シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ ピアニスト、ピアノ教育者としてポートランドで活動するグリーニー葉子さん。昨年よりトラックでどこへでも運べるステージSoundsTruckを始め、ポートランドのみならず、米国内外で注目されています。そんな葉子さんに転機を伺いました。(2024年7月)
大阪府出身。Peabody Conservatory of The Johns Hopkins University修了。2010年よりポートランド在住。Oregon SymphonyやOregon Ballet Theatreなどでピアニストとして活躍するほか、ピアノ・インストラクターとしてLewis & Clark Collegeなどで後進の指導に当たる。2022年にはSoundsTruck NWを夫と創設し、代表を務める。好きな食べ物はごはん。
https://www.instagram.com/soundstruck.nw/
– いつ、ピアノを始めたのですか?
音楽好きな父の勧めで3歳頃からピアノを続けてきました。もともと化学が好きで、薬剤師になりたかったんですが、高3でやっぱり音楽の道に進もうと決断。ところが、音大に入学すると「なんか違う」「これがやりたくて薬剤師を諦めたんだっけ?」と大学に違和感を感じるようになってしまって…。知り合いからアメリカの話を聞いて私も行ってみたいと思うようになり、大学を中退し、アメリカの大学、そして音楽院に進みました。
– アメリカはいかがでしたか?
日本では先生に言われた通りに弾いていたのですが、ここでは自分の弾き方を持っていないといけなくて、先生の求めるものも全く違いました。「なぜこういう風に弾いたの?」「何を思って弾いたの?」と聞かれることが多く、最初は戸惑うこともありましたが、楽しかったです。
– ポートランドに来たきっかけは?
音楽院で今の夫と知り合い、卒業後に結婚。私はプロの奏者や講師として活動し、打楽器奏者の夫はオーケストラのオーディションを受け続けました。夫はメキシコのオーケストラに所属した時期もありましたが、欧米のオーケストラにも挑戦し続け、でも、なかなか受かりませんでした。そこで、夫はクリーブランドの厳しいプログラムで再び学ぶことに。その頃はもう子どもが生まれていて、夫は学生だったので、私は家族のため、ずっとピアノを教えていました。多い時で1週間に65人教えたことも。そして2010年、30数回目のオーディションでついに夫のオレゴンシンフォニーへの入団が決まり、家族で引っ越してきました。
– ポートランドに来てからの葉子さんの活動は?
ピアノを教えるうちに、奏者として声がかかるようになり、オレゴンシンフォニーやオレゴンバレエで弾いたり、ポートランドのさまざまな室内楽のグループに参加させてもらったりすることが増えてきました。
– 移動式ステージSoundsTruckを始めたきっかけを教えてください。
パンデミックでコンサートの仕事が全てなくなり、「それなら私たちが届けに行けばいい」と音響設備、照明、スクリーンなどコンサートに必要な物を全部載せて移動できるステージを思い付きました。しかし、コロナ禍は世界中でトラック不足。資材の入手は困難を極め、トラックの改装会社に問い合わせても「言っている意味が分からない」などと言われてしまい、一度は諦めかけたんです。そこで、コンテナを住居に転用するタイニーハウスを活用したらどうかと、いろんな会社に問い合わせました。するとポートランドの会社がこのアイデアに共感してくれたんです。やっと一緒にやろうと言ってくれる人が現れたのがうれしくて、すぐに工事の書類にサインをしました。
– SoundsTruckはどんなトラックですか?
車で牽引ができ、コンテナを開けるとステージになります。屋根に搭載した太陽光発電を音響や照明などに使用することで環境にも配慮。これにより、どこにでも、誰にでも音楽を届けるミッション実現に近付きました。普通、野外での演奏は環境に左右されるため難しいのですが、地元の音響デザインの専門家とスピーカーオタクの夫のこだわりで、上質なサウンドシステムを搭載しています。演奏者同士の音も聞きやすく、3ブロック先まで自然な音が届きます。あまりに高い音響の見積りが来たときはキャンセルしたかったというのも、今では笑い話です。
– 活動を始めてみていかがですか?
昨夏はポートランド市の公園をはじめ、日本庭園、NPOなどとのコラボにより30回ほどイベントを開催。地元の団体やアーティストと一緒に場を作ることを大切に、80名以上のアーティストと演奏し、3000人以上の方々にご参加いただきました。中には子連れの家族、入院中の子どもたちなど普段はコンサートになかなか来れない方々も。コロナ禍に音楽家として何かないかと始めた一歩を通じ「さまざまなジャンルの音楽を、誰にでも、どこにでも平等に届け、コミュニティーとつながる」これがやりたかったことなんだと気が付きました。SoundsTruckが私の転機なのかもしれません。また、この活動が評価され、South by Southwest(SXSW)という音楽や映画とテクノロジーを融合させた世界的なイベントのUrban Design部門で、世界の大企業に混じりファイナリストに選ばれました。
– 今後の予定は?
SXSWを機に活動の幅が広がっています。公園での演奏はもちろん、ワイナリーでのイベントなども行なう予定です。ぜひステージを観に、そして音楽に触れに遊びにきてください。お子様も大歓迎です。最新情報はウェブサイトやInstagramでチェックしてください。
▲この夏も、SoundsTruckはポートランド各地でコンサートを予定。スケジュールは、随時、ウェブサイトにアップされます。来年はワシントン州でも演奏される予定です。