シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ あるときは革職人で藍染職人、そしてデザイナーでイベントのオーガナイザー、さらに呼吸法の先生など、さまざまな顔を持つポートランドの長谷川真弓さんに、これまでの転機を伺いました。(2021年9月)
東京都出身。工学院大学建築学科在学中に革ブランドのMayumi Hasegawaを立ち上げる。14年に株式会社万化を設立し、日本の物作りを伝えるブランドACAMALを開始。19年にポートランドに移住。現在は藍染めをしながら、石鹸作り、クラフトイベントZeroの運営、呼吸法教室など、幅広く活動中。好きな食べ物は餃子。(linktr.ee/mayumi_to_helio)
職人や自営業の親戚に囲まれて育ち、特に何でも手作りする祖母には影響を受けました。大学は建築を専攻。しかし、建築は法律などが厳しく、憧れの安藤忠雄さんですら「規制で自分の思うような建物を作れない」と仰るので、自分一人で自由に作れる物は何かと考えるようになりました。また、当時は歌を歌っていて、衣装を手作りしていたので、革でベルトも作っていました。周囲からベルトを褒められ、表参道の路上で売ってみることに。でも、あまり売れなかったので、同じ通りにあるセレクトショップに持ち込むと売れたのです。やがて、革ブランドMayumiHasegawa は、表参道に直営店を構え、雑誌やテレビで取り上げられ、有名人の顧客も抱えるほどに成長しました。
次々と来る「今度はこんな物が欲しい」という注文。私が作りたくなくても、従業員が増えれば仕事を断れません。無理がたたって体を壊し、設立から約10年で、私のブランドから私が去ることになってしまいました。
– 日本を巡り知った職人技の素晴らしさ
2、3年ほど働けず、その間に、恩師から呼吸法を教えてもらい、体調を取り戻しながら、物作りを学び直すため、日本中の伝統工芸の職人を訪ねました。そして漆と藍染めに興味を持ち、学ぶうちに、革を染めようと思い付いたんです。同時に、日本の職人の技術は素晴らしいのに、時代にデザインが合わないとか、マーケティングが下手で、売れない物も多く、残念に感じていました。
やがて、自分で作った漆のケースや革財布が売れてきたので、新会社を立ち上げ、職人とお客様に感謝するイベント「感謝祭」と、新ブランド「ACAMAL」を始動。本当に良い物を追求し、歴史やストーリーと共に見せることで、顧客が増えていきました。
– 五感で心地よさを感じる場を作りたい
一方、私生活ではアメリカ人と結婚し、19年にポートランドに引っ越しました。これも転機です。日米を往来しながら仕事をするつもりでしたがパンデミックが起きて、簡単に日本に帰れず、リアルの展示会もできません。これを機に高齢の職人たちとオンラインで仕事ができるように体制を整えました。まずは職人にスマホを買ってもらうところからです(笑)。オンライン展示会の評判も良く、私がここで染めた革を日本に送り、職人が商品を作り、オンライン展示会で売るという流れが整いました。
さらに、この夏からは、ポートランドのクリエイターが集まる物作りイベント「Zero」を始めています。物を売る場というより、作り手のストーリーを伝え、来場者が体験できる場にしたいです。
自分で育てた藍で藍染めをしたり、庭で野菜を作ったり、師匠の後を継いで呼吸法を教えたり、コールドプレスの石鹸を作ったりして暮らすうちに、人間にとって五感で感じる気持ち良さや、自然の中で暮らすことが、いかに大切かと改めて気付きました。私がやっていることは、全て自分の手から五感に心地良さを訴えるものばかりです。
いずれは、川や湖の近くなど、大自然に人が集まり、楽しく、五感が研ぎ澄まされる体験ができる場を作りたいですね。スケールの大きい話なので、歳を取る前に始めなきゃと思っています。
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