シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ ポートランドのイーストサイドで2014年4月から始まった会員制絵本図書館「くじら文庫」が、密かに話題です。同図書館創設者の沙織さんに、「転機だらけ」という半生をうかがいました。(2015年3月)
仙台市生まれ。2006年、カリフォルニア大学デービス校卒業。JICA青年海外協力隊員として有機農業普及のためジンバブエとウガンダに赴任。宮崎県の農家カフェ「天空カフェ・ジール」勤務を経て、10年ポートランドに移住。現在は会員制絵本図書館「くじら文庫」運営、給食のおばさん、主婦と三足のわらじを履く。「くじら文庫」の詳細は
kujirabunkopdx.blogspot.com
私の人生は転機だらけです。まず、最初の大きな転機は、高校3年の冬。突然、母から「アメリカ人の男性と再婚するから一緒にアメリカに移住してほしい」と言われたんです。私は母一人、娘一人で育っているので、選択の余地はありませんでした。
日本の大学受験の準備もしていたけれど、結局、母と新しい父と共にニューメキシコ州のサンタフェに移住しました。英語もアメリカの大学の入り方もわからなかったんですが、語学学校に通いながら出願し、なんとかカリフォルニア大学デービス校から入学許可が下りました。
この大学で興味ある分野に出会えたことが、私にとって二度目の転機です。もともと「世界中の貧富の差ってなぜあるのかな」「国の違いって何だろう」という疑問から、国際的な世の中の仕組みを知りたいと思っていました。それで、大学では国際関係を専攻したのですが、授業が一般的すぎて面白くなかったんです。ただ、この大学は農学や獣医学が盛んで、友人たちの影響を大きく受けました。結局、「国際農業開発学」に転向し、そのうち農業そのものにのめり込んでいきました。
– 就職しなければという既成概念からの解放
卒業が近づき、ボストンのキャリアフェアにも参加したのですが、あんなに多くの大企業があるのに行きたい会社がなくて…。それで、JICAの青年海外協力隊に応募しました。三度目の転機です。まずは、大分県の有機農家で研修。そして、ジンバブエに派遣され、パーマ・カルチャー(持続可能な環境デザインを導入した農業)センターで農園マネージャーをしました。さらに、ウガンダで有機栽培の実演や、現地の女性グループと日本野菜の販売をしました。
それらの体験から、日本で持続可能な生活を意識した農業をしたいと思うようになりました。そこで、WWOOF(世界に広がる有機農場での機会)という機関を通して、宮崎にある農家「天空カフェ・ジール」に出会ったんです。オーナーが本当にすてきな人で、本格的に日本に移住し働くことにしました。四度目の大きな転機でしたね。
– 出産して、見えなかった 世界が見えるように
しかし、まもなく五度目の転機が訪れました。サンタフェ時代から10年以上遠距離恋愛をしていた彼との子どもを妊娠したのです。話し合いの末、彼のいるポートランドに私が移住して、子どもを産むことに決めました。
出産で世界が変わりました。これまでも私の周りには多くの子どもがいたのに、印象に残っていなかったんです。それが出産後は、街中の子どもたちや困っているお母さんが目につくように。「世の中には全然見えてなかったものがある」と感じました。
絵本図書館「くじら文庫」を思いついたのは、息子に日本語の本をたくさん読んであげたかったから。日本語の本が手に入りにくいイーストサイドで、私の子どもだけでなく皆の子どものために図書館があったらいいなと思い、本の寄贈を募りました。私はこれまで多くの人に助けられてきたので、今度は自分が誰かの役に立ちたいという気持ちで運営活動を続けています。
最近、暇なくずっと動いています。でも充実していて、毎日「今日も一日生き切った」という満足感があるのです。
▲ ジンバブエで同僚と。農業に関わりながら、多くのことが機能しない崩壊寸前の国を体感
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