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【私の転機】アーティスト 米澤 威さん

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シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー

1枚の革から、さまざまな技術を駆使して立体的な彫刻を作り上げるポートランドの米澤威さん。日本ではギタリストだったという米澤さんに、これまでの転機を伺いました。(2021年11月)

米澤 威さん
米澤 威(よねざわ・たけし)

千葉県出身。専門学校卒業後、ミュージシャンとして活動する傍ら、革について学ぶ。2014年、ポートランドに移住し、Yonezawa Leatherを立ち上げる。16年と17年にWorld Leather Debutで優勝。22年5月、ワイオミング州のThe Brinton Museumで展覧会に出品予定。好きな食べ物は母の作るオムライス。(http://www.yonezawaleather.com

板金塗装工で、野球の練習ネットもすぐに作ってくれるほど器用な父と、絵が得意で、人気アニメの絵を描いて塗り絵を作ってくれる母。そんな家で育ち、自分で何かを作ることは身近なことでしたね。20歳頃、新しい財布が欲しかったけど、良いものがなく、それなら自分で挑戦しようと革細工を始めました。

20代はミュージシャンを目指し、音楽系専門学校を卒業後も、バンドやソロで活動しつつ、革製品作りも続けていました。音楽では自分の知識の浅さや技術の無さに悔しい思いをすることも多く、せめて革は自分のものにしようと、夜間学校でカバン作りを学びました。ギターストラップも手がけて、カルロス・サンタナのために作ったこともあるんですよ。

ある時、僕の個展に見知らぬ男性が来ました。話を聞くと、爬虫類の革でカバンを作る職人で、間もなく引退すると言うのです。頼んで弟子にしてもらいました。師匠から得たことは今の土台です。

その頃、付き合っていた彼女がオレゴンで就職することになりました。革の作品で賞を取り、仕事の依頼も来るようになったので、音楽は辞め、革を仕事にすると決断。結婚し、引退する師匠から譲り受けた道具一式を持って、ポートランドに移住しました。

– 日本の技術を使い、アメリカで表現
もともとネイティブアメリカンの文化が好きだったし、ギターを持ってNYを旅したり、テキサスでウエスタンサドル(馬の鞍)の作り方を勉強してコンテストで入賞したりと、アメリカには興味があったんです。レザーカービングの仕事をしながら、自分のブランドを立ち上げ、ポートランドのテイラーではカバンなどのカスタムオーダーを受けるようになりました。

同時に、ここに来てから取り組んでいるのが革の彫刻です。羽一本一本を革で忠実に再現したインディアンのヘッドドレスは2016年のワールド・レザーデビュー(革の世界大会)で優勝。17年は松の盆栽を作り、こちらも同じコンペで優勝しました。自然の造形物を観察し、革に落とし込むのが楽しいんですよ。

アメリカで感じるのは、日本では高い技術、アメリカでは独創性が評価されるということ。自分らしさや、何をどう表現するかは、アメリカに来てから、一層深く考えるようになりました。でも、今、自分のアイデアや見たものを実際に革で作れるのは、日本で長年受け継がれてきた技術を習得できたからこそです。そういう意味では師匠との出会いと、移住の二つは転機だったと思います。

– 伝えたい革の魅力と可能性
革は平面にも立体にもなり、色も固さも変えられ、これほど魅力的な素材は他にないのに、アートに革を使う人はあまりいません。僕の作品で、革の魅力や面白さ、芸術表現の素材としての可能性が伝わるといいですね。来年はワイオミングの美術館で展覧会がある他、詳細は未定ですが美術系の大学で講義をする話も出ています。

日本では音楽を、ポートランドでは革で作品を作っていて、形は違っても自分の思いを形にして届けるという根っこは変わっていないかもしれません。見た人を「えっ!これが革なの?」と驚かし、感情を揺さぶるような作品をこれからも作りたいです。

米澤 威さん
▲高さ47センチの革で作った盆栽。革を貼り合わせたり、削ったり、彫ったりして、木の幹や松の葉一本一本に到るまでを再現しています。
 
*情報は2021年11月現在のものです

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