シアトルの生活情報&おすすめ観光情報

ステップママ奮闘記

ステップ・ママ奮闘記

第1回 これぞアメリカン・ファミリー?

「お金貸してくれですって? あなたがお金を借りて返したことある? ふざけないで!」
「うるせー! Bitxx!」
そんな口汚いケンカがしょっちゅう起こる我が家。こんなはずではなかったのに……。

主人のディックと結婚したのは4年前。当時、私の両親は彼が15歳年上ということより、2人の子持ちということを一番心配していた。私は「大丈夫よ、子供達は週の半分をお母さんと過ごすし」と言っていたが、それは大間違いだった。

ステップ・サンにあたるダンとケンに初めて会った時、彼らは小学校4年生と2年生で、まだあどけなさが残るかわいい少年だった。礼儀正しく、日本語版の『ポケモンカード』を取り出して「これは英語でどういう意味?」と人なつっこく聞いてきたり、兄弟で遊んでいる姿もほのぼしたものだった。

しか~し、後で発覚したのだが、子供達は主人に「おこづかいをやるから、結婚するまでおとなしくしていなさい」と買収されて、ぶりっ子していたのだった!

そんなことなど知らない私は、結婚した途端にダン&ケンのガキ大将コンビを目の当たりにして大慌て。アメリカの子供は自己主張が強いものだが、我が家の2人はハンパじゃない。学校ではクラスのリーダーである反面、先生からは「しゃべりすぎ。授業の邪魔」という悪評価。あー言えばこー言うでいちいち難くせをつけるし、英語に訛りがあって研究職に就いている私のことは「Geek!」と言ってバカにする。

「週の半分はお母さんの家」が続いたのも結婚後半年だけ。今では2人共ほとんど毎日家にいて、さらに彼らの友達まで大勢出入りするので、我が家は毎日お祭り騒ぎだ。

じつは、ディックは子持ちだが結婚したのは初めて(アメリカでは珍しくない)。しかも、子供2人の母親は別人だ(これは珍しいかも)。親権やら何やらの都合で「お母さんの家」とはもっぱらダンの母親の家のこと。しかし、彼女には今では2人の子供がいて、彼女の家に行くとベビーシッターとしての仕事が待っている。

ティーンエージャーの2人がそれを喜ぶわけがなく、最近はダンでさえ何かと言い訳をつけて避けている始末。アメリカで子持ちが離婚した場合、子供達の世話は母親が担当するのが一般的なのに、何で我が家はこうなの!? と貧乏くじを引いた気分である。

と、こう書くと私がダン&ケンを嫌っているように思うかもしれないけど、誤解しないで欲しい。家族として4年以上一緒に暮らし、気心が知れているからこそ文句も言えるし、ケンカもするのだ。2人共かなりワガママで自己チューだけど本質はいい子だし、男手ひとつの放任主義で育てられてきた彼らと、日本式子育て観を持った私が衝突するのも仕方がない。

な~んて悟ったようなことを言ったりするけど、9月からダンは高校生、ケンは中学生。学校が始まってすぐ、ダンはペイント・ガンで友達射撃未遂事件を起こし、ハンサムなケンは、目まぐるしく変わるガールフレンド達と携帯で話しまくり、先日$180の請求書を受け取ったばかり。これからティーンエージャーのステップママ業はますます大変になりそうで……(つづく)。

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
日本語版の『ポケモンカード』……当時大流行。英語版はどこでも買えたが、日本語版は専門ショップなどでしか手に入らず、貴重品だった。
Geek……直訳では『おたく』、『勉強好き』という意味もある。学校でGeekのレッテルを貼られるとイジメにあうらしい。
ペイント・ガン……ライフル型の銃で、水で洗うと落ちるペンキの弾を発射する。弾自体はふにょふにょだが当たるとかなり痛く、目に当たって失明した子供もいる。

第2回 ケンの停学処分事件

子供達の新学期が始まって3日目。珍しく家族揃って食卓を囲んでいる時(普段は各自が勝手にテレビを見ながら食べているので)、学校はどう? と聞いてみた。

「今日ケンはね~、学校の運動場で……」

「う、うるさい! だまれ、ダン!」

ダンと主人のディックは目配せをしている。なんだか怪しいぞ。

「何なのよ! いったい何があったの?」と問い詰めてみると、放課後ケンは悪友のチャッドとつるんで練習中の女子ソフトボール部をやじり、それが先生に見つかって呼び出されたらしい。その後、校長先生から送られてきた手紙にはこんなことが書かれてあった。

「クラブ活動に参加している生徒に対してハラスメント的な言動があったため、授業が終わる3時10分から学校が閉まる5時までは学校の敷地内への立ち入りを禁止する。故意にその時間内に敷地内に入った場合は、不法侵入の罪で警察に通報する」

根がマジメな私はビビってしまい、ケンを怒ったのだが、ディックはこのぐらいのことでそんなに怒るなよ、と笑っている。

そうなのだ。ディックが中・高校生の頃は私達が想像もつかない悪さをしでかし、停学なんて当たり前。次々に問題を起こし、高校は3回も転校しているのだ。いくら’70年代初めという時代とはいえ、校内ではドラッグ・ディーラーとして知られ、山積みのKegとマリファナの煙が蔓延するパーティーを次々と主催していたらしい。そんな筋金入りのワルと比べたら、女子ソフトボール部にちょっかいを出すなんてカワイイもんだ。しかし、だからと言ってケンの無罪放免は教育上良くないと思い「しばらく友達の家に遊びに行くのは禁止よ!」と怒鳴ってみたが、誰も聞いてくれなかった。まったく無視(トホホ)。

その事件の1週間後、ディックから私の仕事場に電話が掛かってきた。

「ケンがまた問題を起こしてさ~。月曜の朝、校長先生と面談になったよ」

絶句する私。どうやらクラスで出席を取っている時に「Here」という代わりに、悪ぶって「Right Hurr」と言ったのが発端らしい。「Here」を「Hurr」と発音するのはギャング言葉で、学校のZero Tolerance Policyに抵触したのだ。学校側はケンがギャングのメンバーではないか、ほかの生徒に悪影響を与える不良ではないのかと思い、校長面談に発展したらしい。

夫のディックは普段から言葉遣いが悪く、また私は外国人なのでどの言葉がどのくらい悪いものかが判断できず、我が家ではスラングが飛び交っている。スラングごときで目くじらを立てる学校はバカバカしいと思っているディックは、あろうことかケンに「面談にはWigger Suitを着て行こうぜ」なんて提案している。私は仕事の都合で出席できないので、いったいどうなることか心配していたら、案の定、校長先生に会うなり「What’s up?」とやらかしたらしい。

その後は真剣に話し合ったらしいが、家に帰るなり、その時の校長先生の戸惑った顔がおかしかったなんだと、ケンと2人でゲラゲラ笑っている。親がこれでは子供が先生を敬う気持ちにならないのも当然だ。結局ケンはIn-school Suspensionということで、校長室で1日宿題をして過ごし、この事件は落ちついたのだが……(つづく)。

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
Keg……15ガロンのビールが入った鉄製の樽型容器。アメリカの若者のパーティーでは必需品らしい。
Zero Tolerance Policy……許容ゼロ方針。学校での暴力や暴力につながる言葉、服装、態度は一切許さないという方針。日本刀の形をしたペーパーナイフをうっかりバックパックに入れて登校したケンの友人は、1週間の停学処分を受けた。
Wigger Suit……黒人のように振舞う白人(ラッパーのEminemが良い例)が着るスポーツタイプのジャケットと短パンのコンビネーション。
What’s up?……「How are you?」の代わりに使われる軽いスラング。
In-school Suspension……校内停学

第3回 ダンのいたずら電話

先週末、家族揃って出掛ける時に、車の中でダンがおもむろに携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛け始めた。
「もしもし、エロティック・ベーカリー?」

ご存知の方もいるかもしれないが、シアトルのウォーリングフォードにある『エロティック・ベーカリー(Erotic Bakery)』は、店名の通りエッチな形のケーキを作ることで有名なケーキ・ショップ。たまたまその店の前を通ったのをいいことに、電話番号を暗記したダンはPrank Phone Callを掛けているのであった。

親が同じ車の中にいるというのに、平然とした顔で女性の店員に次々と質問を浴びせるダン。携帯の音量が最大になっているので、2人の会話は全部はっきりと聞こえてくる。

Bachelor Partyを考えているんだけど、ケーキに載る一番大きいアレのサイズはどれくらいかなぁ?」。

形や色など、とてもここには書けない詳細な質問が続き、最後に「$56? じゃあ、ほかの人と相談してまた掛け直しますので」と言って電話を切った。私を除く車内の全員が大爆笑。どうしてこうしょ~もないイタズラばっかりするんだろうか! 

普通ティーンエージャーは、性に関することは恥ずかしくて親の前では話さないものだと思っていたけれど、ダン&ケンはこっちが恥ずかしくなるくらいオープンである。我が家では子供達が小学校低学年の頃から『South Park』を家族揃って見ているし、映画の『American Pie』シリーズもDVDをすべて持っている。下ネタに関しては免疫ができているのだ(こんなことは全然自慢にならないけど)。私は、子供が見るテレビ番組やビデオゲームを内容によって制限することに大いに賛成しているが、夫のディックはオープン・ポリシーを持っている。「禁止したところで親に隠れて見るのがオチ。だったら容認して質問があれば親子で話し合った方がいい」という考え方なのだ。もちろん、子供達が小学校の頃はあれこれ禁止していたが、中・高校生になった今は多少の自主性も必要なのかもと思い、デミーに相談したが、「あ~ら、気にすることないわよ」と相手にしてくれなかった。とほほ……。

おかげで我が家はいつも男子ロッカー室のような雰囲気である。「女性の前でそういう話をするのはやめなさい!」と言っても効果はなく、年々ひどくなるばかり。ダン&ケンが私の前で平気で下品な話をするのは私がステップマザーだからか?と以前は思っていたけど、そうでもないらしい。

1年ほど前、友達の家に遊びに行った彼らは、友達の親が留守なのをいいことに寝室をあさり、大人のおもちゃを発見。それをわざわざ写真に撮って、職場にいる私の携帯に送ってきたのだ! 私は大慌てだったが(そんな写真を見ているのが見つかったら人間性を疑われてクビだ)、どうやらダンはデミーにも同じ写真を送ったらしく、さっそくデミーから電話が掛かってきた。しかし、
「写真見た? あっはは! 私達も気を付けないとね~」

はあ~(溜め息)。母親がこういう態度だったら、子供が何でも言えると思うわけだ。ま、子供がティーンになった今は、何でもオープンなのもいいことだと思うけど、私としてはもう少し遠慮してもらいたい……(つづく)。

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
Prank Phone Call……いたずら電話。
Bachelor Party……結婚する前に新郎が男友達と開く独身最後の大騒ぎパーティー。それに対して新婦は女友達とBachelorette Partyを開く。
South Park……『Comedy Central』というケーブル・チャンネルで放映されているアニメ。小学4年生の4人組が主人公だが、ギャグは大人向け。セックスはもちろん、人種、政治、宗教まで笑いのネタ。
American Pie……高校生の男子3人組が女の子をゲットしようと巻き起こす騒動を扱った映画。高校編、大学編、結婚編の3作がある。

第4回 恐怖のホリデー・シーズン

ホリデー・シーズン、皆さんはどうお過ごしでしたか? アメリカで初めてクリスマスやお正月を迎えた方は、文化や習慣の違いにさぞ驚かれたのでは?

結婚して初めて迎えたホリデー・シーズン、主人のディックとToys"R"Usに行った時は本当にビックリした。ダン&ケンにはすでにクリスマス・プレゼントとして新しい自転車と最新のゲーム機、そしてゲーム・ソフトを数本を買ってあったので、ちょっと買い足すぐらいだろうと思っていたのだが、カートに山盛りのおもちゃを買い込み、さらに「ノードストロームに行って洋服を買おう」と言う。サンタクロースからのプレゼントは毎年2つだけ(2つも?)もらって育った私には、とても信じられない数である。プレゼントの予算は子供ひとり当たり$1,000を超えていて、家計を預かる私は怒り心頭、大げんかになった。

「こんなに甘やかすのは良くないよ。物を大切にしない子供に育っちゃうよ!」と言う私に対して、「これがアメリカ式のクリスマスだ! 子供達はすぐに大きくなって家を出て行くんだから、今のうちにできるだけ楽しい思い出を作ってあげたいんだ」とディック。

すでにアメリカ在住歴6年を超えていた私は、プレゼントだけが“アメリカ式クリスマス”ではないことを知っていたし、“楽しい思い出”は物質的なものだけで作るものではないと思っていたので納得がいかなかった。片親で育てていることに罪悪感があって、つい甘やかしてしまうのかな?とも考えたけど、親戚の家を回るうちに、多くのアメリカ人の家庭で、家の豊かさにかかわらず、子供に大量のプレゼントをあげていることを知った。

私の不満をよそに、ダン&ケンはサンクスギビング前からWish Listを作ってシーズンに備えている。以前書いた通り、子供達の母親は別人だが、主人のディックは母親達とはもちろん、彼女達の家族とも友好な関係を保っていて、毎年あちこちからファミリー・ディナーに招待される。ほとんどの人がダン&ケンを自分の孫や甥と同等に扱うので、彼らにはおじいちゃん、おばあちゃんと呼ぶ人が6組、おじさん、おばさんにいたっては数え切れないほどいるのだ。

私達からのプレゼントに加え、実の母親&ステップ・ファーザー、さらに大量の親戚からのプレゼント。たくさんあり過ぎてどれが誰からのか混乱しないのかと思うが、そこは慣れたもの、しっかり覚えている(そういう時の記憶力はスゴイ!)。

ティーンになった今ではお金をもらうことも多くなったので、プレゼントの管理に手間がかからなくなったが、もらったお金を貯金させるのがまたひと苦労だ。私はもらったお年玉は全部貯金するマジメな子供だったので、ダンがもらったお金を1週間もしないうちに全部使ってしまうことに我慢できず、貯金することの大切さを教えるために、Matchingだ何だの、あの手この手を考えるのだが、昨年ケンに$50のチェックを手渡されたのが最高額。ダンに至っては、たとえ$10だろうと私には手出しさせない腹づもりだ。「私のマッチング方式だと$10が3年後には$20になるんだよ」といくら説明しても、今をエンジョイしたい彼らにとってはまったく無意味、は~(溜め息)。このままでまっとうな金銭感覚の持ち主に育つのかしら? 私の心配の種は尽きないのであった……(つづく)

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
Toys"R"Us……大型おもちゃチェーン店。日本語では『トイザらス』と表記(ややこしい)。
Wish List……欲しいモノのリスト。2004年の子供達のクリスマス・リストには『デュアルスクリーン・ゲームボーイ』と『Xboxライブ(インターネットを通じて他の人とプレイできる)』のアクセサリー。ロシアン・ハットなんていう変なリクエストもあった。
Matching……私のマッチング方法は、子供が貯金する額に上乗せすること。例えば25%のマッチングだと、$100の貯金に私が$25上乗せすることになる。

第5回 Deal for iPod

ある日、ダンとケンが2人揃って私のところにやって来て、こう言った。
「iPodが欲しいんだけど、何をすれば買ってもらえる?」
私はすかさず
「主要の4科目でB以上の成績を取ったら買ってあげるよ」
と答えると、2人は声を揃えて叫んだ。
「え~、B以上!? そんなの無理だよ。だってもう学期も半ばだし、次の学期にがんばっても買ってもらえるのは3カ月以上も先じゃないか! それまで待てないよ!」

iPodは機種にもよるが$300~$400もするので、本当だったらオールAじゃないと納得がいかないのだが、彼らにそれを望むのは到底無理。勉強が大嫌いなダンは今のところ英語のCが最高で、そのほかはD。科学にいたっては落第点である。

一方、ケンは小学生の時は平均Bの成績だったのに、中学生になってダンと同じく勉強嫌いになり、先学期は数学で落第点をもらってきた。

小さい頃から良い成績を取ることを目標にしてきた私は、結婚当初ダンの悲惨な成績(ほとんどの科目がF)に怒り心頭し、かなりガミガミ叱っていた。当然ダンはそんな私に反発。2人の間にはかなり険悪なムードが漂っていた。

テストだけでほとんどの成績が決まってしまう日本の学校とは違い、アメリカの学校はテストに加え、宿題やプロジェクト、クラスへの参加が評価される。ダンは人前での発表や発言が得意だから、たとえテストで良い点を取れなくても、多少努力すれば人並みの成績を取れるはず。それなのにまったくやる気を見せないので、ずいぶん歯がゆい思いをしたものだ。なんとかダンの成績を向上させようと先生とEメールで連絡を取り合い、宿題の締め切りを私が把握してチェックしたり、Sylvan Learning Centerに通わせたりしていろいろ試してみたけれど、結局あまり効果はなかった。

しかし、最近はダンと衝突することもだいぶ少なくなってきた。というもの、ダン本人がやる気になり、宿題をちゃんと提出するようになったことと(落第科目がひとつだけというのは彼にとったら大進歩である!)、成績に対する私の考え方が変わってきたからだと思う。

父親のディックも母親のデミーも学生時代は落ちこぼれで、最終学歴は高卒。コミュニティー・カレッジでいくつか単位を取ったものの、2人とも卒業はしていない。今までの私のエッセイから2人のことをダメ人間と思っている人もいるかもしれないが、ディックは事業家(カーステレオ店のオーナー)として成功し、業界では広く知られている。Costcoでマネージャーをしているデミーも、今度新しくオープンする店を任されることになり、大学院卒の私より稼いでいる。そんな2人を見ていると「成績は悪くても、高校さえ無事に卒業してくれればいいや」と思えてくるのだ。

だからと言って現状に満足しているわけではなく、子供達とは今回のiPodのようなDeal(約束)をこれまでいくつか結んできた。約束が果たされたことはあまりないが、それでも私は「今度こそは良い成績を取ってきてくれるだろう」という期待を捨てきることができない。このDealは2カ月後に結果が出ることになっている。2人が目標を達成したら$800の出費。まさかとは思いつつ、それまでに日本製の安い製品が出ないかしらと願っている私である(つづく)。

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
iPod……若者に大人気のApple社のデジタル・ミュージック・プレーヤー。最高1万曲を収録でき、収録した曲を好きなように組み替えることができる。
Sylvan Learning Center……KUMON(公文)と並ぶ大手学習塾。主に勉強が苦手な生徒のためのクラスを実施しているが、大学進学希望の生徒のためのクラスもある。

第6回 ケンのプレイボーイ生活

ある日、ディックが家の留守番電話をチェックしたら、女性の罵声が吹き込まれていた。

「Axx Hole!!!」

デミーによく怒られるディックは「また怒られるようなことしたかな?」と確認したが知らないと言う。いったい誰が?と犯人捜しの末、ケンのガールフレンドの仕業ということが判明した。「何か彼女が嫌がることをしたんじゃないでしょうね!」
とケンを問い詰めると、彼女とは3週間前に別れたけれど、その後もしつこく付きまとわれるので困っていると言う。

親ばか丸出しを承知で言うと、イタリア系の母親の血を引くケンは、彫りが深くて目はパッチリのハンサム・ボーイ。その上とても社交的で人を笑わせるのが好きだから、女の子にモテモテ。学校ではPlayerとして知られている。

それはそうと、アメリカの女の子はとにかく積極的だ。ケンの携帯へはもちろん、家にまでしょっちゅう電話を掛けてくるし(非常識にも夜の11時過ぎに電話をしてきた子も)、うっかり彼の後にパソコンを使用した日には、AIMが一気に10個もポップアップしたりする。年頃の男の子がそうであるようにケンも女の子に興味津々で“来る者は拒まず”の方針だから女の子の出入りが激しく、たびたび騒動が巻き起こってしまう。後で聞いたら、留守電に悪態をついた女の子は、振られた悲しみのあまり自分の足にナイフでケンの名前を彫ったそうな。ひえ~! それってストーカー行為の一種 !?

そんなPsychoな子とは別れてくれてホッとしたけれど、小学校4年生で初キスを体験してからというもの、ケンはプレイボーイ街道をまっしぐら。今回のエッセイを書くにあたって、「今までに付き合ったガールフレンドは何人ぐらい? 5人ぐらいかな?」と聞いてみたら、
「冗談でしょ、5人よりもっと多いよ」
と鼻で笑われてしまった。13歳でこれでは先が思いやられる。私は少なくとも高校を卒業するまではセックスは控えた方が良いと思っているが、ケンの様子だと初体験はもはや時間の問題。親としてとにかく心配なのは、Rape Chargeと妊娠だ。女の子のNoは絶対に尊重することと避妊の大切さはしつこく説いているが、いつ女の子の親から電話が掛かってくるか戦々恐々である。

でも私の心配なんて女の子を持つ親に比べたら取るに足りないんだろうな。ケンの元彼女には男の子と電話で話すのもダメ、という厳格な家庭で育った子もいるが、彼女は女友達をダシにして、毎日のようにケンとデートを楽しんでいたし、アメリカ人の夫婦に聞いてみると、男の子の初体験は“高校生の時に彼女に押し切られて”というパターンも多いらしいから。

もしダンとケンが女の子だったら、私は携帯の通話記録やEメールをチェックしたりして、子供達に嫌われるステップママになっていたに違いない。セックスについてだけは、彼らが男の子で良かった~と思う私である(でも心配)。

【追記】
前回のiPodを賭けた成績向上作戦は、子供達が主要科目全部でB以上の成績なんて不可能と諦めてしまいおじゃんに。ケンは自分のお年玉で、お年玉をすでに使ったダンは野球のサインボールをeBayで売ったりして、それぞれiPodを購入。以来、我が家のパソコンは音楽のダウンロードとチャット専用になってしまった。

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
Player……日本語で言うプレイボーイのこと。ヒップホップ式に言うとPlaya。
AIM……AOL Instant Messengerの略で、MicrosoftのMSN Messengerと同じチャット機能。子供にとっては友達と連絡を取り合うための必須アイテム。
Psycho……Psychopathの略でもとは精神病者のことだが、スラングとしてCrazyと同様に使われる。
Rape Charge……レイプで告訴されること。訴えられただけで汚名になる。ダンが通う高校では、女子生徒が振られた彼への腹いせにレイプの罪をでっち上げ、無実の男子生徒が逮捕される事件があった。

第7回 将来はプロ野球選手?

ダンは小さい頃から大の野球好き。今年も野球シーズンが到来し、野球部のTryoutに向け、毎日張り切って友達と練習している。あれは昨年のこと。うっかりものの私は、赤いBaseball Socksと真っ白のSliding Shortsを一緒に洗濯してしまい、Sliding Shortsがピンクに染まってしまったことがあった。ダンは
「僕はゲイじゃないんだから、ピンクの下着なんて着れないよ!」
と憤慨。買ったばかりだったショーツはゴミ箱行きに。

見た目が気になる年頃のダンは、最高の道具を揃えないと野球ができないと思っている。育ち盛りだから毎年靴を買い替えるのはしょうがないとしても、バッグ、ユニホーム、バットなど、すべて替えないと気が済まないのだ。別に家計に余裕があれば、好きなことだし、あれこれ道具を買うのはいいと思うが、なんといっても気に障るのは、そういう道具をまったく大切にしない、ということ。昨年はフルネームの刺繍が入ったカスタム・グラブをオーダーしたのだが、「ちゃんと手入れをしなさいよ」と言っていたにもかかわらず、バッグの中に放り込まれたままで、一冬越したらひび割れがしていたのだ。自分の子供だったら、「高価な道具は買わない」という手段に出ればいいのかもしれないが、ディックは子供に大甘だから、使えなくなった道具の山が築かれるばかりである。

そうやって頭のてっぺんからつま先までビッチリ決めて野球をしているダン。でも地道な練習は大嫌いである。アメリカの少年野球は日本のそれに比べ、もともと練習はあまりしないものだが、その数少ない練習でさえ、ちょっときついとすぐ根を上げてしまう。二塁は上手に守れるが、三塁だと一塁までの距離があるので、ボールがほにょにょ~と飛んで行く。素人の私にでさえ肩の筋力が不足しているとわかるから、
「もっと筋トレしないと」とか、
「遠投の練習だったら家でもできるよ」
とは言ってみるのだが、本人は
「自分はすごくうまいから、練習はいらない」
と思い込んでいるので、一向に気にならないらしい。謙遜を美徳として育った日本人の私にはまったく理解できない! 高校の野球部に入部できるかもおぼつかないのに、
「大学生になったら、Huskiesとして野球をやるんだ」とか、
「メジャーリーグに上がれなかったら、日本に行って野球する」(日本のプロ野球はそんなに甘くないぞ!)
と言えるなんて、なんて幸せな性格なんだろう。うらやましい限りである。

これが自分の子供だったら、たとえどんなに下手くそでも「うちの子は野球が上手だわ」とか思うのだろうか?
まあ、いろいろ不満はあるけど、それでもダンは彼なりに一生懸命やっているので、私も応援している。何といっても野球部に入部すると、学校の成績を一定以上に保たないといけないので、成績にうるさい私は現在必死で入部祈願をしているのであった。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
Tryout……大勢の入部希望者が18人の新入生チーム枠を狙って受けるテスト。数日間にわたり、さまざまな技術を試される。
Sliding Shorts……ユニホームのパンツの下に履く、ぴっちりとした短パン。
Huskies……ワシントン大学のマスコットであるハスキー犬の複数形で、ワシントン大学の学生のことを指す。スポーツで奨学金をもらわない限り、今のダンの成績では逆立ちしてもなれないだろう。

第8回 スクールバス事件

前回私が心配していたダンは、めでたく野球部に合格。でもJunior Varsity (JV)ではなく、Cチーム所属。私としては、何チームでも「クラスの成績がD以上じゃないと試合には出ることができない」というルールは同じなので大喜びだが、ダンは友達のうち数人がJVに受かったのが不満らしく、「なんであいつがJVで、俺はCチームなんだ」とぶつぶつ文句を言っている。念願の野球部に合格したっていうのに、ちっともうれしそうな様子を見せないダンにブチ切れた私が、「文句を言うんだったら人一倍練習して見返してやりなさい!」と怒鳴ると、意外にも素直に毎日練習し始めた。

やっと本気でやる気になってくれたか、とほっとしていたのも束の間、今度はケンがスクールバスで起きた事件に巻き込まれて、2日間停学処分になってしまったのだ。理由は女子生徒に対するセクシャル・ハラスメント。

「いったい何をしでかしたの!」と問い詰めてみたが、「何もしてない」と言う。事件の発端は、ケンの友達ケリーがスクールバスの中で女友達の胸を触ってふざけていたのを、ほかの席に座っていた女子生徒が不愉快に思い学校に通報した、ということらしい。ケンはたまたますぐ近くの席に座っていて、ただ笑って見ていただけだと言う。私は「嫌がっている女の子に悪さをしている場面に出くわしたら、たとえそれが親友でも『やめろ!』って言わなくちゃだめじゃないの!」と怒ったが、その後その場に居合わせたほかの子達からも事情を聞くと、ケリーが胸を触った女の子は別に嫌がっていたわけではなく、2人でじゃれ合っていたのがエスカレートしてしまった、ということらしい。だからケンも別に何か悪いことが起きているとは思わなかったのだ。

しかし、学校に通報した女子生徒は、ケンはただ見ていただけではなく、「Nice Boobs!」と言っていたと証言している。前にも述べた通り、アメリカの学校ではZero Tolerance Policyを取っているので、ほかの生徒に対する性的行為は、たとえそれが言葉によるものであっても処罰の対象になる。ケンが「僕は絶対そんなことは言ってない! 言い掛かりだ!」と言い張るのを信じていいものかどうか、ディックと迷っている間に事体は刻々と進行。学校が警察に通報し、警察が胸を触られた女の子の家を訪問して、ケリーはもちろんのこと、ケンやほかにも側にいた男の子に対して告訴するように強く勧めたのだ。しかも告訴するのはセクシュアル・ハラスメントではなく、Sexual Assaultとしてというのだ。それを聞いて私は「ひょえ~! それじゃあケンはSexual Offenderとして登録されてしまうの?」とびびってしまった。ディックは「暴行? それは行き過ぎだ。学校と話を付ける」と息巻いており、近々学区長と面談する予定である。いったいこの事件、どうなってしまうのだろうか……。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で49歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソをつけない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の12歳。最近は女の子に夢中。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
Junior Varsity……高校の体育系部活では通常Varsity(一軍)とJunior Varsity(二軍)がある。Cチームはさらにその下で、新入生で構成されている。
Zero Tolerance Policy……許容ゼロ方針。性的なものを含めた学校での暴力、または暴力に繋がる言葉、服装、態度は一切許さないという方針。
Sexual Assault……性的暴行。肉体的な接触があった場合にのみ当てはまるのかと思っていたが、ワシントン州法によると、実際に接触がなくても、接触しようと試みたと見なされると性的暴行となるらしい。
Sexual Offender……性的犯罪者。有罪判決を受けると未成年でも警察に登録しなければならない。軽罪の犯罪者の情報は通常一般公開されないが、ダンの通う高校では、数人が性的犯罪者として登録されており、それが誰かはみんなが知っている状態。

第9回 スクールバス事件 No. 2

前回、スクールバスの中で起きた事件に巻き込まれたケン。友達のケリーがふざけ合っていた女子生徒の胸を触ったことに端を発したこの事件は、警察ざたに進展。胸を触られた子の家に警察がquestioningに訪れ、実際に胸を触ったケリーはもちろん、周りで笑って見ていたケンやそのほかの男子生徒をsexual assaultの罪で告訴するよう彼女に勧め……、とここまでは前回話した通り。

「いったいどうなるか」と行方を心配していたが、彼女も彼女の家族も告訴に反対だったから、それ以上深刻な事態にはならなかった。逆にその生徒は、ふざけ過ぎが原因で起きたこの事件がみんなの知るところになって恥ずかしかったらしく、

「早く片付けて、普通の生活に戻りたい」

という意見だったそうだ。結局のところケリーが警察から

「今回は何もなかったことにするけど、もう一度同じような事件を起こしたら今度はsexual harassmentではなく、rapeで告訴するぞ!」

とお叱り(脅し?)を受けただけで済んだのだが、もちろん学校が無罪放免にすることはなく、ケリーは3日間、ケンを含む数人の男子生徒は2日間の停学処分を受けることになった。

今回の件についての私達夫婦の焦点は、ケンが彼女に「Nice Boobs!」と言ったかどうか、ということ。ケンは絶対言っていないと主張していたが、事件を学校に通報した女子生徒(胸を触られた子とは別人)はケンがそう言っていたのを聞いた、と事情聴取に応じたそうだ。もしケンの言葉を信じるならば2日間の停学は不当だと思うが、もし胸に関する言葉を発していたのなら、停学は当然のこと。親としてはケンを信じたいが、どちらの証言が正しいかはっきりとした証拠があるわけではない。だから「学区長と話をつける!」と息巻いていたディックも、“セクシャル・ハラスメント”という言葉が記録に残らないことを条件に、停学処分を受け入れたのだ。

ところが後からわかってきたのは、言い付けた女子生徒が事件の当事者である男子生徒グループを前々からよく思っていなかった、ということ。だいぶ前にからかわれたのを恨みに思って、いつかは仕返しして困らせてやろう、と考えていたそうだ。彼女から直接事情を聞いたわけではないので、どこまでが本当のことかわからない。でも騒々しい人気者グループが軽い気持ちで彼女をからかい、それによって彼女の心が傷付けられたことは容易に想像できる。だから私はケンに

「どんな女の子にでも優しく接しないとダメだよ」

と諭したのだが、続けてディックは

「女は怖いからな~。ずーっと昔に言ったことでもしつこく覚えてるから、気を付けないとダメだぞ」

まったくそのひと言がよけいだっつーの!

せっかくシリアスに話し合っていたというのに、台なしじゃないか! は~……(つづく)

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソを付けない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の13歳。最近は女の子に夢中。

questioning……事情聴取。今回警察は事件の当事者のみならず、バスに乗っていた生徒全員に電話をして事情を聞いた。そのため一部の親は、未成年が保護者の同伴なしで事情聴取されたことに抗議したようだ。
sexual assault……性的暴行。肉体的な接触があった場合にのみ当てはまるのかと思っていたが、ワシントン州法によると、実際に接触がなくても、接触を試みたと見なされれば性的暴行になるらしい。
sexual harassment……セクシャル・ハラスメント。学校の記録にこれが載ると、いったいいつ、どこでそれがあらわになり、ケンの人生にどんな影響を与えるかわからない。ディックはそれを避けたい親心から学校長と交渉した。
rape……レイプは性的暴行の一部かと思っていたが、実際は法的には別々に定義されており、レイプの方が罪が重くなる。

第10回 コミュニティー・サービス

スクールバス事件が解決し、その後数週間は何事も起こらなかったので「これで学期末まで問題を起こさずに済むかも」とひそかに期待していたが、そうは問屋が卸さなかった。

ある日の放課後、ケンと連絡が取れなかったので、いつもつるんでいる友達に電話してみたところ「ケンは学校に残ってcommunity serviceをしているよ」と言うではないか! ディックも私もまったくの初耳。さっそく学校に駆けつけてパーキングで待っていると、7年生10人程がぞろぞろと表に出て来た。そのうちの顔見知り数人を家に送りがてら詳細を聞いたところ、どうやら彼らはsubstitute teacherの授業中に大声でしゃべって授業を中断させたので、罰を受けることになったのだそうだ。

「僕達はちゃんと授業を聞いていたのに、マックスという子が騒ぎ出して、近くにいた僕達がとばっちりを受けたんだ! We got screwed!」
またまた言い訳が始まった。どーせ彼らも一緒になって騒いだに違いない。
「周りにいた9人全員が罰を受けたんだ!」
と言ったのは、前回に書いたスクールバス事件の主役ケリー。9人? そうとうな騒ぎだったらしい。かわいそうな先生~。
「居残りで教室の掃除をしたんだ。先生に掃除の仕方がうまいって褒められたよ」
とこれはケン。なに~!? 掃除? それが罰なわけ?

そうなのだ。日本の学校では生徒が教室の掃除をするのは当たり前だが、アメリカの学校では清掃員を雇っているので、子供達は掃除とまったくかかわりがない。私が中高に通っていた頃は、毎日の掃き掃除はもちろん、土曜日には「中掃除」といって、ワックスがけまでしたもんだ。「トイレも掃除したんだぞ~」というような話をしても、子供達は「は~?」という顔をしている。普段自分の部屋の掃除もろくにしないような子供達だから、掃除は罰のうちに入るのかもしれないが、私はイマイチ納得がいかないのであった。

一方ダンはあれだけ「野球命!」と言っていたくせに、やっぱりというか社会とスペイン語で落第点を取ってしまい、試合に出られない事態に陥ってしまった。カウンセラーに聞くと、どちらの教科も提出していない宿題がたくさんあるという。落第点を取ったらどうなるかはわかっているはずなのに、どうして宿題をほったらかしにしたんだろう? まったく理解に苦しむ。社会は先生がmake-upを認めてくれ、大騒ぎで宿題をやり直して提出。なんとか落第点は脱出したが、スペイン語はもう手の付けられない状態で、結局ダンは学期末まで試合に出ることがなかった。いったいいつになったら真剣に物事に取り組む姿勢を身に付けてくれるんだろう? これに懲りて来年はもう少し学業に身を入れてくれればいいんだけど、それは無理な注文かしら?

そうこうしている間に夏休み入り。しばらくは学校の問題で頭を悩ませることがないので、開放的な気分を味わっている……。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソを付けない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の13歳。最近は女の子に夢中。

community service……地域奉仕(活動)。今回の場合、学校のためになる活動を指し、掃除、ゴミ拾い、庭仕事などが含まれる。
substitute teacher……本来の先生が仕事(会議など)や病気で授業を休む時に教える代理の先生のことで、アメリカの学校ではよく登場する。生徒にナメられがち。
screwed……貧乏くじを引く。だまされる。
make-up……再試験、または宿題のやり直しと再提出。ある程度はどのクラスでも許されるが、先生によって基準が異なり、厳しい先生は一切認めてくれない。

第11回 アダルト映画事件

あれは昨年の夏休みのこと。ケーブルテレビの請求書をチェックしていると、1本$3.99のpay-per-viewの映画3本に混じって、$10.99の映画が載っていた。タイトルは「Eclipse」。まったく聞いたことのない映画だ。なんでこれだけ異常に高いんだろう?と思って、ケーブル会社に電話で尋ねてみることにした。

「あの~、先月の請求書のことでちょっと質問があるんですけど……。この『Eclipse』っていう映画はどんな映画ですか?」
「その映画はadult featureです」

えっ、adult feature!? なんていうこった!日付を確認してみると7月25日となっており、記憶をたどると確かその日はケンの友達が数人遊びに来ていたはず。ついでに何時に見たのかも聞いてみたら、朝の4時半という答えが返ってきた。誰かがこっそり見たことは明白である。「あんたたち、ポルノ映画を勝手にオーダーして見たでしょ。いったいどういうことなの!?」とケンを問い詰めたところ、ケンは「僕は知らないよ! 朝の4時半なんてもう寝てたよ」とアリバイを提示。ほかに家にいたのはケンの悪友のチャッドとケリー、そしてダン。誰に聞いても「まったく覚えがない」と言う。チャッドは「僕達は知らないよ。ダンに決まってるよ」と言い張り、一方ダンは「僕がそんなことするわけないじゃないか。pervertなのはチャッドだよ!」と主張して、お互いに罪をなすりつけている。

異性に興味津々の年頃だから、そういう映画を見たいという気持ちはわからないでもない。でも私とディックに何も言わずに勝手に$11近くする映画をオーダーし、こっそり見たということが許せない。「誰かが白状するまで友達が家に泊まるのは禁止!」と厳しく注意してみたが、2週間たっても誰も名乗り出なかったので、結局映画がオーダーされた日に家にいた全員にガレージの大掃除をさせて決着を付けた(私は不服だったが、ディックが折れたのだ)。それまでケーブルテレビのアダルト・チャンネルをブロックすることなんて思い付きもしなかったが、それ以来もちろんきっちりブロックしている。

しかし、我が家が契約しているケーブルテレビのパッケージでは、本格的なアダルト・チャンネルはブロックできても、ちょっと怪しげな映画を放送するチャンネルはそのまま見ることができてしまう。だからディックは「アダルト映画を見たかったら、そういうチャンネルで見ればいいじゃないか」とダンとケンに言ったのだが、「え~、ああいう映画はアダルトじゃないよ。見てもつまんないよ」と2人ともまじめな顔で返す始末。

なんだ、ちゃんとチェックしてるんじゃない。私は、今回の騒動はてっきり予想外の行動を取ることで有名なチャッドの仕業と思っていたけれど、息子2人も怪しいものである……。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの14歳。でもウソを付けない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の13歳。最近は女の子に夢中。
チャッド……ケンの親友。注意欠如障害(ADD。attention-deficit disorder)などさまざまな病気の薬を毎日飲んでおり、超ハイパーで何をし出すかわからない。親がかなりの放任主義で、我が家に入り浸り状態。

pay-per-view……ケーブルや衛星放送でレンタル・ビデオのようにお金を払って映画を見ること。我が家では、事前に私達に聞かないとオーダーしてはいけない決まりになっている。
adult feature……アダルト映画、または番組のこと。お金を払えば自宅で見ることができる。「プレイボーイ・チャンネル」などはすぐわかるが、ほかにもいろいろあって、どれがアダルト・チャンネルなのかを把握するのは大変。
pervert……変質者。

第12回 3人目の息子

先月号に登場したケンの親友チャッドは、かなりのweirdoである。ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の診断が下されたのは小学校低学年の時。それ以来、薬とは切っても切れない関係にあり、現在は毎日6種類の錠剤を飲んでいる。にもかかわらず、車から通行人に大声で叫ぶ、学校に花火を持ち込むなど、いつも突拍子もない行動を取って騒ぎを起こすので、薬がちゃんと効いているのかどうかは疑問である。

今年の夏休み、近所のモールにCouch Tourが来た時のこと。チャッドは、口いっぱいにケチャップとマスタードを含んでそれを飲み込む、というスタントをやってのけてTシャツをもらったのに加え、ツアー・スタッフに好きなように髪を剃らせて帽子とビニール人形を手に入れて大喜び。さっそく我が家に報告しに来たのだが、彼の頭を見てびっくり! 5カ所ぐらいめちゃくちゃに剃りを入れられたらしく、ウエーブのかかった金髪があちこちで角のように飛び出している。「そんな髪型じゃあ表を歩けないじゃないの!」と私は悲鳴を上げたのだが、本人は一向に平気で、結局2カ月以上もその髪型をキープしていた。

チャッドは恥ずかしいという感情を持ち合わせていないようで、学校でも突然クラスの全員に「これからおならをします!」と宣伝してみんなの前で派手に一発、ということがよくあるらしい。そんな彼が「次はいつ日本に行くの? 今度行くときは僕も連れて行って」と言ってきた時には、慌ててしまった。なぜなら彼はMTVで人気番組だった「Jackass」の大ファンで、日本に連れて行ったら番組のまねをする可能性が大いにあるからだ。「Jackass」のメンバーが日本で行ったスタントに、変な格好をして警備員の後ろから近付き、いきなり大声を出して驚かせるというものがあった。そんなことを私と一緒にいる時にされたら……。そう考えるだけでも、恥ずかしくて顔から火が出そう。連れて行くなんてとんでもない話だ。

普通だったら自分の子供がチャッドのような問題児と仲良くなったら、あまり良い思いはしないだろう。実際私も最初は彼のことが大嫌いで、「なんであんな子と仲良くするの?」と不満だったが、彼の家庭環境がわかってきたころから少し考えが変わってきた。チャッドの両親は彼の言いなりで、まったく注意をしない。彼がどこに行こうが何をしようが関心がないらしく、チャッドは毎日好きな所に泊まって、好きなことをして暮らしている。そのような環境に育った彼が正しい判断力を欠いているのは当然で、それだったら家に泊めてあれこれ意見した方がいいと思うようになった。その結果、チャッドは我が家に入り浸りで、まるで息子が3人いるみたい。最近ではディックのことを冗談で「Dad」と呼んだりしている。この状態が、いったいいつまで続くのかしら……。(つづく)

注釈
【注釈】ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の13歳。最近は女の子に夢中。
weirdo……変人、奇人。
ADHD……注意欠陥他動性障害。ひとつのことに集中ができない、落ち着きがない、といった症状が見られる。3~5%の子供がこの障害を持つと推定される。
Couch Tour……若者に人気のブランド「Zumiez」が主催する全米規模のスケートボード・ショー。プロ・ボーダーのパフォーマンスのほかに、観客が参加するコンテストで盛り上がる。
Jackass……MTVで3年間放映されたテレビ番組で映画にもなった。数人の若者が次々と自己破壊的スタントを繰り広げる。実際まねをして死者やけが人が出たため、問題となった番組。

第13回 Shopaholic(買い物中毒)

学校が始まり、我が家に入り浸る子供の姿も消えてほっと一息つけるところだが、ダンの成績のことで相変わらずストレスが溜まっている。というのも、ダンは今年10年生用WASLで合格点を取らないと高校を卒業できないことになっているからだ。このテスト制度が導入されたのは数年前だが、卒業条件になるのはダンの学年から。何ともアンラッキーな事態だが、救いは今年落ちても11・12年生で受け直すチャンスがあるということだ。WASL合格率が州からの補助金を左右するので、学校側も相当プレッシャーを感じているらしく、今年から落ちこぼれを対象にした特別クラスを開催。担任はほかの先生達とまめに連絡を取り合い、生徒が宿題をきちんと提出しているか、授業についていっているかを確認するらしい。昨年成績が思わしくなかった14人で構成されており、もちろんダンもそのひとりだ。数学の先生も新学期が始まる前にわざわざ電話をしてくださり、授業の進め方などについて説明してくれた。

周りがこんなに心配して、ダンが何とか高校を無事卒業できるようにがんばっているというのに、当人ときたら

「新しいTシャツ8枚にショーツ3本買ったから、あとほかにいるものはAbercrombieのショーツ2本とドレス・シャツ2枚だけだよ」

などと相変わらずワガママを言っている。ダン曰く、学校ではみんなAbercrombieのショーツ(1本$60~80)しかはいていないそうだが、金持ちの集まる私立ではなく、どちらかと言えば下町の公立高校に通っているのだから、そんなことはありえない。安物のショーツでは恥ずかしくて学校に行けないなどとのたまっているのを聞くと、「男のくせに着るものにうるさすぎ!」と怒鳴りつけたくなる。

私もディックも「新学期用に新しいのは買ってあるんだから」とダンのwhiningを無視していたが、いつの間にか欲しいものを手に入れている。じつは今年の夏休み、ダンはディックのカーステレオ店でほぼ毎日のように仕事を手伝っていたので、やたらとお金を持っているのだ。毎日8時間、installerの下できちんと働き、顧客用トイレの掃除も文句を言わずにやっていた。普段の家での態度からすると考えられないし、そのくらいのやる気を勉強にも向けて欲しいものだが、とにかくそうして稼いだお金を現在湯水のように使っている。お金があれば買い物をせずにはいられないらしく、週に1回は必ずモールに行くし、暇があればe-Bayなどで商品をあさる。何か欲しいとなると、それを手に入れるまでほかのことはまったく目に入らない。これはまさしく買い物中毒の症状ではないか! でもよく考えるとディックもデミーも大の買い物好き。家に届くカタログはほとんどディックあてだし、デミーは消費癖が原因で別れたことがあるし。これじゃあダンが金遣いが荒いのもしょうがないのかしら……(つづく)。

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの15歳。でもウソを付けない正直者でもある。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
WASL……Washington Assessment of Student Learningの略。州政府が実施する基準試験で、現在のところ4・7・10年生でリーディング、ライティング、算数/数学のテストを受けることが義務付けられている。
Abercrombie……正式にはAbercrombie & Fitch。20歳前後の若者に圧倒的な人気を誇るカジュアル・ブランド。ここの下着をショーツやジーンズからはみ出して見せることがステイタス・シンボルになっている。
whining……泣き言。愚痴。installer……ステレオを車に取り付ける人。一般的には何らかの装置を取り付ける人のこと。

第14回 Watch out! Dan is on the road.

ダンが15歳の誕生日を迎えて以来、恐れていたことがついに現実になってしまった。自動車免許の教習が始まるのだ。4歳からquadを乗りこなしているダンは自分の運転技術に自信満々。「学校のdriver’s edは6週間もかかるからウザイよ」と言って、4週間で済むプライベート・クラスに登録した。じつはダンは6年生のころから家の近所の田舎道を運転している。最初私は「法律違反だ!」と目を吊り上げたが、ディック
「いや~僕が7年生の時、母親の車のキーを盗んで運転して事故ったことがあるんだよ。バレたら怒られるからさ、車をドライブウェイに停めておいて、両親には誰かに当て逃げされたと思わせておいたんだ。ダンもそういうことするかもしれないから、今のうちから親の目の届くところで運転させた方が安全だよ」

ちょうどその頃、ティーンが母親の車のキーを夜中に盗んで友達とjoy rideに出掛け、事故を起こして何人か死人が出るという事件があったので、私も納得してしまった。というわけで、最近は我が家のドライブウェイでの車の入れ替えはダンの仕事になっている。

カーステレオ店を経営していることからもわかるように、車が趣味のディックは現在8台を所有しており、入れ替えには時間がかかる。それをこなしているダンが免許を取る前から自信たっぷりなのはしょうがないのかもしれない。

一方、私はアメリカに来るまで普通サイズのセダンかワゴン車しか運転したことがなかったので、ディックが好んで運転するでっかいキャデラックやトラックの運転はあまり得意ではない。車高が上げてあり、タイヤも特大のトラックを運転した時は、まっ平らな雪道だったにもかかわらず見事に路肩にはまり、それ以来家族全員で私のことをDWIならぬDWAと言ってバカにし、ダウンタウンをおろおろしながら運転する私を見て笑っている。くそ~! 東京生まれで東京育ちだから、昔は都心の縦列駐車なんてお手のものだったんだぞ~。自転車やバイクが溢れた都心の道を運転してから、エラそうなことを言って欲しい。ブツブツ……。

そんなことはさておき、ダンは今から「僕が運転するのは黒のキャデラックかSUVのブレーザーだね」などと勝手なことを言っているが、とんでもない! ティーン、しかも男の保険代がいったいいくら掛かると思ってるんだ! 運転する車はしばらくの間1台のみ。最初の車はどうせぶつけてダメにするから、$3,000~$5,000ぐらいのボロっちい中古車(エアバックが付いていることが条件)と決めてある。来週から仮免許(permit)で運転を始めるダン。1カ月後には免許取得の運びとなるが、いったいどんな運転を見せてくれるのだろうか……。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの15歳。でもウソを付けない正直者でもある。
デミー……ダンの母親。以前はトラックの運転手をしていたこともある肝っ玉母さん。
quad……4輪が付いたATV(All Terrain Vehicle。全地形万能車)。エンジンは2輪バイク並みで、オフロード専用。子供も免許なしで運転できる。
driver’s ed……driver’s educationの略で、アメリカでは高校の授業で運転免許を取得することができる。期間が長いが一般の教習所より格安なのが特徴。どちらのクラスでも登録した翌日にテストなしで仮免許を取ることができる。
joy ride……盗んだ車を乗り回すこと。無謀運転。
DWI……Driving While Intoxicatedの略で、「酔っ払い運転」の意味。現在警察が公式に使う言葉はDUI(Driving Under the Influence)で、これはアルコールまたは薬物を飲んだ状態での運転に適応される。
DWA……Driving While Asianの略。アジア人のドライバーは運転が下手だという固定観念から発した蔑視表現。良い言葉ではないが、一般に使われている。

第15回 チャッドの裏切り

ケンは、最近チャッドとは疎遠になり、代わりにマックというこれまた変わった子とツルんでいる。ケンとチャッドが仲違いしたのには理由がある。ある日チャッドが我が家に泊りがけで遊びに来た時、彼がバスルームに鍵をかけて閉じこもり、私のバッグをあさっているのをケンが発見したのだ。ケンは、
「おいっ!何してるんだよ!」
と問い詰めたらしいが、チャッドは、
「コンピューターのバッテリーを探していたんだ」
と、よく訳がわからない言い訳をしたそうだ。ケンはその晩は黙っていたが、翌日の学校帰りにディックに事件を報告。ディックから私に話が伝わってきた。

それを聞いて私は怒る気にもなれなかった。がっかりしたというのが本音である。ここ数年、家族旅行や各種イベントには必ず連れて行き、本当に家族のように接していたのに……。ケンとダンは「裏切り行為だ!」と怒っており、チャッドは我が家に立ち入り禁止になった。

じつは以前ディックのマネー・クリップから$200が消えるということがあった。家に出入りする子供達全員に聞いても誰も白状しなかったので、それ以来、現金は秘密の場所に隠すようにしていた。ティーンの目の届くところに札束を放置しておいた私達の責任だ、と思ったからだ。今になってわかったが、それはチャッドの仕業だったのだ。現金が簡単に手に入らなくなったので、私のバッグに手を出したらしい(チャッドにとって不運だったのは、私は現金を一切持ち歩かないことだ)。

もし我が家の子供達が友達の親からお金を盗んだら、CPSに通報されても子供達を張り倒し、その子の家に引きずって行って親に直接謝らせる。そして厳しいrestrictionを課すだろう。

しかし、チャッドの両親からは何も音沙汰がない。チャッドの母親はケンが突然出入りしなくなったので、「けんかでもしたの?」と事情を尋ねたそうだ。ケンがありのままを伝えると、彼女は「盗むのはよしなさい、って前から言ってはいるんだけどね~」と言ったらしい。それだけ。私達はあきれ返ってしまった。チャッドが正直に白状し、きちんと謝れば、私達にも許す気があった。彼は本音のところではいい子だと信じているからだ。しかし、親がそういう態度だったら、チャッドに謝罪を期待するのは無理だし、彼はこれからも盗みを繰り返すだろう。悲しいことだが、これでどうやらチャッドとはお別れらしい……。(つづく)

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの15歳。でもウソを付けない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の13歳。最近は女の子に夢中。
チャッド……これまでに数回登場しているケンの友人。ADHDを持つ問題児。
CPS……Child Protection Servicesの略。日本で言えば厚生労働省のような役所の一環で、児童虐待(Child Abuse & Neglect)を扱う。子供を虐待から守るために、24時間体制で通報を受け付けている。
restriction……一般には「制限」「拘束」の意味だが、子供に課す罰則の意味でも使う。例えば、携帯を1カ月間取り上げるとか、友達の家に遊びに行くのを禁止するなどで、"He is on restriction."という使い方をする。

最終回 ギャング結成

ある週末、ケンがTシャツ用のステンシル作りに励んでいるので何かと思って覗いてみると、そこには「PINK SLIPTZ」という文字が……。

「ピンクのスリップ? そんな女っぽい言葉をTシャツに書いてもかっこ良くないよ」

と言うと、
「違う、違う! ピンクのスリッパのことだよ。これ、僕とマックで作ったギャングの名前なんだ。かっこいいでしょ!」

という返事。どうやら学校では、ギャングを作ってお互いに張り合うのがはやっているらしい。とは言っても、銃で撃ち合いをするような本格的なgangstaではなく、子供が不良に憧れて遊び半分で結成しているものだ。「ピンクのスリッパ」と日本語で言うと軟弱に聞こえるが、格好は迫力満点。本物のギャングと同じようなgang signやスプレー・ペイントをする時のロゴマークを考案したり、おそろいのバンダナを購入するなど、なかなか気合が入っている。’80年代のニューヨークを舞台にギャングの抗争を描いた映画「Warriors」を見て以来、夢中になっているのだ。

コミュニティー・センターの人気のない駐車場に近隣のギャングが結集してけんかをする、という噂を聞き付け、ケンが電話してきたのは冬休みが始まって間もなくのこと。不良生活についてはベテランのディックは「どうせ誰も来ないよ。時間の無駄」とアドバイス。その時は「じゃあ行くのをやめるよ」と引き下がったが、誘惑に抵抗しきれず約束の場所に行ったらしい。

St.Vincentでバットを買って準備ばっちりだったのに、誰も来なかったんだよ!」

と、ケンはかなりがっかりしていた。バット!? 本当に誰かが現れたら、いったいどうするつもりだったんだ? まさかバットで殴るつもりじゃなかったでしょうね?と私はいきり立ったが、よく考えると中高生が小さなグループを作って見栄を張り、挑発し合うのは日本でもよくあること。実害はあまりないと考えて今のところは黙認している。

しかし、たとえ遊び半分とは言っても、ギャング活動は学校で全面禁止になっている。先生にバレたら停学ものである。だから学校から手紙が届いた時は「バレたか!?」とドキッとしたが、開けてビックリ。なんとケンが「Student of the month」に選ばれたというのだ。放課後に表彰式があるというので半信半疑で行って見ると、本当にケンが賞状をもらっているではないか! しかも先生から「頼りがいがある。成熟している。人の手助けをよくする」などの褒め言葉をいただいた。学校からの連絡はいつも悪いことばかりだったので、夢のようである。「こんなことはこれが最初で最後かも」と思ったディックと私は、大げさにも賞状を額縁に入れて飾っている。

一方ダンは約1カ月前にXbox 360が発売されて以来、vegetableと化している。これで成績は急降下か?と思ったが、意外にも先学期はすべての科目をクリア(どの科目もギリギリだったが)。運転の方もかなり落ち着きが出てきており、今ではトレーラー付きの車や、雪の降る峠越えをこなしている。ダンもケンも最近は大きな問題を起こしていないので、少しは成長したのかもしれない。

さて、このエッセイは今回で終わりになるけれど、ダン&ケンを取り巻くドタバタ生活についてはまだまだ書きたいことがいっぱい! だからこれらはブログ(※)を活用しようと思います。短い間でしたが、ご愛読いただきありがとうございました。ステップ・ファミリーを持つ皆様、これからもがんばりましょうね!

注釈
ディック……私の主人で50歳。某カーステレオ・ショップのオーナー。
ダン……生意気盛りの15歳。でもウソを付けない正直者でもある。
ケン……イタリア系の母親の血を引くイケメン顔の14歳。最近は女の子に夢中。
gangsta……gangsterの短縮でギャングスタと発音する。ギャングスターはマフィアなどの大型犯罪組織のメンバーという意味合いがあるが、ギャングスタは一般に犯罪多発地域で小規模のグループに属し、麻薬取引・暴力犯罪を行う若者を指す。
gang sign……ストリート・ギャングがお互い言葉を発さずに仲間かどうか確かめたり、違うグループの人間を挑発したりするのに使うハンド・サイン。
St. Vincent……正式にはSt. Vincent de Paul Thrift Store。サルベーション・アーミーやグッド・ウィルのような慈善中古品特売店。
Xbox 360……マイクロソフト社の最新型ゲーム機。Xbox Liveを使うと誰とでもオンライン上でゲームができるので、マイクを通して相手とボソボソしゃべったり、突然叫び出したりして気味が悪い。
vegetable……植物人間、無気力人間。

ジョーンズ・ノリコ
東京・世田谷生まれ。都内某有名女子高→青山学院大学→ワシントン大学院と進んだお嬢様で、現在はバイオテクノロジーの会社のサイエンティスト。2000年に15歳年上のアメリカ人(2人の子持ち)と結婚。期せずしてティーン・エイジャーのステップママになり、毎日奮闘。趣味は読書だが、今となっては叶わぬ夢となっている。