ワシントン州北西、シアトルからも近いオリンピック半島は、温帯雨林、山岳氷河、温泉、独自の動物や植物などユニークな自然の宝庫です。半島の大半を占める世界遺産のオリンピック国立公園を中心に、この半島の魅力をたっぷりご紹介します。
※ライトハウス2020年5月号特集記事「ノースウエストの世界遺産 オリンピック国立公園~神秘の森と海めぐり」より(情報は2023年に更新)
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オリンピック国立公園の基本情報
園内で最も人気のあるエリア、ホー・レインフォレスト
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
標高7980フィート、ギリシャ語で“神々の住む山”を意味するオリンポス山。この山を中心とした山間部と、太平洋沿岸の海岸部、2つのエリアを合わせて約100万エーカーの広さを誇るオリンピック国立公園は、ユネスコの世界遺産と国際生物圏保護区に指定されています。
何万年も氷に覆われていたオリンピック半島は、約1万5000年前に氷期が終わり、主だった氷がなくなることで現在のような地形ができました。いまだ残る山岳氷河、豊富な降雨量、アメリカ最大の温帯雨林、約70マイルにわたる原始の姿のままの海岸線、この地だけに生息する動植物が20種類以上と、多様で複雑な自然環境が特徴です。公園内の95%は人間の手が入っていない、ありのままの自然。地球の歴史、自然の驚異を感じられる唯一無二の場所、それがオリンピック国立公園なのです。
それではノースウエスト在住の日本人たちに、この地の楽しみ方や回り方を、案内してもらいましょう。
基本情報
オリンピック国立公園
所在地:ワシントン州北西部、オリンピック半島
ウェブ:
www.nps.gov/olym
www.olympicnationalparks.com
https://olympicpeninsula.org
開園期間:年間を通して開園
入園料:$30(車1台7日間)、$55(オリンピック国立公園年間パス)
行き方:シアトルからは州フェリーでベインブリッジ島へ渡り、305号線、3号線、104号線を通過して101号線へ。そこから北上し、公園の玄関口となるポートアンジェルスへ。シアトルからはフェリーと車で約2時間半。またシアトル北のエドモンズから州フェリーでキングストンへ渡り、104号線を通過して101号線へ。
気温
冬:平均最低気温・華氏35度、平均最高気温・華氏46度
夏:平均最低気温・華氏51度、平均最高気温・華氏69度
ベストシーズン&持ち物
雨の少ない6~9月がキャンプやハイキングのベストシーズンです。冬季は閉鎖になるトレイルもあります。夏でも雨は降るので、1年を通じてレインウエアや雨よけのタープなど雨の装備は必須です。夏も夜は冷えるので寝袋やテントは3シーズン用が良いでしょう。
公園全体の地図
半島の中でオリンピック国立公園は緑色の部分です。地図上、園外の多くの場所は、National Forest、Indian Reservation、State Parkなど、何らかの形で保護されています。
オリンピック国立公園の見どころ
オリンピック国立公園の外せない見どころと、そこを拠点とした楽しみ方を案内します。
<ナビゲーター:小杉晶子さん>
ハリケーンリッジ
Hurricane Ridge|地図:①
山岳氷河の名所で、野生動物の遭遇率が高いハリケーンリッジ。オリンピック半島最大の街ポートアンジェルスからビジターセンターまでは約17マイル。キャンプをせず、街の宿泊施設から車で気軽に大自然にアクセスできます。全長0.5マイルのMeadow Loopは高山植物のお花畑の中を歩くことができ、またビジターセンター近くのSunrise Point(標高5450フィート)は絶景で有名です。5月でもまだ雪が残るので、トレイルを歩くのは6~9月がおすすめ。地名の由来にもなっている突風は、時に時速75マイル以上にもなるので気を付けましょう。
※2023年5月に発生したロッジでの火災の影響により、同年夏時点でハリケーンリッジ・エリアへ入場できる車両台数が制限されています。詳細はこちら。毎日の利用状況についてはX(ツイッター)の投稿を確認してください。
ハリケーンリッジから険しい尾根の続くオリンピック山脈を望む。山頂には氷河が残っています。
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
マーモット、シカ、エルク、ボブキャットなど、野生動物との遭遇率が高い場所です。
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
レイク・クレッセント/ソルダック・ホットスプリングス
Lake Crescent / Sol Duc Hot Springs|地図:②
大自然の中でひたすらボーッとしたいなら、レイク・クレッセントへ。氷河が削られてできた青々とした湖は、624フィートもの深さがあります。ここから山頂へ21マイルほど車を走らせれば、ソルダック・ホットスプリングスに到着。日帰りで入浴も可能です。どちらも車で簡単に行ける上、ロッジとキャンプサイトがあるので、ハイキングと組み合わせて1、2泊するといいでしょう。
約7000年前の地滑りによって、現在の形になりました。この湖だけに生息する魚もいます。
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
見た目はプールのような温泉ですが、お湯はとろみがあり、辺りは硫黄の匂いがします。
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
ホー・レインフォレスト
Hoh Rain Forest|地図:③
ホー・レインフォレストは、年間平均降雨量が約140インチと、東京の約2倍も雨の降る温帯雨林で、オリンピック国立公園を代表するスポットです。見どころはビッグリーフメイプルの木立と、それら木々、さらに地面まで全て覆い尽くすように共生している苔やシダ。トレイルが複数あり、中でもビジターセンターの近くにある2つのループ・トレイルは子どもや年配の方でも歩きやすい道です。
おすすめはここを拠点にした2泊のキャンプ。車で30マイルほど走れば太平洋沿岸のThird BeachやRuby Beachに出られ、70マイル以上にわたる人の手が一切入っていない海岸線と奇岩の造形美を堪能できます。
人の手の入っていない広大な原生林。樹齢100年、200年といった木々が並びます。
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
キノート・レインフォレスト/レイク・キノート
Quinault Rain Forest/Lake Quinault|地図:④
園内でも特に雨の多いキノート・レインフォレスト。全ての木が苔むし、小さな小川がいくつも流れ、ホー・レインフォレストとは異なる趣の森です。このエリアには湖を囲むように車道が整備され、簡単なトレイルがいくつもあるので、好みのコースを組み合わせて周遊できます。また、湖のそばのLake Quinault Museumでは、この地の先住民族の暮らしを紹介しています。周辺には歴史あるロッジのほか、キャンプサイトが複数あります。
◎Lake Quinault Museum
Web: www.lakequinaultmuseum.org
Big Spruce Trailheadでは世界一大きい樹齢1000年以上のシトカ・スプルースの木を見ることができます。©Olympic Peninsula Visitor Bureau
湖畔にあるLake Quinault Lodgeは1926年に建てられた美しいホテル。通年営業しています。©Olympic Peninsula Visitor Bureau
その他のスポット
フォークス
Forks
映画『Twilight』の舞台になった町。フォークスに住む地味な少女が美形バンパイアに恋をする、禁断のラブ・ストーリー。
レイク・オゼット
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
Lake Ozette
約2000年前には周辺に人が住んでいたという湖。
サードビーチ
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
Third Beach
大きな流木が流れ着くビーチ。
ルビービーチ
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
Ruby Beach
太平洋沿岸では長年の波食によって陸から孤立した離れ岩が多く見られます。
クレイロック
©Olympic Peninsula Visitor Bureau
Kalaloch
海の前にあるKalaloch Lodge
『Field Guide to the Pacific Northwest』
National Audubon Society編 Knopf刊
全米オーデュボン協会によるハンディサイズの動植物図鑑は小杉晶子さんのおすすめ。写真が大きく、散策中に見かけた植物や動物をすぐに探せて便利です。
アメリカで園芸について学び、現在はシアトルで剪定専門家として活躍。過去には『ライトハウス シアトル/ポートランド版』でトレイルやアウトドアのコラムを連載。趣味はバードウォッチング。
オリンピック半島を遊び尽くす/アクティビティー
地元の趣味人やプロに、一味違ったオリンピック半島の楽しみ方を教えてもらいました。
【遊び尽くしマップ】
写真|写真を撮るならこう回る!
案内:藤井良泰さん
私の好きなオリンピック半島の回り方は、東(シアトル方面)から西(半島の海側)に太陽と共に移動するもの。シアトル方面からは、マカティオからクリントン、フォートケーシーからポートタウンゼントと朝日が昇る頃に合わせてフェリーを乗り継いで行くと、きれいな海が撮れます。フォートケーシーのフェリー乗り場の脇にある州立公園はベスト撮影スポット。ここからは、海を行くフェリー、ポートタウンゼントの街、オリンピック山脈が1枚に収まる景色が撮れるのです。
半島に渡ったら、まずは野生動物が多く、夏は色とりどりの花が咲くハリケーンリッジへ。昼間は太陽を背に青空の写真が撮れるでしょう。夕方になったら動物の写真を撮り、夜はポートアンジェルスに一泊。翌日はさらに西へ向かいます。道中のレイク・クレッセントは美しい場所ですが、陽の当たる時間が短く、撮影は少々難しいというのが実感です。
そして何よりもオリンピック半島で私の一番好きな場所、ラプッシュのSecond Beachへ。ここは、駐車場からビーチまで30分ほど山道を歩かなくてはなりませんが、夕日とユニークな形の岩と海を撮れます。陽が沈むと辺りは完全に真っ暗になるので、ランタンはお忘れなく。
夜はフォークスに泊まり、翌日は来た道を戻ります。帰りはベインブリッジアイランド発シアトル行きのフェリーに乗ると、シアトルの夜景を撮ることができるでしょう。
ちなみに、オリンピック半島には、35ミリ換算で24-200ミリのレンズを付けたカメラと、200-800ミリのレンズを付けたカメラ、それに交換用の超広角の14-28ミリのレンズと三脚を持っていきます。もっと良い道具(単焦点レンズ)もありますが、歩き回ることを考えるとこれが限界です。ハクトウワシを撮るときは、専用にもう一式カメラのセットを車に積んでいきます。
カメラを持ってアメリカ中の国立公園を回りましたが、オリンピック国立公園の魅力は、簡単に回れないところではないでしょうか。とてつもなく広く、いろいろなものがありすぎて、1泊2日では到底回り切れません。今回は2泊のルートを紹介しましたが、本当なら4泊はほしいところ。1週間くらいかけて回れたら最高の贅沢ですね。
おすすめスポットでの藤井さん撮影の写真 |
▲ フォートケーシーからフェリー、ポートタウンゼントの街、オリンピック山脈を望む。 ▲ ハリケーンリッジは、この絶景を撮るために、ふもとで諦めずに頂上までに登るべし。 ▲ ハリケーンリッジの夕焼けと子ジカ。「オリンピック半島は夕方の方がいい絵が撮りやすい」とは藤井さんの弁。 ▲ Second Beach。人が少ない場所で、海に沈む美しい夕日が撮れます。 |
シアトル在住の書家。カメラ歴約30年。過去には作品が地元の電話帳の表紙を飾ったこともあります。愛機はPanasonic LUMIX G9とOlympus E-M1 MarkⅡ。「旅行には小型軽量高画質のMicro Four Thirds Systemのカメラが最適です」。
スキューバダイビング|海の中は別世界
案内:坂元寛さん
ノースウエストでもスキューバ・ダイビングができます。
初心者におすすめしたいエリアは、水が穏やかでキレイなHood Canal。花畑のように広がるイソギンチャク、崖の下にはタコや魚、さらに下には深海の生き物と、さまざまな表情が楽しめます。この辺りの海の生き物は、座布団くらい大きいヒトデ、サンフラワーシースターに代表されるように、何でも大きいのが特徴です。Hood CanalのSund Rock Marine Preserve(Web: sundrock.com)は、サンド一家が経営する私設のダイビングサイトで、パーキングやトイレの設備が整い、1人15ドルで快適に過ごせます。それより少し北のOctopus Holeも良いポイントではあるのですが、特に施設もなく、海に行くまでに崖の登り下りが必要です。
また、上級者には、ポートアンジェルスの近くのSalt Creek County Parkもおすすめします。波が力強く、ダイナミックな海です。ケルプの森の下にはおいしそうなウニ! 海中ではアザラシやアシカと一緒に泳げることもあります。春から初夏は水が濁りがちなため、スキューバのベストシーズンは9~10月くらいでしょう。個人的には水の透明度の高い冬も好きです。
なお、日本とアメリカのスキューバは大きく違います。日本での経験者も、まずは現地のスクールで講習を受けるか、地元ダイバーと一緒に潜ることを勧めします。
オリンピック半島付近でのスキューバダイビングで遭遇できる景色 |
▲ 北の珍魚、オオカミウオ。Hood Canalではかなりの確率で出会えます。この辺りの海はプランクトンが多く緑色です。 ▲ 大きいと50センチもの長さになるプラモーゼアネモネ(イソギンチャク)。 ▲ 群れで泳ぐロックフィッシュ。 ▲ 珍獣マニアに人気のウミウシは、さまざまな種類が生息しています。 |
日本やハワイでのダイビングの仕事を経てポートランドに移住。今春よりノースウエストで日本語ダイビング講習をスタート予定。Web: www.beyond-portland.com Youtube:アメリカを潜る!!!!DIVING in USA.
釣り|オリンピック半島の釣り3選
案内:光岡則夫さん
オリンピック半島ならではの釣りをご紹介しましょう。
一つ目はレイク・クレッセント。この湖だけにしか生息していないベアーズリートラウトというニジマスが釣れます。ただし、この湖は自然保護のために何を釣ってもキャッチ&リリースがルールです。
二つ目はサーモン釣り。半島北西のセキウとニアベイは、沖に数百メートルから1キロくらい出るとサーモンが釣れます。最近は、以前ほどの賑わいはないものの、この二つの町ではガイド付きの船や乗り合い船を借りられます。借りるなら早めの予約は必須。マイボートを車で引いて来る人も大勢います。時期は6~9月くらいですね。ここではロックフィッシュなども釣れます。
三つ目はKalaloch Beach。8~9月頃、産卵のために沿岸に押し寄せるスメルトを網ですくうことで有名なビーチです。夕方の満潮時、大きな網ですくうと簡単にたくさんとれます。このビーチでの私が好きな過ごし方は、11~3月末なら朝にサーフパーチ釣りをして午後にクラム掘り、もしくは春先の早朝にクラム掘りをしてランチの後にサーフパーチ釣りするというもの。釣りにまつわるルールはよく変わるので、Washington Department of Fish and Wildlifeのウェブサイトやメールマガジンは出かける前に必ず確認してください。
オリンピック半島での釣りや釣れる魚 |
▲ サーフパーチの投げ釣り。太平洋の荒波が押し寄せるので、投げ釣りは体力と経験が必要です。 ▲ ホー・レインフォレストから車で約45分のKalaloch Beach。©Olympic Peninsula Visitor Bureau ▲ スメルトは刺身やフライにするとおいしくいただけます。 ▲ スメルトすくい。遠浅でかなり高い波が来ることもあるので注意しましょう。 |
ノースウエストの自然に魅了され、LAからシアトルに移住して約30年。それ以来釣りが趣味。著書に釣りや自然にまつわるエッセー『人生そぞろ歩き』がある。手にしている魚はサーフパーチ。
オリンピック半島、四季めぐり、町めぐり
【弾丸ツアー、3泊4日で半島一周】
1日目:
シアトルからフェリーでオリンピック半島へ。途中、スクイム [B]、Dungeness Spit [C]、ポートタウンゼント [D]に立ち寄り、ポートアンジェルスで宿泊。
2日目:
ポートアンジェルスからハリケーンリッジ [A]へ。その後、レイク・クレッセントに立ち寄り、ニアベイまたはセキウで宿泊。
3日目:
フォークス [E]を経由してホー・レインフォレストへ。その後、Ruby BeachやKalalochに立ち寄ってからレイク・キノートで宿泊。
4日目:
レイク・キノートを散策してから、オリンピア経由でシアトルに戻る。
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※ライトハウス2023年5月号の特集記事「ノースウエストの世界遺産 オリンピック国立公園~神秘の森と海めぐり」より(情報は2023年8月に更新)
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