしハーフよ! 英語も日本語もばっちりよ、そのへんの英語しかしゃべれない小僧とちがうのよー、そこんとこよろしくーー」
とバイリンガル&バイカルチャーなところを前面に押し出すのよ。そうすれば英語でアホでも、「この子は、きっと日本語なら分かっているに違いない」と、先生もアホにやさしくなってくれるってもんでしょ。
 
お受験は、IQテストの結果と心理学者のおばちゃんの書いたレポート、あとは学校にお呼ばれして遊ぶだけ。10人ずつくらいお呼ばれして、無邪気にお絵かきしたり、歌ったり、クッキーを山分けしたり、お外でお遊戯をしたり、並んでお便所に行ったりして2時間を過ごすの。それを幼児エリート教育のエキスパートの先生が、笑顔でお子様たちに接しながらも、
「こいつはトイレで横入りをしやがった、協調性のないやつだ」
「まだ自分の名前も書けんのか。こんなののどこがおりこうだってんだ」
とシビアな採点をするのよ。わたしは、外面いいから、こういうの得意だよーん。
「先生、わたくし自分の名前を日本語でも書けてよ」
「先生、わたくしもう1個ドーナツ召し上がらせていただいてよろしいかしら?」
ってね。わたしの食いっぷりにほれたのか、どの5歳児よりもでかい体格にほれたのか、日本丸出し大作戦が効いたのか、この学校から「うち入れてやるよ」とのお手紙が来た!
 
やったぜエスカレーター! 高校受験までらーくらく! これであと10年遊んで暮らしたるで!お受験万歳!
 
(2002年6月)

 

第14回 「お空の旅をみるみる」

♪はーるばる行くぜ、日本!(北島三郎節でどうぞ)
 
いよいよ日本の幼稚園へ、留学しに行くお時間となりました。明日には飛行機乗るっちゅうに、こうして原稿を書くわたしって、なんて勤勉な幼児なんでしょ。だいたい、もうアメリカじゃ夏休みなんだから一日中よだれたらしてPBS見てたっていいご身分なのに、わざわざ海を越えて日本のガキンチョと遊んでやりに行くのよ。わたしってえらすぎない? まったく何が悲しくて、わざわざじめじめ暑い日本で、夏休みを過ごさなきゃいけないんだ! かっこ悪い黄色い帽子かぶらされて、スモックなんちゅうへんなもん着て、日本のガキぶらなきゃならないのよ。ハーフはつらいよ!
 
さて、旅なれたわたくしが日本へ上陸するのは、これで実に14回目。磯野波平ヘアーのベイビー・シスターは、お空の旅初体験。このっくらいのほげほげふにゃふにゃだと、空の旅の醍醐味もまだ味わえないのよね。わたしもベイビーのときは、おかあちゃんが機内でお酒を飲みまくったあとの、アルコールたんまりのおっぱいをグビグビ飲まされて、酔っ払って気を失ってる間に10時間なんてあっというまに過ぎちゃったもんだわ。
 
しかし、わたしはもう5歳! 飛行機の中で誰が寝てやるもんか! なんてたって飛行機はクソガキの天下じゃ、治外法権じゃい! バルクヘッドの席に乗り込み、「シートベルトをしとけよ、このガキ!」とのスッチーのおばさんの命令にも逆らい、席によじのぼって振り返ると、そこには何百人もの人間がまっすぐわたしを見つめて遊んでほしそーに座っているのよ。ピーナッツを鼻につっこみ、「ふん!」と吹き飛ばすだけで笑ってくれる。なんて感度のいい観客! クソガキみょうりに尽きるぜ!
 
飛行機の中じゃ、ごはんもエンターテイメント。おままごとみたいなプラスチックの容器に入ってきて、フードファイトするにはもってこいのサイズでしょ。ここでまた席によじのぼり、うしろを向いて機内食のまんまるいパンの中をくりぬきお鼻にかぶせて、「ピエロだよーん」って披露してあげるの。超、暇な観客たち、最低でも30名は、懲りずに笑ってくれるから! 鼻技ばかりじゃアホだと思われるので、スパゲッティー約15本をきれいにそろえてお口に含んでぶらぶらさせて、「のれんじゃあー」などなど、機内食のメニューで臨機応変に芸をあみだし、観客をエンターテインする気配りを忘れないわたくし。“空飛ぶエンジェル”って呼んでいただきたいわ。
 
ネタがつきたら席に座ってもうひと遊び。いつでもボタンひとつでスッチーのおばさんがとんできて、「今度はなにがほしいんだ、このガキは!」って、わたしの言うなりになってくれちゃうじゃない。
 
お空の旅のメイン・イベントは、なんてたって機内を徘徊すること。よだれたらして眠りこけてるおっさん、誰も見てないと思ってチューチューやってる不純異性交遊のカップル、鼻くそほじってるギャル……。暗闇の中いろんなキモイ連中が棲息しているのを観察するのじゃ。うしろのほうじゃスッチーが仲間たちとだべってて、立ち聞きしてると、「おら、これやるからとっととお帰り!」って、ピーナッツやチョコレートを鼻血が出るほどくれたりもするしね。そいつをおかあちゃんに見つかる前にトイレにこもって食べまくるの。
 
飛行機でひとつだけこわいのは、あの便器。水を流すと「ドバシャピシャシュパー」ってすごい勢いで、おしっこやうんちが飛んでくでしょー。一緒に地獄の底に吸い込まれちゃいそうで、おしっこしたばっかでもチビリそうになっちゃうわよね。
 
10時間のプレイタイムが終わり、成田に着いたら走って逃げるに限る。飛行機の中じゃ、いつものように怒鳴れなかったおかあちゃんの怒りは、このときいつもピークにあるのでした。わたしももうこの時点では、睡眠不足とシュガーハイでラリりまくってるのよね。
 
けどね、おかあさま方! 税関のところでは子供がクソガキってるほうが親孝行ってもんよ。「ぎえええええええ」って地面に倒れて発狂マシーンになってると、税関のおっさんは、「はいはい、とっとと行っちまえ」とスーツケースを触りもしないで通してくれちゃうもんね。そうそう今回の空の旅は、あんちゃんとこと一緒なの。どんな芸で機内のみなさんを盛り上げようかいまからわくわくドキドキよ。
 
シアトル近郊の夏休み越境留学のクソガキたち! 来年は一緒に群れ組んで、日本へ殴りこみに行かない? 空中大宴会をしよう! わたしは、横浜の幼稚園でひと夏の番長になってくるからねー。じゃあねえ、みなさま行ってきまーす!
 
(2002年7月)

 

第15回 「日本の夏をみるみる」

じとじとびっちゃん、じとびっちゃん、じーとーびっちゃん。
 
暑中お見舞いフロム炎天下のジャパーン! 元祖発狂マシーンのわたくしみるは、ただいま日本で“大発汗マシーン”になって、体中の毛穴から汗を噴き出してるわよー、くさいわよー。まったくなんなのよ、日本の夏は! わたしの人生でこんなに汗かいたことないわよ。地蔵のようにじーっと固まって「おじゃる丸」を見ていても、おでこから雨漏りしてくるのよ。
 
「きゃー! 脳みそがもれてるー!」
「いやーん、おみそはきらいー」
って、びびりまくっちゃったわよ。けど、みそ味じゃなくて塩味なんだな、これが。大粒のしょっぱい汗がポタリポタリとたれてくるのよ。まったく熱帯ジャパンで生き抜くために、夏休みの幼児の飲酒を認めてもらいたいわ。いい子にお地蔵さんしててもじとじとするなら、酔っ払って気絶しているおかあちゃんを見習うほうが、暑さがしのげるってもんでしょ。
 
そのおかあちゃん、「みる! 来年の夏は小学校へご留学だあー」なんて、今から気合入っちゃって、もう小学校へ「たのもー」ってお伺いたてちゃってんのよ。冗談じゃないわよ。日本が氷河期にでも突入しない限り、二度と夏の日本なんかに来てやんないわ。
 
しかしおそるべし日本の幼児! あいつら、赤ん坊のころから、このじとじとびっちゃんを生き抜いているのよね。わたしが夏の間、番はってる幼稚園の子分どもも、全身ずぶぬれになるほど汗かきながら、なにかに取り憑かれたように園庭を走り回ってんのよ。みんな顔グロなんてもんじゃないわよ、全グロよ。サンブロックなんて塗らないのよ。さわやかなシアトルからいらしているわたしは、美肌のためにもいつも木陰にしけこんでるわ。日本の夏は、小デブには耐えられないの。幼稚園にお出かけするだけで蒸しブタになっちゃいそう。
 
だから、あれよね、日本には街角にコンビニがあって幼児の行き倒れ防止に役立ってるのよね。駅までの道、ちょーど幼児が歩くのがうざくなって、くだまきたくなるスポットに、どーんと現れるのがコンビニさま!
 
「いらっしゃいませ」
一歩を足を踏み入れるとそこは、冷房ガンガンの天国! しかも日本の売れ筋ものがこじんまりと一挙に並んでいる! わたしの愛する練乳入り宇治金時カキ氷アイスと、シュークリームと、ミニモニのお絵かき帳とハイチューとマーブルチョコレートがところ狭しと、これまた本当に狭いところに混在している! この4畳半チックなかんじが幼児にはうれしくてたまらんでしょ。
 
お母ちゃんが女性週刊誌の表紙を眺めているほんの一瞬に、あっち向いてこっち向いてちょちょいのちょいで、欲しいものがすべて手に入るのだ! 手に入れたら次は発狂タイム!
 
「買ってくれなきゃおしっこもらすぞー!」
この発言は、シアトルだったら巨大スーパーの店内の閑散としたアイルにむなしく響くだけ。おかあちゃんは「もらせ、もらせ」とスタスタ行っちゃうわ、約束どおりおしっこをもらしたところで誰も気付いてくれず、わたしの股間が寒々しいだけなんだけど、日本のコンビニだと、狭い店内のみなさんが一丸となって感度よくびっくりしてくれる。「そいつは困る」と誰もが被害をこうむるかもしれない危機感から、エロ雑誌をめくる手を休め、わたしら親子の行く末を見届けようと注目してくれる。おかあちゃんは、わたしを置き去りにして出ていったら、お客さん連合に袋だたきにあう身の危険を感じ、その場を穏便にすまそうと、わたしのお選びになったアイテム購入を前向きに検討してくれる。
 
コンビニは幼児を救う!
 
コンビニ万歳!
 
コンビニさまのおかげでみるは、夏やせもせず、汗びちょにも負けず、今日も番はりに幼稚園へお出かけよ。コンビニのはしごをしながら、たらたらご通園しているわ。
 
ほんじゃ、もうすぐシアトル帰るから待っててねえ。
 
(2002年8月)

 

第16回 「日本の不思議をみるみる」

ただいまー。日本語べらべらの浜っ子になって帰ってきたみるですよー。みんなの夏休みはどうだった? がきんちょパワーを完全燃焼できたかい? みるは、熱帯日本で燃えてきたわよー。まったく自然発火しちゃいそうな暑さだったもんね。
 
燃えた!と言えば、サッカー! ワールドカップを日本で見られたのは、おもしろかったわよ。サポーターとかっていうお馬鹿な連中が道頓堀に飛び込んだり、繁華街で暴れたり、ベッカムだ、ロナウドだとヘアー騒動があったり、日本中が大騒ぎだったもんね。
 
ヘアーと言えば、日本の選手も、髪染めたり、いじくってたりしたけど、あれ、へんだと思わなかった?
 
「どう? ぼくも君たちみたいになりたくって染めちゃったー。まゆげは黒いけどー、足も短いけどー、髪は、ほーら金髪よ。かっこいい?」て、欧米の選手に憧れてまねっこしてるみたいじゃない。まねっここじきは、もらいが少ないんだ! そんなんだから負けちゃうんだよ!
 
いまや日本中、そんな“エセガイジン”ばっかだもんね、日本って不思議。金髪頭だから英語が通じるのかと思って話しかけても、ウイッキーさんに遭遇しちゃったかのように逃げてくのよね。英語もしゃべれないのにガイジンのふりすんな! まぎらわしいぞ! 混迷する日本政府よ、英語のしゃべれる連中にだけ髪を染める特権を与えなさーい! そしたらみんな必死こいてお勉強して、英語べらべらの日本人が増えていくじゃん。もう英検1級2級なんてのは古い! 英検「金髪」「銀髪」「茶髪」にすりゃあいいのじゃ。
 
まじめに中学行かなきゃ、「茶髪」に合格できなくすりゃあいいのよ。そんで、日本国民一丸となって最高峰の「金髪」めざしてがんばるのだ(英語のできるハゲ坊主はどうしたらいいか要検討)。
 
“汚ギャル”たちも金髪にしたけりゃ、お勉強をおし! このおねえちゃんたちって、おパンツはきっぱなしだったり、お風呂に何日も入らなかったりするのが自慢らしいけど、わたしたち“汚ガキ”さまにはかなわなくてよ。わたしたちなんかおしりふかなくたって平気だし、うんちたれながしても、しらばっくれていられるし、拾ったものだって食べちゃうもんねー。汚ギャルよ! 汚れの道を極めるなら、わたしらみならってもっと修業せい!
 
まったく帰るたんびにいろいろ変わっちゃっててびっくりする日本だけど、今回は、銀行さんにまで驚かせていただきました。見慣れた駅前の様子がなんか違うなあと思ったら、銀行の名前が変わっちゃってんのよね。「UFJ」なんて名前、なんなのよ! プロレスの団体かと思っちゃったわよ。日本に帰ったら銀行をはしごして、へそくり預けて貯金箱なんかをいただくのを楽しみにしてたのに、合併しまくっちゃってるもんだから銀行の数が減って、もらえる景品まで減ったじゃないか!幼児の貯金意欲をふみにじるようなことするなよ! 不景気だからってなんでも合併すればいいのか!
 
だったら、「今日から、わたしたち合併しました。苗字はひとつ! 『佐藤田中小林』です」って合併家族もありだよね。一家の大黒柱は、高給取りの旧佐藤さん。お母さんは、美人の旧小林さん。ローン地獄を救ってもらった旧田中家は、生涯便所掃除ってな具合に、もちつもたれつ協力しあって不況を乗り切るのだ! 「武者小路具志堅渡嘉敷」なんて「濃い」苗字がでてきたりして、おもしろいじゃん。こうなったらとことん変わってしまえー、日本!
 
日本ねたで引っ張ってまいりましたが、そうそう最後に言わせてちょうだい! なんなんだ町内会の盆踊り! 熱帯夜に女、子供を踊らせて、町内会の役員たちは、テントの中でビール飲んで枝豆食いやがって! みんなもなにが楽しくてぐるぐる回って踊ってんだ! おーい、大丈夫かー? 頭、暑さでやられちゃったのかー?
 
ああ、まったく日本は不思議じゃ。今度行くときは、どうびっくりさせてくれるのかねえ。またあらしに行くぞー。待ってろよー、日本!
 
(2002年9月)

 

第17回 「キンダーガーデンをみるみる」

新学年あけましておめでとうござんす。
 
みんな! 新しいクラスの縄張り争いうまくやってるかい? わたしも、キンダーガーデンにお入学して、新天地でしっかり番張ってるわよ。毎朝早起きして、520ブリッジで、レイク・ワシントンを越えて通ってるのよ。えらいでしょ。
 
アメリカの幼稚園ってさー、小学校にくっついてるから(公立も)、幼稚園入園が小学校入学みたいな一大イベントなのよね。
 
「やったー、うちのクソがきもやっとキンダーガーデンだ!」とご父兄の皆さまは狂喜乱舞し、「あとは先生よろしくね!」と、子供の教育を学校に責任転嫁して喜ぶのよ。うちの幼稚園でも、大喜びのご父兄の皆さんの親ばかぶりには笑わせてもらったわ。どの親もカメラやビデオカメラを持って、クソがきどもの初登校の晴れ姿を激写してんのよ。
 
「エレン! 先生にもっとひっつけ! 先生もほら、娘の肩に手を回して!」なんて、「おまえら前世は日本人だったか」って感じだったわよ。で、カメラ持ってこなかったのは前世も現世も、日本人のうちのお母ちゃんだけ。「カメラなんか持ってったら、日本人くさくてバカにされる!」って持っていかなかったの。くやしがってたわよー。もっと素直になりゃあいいのにねえ。
 
みるの学校には、8年生までのでっかい人たちがいるおかげで、カフェテリアがあってホットランチが食べられるの。これが、「これぞアメリカ!」って感動するメニューなんだな。A定食は、チキンナゲットにフレンチフライ。B定食は、マカロニチーズ。日替わり定食はピザ、ピザ、ピザ! 栄養が偏りまくりなのよ。「野菜はどこだ! 野菜は!」って言ってたら、「ほーら、ケチャップがあるでよー」だって。アメリカ人が、なんにでもドバドバとケチャップをかけるのは、野菜の補給のためだったのね。知らんかった。
 
夏にお留学した日本の幼稚園じゃ、八宝菜やけんちん汁なんてシブイものが出てきたけど(給食だったのじゃ!)、何十品目もの食材が見事にごちゃまぜになっていたぞ。この日米お給食の落差はなんじゃ? こんなんじゃアメリカ人は、毎日ケチャップ1本以上飲まないと健康維持ができないじゃん。こんなランチ毎日食べてるから小太り小僧が増えるんじゃ。そういえば、やせっぽちの子が医者に「チキンナゲットでも毎日食ってろ」って言われたんだってさ。めちゃくちゃな国アメリカ! いいのかそんなんで!
 
そういうわけで、美容と健康のためにみるは、ホットランチを食べずに毎日お母ちゃんのお弁当を食べてるんだな。本当は、お母ちゃんに「お金のシステムをマスターするまではホットランチ禁止」と言われているのだ。なんてったってわたし、ペニーがこの世で一番高価なお金だと思って、「おら、お駄賃だ! クオーターやる!」と言われても、「このどけちばばあ! ペニーをよこせ」と、一途にペニーをブタさんの貯金箱に貯め込んでいたのさ。
 
この前も、デイリークイーンで、どーんとペニー3枚とアイスクリーム(チョコディップのやつ、うまいよねえ)を気前よく交換してやろうとしたのに、拒否されたのよ。世の中には、幼児には理解できない理不尽なお金の掟があるようじゃ。で、なんとホットランチは、ペニーが325枚もないと食べられないんだって。そんな天文学的な数、一生かかっても数えられないからわたしは永遠にホットランチは食べられそうにないわ。
 
お母ちゃんは「ペニーが5枚でニッケルに化けて、ニッケルが2枚でダイムに化けて……」って、とんちんかんなことを覚えさせようとするけど、だいたい、なんなのよ、コインのことを「ペニー」、「ニッケル」、「ダイム」に「クオーター」なんて呼んじゃって! どれが5セントなんだか10セントなんだか分かりゃしないじゃないの! 日本じゃ誰も1円を「ぺニ子」、5円を「ニケ子」なんて名前で呼ばないわよ。まったく世の中もっとシンプルにしてくれないとわたしら幼児にゃ、住みにくくてたまらないわ。ジャンキーなホットランチを食べられる日は来るのか! どうなるキンダーガーデン生活! 乞うご期待!
 
じゃあねえ、またねえ!
 
(2002年10月)

 

第18回 「ハロウィーンをみるみる」

やっほー。みんな元気? 日がどんどん短くなっちゃったわねえ。シアトルで生きるわたしらがきんちょの、試練の季節がやって来た! お母ちゃんは早く真っ暗になるのをいいことに、「おーら、もう寝る時間だ!」って脅すんだけど、まだアーサーはやってるんだよね。早く時計が読めるようになって、「9時78分までは好きにさせろ!」っていばってやりたいわ。
 
これから春までシアトル周辺では、おてんと様にはめったにお目にかかれません。クソがき一同よ、この時期ふんばって悪さし続けないと、もやしっ子になっちゃうから要注意。家で読書なんかしてちゃだめよ! 家の中に自転車を持ち込んで「壁に激突ショー」やラケットを振り回して「インドア・テニス」なんぞで、悪がきパワーをおとろえさせないようにね。クリスマスに向けてのごますりは、来月以降でいいからね。
 
さあ、陰気な季節突入を祝ってこの時期催されるのが、ハロウィーン。これは、寒い冬へ向けての食糧確保といった、幼児の死活問題にかかわる一大イベントなのだ。この日の稼ぎいかんで、シアトルの陰気な冬がバラ色にもどぶ色にもなるのじゃ。くそ寒い夜に近所の家をねり歩き、「ジャンキーなお菓子くれねえと、つまらねえ芸するぞ!」と住民を脅しまくって、じゃかじゃかチョコレートやキャンディー・バーを奪いまくった者が、雨地獄の間、天下を取るのだ。これらの戦利品を、「マミー、こんなに儲けたよ!」って素直に全部見せてしまうのは、愚か者。申告するのは10分の1程度にするのが、クソがき業界の暗黙の了解である。愚か者は、稼ぎをまるごと親に没収されて1日1個ずつしか返還されず、むなしい冬を過ごすことになるのじゃ。
 
賢いがきんちょは、申告漏れお宝を、マルサのオンナの家宅捜査を受けても見つからぬよう、クローゼットの中のめったに着ない服のポケットの中に分散しておくのじゃ。そしてなんの楽しみもない雨地獄の間、「ちょっとわたくし、お部屋で明日の予習をしてまいります」と密室にひきこもり、ばりばりチョコやキャンディ・バーにかぶりつき、シュガーハイになってラリるのさ。ハロウィーンは、いかに大人をだましてお菓子をふんだくれるかが勝負。そのためにはキャバクラのおねえちゃんのように、大人の気をひくファッションでこびなくてはならぬ。そのへんのつるし服なんて着てちゃだめよ。お手製のちんどんやみたいなファッションで、「ほーら、こんなに気合入れて、ばかやってやってんのよ。いいものよこせ、おら!」って近所住民を脅すのよ。
 
わたしなんか赤ん坊の頃から気合入ってるもんね。ハロウィーン・デビューは9カ月のとき。セサミ・ストリートのオスカーに化けたのよ。お母ちゃんの作ったげじげじ衣装を頭からかぶって、ゴミ箱に押し込まれて近所をかついで回されたのよ。全身に紫色の風船をはりつけて頭の上にはっぱを乗せて「ぶどう」をやった年もあったし、でっかいパンプキンをくりぬいたヅラをかぶって「かぼちゃお化け」にもなったわね。
 
たんまりお菓子をふんだくって、ラリりまくりの愉快な冬を過ごすためなら、体をはって笑いものになるわよ! 今年は、妹も使えるからなんか姉妹ネタでいってみよー。「関取シスターズ」なんてどうかしら? みんなも自分の食糧は自分でしっかり稼ぎなさいよ!
 
じゃあみんな! 健闘を祈ってるわよー。ばいばーい。
 
(2002年11月)

 

第19回 「スリープ・オーバーをみるみる」

やっほー、みんな元気? 寒い冬元気に外遊び!なんて体に悪いことしないで、家にこもって、がんがんへそくりジャンク・フード食べまくって、皮下脂肪厚くしてる? そうすりゃ、風邪なんてひかないわよー。本当よー。
 
さあ、デブの出不精になるこの時期は、しっぽりスリープ・オーバーなんぞで盛り上がるのが風情があっていいもんです。学校やプレイ・デートでしか遊んだことのない連中と、同じ釜の飯を食い、同じ風呂につかり、ひとつ屋根の下で一晩中悪さして親友としての契りを交わす。それがスリープ・オーバーの醍醐味なのだ。
 
5歳にもなると、週末はスリープ・オーバーで大忙し。いつも同じ連中と寝るのにも飽きたので、新しい幼稚園の連中の素性を暴いてやろうと、近所に住んでいることが判明したRって子に「いっしょに寝よう」とナンパしてみたの。そうしたら、わたしのうちで寝たいって言うので、つまんないけど我が家でRとのスリープ・オーバーを取り行うことにしてやったのね。そしたら、ちょっとこの話きいてちょんまげ。
 
ピンポーン。
「いらっしゃい」
「ひえー」
まずRは、我が家にくるなりびっくり仰天。「そんなに我が家ってゴージャス?」なんて思ってたら、あー勘違い! 実はこのR、すごい豪邸に住んでいて、とんでもない金持ちの小娘だったんだな。学校で会ってるだけじゃ、お互い鼻水垂らしている、ただのばっちい幼稚園児だから、そんな貧富の差があるなんて分からないじゃない。「あ、なんかやばいやつ呼んじまったな」と思ったら、時すでに遅し。
 
「うわあ、小さいお便所!」
「うわあ、ぐじゃぐじゃなお部屋!」
「うわあ、ジャンキーなものがいっぱい!」
Rは、目をらんらんと輝かせて家中を練り歩くのよ。なんたって我が家は、夢の島。昨日はいてた靴下と、先週脱ぎ捨てたおパンツと、ほっかほっかのうんちまみれのおむつがひしめく館なんだから。
 
初めて我が家にやって来たRのママも、あまりのばっちさにびびっていたけど、「それでは、明日の朝迎えに来るのでよろしく」と平然と言って帰ろうとしたの。で、お母ちゃんが、「ああ、そうそう今晩は、友達の家へみんなでパーティーに行くから」と言ったら、「了解」と言ってRのママは「子供の外泊なんて慣れてるもんねー」って感じで去って行ったわけ。
 
Rは、このパーティーでの庶民との遭遇もお気に召したらしく、「夜は、これから!もういっちょう盛り上がろう!」なんておおはしゃぎ。わたしのベイビー・シスターが疲れてふぎゃふぎゃ言っても、「おらおら、もう1杯アップル・ジュースよこせー」なんて飲み続けちゃって。
 
やっとなだめて家に帰ったのは夜の10時過ぎ。もうへとへとになって家に入ろうとすると、暗闇に不気味なシルエットが! 「キャー」、なんと登場したのはわたしが世界一恐れているおまわりさん! わたしは、いっつもお母ちゃんに「言うこと聞かないとポリスに連れてくぞ」と脅されてるから、おまわりさんが大嫌いなの。なのに、なぜこんな時間に? この前公園で立ちしょんしたのがばれたか? へそくりチョコを没収しに来たのか? お母ちゃんの言うこと聞いてないから、本当にわたしを連行しに来ちゃったわけ? ドキドキドキドキ、身に覚えのある悪さを思い出していたらおまわりさんは、口を開いた! 「Rちゃんのママから通報があってやって来た」だと。
 
「はあ?」
 
お口あんぐりのわたしら家族。Rのママは、わたしたちが8時を過ぎても家にいない!とパニクって、おまわりさんに通報したのだ。Rのママは、お嬢様をわたしら野蛮な一家に誘拐されたとでも思ったらしい。
 
「パーティーに行くって言ってあったじゃねえか!」
「平気な顔して『じゃあ、明日ねえ』と去って行ったくせに!」
ぶちきれるお母ちゃん。「帰りたくなーい」とだだをこねるRは車に押し込まれ、我が家で寝ることなく豪邸へと強制送還されていったのでした。
 
ちょっと、これどう思う? よい子のご父兄に言いたい! ひとんちに子供をやって心配なら、簡単に外泊させるな! わたしら幼児は、もう立派な子供だ! あんたらも、早く子離れしなさい! もうこんなスリープ・オーバーのド素人に振り回されないように、わたしは外泊慣れした相手をクラスで物色してるわ。「あんたのお母さん、ポリス呼ばないでしょうね」と最初に聞くのを忘れないわよ。みんなも通報されないようにね!
 
じゃあね、またねえ。
 
(2002年12月)

 

第20回 「お年玉をみるみる」

ちょっと、なんなのよ。もう新年ですって? 早いわねえ、年を取るのは! こんな調子じゃ、すぐに10代のばばあになっちゃうじゃないの。ああ、いやだ。
 
新年といえばお正月。幼児が年に一度、がっぽがっぽ現金を荒稼ぎできる貴重な季節がやってまいりました! いえーい! 日本人でよかった!
 
しかし、キンダーガーデンに行き始めておりこうになったわたしは、気が付いたぞ! 日本に住む幼児の同朋と海外在住のわたしら幼児とでは、お年玉集金総額に貧富の差がありすぎるってことを!
 
日本のお正月には、おばちゃんのおじちゃんのおじちゃんのおばちゃんでも、おばあちゃんの茶のみ友達の幼なじみの、いとこのはとこのまたいとこでも、誰でもかれでもわたしのようなかわいい幼児にご対面したら、だまって現金握らせてくれるっちゅうに。アメリカでは、だーれも、なーんもくれないじゃないか!(あんたのことよ! あんた!) おばちゃんのおじちゃんのおじちゃんのおばちゃんも、わたしがこっちにいたら、わざわざ海外送金なんてしてくれないしさー。海外在住のわたしたち日本人幼児は(はい、わたくしこういうときだけ日本人になりすまします)、英語の学校がお休みの土曜日まで日本人学校へ通い、宿題だって英語と日本語の学校とダブルでこなすおりこうさんよ。こんな勤勉な学童が報われないで、「さんぺいです」なんてアホなギャグかましたり、下ネタ連発の下品な日本の日本人小僧たちががっぽり現ナマ収入があるのは、変じゃないか! 政府よ! 不公平なお年玉制度を改めよ! 品行方正なわたしら海外在住の日本人ご子息に、お年玉損失分を補填しておくれ! 「在外選挙」なんちゅうもんがあるなら、「在外幼児のお年玉給付金」があったっていいじゃないか! わたしら在外幼児は、バイリンガルだぞ! 将来日本の役にたつぞ! 国民の血税は、無駄な経済改革に使わずに、わたしら将来有望な在外幼児の心を躍らすお年玉に使ってしまえ!
 
在外幼児の署名を抱えて霞ヶ関に乗り込んで行きたいところだけど、日本の政治家なんかをあてにしてたら、ひいばあちゃんになってしまいそうなので、「こうなったら自己集金するしかない!」と、このお正月は日本へお年玉せびりの旅に出ることにしたわ。幼児の寿命は短いからね。稼げるうちにがっぽがっぽ、いただかなくっちゃ!
 
今回は、久しぶりにおとうちゃんも一緒で、一家勢揃いの日本上陸よ。すごいわよ、怖いわよ、巨漢ファミリー!
 
日本の日本人は、やせこけているのがはやりでしょ。わたしら一家はよく肥えていておいしそうなのよ。日本じゃ目立ちすぎるのよ。それも日本上陸時には、みんな欲望のかたまりになってギラギラしてるからね。おかあちゃんは、税関くぐりぬけた瞬間から、帰りの飛行機乗り込む瞬間までの綿密なるお食事プランを書いた紙切れを握り締め、「食いまくるでー」と闘志を燃やし、オタクの極みのおとうちゃんは、「秋葉原でコンピューターの部品を買いまくるぞ!」とよだれを垂らす。わたしは「かね、かね、かね」とお年玉を夢見て、横山やすし状態のハイになり、ベイビー・シスターは、「ぶり」「ぶり」と、ところかまわずうんちをひねり出す……。ご帰郷の際、成田空港でこんな妙な家族を目にしたら、「シアトルの恥!」って声援送ってね!
 
ああ、楽しみ。日本お年玉せびりの旅! 親戚縁者にこびを売るおみやげは、ROSSやMARSHALL’Sで仕入れてあるし、準備は万端よ。がっぽり現ナマいただいたら、おすし屋さんで回るメロンとプリンをおなかがはちきれるまで食べるんだ。そうそう、みんなで温泉も行くのよ。ハトヤで海底温泉に入ってよいふろ体操をしてくるぞ! 海底温泉とは、なんと水族館の中で裸になって風呂につかるような設定らしい。お魚さんに見つめられて緊張してお風呂におもらししたらごめんよ、みんな。
 
日本って面白いところがいっぱいよね。思いっきり楽しんでくるわ。シアトルの在外幼児のわるがきのみんなも、逆境にめげずお年玉せびりがんばってね。
 
今年もよろしく! ばいばーい。
 
(2003年1月)

 

第21回 「生誕6周年をみるみる」

やっほー。
日本へのお年玉出稼ぎの旅から戻り、ほくほくしていたら、また実入りのときがやってきた! マイ・バースデー・ハス・カム! いやあ、寒いばかりの毎日だけど、クリスマス!正月! 誕生日! と、めでたいことがこう続いてくれちゃうと、物もらう方も謙虚になっちゃいそうで、いかんいかん。心を鬼にして物乞いしなきゃね。
 
みんな! belatedバースデー・ギフト、いくらでも受け付けるから、今からでも、じゃんじゃんちょうだいねえ。
 
そういうわけで今月は、(今年も!)お誕生日ネタで一発。
 
今みるは、はるばるシアトルまで幼稚園に通ってるでしょ。ほかにも遠距離通園幼児が多いから、お誕生会の場所も未踏のミステリアスな地帯が多くなったのよね。
 
その上、みるの幼稚園には、「お誕生会には、はぶんちょを作らず」って掟があるもんだから、クラスのみんなを呼ばなきゃならないのよ。だから、Duvallに住んでるアリーのお誕生会にシアトル近郊各方面から、学友がどーんと集っちゃったりしちゃうのだ。で、これが悲劇を生んだりするのよね。
 
幼稚園ではシティー・ガールでとおっていたアリーなのに、馬ふんのにおいが漂う大自然の中のおうちを見られて、
「あんた、こんなへき地に住んでたの?」
と突然、田舎者に格下げされちゃうのよ。
 
だから田舎の子は、シアトル市内の宴会場を借りて、都会っ子ぶってお誕生会したがるんだな。一番ポピュラーなのが、YMCAとかのパブリック・プールでのプール・パーティー。「集合」「自由水泳90分」「ケーキ30分」「解散」ちゅう、分かりやすいプログラムが人気なのだ。水中で大暴れするのも、ストレス発散にはいいしね。
 
ゴルフ場でお誕生会なんちゅう妙なのもあったわね。
「6歳のがきが、おっさんたちとゴルフかー? いっちょ、ぶっ飛ばすぜ」と、気合い入れて行ったら、これが、ゴルフ親父をながめながらクラブでシャボン玉とばしたり、塩酸とアンモニアを混ぜたり(どうなる? 知らんぞ)っちゅうサイエンス・パーティーだったんだな。
「なんでゴルフ場でサイエンス?」
幼児たちには理解不能。その上、「ジーンズ禁止だぞ」とか「いっちょら着てこいよ」とか、うるさいことが招待状に書いてあったのよ。このゴルフ場って由緒正しいexclusiveなとこらしくって、メンバーになるのがステータスらしいのよ。けど、そんなこと幼児にゃあ、どうでもいいじゃあないですか。
 
主役のバースデー・ガールは、「おまえは、いったい何様だと思ってんのか、ボケー」と総スカンを食らう羽目になったのじゃ。
 
わたしは、お誕生会は「おうち派」。去年は、お父ちゃんがピエロに化けて、がきんちょを怖がらせてくれたわ。今年は、「ゴールデンレトリバー・パーティー」を開催よ。ゴールデンレトリバーのわんわんが欲しいんだけど、 「うんこの世話ができなきゃだめ」
とおあずけ状態なの。
「うんこはいや、だけど買って買って買って!」
と最近わたしは、寝ても覚めてもゴールデンレトリバー。
 
お誕生会も、ゴールデンレトリバー・ケーキに、ゴールデンレトリバー・バルーンに、ゴールデンレトリバー色のアイスに、ゴールデンレトリバー・グッズの手土産も付けてやったわ。でも、ここまでこだわっても本物は手に入らず……。
 
だから今日もわたしは、電池じかけのゴールデンレトリバー(日本産¥3,800也)の首にベルトをまいて、近所を徘徊する不気味な幼児をやってんのよ。近所の人が、かわいそうがって1匹、分けてくれるの期待してるんだけどねえ。あーあ、こうなったら、へそくりはたいて、自分で買おうかなあ? ペニー197枚で買えるかなあ? おーい。編集長ギャラ上げてくれ! それか、「みる怪獣にゴールデンレトリバーを!」募金をしておくれー、わん、わん、わーん。どっかに、うんこたれないゴールデンレトリバーいませんかあ? いたらおしえてねー。 ばいばい~。
 
(2003年2月)

 

第22回 「お外でお食事をみるみる」

やっほー。みんな元気?
聞いてよ、聞いてよ、大ニュース! みるの歯が抜けたのよ! ど真ん中の下の歯が! 体がでかいわりには“抜け”が遅くてくやしかったけど、やっと抜けた! やった! これを枕の下に置いたらtooth fairyがくる! ……って喜んでたら、勢いあまって食べちゃった。tooth fairyよ、悪いがうんちで出すから便器の中で待ってておくれ!
 
そういうわけで、歯抜け小僧のわたくし。お口の中は、ぶらぶらりんの死にかけの歯ばかりなので、ろくに物がかめないのよ。マックのチーズバーガー食べるのだって命がけ。歯がいっぱい抜けて、tooth fairyからしこたまお金をせしめて左うちわで暮らしたいけど、食べられないのはいやーん。
 
「歯抜け小僧にやさしい献立を考えてくれ!」
「フォアグラ食わせてくれ!」
と訴えても、うちのおかあちゃんは、死んだふりして耳を貸してもくれやしない。
 
なんてたって我が家では、恐怖の“寸胴鍋スープ”が週に一度作られると、毎日毎日そいつがちょこちょこ姿を変えて、食卓を占拠するのよ。 「今日はビーフシチューよ」
と月曜日におかあちゃんが言えば、
火曜日は「今日はビーフシチュー・ライスよ」
水曜日は「今日はビーフシチュー・スパゲティよ」
木曜日は「今日はビーフシチュー・グラタンよ」
金曜日は「今日はビーフシチューおじやよ」
って鍋が空っぽになるまで、ひっぱってくれちゃうわけさ。
 
ビーフシチューならまだいいほうで、
「今日は、豚汁よ」
で、始まった週なんか、豚汁スパゲティーに豚汁グラタンよ。なんなの、この芸のなさ! 頑強な歯が揃ってたって食べたくないわ! こんなんじゃ、味覚音痴の大人になっちまうじゃないか!
「うまいもん食わせろ!」
「作れないなら外食させろ!」
 
と懇願しても、ああ、我が家には徘徊小僧がいるじゃあありませんか! 天使のようだったマイ・ベイビー・シスターは、今や立派な怪獣2号に変身し、どこへ行っても床をなめ回しながら突進していくもんだから、お品良くお外でお食事なんか、してられないのよ。
 
「ベビーシッターに頼んで行こうよ!」
と、機転を利かせて提案したら、ああ、これが墓穴掘りまくり!
 
わたしと徘徊小僧をおいて、おとうちゃんとおかあちゃんだけで出掛けていくじゃあないですか!
「ちょっと待ったー! わたしは、もう立派な子供だ! 連れてってくれ!」
と号泣しても置き去りにされ、“寸胴鍋ごはん”を食べさせられるのよ。ああ、わたしの夢だったおねえちゃん稼業の行く末が、こんなんだったとは! きっとこの世の中にはわたしのような不憫なおねえちゃんおにいちゃんたちが、うじゃうじゃいるはずだわ。
 
シアトル近郊の飲食業のみなさん! わたしら家族がみんなで出掛けられるような“徘徊小僧フレンドリーな店”を作ってちょうだい!
 
アメリカーンなレストランには、子供用にクレヨン、ぬりえ、バルーンを置いてるのが当たり前!ってところが多いけど、アジア系のレストランには、子供だましグッズ完備のところが少ないわよね。だから、「日本食屋さんで、しっぽりアンキモつまみながら、よく冷えたアップル・ジュースでぐいっとやりたいねー」なんて思っても、連れてってもらえないのよ!
 
お子様対応すれば商売繁盛! 言っとくけど、わたしはもう、そういう子供じみたサービスはいらないのよ。なんてたって、もうベルスクのボートで遊べない年頃のおねえさまですもの。わたしたちはお品良く座ってられるけど、問題はうちの徘徊小僧みたいなケツの青い連中(本当に青いぞ!)。こいつらにクレヨンは効かないんだな。なんでも食べちゃいますからね。今、求められているのは、徘徊小僧対応型レストランだ! こいつら向けに檻や脱獄不可能ハイチェアーなんか用意したら、大ブレークするわよ。そしたら我が家は大常連になるからさ!
 
あー、お外でゆっくりおいしいものが食べたい! 最後に一句。
 
ああ今日も 歯抜けはすするよ 寸胴鍋。(誰かごはんに呼んでちょうだい!!!!)
 
(2003年3月)

 

第23回 「あいうえおをみるみる」

春だ! 冬の間にため込んだエネルギーを炸裂させる時が来た! ルンルンウキウキの春。我が家の徘徊小僧も、春の陽気に誘われて仁王立ち小僧に脱皮しようとしているわ。その小僧、先日1歳のお誕生会をしてもらい、顔面をケーキに突っ込むといったケツの青い芸を披露してご満悦。
 
「たかが1年、生きたくらいでお祝いしてもらってんじゃないわよ。それも妹の分際で、たんまりプレゼントもらいやがってー!」
 
と、くだまいていたら大発見! いやあ、めでたいことがほかにもまだあった。わたくし日本では、この4月からめでたく小学1年生ではないですか! きゃー、入学祝いがもらえる! うほほほーい! アメリカに住んでいようが、日本語がへたくそだろうが、わたしは都合のいい時は、チャキチャキの“浜っ子”の日本人よ! 日本の文化をとっても大事にしていて、ご祝儀ごとには特に敏感。お正月にお年玉をせびられて以来、気を抜いている親戚一同に「お祝いちょうだい」の襲撃をかけなくては!
 
まずはおばばに「みるも日本にいたらめでたく小学校ご入学! なので、本当は日本にいないけど、まあそういうことはおいといて、お祝いおくれ!」と電話したら「ひらがな書けるようになったらね」
 
と言われてしまった。うっ! 痛いとこを突かれたわ。
 
みるの「み」と「る」はここ1年でマスターしたんだけど(名前が短くって良かったよ。おとうちゃんおかあちゃん、ありがとう!)、それ以外は、どいつもこいつも認知不能じゃ。やっとABC書けるようになって一件落着……とそっくり返っていたけれど、ひらがなをマスターしないとお祝いがもらえないなんて! 背に腹はかえられない。お金のためなら覚えてやろうじゃないの、あいうえおおおおお!
 
けど、あいうえおかきくけこ……って、なんなの、この妙な言葉の並びは? ABCなら世界中の子が歌って踊れて覚えやすいけどさー、「あいうえお」は、のりが悪いは長いはテクノロジー最先端の国の言葉とは思えない、まったりしたけだるさがありやしませんか!
 
「しゃししゅしぇしょ」だの「にゃににゅねにょ」だの舌かみそうなのばっかだし、「やいゆえよ」に至っては(はい、皆さんお口を大きく開けて言ってみてください!)真面目にやってたら、顔面神経痛になっちゃうでしょ。「あ」と「お」なんて紛らわしくって迷惑だし、「よ」と「す」は幼児が書くと同じになっちゃうんだよ!「は」と「ほ」も人を欺こうとしている態度が気に入らない!  「ぬ」「ね」「る」よ! お前らは「め」「わ」「ろ」とどういう関係なんだ! 何でも丸めりゃいいってもんじゃないだろう!
 
あああ、ひらがなを練習してると頭に来る。だけど一番許せないのは、「ふ」!お前だ! たいした字でもないくせに、上いったり下いったり横からとんだり、生意気だ! 幼児にそんなバランス芸は酷だ。幼児虐待だ! お前を書こうとすると神経すり減るんだよ! 「え」と「を」も相当嫌いだけど、「ふ」はどうしても許せない!
 
遠山さん! 今こそ“ひらがな構造改革”の時ですよ! 無駄に50音も抱えこまないで、簡素化しよう。50音から一挙に8音にして「くしつてひんのへ」の“一筆書きシリーズ”だけにしてちょうだい! そうしてくれたら、わたしら幼児が大きくなった時、「悩める幼児を救った女神」としてパイク・プレイス・マーケットの豚の隣にでも、等身大の(けっこう幅があるぞ、このおばちゃん)像を建立してあげるわよ! 速攻でよろしくね!
 
さあ、遠山のおばちゃんが“ひらがな8音改革”を国会に提出している間に、ご祝儀ふんだくり作戦開始! 桜の下でランドセルしょって写真撮るぞ。それを親戚中にばらまいてお祝いもらうのだ。るんるんとランドセルを「宇和島屋」に買いにいったら……ない!
 
ランドセルしょわなきゃ「ご入学おめでとう」にならないじゃーん。わたしの夢を奪わないでよ! だれかーランドセル貸して! バックパックじゃ遠足にしか見えないしー。合成写真、作ろうか。あー、悩ましいご入学シーズン! みんなもがっぽり稼いでね。
 
じゃあ、またねえ!
 
(2003年4月)

 

第24回 オークションをみるみる

♪やねよーりーたーかーいこいのーぼーりー♪
 
……そんなの見たことありゃしないけど、いえーい、もう5月だ! 日本の子供たちは、5月病にかかってうじうじしている頃だろうが、わたしらシアトルのお子様は、元気炸裂! 浮かれてまっせー。天気はいいし、夜も遅くまで明るくなってきたし、もう最高! 学年末で楽しいイベントも盛りだくさん! 夏休みもすぐそこ! 夏休みに宿題なんてえげつないもんはないし、アメリカの学校は最高だぜ!
 
ああ、しかし、勤勉なわたくしは、この夏は横浜でランドセルしょって、ぴっかぴっかの1年生することになってるの。日本の学校って厳しいんでしょ。わたし、浮いちゃいそー。だってわたしなんか、プリスクールの頃からマニキュアしてるし、今もジャラジャラ首輪して学校行ってるのよ。その上、ピアスあけちゃおうとも思ってるんのよ。こんなんじゃ、日本にいったら補導されちゃう?
 
日本とアメリカの学校って違うことがいっぱいよね。学校行事も大違い。運動会で“大玉ころがし”……なんて、アメリカにはないもんね。
 
日本の学校で“これはないだろう!”ってのは、オークション。知ってる? 子供が学校の備品をくすねて売りさばくのかと思いきや、これは学校の年間最大の重要イベントで、ファンド・レイジングなのよ。ご父兄のみなさんが、すかした格好してホテルの宴会場とかに集まって、いろんな品物をビッドするのよ。その品物は、全部寄付してもらったもの。それを酔っ払った大人達に、値段をつり上げて、いかに高値で売り付けてお金をふんだくるかってことに、学校は命をかけるらしいんだな。
 
こういったオークションは、私立の学校では必ずあるんだけど、最近は公立の学校もバジェット・カットで大変だから、オークションを取り入れているところが増えたらしいわよ。
 
オークションの前は、お子様たちも大変よ。
リセスの時間も「おい、これやれ!」とオークション係のおばちゃんに脅されて、オークションの売り出し用作品を作らされんのよ。
 
「タイヤ・スイングで遊びたいよー」
とこっちが泣いて叫ぼうが、絵の具の前に座らされ、強制労働を余儀なくされるわけさ。みるのクラスは、わたしらが描いたタイルを張り合わせた「便所の鏡」を作らされたわ。わざと子供たちに名前を大きく書かせて、
「ほーら、おまえらの子供が作った、世界にひとつしかないプレシャスなものだ! 買え! 買え!」
と親を誘惑するんだな。 ほかのオークション・アイテムには、
「ミセス・ジョンソンのおうちで1泊2日、ボートに乗ってピクニックに行って、映画見て、アイスクリームを食べるぞー」
とか、
「1日学長になって好き勝手やっていいぞ」
とか、
「マリナーズのゲームで始球式をさせてやるぞ」
とかあったわね。
みるの学校のオークションはつい最近、終わったばっかりなんだけど、学校はずいぶんもうけたみたいよ。子供に
「ミセス・ジョンソンのおうちに泊まりたい!」
ってせがまれた親バカは、$7,000で競り落としたんだって。あほくさー。
わたしらの「便所の鏡」だって、「ターゲット」で$20も出せばもっといいのが買えるっちゅうに、どっかの親バカが$800で落札したんだって。
オークションの落とし穴は、どの親も宴会場に到着した時にクレジットカード番号を登録させられるから、酔っ払った勢いでビッドしちゃっても「いやあ、さっきのは間違いで」って勘弁してもらえないこと。うちの負けん気の強いおかあちゃんは、まさにそのとおり。オークションの翌日、二日酔いで苦しみながら「なんだこりゃ?」ってオークションでの山のような戦利品を前に、青くなってたわよ。まあ、こういうバカな親のおかげで学校にコンピューターが増えたり、本が増えたりするらしいんだけどね。
 
しかし、幼児を酷使して金もうけするなんて、UNICEFに訴えるぞ! 著作権はどうなってんだ! わたしたちにも利益還元しろ! 毎日ランチのデザートにレインボー・アイスクリームを食わせてくれ! そしたら来年もっといいもの作ってやるぞ。さもないと来年はボイコットだ!
 
みんなもオークションには要注意。ちゃんと幼児の権利を主張しなさいよ!
 
じゃあ、またねえ!
 
(2003年5月)

 

第25回 サマーキャンプをみるみる

おーい、みんな! もうほとんど夏よ! 待ちに待った夏なのよ!
雨地獄に耐え、暗い冬にも耐え、やっと感謝感激、太陽さんさんの夏がシアトルにやってくるのよおおお!!! シアトルの夏は、暴れがいがあるぞ! なんてたって夜9時を過ぎても明るいし、その上2カ月半もたっぷり夏休みがいただけるんだから! シアトルの夏はお子様天国! こんな幸福を手にしたら、もう日本になんて住めないわ。なのに、わたしは1カ月もこのシアトルの夏をみすみすギブアップして、蒸し暑い日本へお留学……。とほほほほ。 で、この長い夏休み、アメリカのお子様はどう過ごされるかというと、サマーキャンプ。日本だったら夏期講習とかつまらないお勉強キャンプに通わされるのでしょうが、アメリカじゃあ、夏休みの間は週替わりで「アート」「サイエンス」「クッキング」「スポーツ」「ドラマ」「ミュージック」などなど、テーマはよりどりみどりの日帰りキャンプに行くんだな。 年くった子供は、お泊りキャンプにも行くのよ。あれよあれ、サマーキャンプで ローストチキンしちゃう映画みたいなやつよ。親元離れ、ませがき達がひとつ屋根の下、ひと夏のアバンチュール。きゃー、幼児には鼻血ブーだけど、わたしも年をくったらお泊りキャンプ行ってみたーい。
 
サマーキャンプは、出会いの宝庫。なんてたって、ほとんどのキャンプはウイークリーだから、毎週新しいくそがきに出会えるわけよ。学校じゃ1年中おんなじメンツだから、一発かました芸は二度と使えないけど、サマーキャンプにいけば芸のリサイクルも可能! 「 鼻から牛乳!」なんて使い古しの芸だって、毎週やってもウケルのよ! そしてシアトル各地に住むくそがきと親交を深め、シアトルにくそがきの輪が広がっていく! サマーキャンプ万歳! サマーキャンプを楽しみにしているのは、くそがきだけではないのよね。
 
「夏休みの間じゅう家にいられたら気が狂う!」
 
と、くそがきの親がこれまた必死になって、 冬のうちからキャンプを探すのよ。 夏休みは10週間以上あるから、べったりサマーキャンプに通うなら10個見つけなきゃいけないわけさ。これまた大変。 人気のキャンプは登録初日の朝1に電話しないとだめ。有名人のコンサート・チケットを取るくらいの気合の入れ方よ! 冬の間に努力した「ありさんお母さん」はのんびり春を過ごして夏を待てるが、さぼっちゃった「きりぎりすお母さん」は、あら大変。夏休みを目の前にした今頃になって
 
「いくらでも金払うから横入りさせろ。おりゃああ!」
 
と電話をかけまくっても、どのキャンプも満員。それでも電話帳片手に血眼になって、子供を追い出す先を探すのであーる。 みるは7月の終わりまで日本にお留学してるけど、帰ってくる翌日から4週間、たっぷりキャンプの予定が入っているわ。今年はファンキーな EMP、動物園、農園、牧場とキャンプ地にも趣向を凝らしてみましたわ。それぞれとっても楽しみだけど、中でもよだれ流して待っているのが、ベルビュー市主催のキャンプ! 3年連続で参加してるんだけど、いやあ、先生達が若くって目の保養になるのよねえ。なんてたって、大学生のおにいちゃんおねえちゃんが夏の間だけボランティアでやってくるのよ。鍛え抜かれた若い体に、ムチムチのTシャツとショーツ姿の若い男がウヨウヨよ。そんなおにいちゃんとおててつないでお散歩したり、走り回ったりするのよ。楽しいったらありゃしない! で、先生同士でも恋に落ちちゃったりして、
 
「あいつとこいつはできている」
「そっちとあっちは、片思い」
 
とか、幼児はいい子にアート・プロジェクトなんてしているふりしながら、いちゃつく先生達をチェックして楽しむのよ。 いいねえ、せつないひと夏の恋。わたしも、もう6歳。ムチムチの幼児のうちに素敵な出会いをしたいもんだわ。みんなは今年どんなキャンプに行くの? どっかのキャンプで会うかもね。そして恋に落ちちゃったりして。きゃー。わたしは、前歯の抜けたおかっぱ頭よ。見掛けたら声を掛けてね!
 
じゃあ、またねえ!
 
(2003年6月)

 

第26回 幼稚園ご卒業をみるみる

♪あおーげばーとーとしーわがーしのーおんー♪
 
さて、6月にキンダーガーテンを無事優秀な体格で卒業した、このわたくし(身長、体重、足の大きさ学年一!)。
誰も卒業祝いなんかくれないけどさ、ひとりこの1年間を振り返り、感慨にふけってみようかなって思うわけ。だって、あなた! キンダーガーテンは高校、大学を卒業するまで永遠と続く、学校生活の第一歩。わたしは、その大きな第一歩を踏み出しちゃったのよ。それもちゃんと最後までどしん、どしんと踏みまくり通したのよ。えらいでしょ? 何か褒美が欲しいぞ、まったく。
 
何も分からず、レインボー・アイスクリームにつられてお受験をさせられて始まった遠距離通学。おかあちゃんが毎日運転するのを嫌がって、カー・プールも経験したわ。クラスにはシアトル近郊から選りすぐられた16人のガキ……しかいないはずなのに、おしっこもらしたり、自分のお尻もろくにふけないような「おまえは裏口入学かあ!」ってガキもいたわねえ。
 
中でもびっくらこいたのがベン! 6月生まれのこいつのお誕生会でケーキにろうそくが7本立ってたのよー。あのね、キンダーガーテンではねえ、まっとうに生きてる幼児は6歳のお誕生日を迎えるものなのよ。なのに
「なんでおぬし、ろうそくが7本?」
と問うと、
「だって僕、キンダー2回目だもん」
だってよ。悪態つきまくって留年したのかと思いきや、去年はお受験に失敗したから違うキンダーに通って、今年再受験して入り直してんだってさ。幼稚園浪人よ! なんじゃそりゃあ?
 
同じクラスのキャリーなんか、8月生まれだからまだ5歳。みるは1月生まれの6歳。同じ教室に5歳と6歳と7歳が入り乱れているのよ。まるでモンテッソリーみたいじゃないの。アメリカじゃ、9月から学校が始まるから、8月末日までのお誕生日で学年を区切ることになってるんだけど、そのラインがルーズなんだな。夏生まれの連中は、わざと1年遅らせるのよ。だからベンのように“ひとまず普通の幼稚園に通っておいて、浪人させて有名幼稚園に潜り込む”ことができるのよ。
 
こんなのがまかり通ったら、大人はみんな夏生まれの子を産みたがって、浪人幼児が大量発生して社会問題になるぞ! 日本の頭の固い教育制度のように「4月1日までに生まれたやつは、何があっても入学しやがれ!」って、筋を通したほうが公平じゃないか? アメリカもせちがらい世の中になってきたわねえ。ああ、やだやだ。ご父兄の皆さん! 子供は野生児に育てておくに限るのよ! 子供の出来が悪いのは、あんたのせいよ! 遺伝子以上のものを幼児に求めるな!
 
あとねえ、考えさせられたのは養子縁組。プリスクールの頃は、気づきもしなかったけど、まじまじと子供と親の顔みると、ぜんぜん違う肌の色だったりするわけさ。
「あれ、あんたのママ?」 「そうよ、似てないでしょ、わたし養女だもん!」
って会話をプレイグラウンドでモンキー・バーしながらするわけさ。わたしたちって、大人でしょ。もっとすごいのは、
「わたしのパパとママのジョージとボブです!」
って親を持つ子がいることよ! パパもママもどっちも男よ。パパがメアリーでママがバーバラなんて子もいるのよ。ちんちんがあるのがパパで、おっぱいがママだと信じて生きてきたけど、アメリカじゃ、“ちん”も“ぱい”も関係ないのねえ。すごい国に生まれてきたわ……って感動しちゃったわ。こう、さらりと言われると、誰も冷やかしたりしないのよ。で、ジョージ・ママが、おやつに手作りドーナッツを作ってくれちゃったりして、いいママなわけ。
「うちの無能な、日本人のくせに大女のおかあちゃんの方が異常だ」
って、最近分かってきたわ。
 
そんなこんなでいろんなことがあった1年が終わり、わたしはおばばがドン・キホーテで買ったランドセルとブルマーの待つ日本へ、お留学して来るわ。日本の幼児って乳離れができてなくって、がきくさそー。わたしのような人生経験豊富な幼児の相手ができるかしら? ま、かわいがってやろうじゃないの。じゃあ、まったねー。
 
(2003年7月)

 

第27回 日本の七不思議をみるみる

残暑お見舞い申し上げますーフロム横浜ー! 横浜市立O小学校1年2組に1カ月もご登校された、勤勉なみるちゃんでーす。
 
「アメリカからきたのー?」「英語しゃべってー!」って日本のガキンチョのアイドルになってたわ。「イチローのいるとこからきた」っていうとみんな一目おくのよね。「友達?」って。んなわけねーだろう。「サインもらってきてよ!」って。知るか! 「松井の家は近いか?」って。近いわけないだろが! まったく疲れるわ。日本のガキの相手すんのも。
 
そういうわけで日本の小学校に初めてご留学されたみるのジャパン・リポート! 題して日本の小学校の七不思議!! いってみるわよー!
 
不思議その1「ランドセル」
荒れ狂う怪獣2号同伴の長くて辛い空の旅を終え、おばばのうちに着くと、真っ赤な皮でできた四角い箱がどーんと置いてあった。 「なんじゃいこれ?」と聞くと、「ジャパニーズ小学生バックパック」とおばば。 「カッコわるいじゃん」「うん」 「じゃあなんで、こんなの背負うの?」「さあ」 おばばは60年以上も生きてきて、そんなことも知らないようだ。日本のガキも、こんな固くて重くてかっこ悪いものを背負うことに、何の疑問を持っていないみたい。ご町内はガタガタと音を立てて、巨大ランドセルを背負ってちょこまか行くガキンチョであふれかえっていた。みるのは、どぎつい赤色。こんなの背負って、登校中に道で闘牛に出会ったらどうすんだ! 日本の小学生ギャルはみんな食われてしまうぞ! そこまで危険な思いをしながら背負う意義って何なんだ!! みるは、毎日闘牛に会わないように道をきょろきょろ確認して自分の身を守ってたわよ。 このランドセル、毎朝おじぎをするたび、中に入っているものがジャーと飛び出すわ、エレベーターで扉にはさまるわ、まったくろくなもんじゃなかったわ。しかし、このダサイ四角い箱には素晴らしい活用法があるらしい。TVで見たんだけどさあ、溺れてる人にランドセル投げてやると、浮いていられるんだってよ。それも教科書とか入れっぱなしの状態のが効くらしい。いつの日か出会うかもしれない溺れる人の人命救助のために、日本のガキはランドセルを背負ってるようだ。闘牛に食い殺される危険と背中合わせで人の命を守ろうとする大和魂。いいんだか、わるいんだか、わけがわかんねえぞ、ランドセル!
 
不思議その2「昇降口」
昇降口、それは学校の玄関。日本の玄関といえば下駄箱の存在が欠かせない。そして日本の学校の玄関である昇降口にもやっぱり下駄箱がある。500人ガキがいたら500人分の下駄箱が、どどーんと並んでいるのだ。昇降口には、すのこが敷き詰められ、土足からうわばきへ、またうわばきから土足へと、いちいち靴を履き替えるようになっている。すのこの上は土足禁止なので靴下で歩く。すると、靴下がむちゃくちゃ汚れる。すのこは汚いのだ! でもってわざわざうわばきで歩かねばならぬ廊下も相当汚い。ってことはうわばきだってとっても汚い。じゃあなぜ、わざわざ靴を履き替えさせるのだ!! 毎週金曜はうわばき持って帰んなきゃならないし、めんどくさいぞ! 学校はうわばき業界から賄賂でももらってるのか! うわばき反対! 土足でズカズカ歩かせろ! 昇降口から下駄箱を排除しろ! こんなスペースいらないぞ! 昇降口をお子様ラウンジにしてカウチを置いて「ご登校ごくろうさま」って冷たい麦茶の無料サービスでもやった方が子供のためになるぞ! しかし2003年夏現在、「昇降口」、それはくさーい靴の匂いがたち込める、不気味な巨大玄関なのであった……。
 
不思議その3「防災ずきん」
日本人は、かぶりものが好きなようだ。1年2組の誰もが自分のいすに、ざぶとんのような妙な物体をぶらさげていた。 「何これ?」と、おとなりのさきちゃんに聞くと、「防災ずきん」と言ってキティちゃん柄のそのずきんをかぶってみせてくれた。むちゃくちゃかっこ悪い。こんなもんが災害から身を守ってくれるのか? ずきんと言えば『Little Red Riding Hood』。彼女は、しっかりずきんをかぶっていたが、オオカミに食われちゃったじゃないか! 人命救助のランドセルに、防災ずきん。日本の小学生はそんなに危険にさらされているのか? それとも災害オタク? わからんのー。
 
不思議その4「和式便所」
出たー。恐れていた便所がー。日本では、小学校入学前に「和式便所を使いこなせるようになれ」とのオタッシが出るらしい。だけど今どき、マンション住まいの家庭にはこんなもんないじゃない。どこいって練習すんだ? 『和式トイレ攻略塾』なんてのがあるのか? のっぱらに穴掘って練習すんのかい? わたしはどーも、しゃがんでパンツを前に引っ張る角度がわかんないから、いっつもおしっこがひっかかるのよね。だからおしっこ、がまんしちゃうのよ。大自然に呼ばれたら、家に帰るしかないわね。デパートなんか行くとハイテク便器がいっぱいあるくせに、小学校も時代の波に乗れー。来年までにお座りトイレを設置しておけー。頼むぞ校長!
 
不思議その5「曲芸小僧」
日本の小僧は、車がびゅんびゅん走る道路の脇をヘルメットもかぶらないですいすい自転車で通り抜けたり、ランドセル背負って群れをなして大通りをくねくね走り抜けたりしていてびっくり! そんでもって学校には、一輪車がおいてあって、ガキたちは学校へ来るなり奪い合うようにこの一輪車に乗るんだな。みるは、まだトレーニング・ウイールも取れないから四輪車にしか乗れないっちゅうに。日本の小学生は、曲芸がお好き? 「受験勉強に失敗しても、一芸あれば生きていけるさ」と、芸磨きに精を出しているのか? 学校も曲芸技磨きを奨励しているのか? 学校の校庭は、自転車を乗り回しちゃいけないっていうのに、一輪車はいいんだってさ。それも変じゃないかい? ヘルメットかぶんねえと危なくないか? 恐るべし、日本の小学生。サーカスで会おう!
 
不思議その6「あんこ色」
「はい、これ体操服に水着よ」。そう言って渡されたわたしの手には、真っ白の綿のシャツと、紺色のショーツと水着があった。このショーツは「ブルマー」と呼ばれているらしい。「なんじゃい、このつまらねえ色合いは? 何でこのシャツは、こんなに分厚いんじゃい。Tシャツでいいじゃないか!」
またまた謎の日本限定品に出合ってしまった。白と紺。それは、もちとあんこを表現する国民色。日本人が愛してやまない色のようだが、わたしはあんこは嫌いだ。
水泳の時間、プ-ルはあんこ色一色になる。こんな地味な光景は見たことがなーい! いまどき、あんこ色はないだろうよ、校長! あんこよりはみたらしだ! みたらしよりはいちご大福だ! いちごピンクのブルマー、水着なんてのが時代だろ! 国際都市・横浜の学校なんだから、鮮やかにM&M’sカラーの原色水着なんてのもいいじゃないか! 日本中のガキンチョよ、あんこ色撲滅運動に加担せよ! 来年はあんこ水着は着たくないぞー。
 
不思議その7「くねくね一発芸」
去年の夏は「さんぺーです」って体を揺らしながら叫ぶまぬけな芸がはやっていたが、今年は「なんでだろーなんでだろー」と歌いながら手をくねくねさせる芸がはやっている。テツ&トモという2人の兄ちゃんが、大ブレイク中なんだな。
1年2組でも先生が「3+4は?」とか質問しておりこうさんが「はーい、7でーす」とかって答えると、クラス一のお調子者りょう君が待ってましたー!とばかりに「なんでだろーなんでだろー」と手をくねくねさせて踊り出し、みんなが「がっはっは」って笑うお決まりシーンが日に何度と繰り返された。くだらなーい! 全国の小学校の先生は授業中、正解が飛び出すたびにこの「なんでだろー」攻撃を受け、きっとぶちキレているに違いない。そんなことをしていて、りょう君はどんな成績をもらったんだろうか? オール「がんばりましょう」「落ち着きがない」で親の前でも「なんでだろーなんでだろー」と寒い技を見せているのだろうか?
それにしてもなんで日本人は、くねくね一発芸が好きなんだ? 来年は、どんなくだらないくねくね技でわたしを寒くさせてくれるのだろうか? りょう君! 楽しみにしているぜ!
 
(2003年8月)

 

第28回 クラビングをみるみる

ちょっと、なによ。もう9月が来ちゃったじゃないの。みるももう1年生。ここまでくると年をくうのは速いわね。あっというまに、むちむちティーンエージャーになっちゃいそう。
 
そういうわけで、わたし、いつまでも幼児じゃないので(この連載って「幼児の言い分」ってことになってるじゃないの)『みるちゃんみるみる』は年内で卒業することにしたわ(退学じゃないのでそこんとこよろしく)。あと3回ぽっきりよ。見逃すんじゃないわよ!
 
そんな幼児を脱皮中のわたくしが、今ハマってるもの。それは“クラビング”。ベルタウンのナイトクラブをはしごする……のとは違うのよ。“カニ捕り”よ。カニは今がシーズン。捕りたてのカニさんはおいしいよ。一度食べたら「やめられない、止まらない!」のだ。
 
カニさんとの出会いは、6歳と7カ月のある日……。過ぎ去ってしまった夏休みの旅先でのこと。日本お留学から帰って、4つのサマーキャンプをこなし、「さあ、残りはだらだらポプシクルでもしゃぶって、カウチポテトしてやるぞー」と勇んでいたら、日本に連れていってもらえず、ひとりシアトルでいじけていたおとうちゃんが、「みんなで家族旅行だ! テレビも電話もないところで大自然とたわむれるぞー」と勝手に宣言して、わたしたちはおとうちゃんがインターネットで探したオーカス・アイランドの海辺の掘っ建て小屋に1週間軟禁されることになったのよ。
 
シアトルって、近くにいっぱい島があるの、知ってたあ? 悪いことすると“島流し”にあうっていうじゃない。ってことは、悪い人がいっぱいこのへんの島にもいるんでしょ。あー、怖い。 「そんなところに夢も希望もありありの幼児脱皮中のお嬢様を連れてくなー!」と泣いても叫んでも釈放されず、行ってきました! 海辺の掘っ建て小屋! あるのは海。ひろーい海。ただそれだけ。
 
「マクドナルドでめし食わせろー」「バービー・ドットコムさせてくれー」 って吠えたって、むなしく波がうち寄せるだけ。文明社会で、チーズバーガーをむさぼるガキたちの姿が脳裏をよぎり、「バカヤロー」と海に石を投げ込んでは、人生の不条理に怒りを覚えていたわ。マックをイメージしてしまったおかげで、おなかはグルグル。
「今晩のめしは何よ?」
ひとり、ウキウキしているおとうちゃんに尋ねると「海へ行って捕ってくるぞー」と大海原を指差すではないかい。
「はあ??」
「さあ、みる! 船に乗って出掛けるぞ。今夜のご飯はシーフード・スペシャルだ!」
とおとうちゃんは、これまた貧相なロー・ボートを浜辺にひっぱってくるではないの。ロー・ボートって知ってる? 例えば東京だったら、井の頭公園なんかでのんきな若者がいちゃいちゃ漕いでいる、しょぼボートよ。それを漕いででってごはんのおかずを釣ってくるんだって言うのよ。無茶でしょ。数十メートル先をモーターボートが通っただけで、ひっくり返りそうになるほど揺れるのよ。釣り竿抱えて、ライフ・ジャケットを着込み、命がけよ。
 
「ごはんの肴は、やっぱり魚―」
なんてつまらぬジョークと水しぶきを浴びながら釣糸垂らせど、なーんも釣れないの。
「どうすんの、おとうちゃん! 釣れなかったら、おかあちゃんにぶっ殺されるよ」
おとうちゃん身の上を心配してあげるやさしい娘のわたくし。
「心配するな。釣れなくても、我が家にはカニ壺がある!」
「カニつぼおおお??」
自慢げに、おとうちゃんは釣りを諦めると、ひーこらひーこらボートを漕いで、なにやらおとうちゃんの名前が書かれたプラスチックの塊が浮いているところへ行くじゃない。
「これ、これ」。
おとうちゃんがそいつをぐいぐいひっぱると、出てきた出てきた!カニ壺じゃあ。カニさんがいっぱいひっかかってるでは、ないの!
「おとうちゃん、すごい!」
「やったな、みる!」
カニもうけをして大喜びのわたしたち! カニさんは一本釣りと違って、ひもを付けたカニ壺を海の中に沈めて名前をしっかり書いて「誰も触わるんじゃねえぞ」ってツバつけておくのよ。カニさんの好物を仕掛けといて何時間かごとに見に行くわけさ。するとじゃんじゃんカニさんが引っ掛かるー! おとうちゃんは、わたしが海に向かって吠えている間にカニ壺を沈めといたんだな。やつもたまには役に立つもんだ。
 
この捕れたてのカニを、陸に戻って鍋の中でぐつぐつ生きたまま茹でること10分。
「かわいそー」なんて始めは言っていたけど、あまりの旨さに「ほら、とっとと茹で上がりやがれ」とわたしもたくましい小娘になっちゃったわ。茹でたてのカニの甲羅をぐりっとねじり割り、脳みそをチューチュー吸って、軟らかい身にかぶりつく。青空の下、麦茶をぐいぐいやっていただくカニさんのおいしいこと! カニ三昧の豪華ディナー! それもタダ!
 
掘っ建て小屋の外のピクニックテーブルで、一家でむしゃむしゃカニを食いまくっていると、隣の小屋のおやじが気持ち悪そうな顔をしてこちらをのぞくのよ。 「そんな、くそみたいなものも食うのか」だとさ。カニみそのこと言ってんのよね。 「ああ、食うぞ。うまいぞ。カニくそは! ほらどうだ!」「ひえー」
せっかくおすそ分けしてやろうと思ったのに、お隣さんは、ぶるぶる震えて逃げていったわ。アメリカ人はカニみそを捨てるけど、ウニみたいでごはんと混ぜて食うとおいしいよー。
 
あまりの旨さに、毎日何個もいろんなところにカニ壺を仕掛けては、 「おとうちゃん、いくでー!」ってこまめにボートこいでチェックしにいったわよ。 毎晩、陸ではおかあちゃんが寸胴鍋にぐらぐら沸き立つお湯を用意して、 「カニを茹で殺したるでー」と待ち構えてるわけ。 カニ捕ってこないと、かわりに茹でられちゃいそうでこっちも真剣よ。おかげで毎日カニ三昧。魚屋さんで買うのよりもとにかくフレッシュ。なんてたって鍋の中でもだえ死んだばかりのプリプリなのをいただけるのよ!
 
「ここいらのカニなんて、小さくって食ってらんないよー」なんて幼少の頃から言っていたわたしは無知だった! イケるぞ、シアトル周辺のカニさんは!! ベルタウンのクラビングは、1年中できてもカニさんのクラビングは期間限定。学校なんかに行ってる場合じゃないのよ。島を離れてからも、夕飯時になるとボート漕いで漁に出掛けたくなっちゃうのよねえ。島流しの刑にあって、毎日クラビングしたいよー。どういう悪さをしたら、島流しにしてもらえるのかな?
 
みんなもせっかくシアトルに住んでるんだから、一緒に島流しの刑になってクラビングに行こう! カニよ、待ってろよ。脳みそちゅーちゅー吸ったるからなあ! あー、よだれが……。
 
(2003年9月)

 

第29回 いまどきのTVをみるみる

まあ、すっかりしんみり秋ざんすわね。おてんと様とはしばしのお別れ。しかし、まあ6歳になっちまって以来『ベルスク』のボートでは遊べないし、家の中で自転車乗るのもちょっときついし、プレイ・デイトしたくても習い事してるがきが多くて、友達と遊ぶのにアポとるのも大変だしさ。うちに帰ったって怪獣の子守りをさせられるしでつまんないから、みるは放課後、学校で『延長学級』みたいに行っているわ。カフェテリアでアートしたり、体育館で走り回ったりするのさ。大学生の兄ちゃんや姉ちゃんがバイトでやってきて遊んでくれる上、おやつも出るし、楽しいぞ。みんなの学校にはこんなんある?
 
学校でひまつぶして帰ってきても、夕ご飯まではまだ時間があるのよね。一日の疲れを取るためには、右脳も左脳もゆっくりお休みできる(たぶん)、カウチポテトになるに限る。ただ問題はつまらぬ親ほど「TVを見るとバカになる」と信じていて、TVをちょっとしか見せてくれないのよね。まあ、うちにはTVがあるだけ幸せなんだろうがな。メアリーのうちにはTVがなくて、いっつも家族で本、読んでんのよ。気持ちわるーい。ページをめくる音だけをBGMにして、図書館のような地味な暮らししてたら、感情のないつまらぬ人間になっちまうぞ! わたしたちシスターズのように、よだれを垂らしながらTVをだらだら見て笑って踊れ! それが健全なくそガキってもんだろが!(わたしのシスターはTVの前でいつもくるくる回ってひっくり返ってはまた回る……。ちょっと怖い)
 
で、問題は、いかにして笑って踊ってよだれを流して陶酔モードでTVを見させてもらうか。「TVを見せろ」と言うとすぐ「そんなひまあったら宿題しなさい」と言われちまう。“宿題するひま”など作らないのが、立派なくそがき様ってもんでしょう。そこで、くそがき様々のわたくしは、素晴らしい技を編み出した! 名付けて『おかあちゃん遊んで遊んで攻撃』だあ!
 
忙しい振りして晩飯の支度をしているおかあちゃんの元に行き、
「おかあちゃん、遊んで、遊んで!」
と言うのだ。別に年齢差が30もあるおばちゃんと遊びたいわけじゃないのよ。純真ブリブリ「遊んで遊んで」やってると、
「まだまだこの子も子供ねー、かわいいもんだわ」
っておかあちゃんはニコッとし、
「じゃあ、ちょっとTV見て待ってて」
と言うんだな。
「えーTV、しかたないなあ。早く遊んでねえ」
と言ってわたしらシスターズは、うひうひTVをスイッチ・オン! 大人を欺くのは簡単よ。
で、テレビ。アメリカのテレビ番組って、画面の下とか上とかにずーっと自分のとこのチャンネルのロゴが出てるでしょ。ケーブル・テレビとかいっぱいあって、チャンネル・サーフィンしてると何チャン見てるかわかんなくなるからかもしらんが、うざくてたまらん。ディズニーのチャンネルなんか、どでかいミッキーマウスの耳が画面左下に出っぱなし。
「おい、こら見えないぞ! そこの頭のでかいのどけ!」
って映画館でイライラすんのと同じよ。邪魔なのよ。画面全体が見えなくて気持ち悪くてたまらん。ロゴが上に付いている番組なんか、登場人物の頭にたんこぶ付いてるみたいに見えるしさ、「あ、またたんこぶ」「こいつもたんこぶ」って番組に集中できないのよ。注意力散漫ながきが育っちまうぞ。どうにかしろ!
もっとうざいのが、TV content ratings。番組の始めに黒いマークが出てくるの知ってる? TV-YとかTV-Gってやつよ。これってテレビの番組を映画みたいに内容でジャンル分けしてんだけどさ。7つもあってだな
 TV-Yは『この番組は幼児も見ていいぞ』
 TV-Y7は『7歳未満見るべからず』
 TV-Y7-FVは『7歳なら見てもいいが、ファンタジー・バイオレンスがあるぞ』
 TV-Gは『一家団らんにもってこいだぞ、みんなで見ろ』
 TV-PGは『ちょっとヤバイこともあるので親が一緒に見ろ』
 TV-14は『14歳未満の小僧は見ない方がいいな』
 TV-MAは『バイオレンスもエッチシーンもいっぱいだよん。成人するまで見ない方が身のためだ』
 
ってなってるわけ。まったくこいつがいい迷惑! 今までならさ、みんなでちゃぶ台を囲みながら、お子様方は「さあ、今日はどんなシーンに出会えるかしらん」と、ドキドキわくわくしながらドラマを見たりして、すると「待ってましたー」って感じに突然若い男女が絡み合い、ごろごろブチュブチュ始めてお母さんはあわてて「子供はもう寝なさい!」って怒鳴り出し、お父さんは死んだふりをする……といった微笑ましい光景があったじゃない。ドラマなんて何が飛び出てくるかわかんないから“見てはいけない大人の世界”を覗き見できたのに、いまや、このレイティングのおかげで、てめえ、このやろー。うっふん、あっはーん、バキューン、バキューンに出会えないわけよ。番組始まる前から“TV-MA”って出ちゃうから、番組自体が子供の目に触れないように大人が先手を打てるのよ。ドキドキにもわくわくにも、お父ちゃんの死んだふりにもお目に掛かれないのよ。まったくせちがらい世の中になっちまったもんだわ。
わたしが見せてもらえるのは、TV-YとTV-G。2歳児と同じバーニーやセサミ・ストリートなんかよ。着ぐるみが踊るのなんか見たくない! 『Sex and the City』を見せろ! それになんでおもらし幼児と6歳までをいっしょくたにするんだ! 6歳はもう7歳だぞ!(意味不明) まったくこのレイティングってお子様の知的欲求を侵害する、けしからぬ大人の悪巧みだわ。せっかくアメリカのケーブルTVはじゃかすかチャンネルがあって、24時間漫画だってなんだってやってるっちゅうに、21世紀を担う夢も希望もあるわたしら幼児に、愛と自由とサスペンスを与えたまえ! 雨にもめげずおりこうさんしているシアトルのお子様だけには「雨の日には出血大サービス! 全部TV-Gでご奉仕だい! なんでも見やがれ!」なんて配慮が欲しいわね。そしたら、今はやりの『リアリティーTVショー』を見まくってやるわ。知ってる? これ。自分の家にカメラ入れて日常生活をアメリカ中に見せまくるっていう能のないやり方の番組なんだけど、こんなんがうじゃうじゃあんのよね。アメリカのTVは、素人オンパレードよ。自分をさらけ出すのを快感と思ってるのね。あまりにもくだらなくて子供に見せらんないから、レイティングでブロックしてるのかもね。リアリティーTVショーなら、大酒飲みの大女の日本人を母に持ち、オネエ言葉で日本語を操る気の弱い金髪男を父に持ち、気にいらないことがあると、床や壁に自分の頭をごんごん叩き付けて発狂する怪獣を妹に持ったわたしの生活ぶりをオン・エアした方が、数百万倍面白いわね。レイティングは、やっぱTV-MAかなあ。我が家はバイオレンスがいっぱいだもんね。エッチはないけど。まあ、そんなこんなの毎日よ。じゃあねえ、またねえ。
 
(2003年10月)

 

第30回 ホリデー・シーズン到来をみるみる

おっす。ずいぶん寒いね、最近。はな垂れ小僧うじゃうじゃのこの季節。みんな腹出して寝てると、ピーッとくるから要注意。学校休むのなんかはいいけどさ、これからホリデー・シーズンよ! 親戚一同にお愛想ふりまき、クリスマスにお目当ての品々をいただくためには、風邪なんてひいてる場合じゃない! みんな体力付けて、疎遠になってる親戚達にもおべんちゃら攻撃して、じゃんじゃん貢ぎ物をいただこうじゃないの!
 
クリスマスへのカウントダウンが始まるのは、何と言ってもサンクスギビング。この日しこたま、七面鳥だー、パイだ、ケーキだー、で腹ごしらえしたら、翌日からクリスマス商戦に突入! 親類縁者にもジャンジャン食わせて体力付けさせ、バリバリ買い物できるように導いてあげるのが賢いお子様のホリデーの心掛け。みんな気合を入れて七面鳥に食らいつけよ!
七面鳥と言えば、毎年我が家では「どこでこの七面鳥を食らうか」で大騒ぎになるんだな。みるのグランマーは、
「みんなカリフォルニアへ集まれ!」
って言うんだけど、おかあちゃんは
「誰がわざわざ金かけて、ばばあのいじった七面鳥など食いに行くかあ!」
と拒否。
「今年シアトル一族は、シアトルで七面鳥を食うぞ!」
と宣言をしたら、グランマーは
「そんなら、わたくしも来てやってよくってよ」
とShe invited herself. それもみるのグランマーは飛行機が怖くて乗れないから、カリフォルニアから電車で来るっていうのよ。何もたかが七面鳥を食べるために15時間も電車に揺られてくることないと思うんだけどなあ。アメリカ人って「ホリデーは家族で過ごすんじゃい!」って気合がすごくない? みるのグランマーみたいに、自分の子供達がどんどん結婚していくと、いかにホリデー・イベントを取り仕切るかが生きがいになってくるんだな。で、嫁達は、それを拒むことに命をかけるんだな。その間に挟まるお子様のわたくし。はっきり言って、どこで七面鳥を食おうがわたしにゃあ関係ない。問題はこの季節、どれだけゴマをすってクリスマスにウハウハできるようにするかってこと。だから、サンクスギビング開催地などくそくらえ! でもクリスマスは、何が何でもシアトルに誘致しなくてはならぬのじゃ。
「貢ぎ物の付いてくる祝い事は自分のテリトリーで執り行うべし」
これは、かしこいお子様の鉄則じゃ。クリスマスをホストするおうちのご子息・ご息女には、客も貢ぎ物を奮発するってもんでしょう? 今年はクリスマスが差し迫っているというのに、嫁姑のいざこざでクリスマスの開催地が未定のまま! サンクスギビングはすでにシアトル開催が決まっているが、クリスマスも誘致できるか? 今年は異例のサンクスギビング&クリスマスのダブル・シアトル開催なるか? まったく今年はハラハラドキドキものだわ。
 
ああ、ホリデー・シーズン。それは1年間無視し合って生きてきた親族が権力争いの果て、いやいや肩を寄せ合う季節なり。
こうなったら今年は、親戚よりもサンタさん頼み!とサンタさんへの欲しい物リストを通常の3倍にしようと、今からせっせと書き始めたわ。リセスの時間も教室に残って書き書きしていたら、レベッカが
「サンタに手紙なんて書いても無駄よ」
って言うのよ。
「サンタなんているわけないじゃないの」
って。
「そんなことないよ、毎年来るよ!」
って反撃すると
「うちには来たことないわよ。うちにはクリスマスがないから」
「えええええええ」
わたし、びっくり。彼女は言うの。
「ユダヤ人にはクリスマスはないの。サンタなんて来ないの」
人生6年にして知ってしまった衝撃的な事実! サンタさんは、みんなの家に来るわけではないらしいのよ。どんなにいい子にしていても、ユダヤ人のおうちには来ないんだってさ。レベッカの家はイエローページに載ってないからみつからなかったのか? サンタさんは本当はユダヤ人が嫌いなのか? あんな温和そうな顔をしながらもサンタさんは人種差別をするのか? 宗教なんてトンチンカンの、日本のがきんちょのうちにもサンタさんはやって来るのに、ユダヤ教のレベッカのうちにはなぜサンタさんが来ない??
「あんたって不幸な星の下に生まれてきたのね……」
って哀れんであげようとしたら、レベッカが言うの。
「サンタは来ないけど、わたし達には“ハヌカ”があるのよ」
「ハヌカ?」
どうやらユダヤ人の皆さんは、8日間にわたりこの楽しいハヌカと呼ばれる祝いの宴をするそうだ。レベッカのうちではこの間、お客さんがやって来ちゃ、飲んで食べて物をくれるらしい。それもサンタさんが来ない分の“色”を付けてもらった貢ぎ物がわんさか来るらしい。うらやましいぞ、ユダヤの子! クリスマスの1日に人生をかけ、
「言うこと聞かないとサンタさん来ないよ!」
とおかあちゃんに脅されて1年間びくびくして暮らすより、ユダヤ教信者になって8日間祝いまくりたいぞ! プレゼントをいっぱいもらいたいぞ! ユダヤ教のお偉いさんよ、わたしらお子様をこの季節に勧誘しておくんなさいよ。季節労働者ならぬ季節信者になりたいわあ。
 
しかし、クリスマス・カードは世界中誰でも出すのかと思ってたけど、クリスマスを祝わない人々がいたとは! そういうおうちがあることを考慮して“Happy Holidays!”と書いたカードを出すのが無難だそうだよ。みんな知ってた? しかし、サンタさんが来ない宗教があったなんて! 6年も人間してるといろいろ学ぶものね。宗教によって祝い事が違ってくるなら、どれが一番もうかる宗教だろうか? 8日間、毎日サンタがやって来るなんていう宗教はないのか? 親族の数だけクリスマスを連続開催するって宗教だったら、開催地を順番にすればいいんだから、クリスマス誘致バトルもなく平和な嫁姑関係が築けるってものじゃないかい? あと、毎日レインボー・アイスクリームをなめながらTVの前で歌って踊ってお腹がすいたら、チーズバーガー食いまくるって愉快な宗教があってもいいなあ。
 
2003年ホリデー・シーズンを前に、宗教に目覚めてしまったわたし。神様仏様サンタ様、誰でもいいから、いっぱいプレゼント持ってきて! みんなも知恵を使ってしこたまプレゼントをいただけるように頑張ろう!
 
(2003年11月)

 

最終回 みるちゃんみるみるをみるみる

「わたし、みる。4歳。だけどお洋服は8歳用でパッツンパッツン」
……で始まった『みるちゃんみるみる』も今回でなーんと31回目。まあ、若いみそらでよくも続けたもんだわ! えらい! 幼児の鏡!
 
アンパンマンわかめだったわたくしも、もう6歳になり、アンパンマンが安室奈美恵のヅラかぶったような美貌に変身し(髪が伸びただけってか)、12歳用のお洋服をパッツンツンにして、ブイブイ言わせているわ。ジーパンなんてクリスクロス・アップルソースをするたびに、ウエストのボタンがはじけ飛ぶ始末。股ズレもするしさ。んで、この前、その股ズレ地帯にメンタム塗ってみたら、ももが噴火するかと思うほどヒリヒリしたわよ。
 
わたしったらこのままいくと12歳で24歳用のお洋服からはみ出て、24歳で48歳用! 50になったら100歳用の服、着なきゃならないのよ。きゃー、長生きしたら着るものなくなっちゃうじゃないの。アパレル・メーカーよ、わたしの成長についてこいよ!
こんなアメリカ人もびっくり!のわたしのナイス・バディーは
「おまえは、本当に半分日本人か?」
って学校で不気味がられるのよね。
「大きいことはいいことだ!」を信じてやまないアメリカ人ご父兄の皆さんは
「なんでうちの息子が日本人よりチビなんだ!」
ってアメリカ人の沽券にかかわる大問題に
「あいつら家族はドーピングしてるに違いない!」
って尿検査を強要してきそうな勢いで動転してるもんね。おかげで最近じゃ“やお子”とかって呼ばれてるわ。八百屋の子じゃないのよ、“Yao Ming子”ちゃんよ。知ってる? あのお兄ちゃん、7フィート4インチもあるのよ。この前、『キーアリーナ』でボールついてるとこ見掛けたけど、どのアメリカ人選手よりも背はデカいし、お尻もどデカくってビックリ。足も太いのよ。とってもアジアンな体型で親近感を覚えたわ。アメリカ人はヤオ兄ちゃんとかを見ても
「あいつは突然変異なだけで、ほかのアジア人はあいかわらずチビ」
ってまだ信じこんでる。アジア人がデカくて何が悪い! アジア人をナメるなよ! イチロー、佐々木、長谷川、松井の活躍を見ろ! タイガーウッズも半分アジア人だぞ。大食いだって世界一だぞ!
アメリカ人って何でも自分達が1番じゃないと、勝手なこと言いやがるのが気にいらん。うちなんかも 「おまえのおかあちゃん、本当は日本人じゃなくてビッグフットだろ」
って言われるもんね。わたしはこれからも、日米ハーフのお子様としてアメリカ人の偏見と戦い、あいつらの曲がった根性を叩き直してやるわ。
 
そういうわけでコツコツ31カ月間も連載しているうちに、体はとんでもなく巨大化したわたくし。この31カ月間の人生は波乱万丈! 歯抜け小僧になって美貌が台無しになるわ、ひとりっこのお嬢様だったわたしに、妹ができ
「これでわたしもビッグ・シスターだ!」
と喜んだのもつかのま、ベイビーは、実はサルだった! わたしはサルの逆襲を受ける悲劇のヒロインになってしまったのよ……。 ああ、床にごろごろお宝をばらまいて、おくつろぎできた時代が懐かしい! いまや、我が家の床上1メートルはサルの無法地帯。やつは、手にするものすべて食べるか、握りつぶすか、投げ飛ばすか、してくれる。わたしの数々のお宝コレクション(夏食ったキングクラブの殻、ひからびたカタツムリ、去年の枝豆)を破壊して回るのよ。わたしのバービーちゃん達もみんな半身不随だったり、散切り頭だったり、首ちょんぱだったりするのよ。どれもサルの仕業よ。
ひとり、ゆっくり便器に腰掛けてても、サルは「ねーねー」(お姉様の意味じゃ)とドアを押し倒してやってくる。トイレット・ペーパーをぐるぐる大回転させて、わたしのお尻を拭こうとするのよ。
学校にだって付いてきて、教室のコンピューターを叩き壊すわ、キーボードを投げ飛ばすわ、絵本を引きちぎるわ、わたしが退学になったらおまえのせいだぞ、サル!
 
いまや、2段ベッドの上に上ってはしごを外したひとときが、唯一の心休まる時間よ。そんな時もサルは下界から「ねーね、ねーね」と叫び回ってる。ひとり、秘宝のヨックモックをいただきながら無視してやるんだけど、このサル、恐るべし! 自分の思うとおりにならないと、床に頭をごんごん叩きつけて吼えるのよ。「うおおおお」と雄叫びあげながら、どデカいたんこぶができてもおかまいなしに、ガンガンごんごん頭つきするのよ。ばかでしょ。サルよ、人生おまえの思うとおりになんか、ならねえんだぞ。お姉様はこのわたくし。地球はわたしを中心に回っているのだ。思い知れ!
……とばかにしていたが、このサル、なかなかのサルなり。そこまでのパフォーマンスを公の場なんかでされちゃうと、ご通行中の皆様が立ち止まって珍しそうに眺めるわけさ。するとおかあちゃんがその場を取り繕おうと
「ほら、アポロチョコレートよ」
ってサルの大好物のチョコやるんだよ。するとサルは、内出血した大きなたんこぶ、ぶらさげて、にこにこチョコレートにむさぼりつくんだな。ギャーギャー騒いでもいいことないが、己を傷付けて発狂すれば親はビビってエサを与えてくれると計算づくの行為なのだよ。したたかなサルめ。次女ってのは、抜け目がないのよね。長女のわたくしのような、おっとりとした女らしさがないわけさ。 このサル出没以来
「あんたは、おねえちゃんなんだから」
「あんたの妹は、まだ人間じゃないんだからしょうがないでしょ」
とおかあちゃんもサルびいきをする。世の中不公平だ。
 
元祖くそがきは、このわたくし、みる怪獣だ!  思い知れ! わるがき諸君よ! 幼児期は短いが、決して聞き分けのいいがきなんかになるなよ! ちゃんと定期的に炸裂しておけよ! そうすれば親は
「いつもはいい子なのに時々キレちゃうのよね」
と、キレちゃう時用の“エサ”を常備しといてくれるぞ。
みるは来月でもう7歳。そういうわけで、わたしをとりまく環境はいっそう厳しくなってきちょるが、わたしは負けないわ! 幼児を卒業して、これからは“爆発ティーンエージャー”目指して修行するわ。だから『みるちゃんみるみる』は、これでおっしまーい。うちのサルがそのうち『みれちゃんみれみれ』なんて連載、始めるかもね。ま、あんなサルにわたしのような文才があるとは、思えないけど。わたしはあいかわらず、そのへんでくだまいてるから、どこかでばったり会おう!
 
みんな、いつも心にくそがきを! 忘れんなよ!
 
(2003年12月)

 

みるちゃん みる みる 注釈
●みる
ベルビュー生まれの怪獣(メス)。
 
●Thunder Thigh!
Thunder=雷、Thigh=太もも。
日本でいうところのダイコン足。失礼しちゃう。
 
●ピン
1カ月1,100ドル。金持ちの子ばかりちやほやされてたなあ。まあいいとこでした。
 
●キリ
1カ月500ドル。クレヨン食べてても先生見てみぬふり。
 
●マカロニ・チーズ
アメリカの子供が世界で2番目においしいと思っているインスタント食品。1番はマクドナルドのチーズバーガー。(調査/By みる)
 
●ビタミン剤
アメリカの子の食事には野菜が足りない!
ドラッグストアで5~6ドルで売ってるキャラクターもののマルチ・ビタミン剤を飲む子多し。
 
●モラルがとっても低いのよ
日本のように保育園の先生になる資格制度がない! 本当に子供が好きでやってるか、ほかに何もできることがないからやってるかの両極端で、先生の質に差がありすぎ。給料もむちゃくちゃ安いらしく、ちょっと学のある人はコンピューターを勉強して給料のいいハイテク業界に行っちゃうから、先生のなり手がいなくて質は低下する一方。ああ困った。
 
●モンテッソリーのプリスクール
3~6歳が一緒に学ぶ。マリア・モンテッソリーが始めた教育方法。体のでかいみるには居心地がいい。みるは6歳児よりもでかい。
 
●幼児虐待
公の場で子供をぶったりしないように! 近所に聞こえる怒鳴り声も要注意! 日本と違ってこっちじゃすぐに警察に通報されちゃうぞ。
 
●ヨックモック
チョコのかかった四角いクッキー。日本産。みるの家宝。アメリカ人にも大好評。ノードストロームのGift Shopで売っている。
 
●ベルスク
ベルビュー・スクエア。みるのうちはこのすぐ近く。マクドナルドでチーズバーガーを食べさせてもらえないと、すぐ大泣き発狂マシーンになる。