シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ シンプルなバッグをセミオーダーできる「みつばちトート」を主宰する束松さん。ポートランド移住を機に、教育に興味が出てきたという束松さんに、お話を伺いました。(2020年2月)
山形県出身。大学で建築を学ぶ。2000年からバッグのデザインと販売を始め、2001年、職人による手作りバッグをセミオーダーで購入できるみつばちトートを創業。みつばちトートでは主にデザインや販売などを手掛ける。共著に『こぎん刺しの本―津軽の民芸刺繍』(文化出版局)がある。2018年よりポートランド在住。Web: mitsubachi-tote.com
2000年頃、私は東京のプロバイダー会社で働いていました。通勤途中にあった、職人のおじいさんが働いている縫製工房がずっと気になっていて、ある時「バッグは作れますか?」と訪ねてみたんです。「まとまった数の注文があれば作る」と言われたので、自分でバッグのデザインを考え、友人に声をかけて注文をとりまとめ、職人さんに作ってもらったのがみつばちトートの始まりです。
当時はオンラインショップに関する部署にいて、私自身がショッピングカートの検証を兼ねて自社のシステムでバッグを販売するとこれがヒット。約1年後には会社を辞めて独立しました。雑誌やテレビでも紹介していただき、06年には路面店も開店。でも、路面店は2年で畳みました。私が本当に好きなことは、店の経営より、アイデアを外に出したり、職人さんたちと一緒にモノを作ったりすることだと気付いたのです。次は何をしよう?と考えた時、徐々に海外のお客様が増えていたこともあって、海外に出てみたくなりました。
私は顧客の多いアジアでの移住を考えていたのですが、夫から新しいイノベーションやサービスの生まれる国、アメリカはどう?という提案がありました。そのうち日本にポートランドブームがきたことを機に、1カ月間お試しで住んでみたら、これが楽しくて。すっかりこの街に魅せられ、移住を決意しました。
– デモクラティック・スクールとの出会い
移住の理由にはもう1つ、娘のことがあります。娘はディスレクシア(文字の読み書きが困難な障がい)で、日本よりもアメリカの方が、彼女の学習環境の幅が広がると思ったのです。娘はデモクラティック・スクールに通うことになりました。デモクラティック・スクールは、学年や、規定の履修カリキュラムがなく、子どもたちは各自、自分のやりたい活動、学習、遊びに取り組みます。話し合いをもとに子どもの自由を尊重した民主主義教育です。
この学校との出会いは転機になりました。娘に「学校にいてほしい」と言われて、1日中、学校にいた時期があり、そこでデモクラティック・スクールの素晴らしさに開眼してしまったのです。
ここでは、生徒の興味を大切にし、興味が出た時に、学校はすかさず、さらに興味のあるものを提示することで生徒は学びを継続していきます。自発的に学ぶ力を身に付けることは生涯学び続ける力になるし、ひいては自分の人生や幸せを自らでつかみ取れる力になります。この教育についてもっと深く学びたくなったのです。
– 日本で新たな勉強グループを立ち上げ
実は、家庭の都合で帰国することが決まりました。ですので、日本でデモクラティック・スクールの勉強会を立ち上げようと考えています。娘の学校を通じて、今の日本の教育では、選択肢が足りないのでは?と思うようになったからです。娘の学校からも賛同を得て、協力してもらう予定で、私自身も勉強しながらグループを立ち上げるつもりです。
私の経験が、不登校や生きづらさに悩む日本の親御さんや子どもたちの助けになればいいなと思っています。将来は、この勉強会を通じて、ポートランドと日本を行き来したいと考えています。
▲ 「移住はバックから余計なものを削ぎ落としてくれた」と束松さん。シンプルなバックに街や自然から影響を受けた組み合わせの色が映えます。
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