シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ シアトルでミュージシャンとして活躍する武川美保さん。打楽器奏者、教育者、日米国際交流のボランティア、本の執筆など、さまざまな顔を持つ美保さんに、転機をうかがいました。(2018年7月)
東京都出身。国立音楽大学卒業。ワシントン大学で博士号取得。現在は、演奏家として、Miho & Diego Duo、オーケストラ、オペラ、室内楽などさまざまな分野で活動するほか、タコマのパシフィックルテラン大学の打楽器講師や個人の音楽講師を務める。また、音楽を通じた日米国際交流にも尽力している(Web: mihodiego.com/tymusicexchange.com)。
中学の入学式で吹奏楽部の女生徒がドラムを叩いているのを見て憧れ、打楽器を始めました。高校から音楽高校で、そのまま音大へ進学し、打楽器と音楽教育を専攻。日本では先生に恵まれ、海外留学経験のある先生方の話を聞いては「私も海外に活路があるかもしれない」と思っていました。そして、卒業後は、民族音楽のアーカイブに定評のあるワシントン大学(UW)大学院に進学したのです。
– マイノリティーとして自分にできることとは
渡米後、こちらの生活や社会は自分に合っていると思いました。ここで自分らしさを探し始めたことは、数ある転機の一つかもしれません。
移民で、アジア人で、女性で、打楽器を演奏する、私のような人はこの業界にほぼおらず、全部自分で道を作ってきました。打楽器は男の人の世界で、私は全てにおいてマイノリティー。演奏は楽しいけど、大変なことも多いんです。でも、音楽は責任感と実力さえあれば、最終的に人種も国も関係ないと思います。
ミュージシャンの仕事は全て口コミで、次につながる演奏を続けなければなりません。ユニークな音楽を続け、クリエイティブさも保たねばいけないわけです。シアトルの音楽業界は独特なネットワークがあり、その輪に入るには何年もかかりましたし、私を信じてもらうのにも何年もかかりました。このネットワークに入ったと自分で思えた瞬間と、周りから入ったと思われた瞬間もたぶん違うでしょう。全ては失敗から学んできました。あとは成功者や先輩方に話を聞いて自分で考えること。それは今でも基本です。
UWの修了後は、UWで打楽器のティーチングアシスタントを経て、2007年から今の大学で教えています。UW在籍中に周りから音楽に関するさまざまなことで「これって日本ではどうなの?」などと聞かれることが多く、アメリカの教育の場で、私にできることがあるのかもと思うようになったんです。女性で移民の打楽器奏者が教えることで、「私もできるかも」と思える学生が1人でもいればいいなと思っています。
また、04年のUWと日本の吹奏楽との交流に端を発し、今では日米の高校や大学の国際交流のプランニングや通訳、演奏のボランティアをしています。準備は大変ですが、生徒たちが音楽を通じて成長できた経験を糧に、その後も辛いことを乗り越えていく姿を見るのは楽しいです。
– 演奏、教育、もっと積極的な活動を
これだけいろいろな活動をしても、大学ではまだまだ積極的でないと言われることもあります。既に英語の出版物も2冊ありますが、もっと自分の研究と活動を深めないといけません。なので、年内に音楽教育に関する本を出すことが目標です。また、それに加え、アメリカで移民の女の子が自分自身に誇りを持って生きていくことを応援するために、演奏やストーリーテリングを行うグループを作っているところです。
音楽にはこれだけやっておけばOKという枠がありません。ずっと演奏を聞きに来てくれている人に「この前と同じだった」と言われないよう、これからも、さらにクリエイティビティーとインスピレーションを高め、常に自分自身を向上させていかなければと思っています。
▲ 今夏は、ピアス郡の図書館で“Musical Trip Around the World”と題した無料コンサート(全9回)を予定。来年は日本ツアーもあります。
コメントを書く