シアトルやポートランドで活躍する方々に人生の転機についてインタビュー
■ 12月、ポートランドにオープンするフードホールCollective Oregon Eateries。この建物のデザインを手がけたのが建築家の阿部さんです。同氏に、これまでの転機を伺いました。(2020年12月)
東京都出身。California Polytechnic University San Luis Obispo卒。サンフランシスコの建築事務所勤務を経て、ロンドンのArchitecture Association School of Architectureで修士号を取得。2013年ポートランドに移住し、14年、Abe Designを設立。商業物件から住宅リモデルまで幅広く手がける。好きな食べ物はいくら。(abedesigngroup.com)
私の転機は、何人かの建築家との出会いです。まずは建築家の叔父。子どもの頃、よく叔父の家に遊びに行っていたことから建築の仕事に興味を持ちました。当時、一緒にお絵描きや工作をしていた従兄弟も今は建築家です。
高1の夏休み、ロンドンで短期留学をしたことを機に海外に目が向くようになりました。高3でカリフォルニアの高校に交換留学へ。その後、サンディエゴのコミュニティーカレッジを経て建築学科が有名なカリフォルニア州立工科大学サンルイオビスポ校に編入しました。
在学中、イタリアのフィレンツェにある大学で学ぶ機会も得ました。世界遺産に指定された歴史地区に住み、長い歴史の中から新しいものが生まれてくる力を感じました。フィレンツェでは建物を簡単に壊せないルールがあるのですが、その隙間を使った面白いモダン建築があるんです。
また、バルセロナにいるガウディの影響を受けた若い建築家の元でインターンもしました。クネクネした形の家など、新しい発想を形にする仕事は刺激的で、彼も私に影響を与えた建築家の一人です。
そして、この頃、ヨーロッパ全土を旅したことは、今でも大きな糧になっています。
– サンフランシスコ、ロンドン、パリからポートランドへ
大学卒業後は、サンフランシスコの建築事務所に就職しました。そこで出会ったのが当時70歳近い建築家の上司です。彼自身がリタイア後に住むナパバレーのワイナリーを見下ろす家の建築を手伝いました。彼と共に働き、この年齢でもまだ建築に対して、これだけの興味と情熱を持てるのかと驚き、また、自分もそうありたいと感銘を受けました。環境にも配慮した家で、建物からも彼からも多くを得ました。
この会社で約4年働き、今度は環境建築について学ぶため、ロンドンの大学院に入学。建築におけるサステイナビリティーや環境への配慮についてはアメリカよりヨーロッパの方が先進的です。これからは建築でも、より持続可能性が求められると思い、1年間学ぶことにしたのです。それと前後して、大学時代から交際していたアメリカ人の婚約者がフランスの大学院に進むことになり、修了後は彼女を追ってパリ近郊へ。フランスに長く住むつもりでいたのですが、言葉やビザの壁があって上手くいかず…。2人でサンフランシスコに戻り、結婚を機に彼女の故郷、ポートランドに住むことにしました。
– 日本人建築家として、この地で貢献を
地元の建築事務所でしばらく働いた後、家庭を持ったこともあり、ここに根を下ろそうと独立を決意しました。ポートランドには素晴らしい日系コミュニティーがあり、独立した方が日本人としてこの地で貢献しやすいと思ったのも理由の一つです。
独立後は、サッカークラブチーム(Capital FC Timbers) のマスタープランのような大きなものから、一戸建てのデザイン、家具作りのような小さなものまで行っています。12月には私のデザインしたフードホールがオープンするので楽しみです。また、日本風のお風呂やリモデルも手がけています。ポートランドにはあまり日本人の建築家がいませんから、建築を通して日本文化とノースウエスト・カルチャーの橋渡しができたらいいなと考えています。
▲ 2020年12月、SE ポートランドにオープン予定のCollective Oregon Eateriesの前にて。飲食店やフードカートが25件以上入る大きな施設です。
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